山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

菅氏は致命的ミスを犯した

2004年05月09日 | 政局ウォッチ
年金滞納の責任を取って福田康夫官房長官が辞任した。歴代最長記録を更新し「我が世の春」を謳歌した矢先の辞任劇だ。一寸先は闇の政界だが、年金問題が内閣の大番頭の辞任にまで発展するとは正直、考えていなかった。

そもそも、年金改革法案の提出責任者である内閣メンバーに対し「過去の納付状況を公表せよ」と求めた民主党の姿勢は当然だった。これに対し「個人情報だ」と拒み続けた福田氏には、これまで記者の追及を「恫喝」答弁で乗りきってきたことから来る「慢心」があったと考えざるを得ない。

納付実績公表を迫る民主党に、与党が「民主党もネクストキャビネットの納付実績を公表せよ」と切り返したのには、意外だった。法案提出責任者である内閣には、法案を通すためには情報公開の責任もあるだろう。しかし、ネクストキャビネットは任意の組織である。与党側が国会対応で「ネクストキャビネット」を名指しすること自体、異例のことだ。

しかし、この反撃が民主党には痛手になった。年金未納問題で女性タレントや閣僚を追及していた菅直人代表が、こともあろうか年金を主管する厚相時代に収めていなかったからだ。

当初は「年金未納ぐらいで」と思っていた私も、菅氏の件が発覚してからは、考えを改めた。菅氏は政治的に大きな間違いを犯してしまった。自身の経歴を知らずに、他人の非を責め立てたのは致命的ミスだった。釈明も「大臣官房の役人が手続きを誤った」「妻が市役所で誤った指導を受けた」と二転した。

誤解のないように付け足すと、私は年金の未納・未加入そのもので菅氏が代表職を辞する必要はないと考えている。福田氏も辞任の理由として、「個人情報」として納付状況の公表を拒むなどの対応で、国民の政治不信を招いたことを挙げている。

同じように、菅氏も女性タレントや3閣僚の年金未納を軽はずみに攻撃してしまったことで、国民の反発を招いた責任があると思うのだ。逆に言えば、女性タレントや3閣僚の未納が発覚した時に「だからこそ一元化を」と真面目に訴える戦略を取っていたら、自身の未加入が発覚しても全く辞める必要などないと思う。

政治家である閣僚は、過去の非を責めれても当然かも知れないが、国会に参考人として招致されることが(有名人とはいえ)一人の民間人にとってどれだけプレッシャーを感じることか。補欠選挙を控え、国民の関心を高めようと、敢えて奇抜な戦術を選んだのかも知れないが、やはりその判断は致命的だったと思わざるを得ない。

年金問題は国民生活に直結する。個人の任意保険と異なり、現在の高齢者の年金生活を支えているだけに、未納は反社会的行為だ。未納が発覚した国会議員の多くは、手続きの認識不足が原因で、それをもって政治責任を問われるのは少し酷だとも思う。とは言え、国会議員には一般国民以上の倫理が求められて当然だ。とりわけ、公的社会制度の維持に関する義務を果たしていなかったとすれば、その責任は重大だ。

菅氏には、そうした道義的責任に加え、民主党を率いるリーダーとしての政治的責任も問われている。国民生活に直結する年金問題で致命的失態を演じてしまったからには、党所属議員から「次の選挙で勝てない」との声が上がるのも当然だ。言うまでもなく、菅氏が現在、党代表の地位にあるのは、前代表の鳩山由紀夫氏が任期途中で辞任したからだ。鳩山氏が辞任した理由は、代表選後のトラブルで国民の不興を買い「選挙で勝てない」との烙印を押されたからにほかならない。

選挙での議席増で政権交代を目指す民主党にとって、「選挙で勝てない」という批判は重い。この点に関し、菅氏だけが大目に見られていいわけでもあるまい。民主党は党首を変えて、新たに出直すべき時期に来たのかも知れない。(了)



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