交通違反に対するサンクション(その1):点数制度

2017-06-28 21:52:55 | 交通・保険法

2023-03-21追記:点数一覧表を最新の元に改めた。

【例題】Aは、飲酒をした直後に自家用車を運転していたところ、歩行者Bに接触する交通事故を起こした。

交通反則通告制度

 

[超特急:今回の違反によって処分を受けるか否か]

・①今回の違反行為は一般違反行為か、それとも特定違反行為か。②過去3年以内の処分歴があるか。③累積点数は何点か。

・今回の違反行為の点数は、「基礎点数+交通事故の付加点数」となる。

・累積点数は、「今回の違反行為の点数+過去3年間の違反行為の点数」となる。

 

[点数制度の意義]

・運転免許を受けた者が「自動車等の運転に関して道交法等に違反したとき」、公安委員会は「政令で定める基準」にしたがい、その者の免許を取り消したり、6か月以内の範囲で免許の効力を停止することができる(道路交通法103条1項5号)。この規定を受けた道路交通法施行令は、昭和44年から「点数制度」を採用している(道路交通法施行令38条5項1号イ2号イ、別表第3の1の表)。

・点数制度は、(1)具体的な交通違反に対して個別に点数を付し、(2)その点数の合計がある基準を満たすと、今回の交通違反を理由として特定の行政処分を課す、という特徴をもつ。 →点数一覧表(2020年6月30日時点)

・なお、「重大違反唆し等(道路交通法103条1項6号)」「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある(道路交通法103条1項8号)」のように、点数制度によらずに直ちに処分対象となる類型もある。例えば、自転車の酒酔い運転は8号事由として免許停止処分を受ける可能性がある。□高山13-4

 

[基礎点数1:一般違反行為]

・施行令別表第2の1の表の上欄に掲げる各行為を「一般違反行為」と呼ぶ(施行令33条の2第1項1号本文)。各行為毎に基礎点数が付され、もっとも高い点数が「無免許運転(25点)」「酒気帯び運転(0.25以上)(25点)」など、もっとも低い点数が「無灯火など(1点)」である。特に取締件数の多いのは次の5つである。□高山15

[例]速度超過(1~12点)

[例]携帯電話使用等(1~2点)

[例]指定場所一時不停止等(2点)

[例]通行禁止違反(2点)

[例]信号禁止違反(2点)

・一般違反行為の多くは、「単純な違反行為(例:速度超過)」と「酒気帯びかつ違反行為(例:酒気帯び違反行為)」を別個のものとしており、後者の基礎点数をより高くしている(酒気帯び加重:酒気帯び0.25加重だと一律25点)。

・同時に複数の違反行為をした場合(ただし、酒気帯び加重を除く)は、もっとも高い点数による(吸収方式:道路交通法施行令別表第2の備考1の1)。□実務72-5

 

[基礎点数2:特定違反行為]

・施行令別表第2の2の表の上欄に掲げる7つの行為を「特定違反行為」と呼称し(道路交通法施行令33条の2第2項1号本文)、一般違反行為と区別する。特に悪質な行為ゆえ基礎点数が極めて高く設定されており、これを理由とする免許取消処分の欠格期間が長期になる。

[1]運転殺人等(62点)、運転傷害等(45~55点)

[2]危険運転致死(62点)、危険運転致傷(45~55点)

[3]酒酔い運転(35点)、麻薬等運転(35点)

[4]救護義務違反(35点)

 

[付加点数:交通事故]

・以上の違反行為にとどまらず、その結果として交通事故を起こした場合は、さらに道路交通法施行令別表第2の3の表の下欄に掲げる点数が付加される。

・人身事故(※):「死傷の程度(死亡/3か月/30日/15日)×不注意の程度(一方的不注意か否か)」で決められており、「+13or20点(死亡)」から「+2or3点(傷害15日未満)」まである(道路交通法施行令別表第2の備考1の2イ)。□高山20-1

※人身事故を起こした上で救護義務違反(特定違反行為)をすれば、さらに基礎点数35点が加算される。□高山20-1

・物損事故:原則として付加点数はないが、措置義務違反(あて逃げ:道路交通法法117条の5第1号、72条1項前段)をすると「+5点」となる(道路交通法施行令別表第2の備考1の2ロ)。□高山20-1

 

[点数計算の方法]

・原則として「今回の違反行為の点数+過去3年間の違反行為の点数」を累積点数とする(道路交通法施行令33条の2第3項柱書)。この累積点数が法定に達すると、当該違反行為を理由として免許取消処分や免許停止処分がなされる。

・点数計算の例外として、次のとおり優良運転者への優遇などがある。

[1]前回違反→1年間無事→今回違反:今回の違反行為と前回の違反行為との間に「1年以上の無事故無違反(免許の有効が前提)」を挟んでいれば、前回の違反行為(さらにそれ以前の違反行為も)はカウントされない(道路交通法施行令33条の2第3項1号)。ドライバーの危険性が減少していることを理由とする。□高山25-6

[2]その前2年間無事→前回違反が軽微→3か月無事→今回違反:前回違反が3か月以上前の軽微(3点以下)であり、かつ、さらにその前が「2年以上の無事故無違反」であれば、前回違反(軽微)はカウントされない(施行令33条の2第3項6号)。□高山26-7

[3]違反者講習(後述)を受けたときは、受講の基準に該当することとなった軽微違反行為はカウントされない(道路交通法施行令33条の2第3項7号)。

[4]前回違反→処分期間の無事→今回違反:前回違反を理由に免許停止や免許取消処分を受け、その処分期間を無事故無違反で経過した場合は、前回違反はカウントされない。□高山26

 

[違反者講習による救済]

・前歴(=過去3年間の免許停止や免許取消)のない者であっても、累積点数が6点になると免許停止処分となるのが建前である(施行令別表第3の1の第7欄)。

・もっとも、違反者講習を受けることで救済される余地が残る。すなわち、累積6点に達したとしても、今回の違反が3点以下の軽微違反行為であって前歴がないなどの条件を満たすと、違反者講習の受講が義務付けられる(道路交通法102条の2、道路交通法施行令37条の8)。その旨の通知を受けてから1か月間は免許停止処分を受けることはなく(法103条1項柱書ただし書)、違反者講習を受ければ今回の軽微違反行為の点数はカウントされない(道路交通法施行令33条の2第3項7号)。

 

[点数制度による行政処分]

・点数制度においても、「行政処分の理由は当該違反行為である」との建前がとられる。累積点数を構成する過去の違反行為は、「現にした違反行為を理由とする処分」を行うのにあたり、運転者の危険性を推認するための資料として点数的に評価されている。

・処分の内容は、【(1)一般違反行為/特定違反行為の別】×【(2)過去3年以内の前歴回数】×【(3)累積点数】で決まる。

・(1-1)一般違反行為が処分の理由となる場合:もっとも軽い処分が「免許停止」、もっとも重い処分が「欠格期間5年の免許取消」となる。免許停止の法定期間は「6か月以内」とされており(法103条1項本文)、各公安委員会では基準を設けて【前歴回数】×【累積点数】によって期間を決めている(→愛知県の場合)。ただし、停止処分者講習を受講すれば、停止期間の短縮が受けられる。

[例]一般道で速度30km超過した…前歴0回かつ以前の累積点数がなくても「いきなり累積点数6点」となるので、30日間の免許停止処分。軽微違反行為でないので違反者講習の救済はない。

[例]酒気帯び運転(0.15以上)をした…前歴0回かつ以前の累積点数がなくても「いきなり累積点数13点」となるので、90日間の免許停止処分。軽微違反行為でないので違反者講習の救済はない。

[例]酒気帯び運転(0.25以上)をした…前歴0回かつ以前の累積点数がなくても「いきなり累積点数25点」となるので、欠格期間2年の免許取消処分。

・(1-2)特定違反行為が処分の理由となる場合:もっとも軽い処分が「欠格期間3年の免許取消処分」、もっとも重いの処分が「欠格期間10年の免許取消処分」となる。

[例]道路に飛び出してきた歩行者と接触して軽傷を負わせたが、その救護をしなかった…前歴0回かつ以前の累積点数がなくても「いきなり累積点数37点(救護義務違反35点+付加点数2点)」となるので、欠格期間3年の免許取消処分。

・(2)前歴は、「今回の違反行為をした日から遡って過去3年間で処分を受けたこと」である。累積点数の例外と同様に、「前回処分→1年間無事→今回違反」となれば前歴はカウントされない。裏を返せば、前回処分のタイミングが遅れれば遅れるほど、今回違反を犯したドライバーが前歴者と扱われるリスクが高まる。□高山28-30

 

[処分の実施]

・公安委員会は、警察からの連絡を受けて電算登録した違反の点数を次々加算し、累積点数が一定の基準に達すると処分を行う。□高山20

・30日と60日の免許停止処分については弁明の機会はない。ドライバーを呼び出して口頭で処分を通告する。□高山72

・違反行為を理由として90日以上の免許停止処分や免許取消処分をしようとするとき、公安委員会は「公開による意見の聴取」を実施する(道路交通法104条、道路交通法施行令39条)。

・点数制度によらない処分をしようとするときは、「道路交通法上の聴聞(行政手続法の特例)」を実施する。もっとも、その実情は意見の聴取と大差ない。□高山38

・これら行政処分の手続は、刑事手続より時間的に先行していることが多い。□高山11

 

[参考:「免許証の交付又は更新を受けた者」の区分]□千葉県警察ウェブサイト

・優良運転者(ゴールド=原則5年):「継続して免許を受けている期間が5年以上」かつ「違反や怪我のある事故を起こしていない」者をいう(道路交通法92条の2第1項表の備考1の2、道路交通法施行令33条の7第1項)。運転免許証の帯の色は「ゴールド」となる。70歳未満であれば運転免許証の有効期間は5年となる(道路交通法92条の2第1項表)。違反行為(=点数の累積)があれば「ゴールド免許」の条件を失うが、反対に、反則行為ではあるが違反行為ではないもの(交通安全とは無関係な泥はね運転、免許証不携帯など)については、ゴールドの有無には影響しない。

・一般運転者(ブルー=原則5年):「継続して免許を受けている期間が5年以上」かつ「3点以下の軽微な違反が1回のみ」の者をいう(道路交通法92条の2第1項表の備考1の3、道路交通法施行令33条の7第2項)。運転免許証の帯の色は「ブルー」となる。運転免許証の有効期間は、優良運転者と同じ(道路交通法92条の2第1項表)。

・違反運転者(ブルー=3年):「違反が複数回ある」または「怪我のある事故を起こしてしまった」者をいう(道路交通法92条の2第1項表の備考1の4参照、道路交通法施行令33条の7第2項参照)。運転免許証の帯の色は「ブルー」となる。運転免許証の有効期間は3年となる(道路交通法92条の2第1項表参照)。なお、法文上では「違反運転者」と包括的に呼称され、「違反運転者+初回更新者+新規取得者」が総称されている。

・初回更新者(ブルー=3年):「継続して免許を受けている期間が5年未満」かつ「違反や事故の有無が違反運転者講習の区分に該当しない」者をいう(道路交通法92条の2第1項表の備考1の4参照)。運転免許証の帯の色は「ブルー」となる。運転免許証の有効期間は違反運転者と同じ(道路交通法92条の2第1項表参照)。

・新規取得者(グリーン=3年):「初めて運転免許を受ける」者をいう(道路交通法92条の2第1項表の備考1の4参照)。運転免許証の帯の色は「グリーン」となる。運転免許証の有効期間は違反運転者と同じ(道路交通法92条の2第1項表参照)。

 

運転免許研究会編『点数制度の実務〔六訂版〕』[2010]pp18-209★

一般社団法人全日本交通安全協会『わかる身につく交通教本第6改訂版』[2016]pp121-6

高山俊吉『入門 交通行政処分への対処法』[2017]★

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