ライフサイクル・恒常所得仮説

2017-03-22 00:54:00 | 金融・経済学・IT

【例題】現在22歳のAさんは、65歳までの43年間稼働して年平均5百万円の可処分所得を得る見込みである。65歳で退職した後は、82歳で死亡するまで収入がないと見込まれる(死亡時にはすべてを消費しているとする)。以上の前提で、 Aさん(家計)は可処分所得を「消費」と「貯蓄」に振り分けるが、どのように振り分けると効用を最大化できるか? 

 

[消費と貯蓄の振り分け=消費のタイミング決定]

・1万円を直ちに消費せずに貯蓄とすれば、将来の好きな時期にその1万円を取り崩して消費に回すことができる。この意味で「貯蓄=消費の後回し」である(ただし利息は無視)。そしてAさんが死亡時までにすべての貯蓄を取り崩して消費するならば、「現在いくらを消費するか(=いくらを貯蓄するか)」という問題は、「消費のタイミングをいつにするか」という問題だと言い換えられる。

・Aさんの生涯を通じた可処分所得は、5百万円/年×43年=215百万円である。したがって、例題は「Aさんは、総額215百万円を、22〜82歳までの60年間でいつ消費するか」という問いになる。

 

[効用関数]

・マクロ経済学では、「消費と効用の関係」を次のような関数だと考える。

→特徴(1):消費が増えれば効用も増える(物質的に豊かであれば幸せ)。

→特徴(2):消費1単位増加に伴う効用の増加分(限界効用)は逓減する(はじめのケーキはすごく嬉しいが、後半のケーキは大して嬉しくない)。

 

[恒常所得仮説]

・Aさんが着目すべき点は、効用関数の「限界効用逓減の法則」である。消費水準が低い年は、消費を1単位増加させるだけで効用が大きく増加することが見込まれる。反対に消費水準が高い年は、消費を1単位増やしても増加する効用はわずか。

・以上に注意して全期間を通じて望ましい消費の量を決めようとすれば、結局、毎年同じだけの量(=生涯を通じた可処分所得(平均所得・恒常所得)÷死亡までの年数)を消費するのがベスト、ということになる。Aさんの場合、毎年の目標消費量である恒常所得は、215百万円÷60年=3.58百万円となる。

 

[ライフサイクル仮説]

・家計所得の大部分は賃金(労働所得)であるところ、賃金はある年齢まで増加していき、引退とともに0となる(年齢に伴って大きく変化する)。

・他方、「消費の恒常所得仮説」が成立していれば、賃金の変化にかかわらず毎年の消費は一定(恒常所得)となる。すなわち、賃金の低い若年期では借入れを、賃金の高い壮年期では借入れの返済と将来に備えた貯蓄を、退職後には貯蓄の取崩しを、というように消費が平準化するような行動に出る。

 

[実際の消費に影響を与える要因]

・ここまでは「銀行預金の利子」「株式の配当」を無視してきた。しかし、実際に貯蓄をすれば利子がつく。そうすると、「単純に毎年恒常所得を消費する」戦略よりも、「前半期では恒常所得未満の消費にとどめてその分貯蓄を増やした方が、将来の利子所得が稼げる(=その分、将来の消費合計を増やすことができる)」との方針が採用されよう。利子率が高ければヨリ貯蓄をするメリットは高まる。

・ここまでは「Aさんの生涯所得は215百万円である」との前提で議論してきた。しかし、実際は所得や寿命の予測は不確実である。そこで人々は、不確実な支出に備え、高齢になっても貯蓄をつづけることが知られている(予備的動機にもとづく貯蓄)。※参考:公式回答

・意図された遺産のための貯蓄継続。

 

[仮説の帰結:中立性命題]

・不景気になった時、政府が景気刺激策として補助金給付や減税策を採ることがある。この政策は、国債発行(借金)を財源とされるので、将来に増税して返済されることになる。したがって、現在の減税(補助金)によってAさんの所得が増えたように感じても、将来の増税によって相殺されるので、結局、Aさんの生涯所得は変わらない。以上の点をAさんが正しく認識していれば、Aさんの現在の消費は変わらない(もともとの恒常所得のまま)。

・仮にAさんが将来の増税を無視したとしても、補助金(減税)のインパクトは小さい。例えば、22歳のAさんに1万円の補助金が支給されても、それは生涯所得を1万円増加させるだけであり、恒常所得を1万円÷60年=167円増加させるに過ぎない。

 

福田慎一・照山博司『マクロ経済学・入門第4版』[2011]pp29-63

柴田章久・宇南山卓『マクロ経済学の第一歩』[2013]pp63-74

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