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国内総生産(GDP)

2017-08-15 12:21:20 | 金融・経済学

2021-05-03:文献を追記して記述を大幅に追加した。

 

[GDPの意義]

・内閣府は、国連の定める国際基準(SNA)に準拠し、国民経済計算と呼ばれる基幹統計を作成している。国民経済計算は「四半期別GDP速報」と「国民経済計算年次推計」から構成される。□内閣府ウェブサイト

・国内総生産(GDP:Gross Domestic Product):「ある一定期間内に、国内で、市場で取引されるために新たに生産された財とサービスの量(粗付加価値)を市場価格で評価して合計した金額」と定義される。GDPは、一定期間(1年、四半期)を設けて測定するフロー変数である。□福田照山3、平口稲葉7-8

→注1:ミクロ経済学では、生産高を量(台数、トン数、乗客数など)で測る。これに対し、GDPは円ベースの「価値(Value)」による生産高に換算して測定する。□ハバード282-3

→注2-1:GDPは「新たに生産された財とサービス」のみを対象とするため、前年以前から存在する財(典型的には中古品)を売買してもGDPには影響しない(なお、この売買に伴って手数料が発生すれば、これは「新たなサービス」に該当する)。□平口稲葉23の第1章練習問題5、ハバード283

→注2-2:新たに生産された財とサービスを対象とするため、所得税法上の「所得」であるキャピタルゲインは無視する。□福田照山12

→注3:二重計算を避けるため、「各付加価値のみ」or「最終生産物のみ」をカウントする。「農家が小麦30万円分を生産→製粉メーカーが小麦30万円分を使用して小麦粉70万円分を生産→製パンメーカーが小麦70万円分を使用してパン100万円分を生産」という一連の生産を考えよう。GDPは「各経済主体がいかなる付加価値を生産したか」という点を捕捉したい。この例では「農家が生産した付加価値30万円+製粉メーカーが生産した付加価値40万円+製パンメーカーが生産した付加価値30万円=100万円」がGDPにカウントされる。これを言い換えれば、「中間生産物は無視して最終生産物であるパンの生産額100万円のみ」をカウントしても同様である。□塩路30-1、福田照山2-5、平口稲葉9、ハバード283,288-9

・GDPは当該国の領域内で生産された財とサービスを捉える。これに対し、経済主体の国籍(〇〇人)に注目した指標を「国民総所得(GNI:Gross National Income)」という。例えば、イチローがメジャーリーグで得た給与は、日本のGNIには含まれるがGDPには含まれない(アメリカのGDPに含まれる)。近年のマクロ経済学では、豊かさの指標としてGDPを重視する傾向にある。□内閣府ウェブサイト、福田照山13

 

[GDPの三面等価]→柴田宇南山37-8の練習問題2

・生産面のGDP:「各企業が一定期間内に生産した財とサービスの合計量」から「原材料投入合計量」を差し引けばGDPが算出される。内閣府も同様の方法(付加価値法)で生産面のGDPを推計している。□福田照山3-4、柴田宇南山27-8

・分配面のGDP(国内総所得):各企業は、財市場で財やサービスを売却して収入を得ている。企業はこの収入を原資として、(1)労働者への賃金の支払(雇用者報酬)、(2)資本家への利子や配当の支払(財産所得)、(3)自らの利潤の留保(営業余剰)、といった分配をおこなう。ヨリ正確には、これに(4)政府部門への税の支払、(5)固定資産の減耗、が加わる。以上の「企業が生産した付加価値は財市場でカネに変わり、家計&企業(&政府)に分配される」という循環に着目し、分配面からGDPを捉えることもできる。□福田照山5-6、柴田宇南山28

・支出面のGDP(国内総支出):家計は、分配された賃金や利子等の一部を使って財・サービスを購入し(消費)、残りを貯蓄に回す。この貯蓄が原資となって企業への融資がおこなわれ、企業は、この借入金と留保していた利潤を使って生産のために財・サービスを購入する(投資)。□福田照山6-7、柴田宇南山29-30

・以上のとおり、マクロ的には「生産→分配→支出→生産→…」という流れがあるから、国民経済計算において、GDPは三面(生産・分配・支出)のいずれから見ても等しく、換言すれば「総生産=総所得=総支出」という恒等式が成り立つ。□塩路34-6、福田照山7-10、柴田宇南山30-1

 

[GDPの内訳]

・マクロ経済学のプレイヤーに注目して支出面のGDPを分析すると、次の「国民所得恒等式」が成立する。□塩路36-8、平口稲葉10-3

【国内総支出Y】=【消費C】+【投資I】+【政府支出G】+【純輸出NX】

[1]消費(consumption):「家計」が購入した財とサービスを指す(ただし、住宅購入は投資に分類される)(※)。GDP全体の約60%を占める。□塩路38-9,42-3、福田照山10-1

※「市場取引」というGDPの縛りから、家計自らが行う家事労働は付加価値を生み出しているにもかかわらずカウントされず、家計外の家事サービスを購入すればカウントされる(→柴田宇南山37-8の練習問題3。この意味で、家事サービスを購入する家計が増えればGDPは増える)。

※市場取引ルールの例外として、帰属価格(農家の自家消費、給与所得者の現物給付、自己所有物件への居住)はGDPにカウントする扱い。

[2]投資(investment):「企業」が支出する企業設備投資と在庫投資、「家計」が支出する住宅投資から構成される。GDP全体の約20%を占める。□塩路39-40,42-3

※ここでいう「投資」は日常用語よりも相当に狭い。例えば、「株式やビットコインの購入」「預貯金」はGDPに影響を与えない。□ハバード288

[3]政府支出(government expenditure):政府消費(GDP全体の約20%)と公的投資(GDP全体の約5%)から構成される。政府消費には、「政府」が市場で財やサービスを購入する場合のほか、(用語からはピンとこないが)政府が無償で提供する公的サービスが含まれる。後者は一種の帰属価格であるが、GDPにカウントされる取扱い。□塩路40-1,42-3、平口稲葉10-1、日経93

[4]純輸出(net export):ここで輸出(export;GDP全体の約15%)とは、第4のプレイヤー「外国」が日本国内で生産された財とサービスを購入すること指す。もっとも、これまでの消費・投資・政府支出には輸入(import;GDP全体の約16%)が含まれてしまっているため(※)、GDPの算出に当たって輸入を控除する必要がある。その調整のため「輸出から輸入を控除した準輸出」を観念する。□塩路41-3

※「日本のある家計が、「アメリカで今年作られたGMのキャデラックを700万円で購入した」という例を考える。生産面で考えればGDPに影響はしない(日本国内で生産されたものではない)。支出面で考えると「消費300万円」だけ増加する。しかし、同時に「輸入300万円」も計上されるためその限度で「準輸出−300万円」だけ減少するため、結果として支出面の増減はない(相殺される)。→平口稲葉23の第1章練習問題3

 

[均衡GDP]

・需要Dが生産Yを決める;マクロ経済学では「短期=価格調整が働かない期間」を念頭に置き、素朴に「需要が多ければ企業は生産を増やし、需要が少なければ生産を減らす」と考える。すなわち、"【総生産Y】=【総需要D】"となり、総生産をx軸、総需要をy軸にとると原点を通過する「45度線」が引ける。□塩路55-8,67-71、平口稲葉117-9、福田照山170

・生産Yが需要Dを決める;先の「総支出の等式」に戻ると、総需要Dは「消費需要C」「投資需要I」「政府支出需要G」「準輸出需要NX」に分解できる。ある1家計における消費を考えると、「基礎消費を除いた残りの消費は、その家計の可処分所得に比例する(=消費関数は所得の増加関数)」と仮定できる(※)。これをマクロの視点で捉え直して、かつ、企業が得た所得も最終的には家計に配当されると仮定すると、"総消費C(Y)=基礎消費+限界消費性向c×(総生産Y−租税T)"というように、総消費は総生産の一次関数で表現できる。すなわち、”【総需要D】=【消費需要C(Y)】+【投資需要I】+【政府支出需要G】+【純輸出需要NX】”も総生産の一次関数となり、総生産をx軸、総需要をy軸にとると、プラスのy切片を通過する傾き45度未満(0<限界消費性向c<1)の「DD線」が引ける。□塩路59-71、平口稲葉114-7

※45度線モデルは、このケインズ型消費関数を前提とする。しかし、現在では、現時点の可処分所得のみを考慮するケインズ型消費関数より、将来にわたる生涯所得を考慮するライフサイクル・恒常所得仮説のほうが、実際の家計行動を正確に描写していると考えられている。□柴田宇南山72,163

・「45度線」と「DD線」の交点におけるYの値が「均衡GDP(均衡国内総生産)」である。45度線がDD線より上にある場合(=超過供給)、企業は短期的には生産量を均衡GDPまで減らそうとする。反対に45度線がDD線より下にある場合(=超過需要)、企業は生産量を均衡GDPまで増やそうとする。□塩路67-71、平口稲葉117-8、福田照山166-70

 

[名目GDPと実質GDP]

例;(t1期)ミカン生産量100個、単価50円 / (t2期)ミカン生産量200個、単価250円

・名目GDP(Nominal GDP):ある期のGDPを計算する際には、当該期における市場価格が用いられる。t1期の名目GDPは100個×50円=5000円、t2期の名目GDPは200個×250円=50000円となる。もっとも、この「名目GDPが10倍増加した」という事実から、素朴に「生産が10倍増加した」と評価することはできない。両期間における物価水準の上下を考慮に入れないと、生産活動の指標として役に立たない。□塩路23-9、平口稲葉15-7

・実質GDP(Real GDP):そこで、異なった期間のGDPを比較して経済成長の度合いを見るには、物価変化の影響を除去した「実質GDP」が用いられる。すなわち、ある年を基準年として定め(固定基準方式)、その基準年の価格水準ですべての年のGDPを再評価する。t1期を基準年とする(=その年の価格50円を用いる)と、t2期の実質GDPは200個×50円=10000円。□塩路23-9、平口稲葉17-8、ハバード295-6

・GDPデフレーター(GDP deflator):「名目GDP÷実質GDP×100」で定義される。t2期のGDPデフレーターは、名目GDP(50000円)/実質GDP(10000円)×100=5となる。GDPデフレーターは経済全体での価格上昇を表す物価指数の一つである。この例では物価が5倍になったと評価できる(→関連記事《インフレとデフレ》)。□塩路23-9、平口稲葉19-21、ハバード296-7

 

福田慎一・照山博司『マクロ経済学・入門〔第4版〕』[2011]

柴田章久・宇南山卓『マクロ経済学の第一歩』[2013]

R グレン ハバード・アンソニー パトリック オブライン(竹中平蔵他訳)『ハバード経済学1入門編』[訳書2014 ,原書2013]

平口良司・稲葉大『マクロ経済学−入門の「一歩前」から応用まで』[2015]

三橋規宏・内田茂男・池田吉紀『新・日本経済入門』[2015]

塩路悦朗『やさしいマクロ経済学』[2019]

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