損保ジャパン東郷青児美術館 2010年3月13日(土)-4月4日(日)
公式サイトはこちら
損保ジャパン美術財団より全国の公募美術団体に授与される「損保ジャパン美術財団奨励賞」。その受賞作を展示する本展覧会も、VOCA展と並んで私が毎年この時期楽しみにしているものの一つ。今回は平面作品部門の作家36名、立体作品部門の作家17名(立体作品は隔年開催)、推薦作家26名の作品、合計79点が集った。
私の油絵の先生が三軌会に所属されているので、三軌展をはじめ国展や二紀展などには何度か足を運んだことがあるが、絵画だけでもプロ・アマ問わず100号以上の夥しい数の力作が美術館の壁を覆い尽くしていて、日本の絵画人口の多さにいつも驚かされる。それぞれに特色を持った美術団体の数も全国に一体いくつあるのかわからないけれど、そんな中で「選ばれた新進作家たち」の多様でハイレベルな作品を一度に拝見できるのは貴重な機会に思える。
コンクール形式にもなっている本展の、今回の受賞作品をまず挙げておきます:
<平面部門>
損保ジャパン美術賞
杉本克哉 『distance/ヘイタイ来ても、トマトつぶれても・・・』 (2009)
秀作賞
大川ひろし 『行き場をなくした素顔』 (2008)
田尚吾 『記憶に咲く花』 (2008)
三宅設生 『リビドー競争』 (2008)
<立体部門>
新作優秀賞
加治佐郁代子 『キノキの記憶』 (2009)
新作秀作賞
中村隆 『思考 No.8』 (2009)
藤澤万里子 『次元の廻廊』 (2009)
では、個人的に印象に残った作品を:
永原トミヒロ 『Untitled 09-01』 (2008)
人影もなく、家が数軒並ぶだけの殺風景ともいえる情景を、青っぽいモノクロームの色彩でぼんやりと描いた作品。作家が住む大阪の町を描いたそうだけれど、実在感がなく誰もが心に持つ心象風景のよう。夢の中の世界のように儚げ。
水野暁 『The River α+(共存へのかたちについて/吾妻川』 (2008)
卓抜した写実描写で、画面全体をグレイトーンで描いた川原の風景。グレイといってもきっと様々な色を混色して出しているのでしょうが、川辺に転がる大小の石やら草やら何やらの質感を、ほとんどモノクロームの色彩で画面に立ち上がらせる技量はすごいなぁ、と思った。これだけ色数の揃った油絵具で、敢えてこの色世界。奇しくもお隣が墨絵の作品だったので、思わず両者を見比べながらそんなことを思ってしまった。
田中晶子 『動くと動く。ゆうるりと』 (2009)
悠然と水面から顔を出すカバの顔。水野暁のシブい作品に浸った直後だっただけに、この絵が目に飛び込んできたときはその明快さが愉快だった。水面を悠々と移動するカバの顔の回りにはその動きで出来た波紋がゆらゆら。近寄って観ると、その波は青磁色とシルバーとで美しく表現されていた。
伊庭靖子 『untitled 12-2009』 (2009)
染付の光沢部分をアップで描いた作品。いつ観てもいいですね。
大鷹進 『パンドラの朱い実』 (2009)
繊維だけになったほおずきの房。透けて見えるその房の中には橙色のまん丸い実があり、緻密に描き込まれた網状の房(や房の外の地上)には小さな人間たちがうごめいている。赤黒い背景は美しくもあり不穏な感じでもあり。
榎俊幸 『獏図』 (2009)
あの、夢を食べて生きるという想像上の動物である獏の絵。アクリル絵画だけれど、金箔も使われていて琳派風といえばそんな感じ(に私には見える)。典雅な草花や雲を背景に、尻尾をもたげ、牙の生える口を開けてこちらにのっしのっしと向かってくる、ちょっと恐竜系のパワフルな獏。身体を覆う鱗のような模様、尻尾に走る細く繊細なスジなど、私が今まで見たどの獏よりもゴージャス。
朝倉隆文 『流出スル形ノ転移』 (2009)
植物の根のような細いものがのたうち、よく観ると西洋の顔立ちの具象も描き込まれ、観れば観るほど混沌。墨でよくこんな緻密な描き込みができるものだと見入った。
杉本克哉 『distance/ヘイタイ来ても、トマトつぶれても・・・』 (2009)
正直、まな板の上のトマトとその周りに群がる銃を持った兵隊たちという作家の感性に、自分が共有できる部分はすぐには見当たらなかったけれど、トマトと流れ出す中身の質感描写のリアルさは印象に残った。
青木恵 『狭間を渡る』 (2009)
岩絵具で描かれた華やかな作品。純粋にきれいだなぁ、と思ってしばし観ていた。赤で輪郭を引かれた金色の大きな花を中心に、ほのかに色づく白っぽい花々が咲き、薄いブルーの蝶が舞う。背景の明るい青色も美しかった。
藤澤万里子 『次元の廻廊』 (2009)
立体作品。ステンレス・スチール製の筒の中を覗き込むと、高透明シリコンで作られた液体が下がり、その向こうにやはり透明の手が生えている。更に顔を近づけると鏡のようにピカピカの筒の内側で中のオブジェの反射がたわみ、その視覚効果で妙な感覚を覚える。
以上です。
水野暁の作品に添えられたコメントに、現代絵画では技術力、描写力は評価されにくいというようなことが書かれてあり、私のような素人鑑賞者にもその意味するところが何とはなしに理解されるけれど、毎年この展覧会に並ぶ作品は技術的に高度で見応えのあるものが多く、素晴らしいと思います。
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損保ジャパン美術財団より全国の公募美術団体に授与される「損保ジャパン美術財団奨励賞」。その受賞作を展示する本展覧会も、VOCA展と並んで私が毎年この時期楽しみにしているものの一つ。今回は平面作品部門の作家36名、立体作品部門の作家17名(立体作品は隔年開催)、推薦作家26名の作品、合計79点が集った。
私の油絵の先生が三軌会に所属されているので、三軌展をはじめ国展や二紀展などには何度か足を運んだことがあるが、絵画だけでもプロ・アマ問わず100号以上の夥しい数の力作が美術館の壁を覆い尽くしていて、日本の絵画人口の多さにいつも驚かされる。それぞれに特色を持った美術団体の数も全国に一体いくつあるのかわからないけれど、そんな中で「選ばれた新進作家たち」の多様でハイレベルな作品を一度に拝見できるのは貴重な機会に思える。
コンクール形式にもなっている本展の、今回の受賞作品をまず挙げておきます:
<平面部門>
損保ジャパン美術賞
杉本克哉 『distance/ヘイタイ来ても、トマトつぶれても・・・』 (2009)
秀作賞
大川ひろし 『行き場をなくした素顔』 (2008)
田尚吾 『記憶に咲く花』 (2008)
三宅設生 『リビドー競争』 (2008)
<立体部門>
新作優秀賞
加治佐郁代子 『キノキの記憶』 (2009)
新作秀作賞
中村隆 『思考 No.8』 (2009)
藤澤万里子 『次元の廻廊』 (2009)
では、個人的に印象に残った作品を:
永原トミヒロ 『Untitled 09-01』 (2008)
人影もなく、家が数軒並ぶだけの殺風景ともいえる情景を、青っぽいモノクロームの色彩でぼんやりと描いた作品。作家が住む大阪の町を描いたそうだけれど、実在感がなく誰もが心に持つ心象風景のよう。夢の中の世界のように儚げ。
水野暁 『The River α+(共存へのかたちについて/吾妻川』 (2008)
卓抜した写実描写で、画面全体をグレイトーンで描いた川原の風景。グレイといってもきっと様々な色を混色して出しているのでしょうが、川辺に転がる大小の石やら草やら何やらの質感を、ほとんどモノクロームの色彩で画面に立ち上がらせる技量はすごいなぁ、と思った。これだけ色数の揃った油絵具で、敢えてこの色世界。奇しくもお隣が墨絵の作品だったので、思わず両者を見比べながらそんなことを思ってしまった。
田中晶子 『動くと動く。ゆうるりと』 (2009)
悠然と水面から顔を出すカバの顔。水野暁のシブい作品に浸った直後だっただけに、この絵が目に飛び込んできたときはその明快さが愉快だった。水面を悠々と移動するカバの顔の回りにはその動きで出来た波紋がゆらゆら。近寄って観ると、その波は青磁色とシルバーとで美しく表現されていた。
伊庭靖子 『untitled 12-2009』 (2009)
染付の光沢部分をアップで描いた作品。いつ観てもいいですね。
大鷹進 『パンドラの朱い実』 (2009)
繊維だけになったほおずきの房。透けて見えるその房の中には橙色のまん丸い実があり、緻密に描き込まれた網状の房(や房の外の地上)には小さな人間たちがうごめいている。赤黒い背景は美しくもあり不穏な感じでもあり。
榎俊幸 『獏図』 (2009)
あの、夢を食べて生きるという想像上の動物である獏の絵。アクリル絵画だけれど、金箔も使われていて琳派風といえばそんな感じ(に私には見える)。典雅な草花や雲を背景に、尻尾をもたげ、牙の生える口を開けてこちらにのっしのっしと向かってくる、ちょっと恐竜系のパワフルな獏。身体を覆う鱗のような模様、尻尾に走る細く繊細なスジなど、私が今まで見たどの獏よりもゴージャス。
朝倉隆文 『流出スル形ノ転移』 (2009)
植物の根のような細いものがのたうち、よく観ると西洋の顔立ちの具象も描き込まれ、観れば観るほど混沌。墨でよくこんな緻密な描き込みができるものだと見入った。
杉本克哉 『distance/ヘイタイ来ても、トマトつぶれても・・・』 (2009)
正直、まな板の上のトマトとその周りに群がる銃を持った兵隊たちという作家の感性に、自分が共有できる部分はすぐには見当たらなかったけれど、トマトと流れ出す中身の質感描写のリアルさは印象に残った。
青木恵 『狭間を渡る』 (2009)
岩絵具で描かれた華やかな作品。純粋にきれいだなぁ、と思ってしばし観ていた。赤で輪郭を引かれた金色の大きな花を中心に、ほのかに色づく白っぽい花々が咲き、薄いブルーの蝶が舞う。背景の明るい青色も美しかった。
藤澤万里子 『次元の廻廊』 (2009)
立体作品。ステンレス・スチール製の筒の中を覗き込むと、高透明シリコンで作られた液体が下がり、その向こうにやはり透明の手が生えている。更に顔を近づけると鏡のようにピカピカの筒の内側で中のオブジェの反射がたわみ、その視覚効果で妙な感覚を覚える。
以上です。
水野暁の作品に添えられたコメントに、現代絵画では技術力、描写力は評価されにくいというようなことが書かれてあり、私のような素人鑑賞者にもその意味するところが何とはなしに理解されるけれど、毎年この展覧会に並ぶ作品は技術的に高度で見応えのあるものが多く、素晴らしいと思います。