「でも、今みたいに消されたら、秘術の効果も消えちゃうんじゃないのか」と、ニンジンは首を傾げた。
「これと似たものをはじめて見た時は、なにをやっても消せやしなかったんです」と、アマガエルは言った。「それなのに、今回は消せるというのは、似てはいるけど、違う物だっていうことですよ」
「なぁ。外から家に入れないって、じゃあさっき母親が言ってたのは――」と、ニンジンは考えるように言った。
「子供達は帰ってきたけど、家の中には入れなくって」と、アマガエルは考えるように、言葉を区切りながら言った。「違う場所に、誘いこまれた」
「じゃあ、玄関のドアを開ければ」と、ニンジンが言った。「どこか別の場所ってか」
「ええ」と、アマガエルはうなずいた。「インターホンは使えましたからね。母親は家の中にいたから、外でなにが起こっているか、わからなかったんでしょう」
ニンジンは玄関に走ると、ドアに手を掛けて、開けようとした。
「だめだ」と、ニンジンが言った。「鍵がかかってる」
「……」と、アマガエルは考えるように言った。「試しに、やってみますか」
「なにをだよ」と、ニンジンは、またインターホンに手を伸ばして言った。「なんとか母親に頼みこんで、中から開けてもらうしかないだろ」
「だめですよ」と、アマガエルはニンジンの腕をつかんだ。「家の中に入ったからって、子供達は、そこにはいません」
「――あっと。そう言えば、そうだったな」と、ニンジンは、ばつが悪そうに言った。
「って、おい。ここどこだよ――」
ニンジンの目の前に、どこかの駐車場らしい場所が、現れていた。
「はじめてでしたっけ? 私の家の駐車場だよ」
と、小さくまばたきをするアマガエルが言った。
「ちょうどよかった」と、アマガエルは、ポケットからキーを取りだして、見せながら言った。「家の鍵と、一緒にしてあったんです」
「これって、誰の車だよ」と、ニンジンは、自動車の運転席に腰を下ろしていた。「おい。人に車の鍵を押しつけて、なにしようってんだ」
「試してみたいって、言ったでしょ」と、アマガエルは言うと、座っていた助手席の窓を全開にして、外に出た。「――だめだめ、ドライバーはちゃんと座ってなきゃ」
「冗談じゃないぜ。一人でどこに行けってんだ」と、ニンジンは、運転席から立とうとドアに手をかけた。
「――」と、ニンジンは、急に体が軽くなったのを感じて、手を止めた。
「どうなってんだよ――なんか、頭が重たいぞ」
ニンジンが言うと、アマガエルが窓から中を覗きこんで、せかすように言った。
「早く、シートベルトをつけて。落ちたらどうなるか、わからないんですから」
アマガエルは、開けられた窓に手をかけながら、車と一緒に落下していた。
「なんで車が、逆さまに落ちてってんだよ」と、ニンジンは、言葉にならない声を上げていた。「ぶつかるぞ、ぶつかるんだって――」
アマガエルと共に宙に現れた自動車は、ニンジンを乗せたまま、姉弟の家に向かって、真っ逆さまに落下していった。
ドッカーン――……
と、家の屋根にぶつかると思われた自動車は、意外にも、静かに屋根を通り抜けた。
しかし、勢いのついた自動車は、なにやら舞台のセットのような物の上に乗り上げ、バリバリと派手な音を立てながら、建っていた物を次々となぎ倒し、やっとのことで動きを止めた。
「探偵さん?」と、恵果が、車の中を覗きこんで言った。
「――」と、ハンドルにしがみついたニンジンは、舞い上がったホコリに目を細めながら言った。「あれ、Kちゃんだろ。久しぶりだな」
「なんだ、おまえ」と、真人が、窓を覗きこみながら言った。
「――お、まことか」と、ニンジンは言った。「なんだ。姉弟って、おまえらの事だったんだ」
「フン」と、真人はつまらなさそう言うと、そっぽを向いた。
「どうして、ここにいるの」と、恵果が、心配そうに言った。
「おまえらが、妙な外国人に追いかけられてるっていうから、助けに来たんだよ」と、ニンジンは、シートベルトをはずしながら言った。
「――だけど、ここはどこなんだ」と、ニンジンは、自動車の外に出て言った。「なんか、すっかり夜じゃないか」
「これは為空間だな」と、真人が言った。「あいつらの術だよ。くそっ――」
「イクウカン?」と、ニンジンは言った。「そういや、さっきまでいた場所とは違うよな」
「ねぇ、どこから来たの? 私達、外に出られるの」と、恵果がニンジンの腕を引きながら言った。
「いや、それがな」と、ニンジンは言った。「自動車に乗ったまでは覚えてるんだけど、走る前に逆さまに落ちていって――実は、こっちも訳がわからないんだ」
「やり方は乱暴だが、正解だよ」と、真人が腕組みをして言った。「物理的な圧力をかけてやらなきゃ、ここには絶対に入りこめなかったろう」
――今ごろ、罠を仕掛けたヤツは、慌てふためいてるだろうぜ。
「前」
「次」
「これと似たものをはじめて見た時は、なにをやっても消せやしなかったんです」と、アマガエルは言った。「それなのに、今回は消せるというのは、似てはいるけど、違う物だっていうことですよ」
「なぁ。外から家に入れないって、じゃあさっき母親が言ってたのは――」と、ニンジンは考えるように言った。
「子供達は帰ってきたけど、家の中には入れなくって」と、アマガエルは考えるように、言葉を区切りながら言った。「違う場所に、誘いこまれた」
「じゃあ、玄関のドアを開ければ」と、ニンジンが言った。「どこか別の場所ってか」
「ええ」と、アマガエルはうなずいた。「インターホンは使えましたからね。母親は家の中にいたから、外でなにが起こっているか、わからなかったんでしょう」
ニンジンは玄関に走ると、ドアに手を掛けて、開けようとした。
「だめだ」と、ニンジンが言った。「鍵がかかってる」
「……」と、アマガエルは考えるように言った。「試しに、やってみますか」
「なにをだよ」と、ニンジンは、またインターホンに手を伸ばして言った。「なんとか母親に頼みこんで、中から開けてもらうしかないだろ」
「だめですよ」と、アマガエルはニンジンの腕をつかんだ。「家の中に入ったからって、子供達は、そこにはいません」
「――あっと。そう言えば、そうだったな」と、ニンジンは、ばつが悪そうに言った。
「って、おい。ここどこだよ――」
ニンジンの目の前に、どこかの駐車場らしい場所が、現れていた。
「はじめてでしたっけ? 私の家の駐車場だよ」
と、小さくまばたきをするアマガエルが言った。
「ちょうどよかった」と、アマガエルは、ポケットからキーを取りだして、見せながら言った。「家の鍵と、一緒にしてあったんです」
「これって、誰の車だよ」と、ニンジンは、自動車の運転席に腰を下ろしていた。「おい。人に車の鍵を押しつけて、なにしようってんだ」
「試してみたいって、言ったでしょ」と、アマガエルは言うと、座っていた助手席の窓を全開にして、外に出た。「――だめだめ、ドライバーはちゃんと座ってなきゃ」
「冗談じゃないぜ。一人でどこに行けってんだ」と、ニンジンは、運転席から立とうとドアに手をかけた。
「――」と、ニンジンは、急に体が軽くなったのを感じて、手を止めた。
「どうなってんだよ――なんか、頭が重たいぞ」
ニンジンが言うと、アマガエルが窓から中を覗きこんで、せかすように言った。
「早く、シートベルトをつけて。落ちたらどうなるか、わからないんですから」
アマガエルは、開けられた窓に手をかけながら、車と一緒に落下していた。
「なんで車が、逆さまに落ちてってんだよ」と、ニンジンは、言葉にならない声を上げていた。「ぶつかるぞ、ぶつかるんだって――」
アマガエルと共に宙に現れた自動車は、ニンジンを乗せたまま、姉弟の家に向かって、真っ逆さまに落下していった。
ドッカーン――……
と、家の屋根にぶつかると思われた自動車は、意外にも、静かに屋根を通り抜けた。
しかし、勢いのついた自動車は、なにやら舞台のセットのような物の上に乗り上げ、バリバリと派手な音を立てながら、建っていた物を次々となぎ倒し、やっとのことで動きを止めた。
「探偵さん?」と、恵果が、車の中を覗きこんで言った。
「――」と、ハンドルにしがみついたニンジンは、舞い上がったホコリに目を細めながら言った。「あれ、Kちゃんだろ。久しぶりだな」
「なんだ、おまえ」と、真人が、窓を覗きこみながら言った。
「――お、まことか」と、ニンジンは言った。「なんだ。姉弟って、おまえらの事だったんだ」
「フン」と、真人はつまらなさそう言うと、そっぽを向いた。
「どうして、ここにいるの」と、恵果が、心配そうに言った。
「おまえらが、妙な外国人に追いかけられてるっていうから、助けに来たんだよ」と、ニンジンは、シートベルトをはずしながら言った。
「――だけど、ここはどこなんだ」と、ニンジンは、自動車の外に出て言った。「なんか、すっかり夜じゃないか」
「これは為空間だな」と、真人が言った。「あいつらの術だよ。くそっ――」
「イクウカン?」と、ニンジンは言った。「そういや、さっきまでいた場所とは違うよな」
「ねぇ、どこから来たの? 私達、外に出られるの」と、恵果がニンジンの腕を引きながら言った。
「いや、それがな」と、ニンジンは言った。「自動車に乗ったまでは覚えてるんだけど、走る前に逆さまに落ちていって――実は、こっちも訳がわからないんだ」
「やり方は乱暴だが、正解だよ」と、真人が腕組みをして言った。「物理的な圧力をかけてやらなきゃ、ここには絶対に入りこめなかったろう」
――今ごろ、罠を仕掛けたヤツは、慌てふためいてるだろうぜ。
「前」
「次」