山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

政権評価を二分する「直感力」

2005年08月23日 | 政局ウォッチ
朝食を摂りながら斜めに観ていた22日朝のフジテレビ情報番組が、思いのほか面白かった。30日公示の衆院選で亀井静香元建設相の地元選挙区から出馬する堀江貴文ライブドア社長が、司会者やゲストのピーコ氏らから袋叩きにあっていたのだ。

堀江氏いわく・・・小泉政権になってから、スピードは遅いながらもイイ感じに改革が進んでるな、と思っていたら参院で郵政民営化法案が否決されちゃった。ここで改革を止めたら、日本経済は停滞してしまう。民主党の人たちは郵政法案について、いろいろ細かいことを言うけど、基本的なところはほとんど同じ考え。同じなら賛成すればいいのに権力闘争のために反対したのが許せなかった・・・

堀江氏は賢い人なんだろうな、と改めて思う。ネットとメディアの融合といった話もそうだったが、<興味のない人にはなかなか理解されないけれど実は極めて重要な時代の局面>というものを、彼はほとんど直感的に認識しているようだ。注目を集めて株価やページビューを増やしたいという思惑も含めて、そのビジネスセンスに感心する。

堀江氏のいうように、小沢イズムが浸透した今の民主党は、もはや政府提出法案に「是々非々」で対応するようなナイーブな政党ではなくなった。法案に賛成して成立させても政権与党の得点になるだけだと気付いたからだ。

まして、時の政権が「命運を懸ける」と宣言しているような重要法案なら、なおさらだ。そんな重要な法案なら否決した上で、内閣の責任を問えば総辞職か解散・総選挙に追い込める。だから、本音は賛成でも、とにかく理由を付けて反対する。

とはいえ「反対のための反対」では旧社会党と同じだといわれてしまうから、小沢一郎氏や仙谷由人氏のような海千山千の政略家が、さまざまな理論武装を施して、「こんな法案は国民のためにならないから反対だ」と唱える。

もともと全郵政に支援された旧民社党(旧自由党を含む)や、公社労組(旧全逓)と関係の深い旧社会党系議員を多く抱える民主党だから、郵便局の民営化には反対論が根強かった。一方で郵貯・簡保の民営化が「政・官・業癒着構造」の抜本改革につながるという本質論を内心理解している良識派も多いのがこの党だ。

「賛成か、反対か」で揺さぶる小泉政権に党内の賛成派が惑わされては、元も子もない。反対派も含めた党全体の団結を保つためには、「欠陥法案だ」「議論が尽くされてない」「公社のまま縮小でいい」などと難くせを付けて(一部は事実だが)議論を回避するのが、民主党にとっての最善策だった。

「小泉流の論理のすりかえ」「みんな小泉のトリックに騙されてるだけ」と民主党の人たちは言う。一面では正しいが、すりかえやトリックは実はお互いさまなのだ。

「トリックだ」「トリックだ」と聞いているうちに、「そうだ。小泉のトリックに騙されないぞ」と思い込んでしまった人こそ、実は田中真紀子氏や小沢、仙谷両氏らの巧みなトリックに落ちているのかもしれない。

「建て前」と「建て前」がぶつかり合う世界で、いかにして両者の隠された「本音」を見抜き、より理のある方がどちらなのかを判断する。その能力は天性のものというより、社会経験に負うところが大きい。

「いまだに『小泉改革には賛成だけど、法案には反対だ』と言う人がいる。これはもう倒閣運動なんだ。政治家ならそれぐらいのこと分かった上で言っているんでしょうね、と申し上げた」

参院での郵政法案採決が迫っていたころ、小泉首相は疲れた表情でそう語った。確かに造反議員のうち、本当に民営化に反対なのはごく一握りの人たちだけで、残りは「私怨」や「ポスト小泉」に目がくらみ、確信犯に踊らされた議員が多かった。

政局観のない議員の多さにあきれた小泉首相の落胆ぶりがよく分かる言葉だったが、造反議員の「建て前」しか見ない人が聞けば、「法案反対=倒閣運動」と決め付けた発言は、いかにも独善的に思えたことだろう。

このことは外交路線をめぐる議論にも通じる。中国や韓国の政府が日本政府に抗議をしてきた場合、その抗議が額面どおりの「本音」なのか、あるいは「建て前」に過ぎず、別の「本音」が隠されているのか、を見極めることは重要な作業だ。

互いに戦争を経験した世代が社会の主流で、かつ日本と中韓両国の経済力に大きな差があった時代、それらの国々からの抗議は、「中央政府に対する地方政府の抗議」に似た性格を帯びていた。

しかし、戦後生まれが政権の中枢を占める今の時代は、少しずつ事情が変化してきている。国際政治における力学の変化も重要な要素だが、それ以上に、戦争の加害と被害が図式化され、経済力で肩を並べた戦後世代の日本批判には、日本に対する不健全な「優越意識」さえにじむ。

小泉氏は、歴史問題を蒸し返す中韓両国の主張は「建て前」に過ぎないと見抜いているから、「意見の違いはあっても、未来志向で乗り越えよう」と涼しい顔で言いのける。しかし、中韓の「怒り」を額面どおり受け止める人たちにとって、小泉氏のそうした態度は不見識この上ないものに見えるだろう。

小泉氏の外交姿勢を批判する人たちが、同時にその政治手法にも批判的であることは、彼らが小泉氏の「政局観」についていけていないことが大きいと思う。政治的「直感」の未発達な人に、政局や国際政治の「裏読み」を理解してもらうのは簡単なことではない。だからこうした誤解は半永久的に解けないのかもしれない。

理解できない人にとっては、確信に満ちた小泉氏の態度は、根拠のない、ただの「思い込み」や「自惚れ」としか映らない。権力者の思い込みは危険だし、男の自惚れは気味が悪い。

田中康夫長野県知事のような(良い意味で)女性的感性を持った男性から、小泉首相はすこぶる評判が悪い。そうした人たちが小泉氏に対して、ほとんど生理的なまでの嫌悪感を示す理由のひとつは、首相の「確信」が「自惚れ」としか受け止められていない結果ではないだろうか。

再び朝の情報番組。

ピーコ氏「自民党幹事長の言い方とそっくりに『郵政民営化ですべてバラ色』みたいなことをいう堀江さんを見て、ちょっとショックだったわ」

堀江氏「考え方が一致しているだけですよ」

諸星裕桜美林大学大学院教授「権力闘争が嫌だと言ったけど、堀江さんは世界は違っても、その権力闘争をやって来たんじゃないですか」

堀江氏「違いますよ。権力闘争じゃないですよ。商売しているだけですよ。くだらない質問はやめてくださいよ」

諸星氏「いや、くだらないって、あなたが権力闘争が嫌だとか、くだらない答えをするから聞いているだけですよ」

堀江氏「は? もうくだらないから答えたくないんですけど。答えなくていいですか」

・・・広島県とスタジオを結んだ中継はここで終わった。議論が噛み合わないのは、相変わらずの「堀江節」だけが原因だろうか。〔了〕



【追記】
「評論家」を「諸星裕桜美林大学大学院教授」に訂正。(2006年7月11日)


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