パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

An Inconvenient Truth with アル・ゴア

2006-05-27 22:22:01 | 環境ネタ
1.パネルディスカッション
 木曜の夜、“An Inconvenient Truth with Al Gore”と題されたイベントに行ってきました(長文です)。前にちらと紹介したようにゴア元副大統領(京都議定書はGore's Babyと言われたぐらい)が温暖化問題について語るドキュメンタリー映画“An Inconvinient Truth”(「のっぴきならない真実」(追記:邦題は「不都合な真実」になったそうです))が水曜に公開されたばかりで、映画の上映&ゴアさんのプレゼンなのかと思っていたら、James Hansen(NASAの有名な科学者)らと一緒になったパネルディスカッションでした(よく調べておけばよかった^_^;) あっ、会場にはChelsea Clinton(クリントン夫妻の一人娘さん)もいました。
    

最初にこれは政治的問題ではなくて、モラルの問題だと何度も自分で断っていたのに、だんだん火がついて、
 「技術はあるけどPolitical Willが足りない、あるのはCategory 5 denial(否定)」*
 「crisisは中国語ではdangerous(危) + opportunity(機)だ、そう、opportunityなんだ」
 「短期的に経済に悪影響というのは違う」
 「石炭・石油の補助金は全廃すべき」
 「15年前に提案した歳入中立の炭素税は今も必要な政策だと思う、
  経済影響も抑えられるのだが今の政治状況では絶対に無理」
 「みんなの行動が必要、周りに広めて欲しい、皆ならできる」
 「エクソンはボイコットすべき」

などと吠えまくってました。 注*:Catetgory 5というのはハリケーンの規模を表す表現。Category 5は最大級で、違いを無視して言ってしまえば「超大型で猛烈な」ハリケーンということです。

 会場は最初からスタンディングオベーションでゴア自身が度々沸き起こる拍手の自制を求める異常な盛り上がりだったのですが(といっても私、これほどポリティカルな場はこっちに来て初めてだったので割り引いてください)、最後にやっぱり2008年の大統領戦の話になって
 「私は24年もその世界にいて、政治のことをよく分かっている、大統領選は2回、副大統領候補にも2回なった、大統領候補になるのはtoxic procedureで、今の政治状況はよく分かっている、だから候補にはならない。けど、温暖化問題でみんなの行動を変えるために自分にできることをやるよ(I'll do my best)」
って話で締めくくり。

 大統領選の話をしている時のゴアは、自分のカルテを手にとってどうにもならない病状が分かってしまう医者(財前教授!)のように見えましたが、確かに大統領選のことはもはや気にせずに言いたいことを言っているようにも見えました(政治の世界への未練は隠しがたい気がしましたけど・・・)。 あと思ったのが彼ももしかして歳をとったのかなぁということで、というのも2時間の間に2,3回だけではあったのですが一瞬言いよどむことがあって、15年程前?高校生の頃にテレビで見ていた頃のほとんどヒーロー然とした姿ほど強烈なインパクトは残りませんでした。←自分が成長しただけなのかな?昔スゴイと思っていたものに久々に触れるとそう思えなくなる感覚。それでもやっぱりさすがのスゴイ迫力だったし、NYのリーガルコミュニティとは全く違った雰囲気も味わえたし、満足

2.映画
 とパネル・ディスカッションは面白かったんだけど映画は見れなかったので、昨日観て来ました、“An Inconvinient Truth”(ネタばれ注意)。
   
実は心のどこかで(いや、かなり)、The Day After Tomorrowに迫るトンデモ映画なのではないかという危惧があったのですが、間違っていました ごめんなさい いや、こんなに出来がいいとは。。。

 一部センセーショナルなtheoryへの言及もありましたよ(予告編で海面が6mも上がっていく話はこの一貫)。昔から可能性を指摘されている南極・グリーンランドの氷床の急激な滑り落ちで、ノアの箱舟的規模の悪夢になり、特にグリーンランドの場合は淡水の大量供給で塩分濃度が変わって海流の流れが止まってヨーロッパがIce Ageになるってやつです(The Day After Tomorrowの元theory)。私の理解ではこれらはpossibleだけど、科学者皆が合意するHighly Probableなものではないハズで、実際に影響が出るまでのタイムラグもあるハズ。

 にも関わらず、全体としてアジテーションに走らず抑制されたトーンで「温暖化ってなぁ~に?」というレベルから一つ一つ丁寧に説明していく姿は感動的です。一応ユーモアも交じっているし、実際の写真のインパクトと相まって、何も知らなくても、例えば子供でも十分楽しめる気がする(これほどいい教材があるだろうか)。温暖化の影響をどう控え目に見積もっても何かしなきゃいけない気になるでしょう。もう一つ、彼のヒューマンな面を照らし出しているのも面白いというか、6歳の息子が事故で死にかかったとか、どうして彼が温暖化問題をライフワークにしてきたか、武士道的(あるいは騎士道的)にも見える使命感を持つに至ったか、如何にもがきながら頑張って(struggleして)きたかがよく分かります。

 反対側から見れば、現政権(というよりOil Industry、特にエクソン*)への数々の強烈な皮肉も散りばめられていることも合わせて、こういう「人間アル・ゴア」的な描き方は今後の政治的意図の表れにも見えるでしょうね、いくらハッキリと政治的意図を否定しようとも。反対派のテレビCM温暖化いろいろさん経由。飛行機に乗りすぎという個人攻撃ビデオクリップも)。それは感じ方次第なのですが、私には、むしろ温暖化問題の避け難さと、アメリカの誇り・果たすべき役割の強調の方がハッキリとしたメッセージとして印象に残るのではないかと思えます。実はこの「アメリカの誇り・役割」的な点ではブッシュに勝るとも劣らないぐらいで(よく言えば使命感、別の言い方だと宗教的)、ややついていけない部分もあるのですが、それでも温暖化警告のメッセージの価値が消えるものではないと思います。
*結構有名な話ですが、エクソンのロビイストが政府内でレポートを書き換えていた話とかーホワイトハウス専門家がエクソン入り

 カタリーナの悲劇(文字通りの悲劇)とガソリン価格高騰が相まって風向きが変わっているんだなぁ(アメリカが環境後進国というステレオタイプは多分に誤りで、うかうかしていると日本は足元を掬われる)と感じていますが、その流れがさらに一層広がっていくんじゃないかという気が(期待も込めて)しました

長くなった(スミマセン)ついでに。数々のウソ記事で見るたびに笑いを堪えきれない虚構新聞のアメリカ版的存在のThe Onionで、こんな記事が。“Oil Executives March on D.C.”~石油産業重役陣がワシントンD.C.をデモ行進、せめて私たちの声を聞いてもらうだけでも~・・・癒しにどうぞ。