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刑事責任能力・訴訟能力・受刑能力

2016-06-17 20:40:13 | 刑事手続・刑事政策

2017-04-15追記。

 

[刑事責任能力の意義:混合的方法]

・刑法39条にいう「心神喪失」「心神耗弱」は、次のとおり決定される(大判昭和6年12月3日刑集10巻682頁)。

[1]生物学的要素:まずは、被疑者被告人が、何らかの精神疾患(精神障害)に罹患していたか否か。例として、統合失調症、躁うつ病など。

[2]心理学的要素:次に、その精神疾患により、事物の善悪を弁識する能力や弁識にしたがって行動を制御する能力に影響があるか。弁識能力と判断能力のいずれかが欠如していれば心神喪失であり、著しく限定していれば心神耗弱となる。

・「心神喪失」「心身耗弱」への該当性は法律判断である。その前提となる生物学的要素と心理学的要素についても、究極的には裁判官の評価に委ねられる(最三判昭和58年9月13日集刑232号95頁)。

 

[生物学的要素の判断]

・生物学的要素の有無は、まずは精神科医の鑑定に委ねられるのが通例である。

・裁判官の評価であるとの建前(前掲最三判昭和58年9月13日)にもかかわらず、刑事裁判実務では、精神科医の鑑定に依拠して判断されている。最二判平成20年4月25日刑集62巻5号1559頁は「生物学的要素である精神障害の有無及び程度、並びに、これが心理学的要素に与えた影響及びの有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば・・・〔精神医学者の〕意見を十分に尊重して認定すべき」と述べる。

 

[心理学的要素の判断]

・心理学的要素につき、日本の精神医学の伝統的見解では「自由意思のレベルについて精神医学は立ち入ることができない」とする不可知論が支配的だと説かれる。「コンベンション」にしたがえば、「統合失調症→心身喪失」「複雑酩酊→心神耗弱」などと判断される。

中田修『犯罪精神医学』[1972]「行為者が行為のときにそれ以外の行為を行うことも可能であったかどうかを、経験的な立場から正確に決定することは不可能であると考える。したがって、精神鑑定の実際において、責任能力の有無程度について意見を述べるときには、K・シュナイダーなどのやり方と同様に、責任能力の判断の指針、すなわち慣例(Konvention)にしたがって大まかな判断をあたえるにすぎない」。

・この不可知論に対し、近時では「自由意思を侵すのが精神障害であり、その程度を精神医学的に評価することは可能」とする可知論も賛同者を増やしていると言われる。現に検察官や裁判所は、心理学的要素についても精神科医の判断を求めている。前掲最二判平成20年4月25日も、生物学的要素のみならず心理学的要素の判断を「臨床精神医学の本分」と述べる。

 

[刑事訴訟能力]

・被告人が公判手続を受けるには、「被告人として重要な利害を弁別し、それにしたがって相当な防御をすることのできる能力(=訴訟能力)」を必要とする(最三決平成7年2月28日刑集49巻2号481頁)。具体的には、意思疎通能力と判断能力が問題となる。刑訴法28条「意思能力」、刑訴法314条1項「心神喪失の状態」が、ここでいう訴訟能力に該当する。

・定義のとおり、実体法上の心神喪失とは内容が異なると説かれる(もっとも私見では、両者の外延がどう異なるかはよくわからん)。被告人が訴訟能力を欠く場合、刑訴法314条1項本文にしたがって公判手続は停止される。

・なお、公判手続が停止された後、訴訟能力の回復が見込みがない場合の処理について明文はない。最一判平成28年12月19日刑集70巻8号865頁は、このような場合は、刑訴法338条4号に準じて判決で公訴を棄却できるとした。池上政幸裁判官(検察官出身)の補足意見では、公判手続停止後に裁判所が採るべき措置として「定期的に検察官と弁護人の意見を聴く、担当医師の所見を確認する、鑑定等を実施→検察官に公訴取消しを促す→公訴棄却判決」と提案された。

 

[刑事受刑能力]

・刑訴法479条1項によれば、死刑確定者が「心神喪失の状態」にあるときは死刑の執行が停止される(ここでいう「心神喪失」は実体法と同義?)。生命が裁判の執行により失われるという自覚を欠く者に対する執行は刑罰としての意味をなさないからだと説かれる(もっとも、私見ではこの説明はよくわからん)。死刑執行が停止された者も、「死刑の執行に至るまで」は引き続き刑事施設に拘置される(刑法11条2号)。

・刑訴法480条は、自由刑でも「心神喪失の状態」を執行停止事由とする。その後の処置として同法481条は「監護義務者等に引き渡して適当な場所に入れさせる」と規定するところ、おそらく精神保健福祉法による措置入院等のルートとなろう。

・罰金や科料を納付できない場合の労役場留置の執行については、刑訴法505条によって上記規定が準用される(本件では刑訴法480条等)。他方、財産刑の通常の執行においては、心神喪失であっても執行停止とはならないのか。

 

安田拓人「責任能力と自由意思」こころのりんしょう119号[2009]pp495-9

『新基本法コンメンタール刑事訴訟法』[2011]pp41-3〔近道暁郎〕、pp405-6〔戸苅左近〕、pp637-52〔上野友慈〕

高田知二『市民のための精神鑑定入門』[2012]pp22-35 ※「高」は正しくはハシゴ。

佐伯仁志『刑法総論の考え方・楽しみ方』[2013]pp321-2

園田寿「精神障害と刑法」Yahoo!ジャパンニュース[2016]

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