小泉首相のツルの一声でNHK改革の主要テーマに急浮上した「海外向け放送の強化」。そのための財源確保策に「広告の解禁」が挙がり、民放から反対論が相次ぐなど波紋が広がっている。
日米貿易摩擦の頃にも、日本の対外情報発信力の弱さが議論された時期があった。当時はバブルで日本の情報価値が高騰したけれど、欧米系のテレビ局や通信社によって世界に伝えられる日本像が不当に歪曲されている、と国会でも指摘された。
せっかくのNHK改革の議論に水を差すつもりはないが、政府がいくら力を注いでもNHKの海外放送は国際世論に影響力を持ち得ないだろう。なぜか。理由は簡単。国際社会に対する日本の影響力が小さいからだ。日本発の情報に対するニーズが、そもそも低いのである。
戦前の国策通信社、同盟通信が海外で「DOMEI」として知られたのは、その情報収集力やニュースの信頼性が高く評価されていたからではない。当時の国際社会で、日本の行動が注目を集めていたからだ。実際、同盟の流すニュースは日本政府や軍部による政治宣伝の一部だった。
今でいえば中国国営の新華社が、アジアを代表する国際通信社として扱われているのと同じだ。イラク戦争でアルジャジーラが注目を集めたように、情勢が不安定な紛争地域も、一時的に情報ニーズが高まる。
もし日本が、国連安保理常任理事国に加入し、核兵器を保有し、地域大国として台頭すれば、戦前と同じように世界は日本の動向に注目し、共同やNHKのニュースに対する需要も高まるだろう。
現実には、東アジアの地域大国はお隣の中国である。国際世論に対する新華社やCCTV(中央電視台)の影響力は、今後10年で大幅に飛躍するに違いない。やがてはAPやCNNと肩を並べ、ひょっとするとロイターやBBCの地位を危うくするかもしれない。
我々が今、ヨーロッパ発のニュースをCNN経由で知るのと同じように、将来は日本を含むアジア発のニュースは、中国やインドのメディアによって世界に発信されるようになるだろう。
NHKの海外戦略を議論するなら、まずはそうした長期ビジョンを描かなくてはならない。日本国内の情報を海外に伝える方法をいくら議論していても、在外邦人以外にニーズがない以上、経営が成り立つはずがない。
日本のメディアが国際社会で発言力を保つには、
<中国やインドを中心とするアジアの情報を、世界に伝える国際メディア>
になる方策を真剣に考えなくてはならないと思う。それは並大抵のことではない。
NHKを本気でそうした国際テレビ局に変えようというなら、新組織を立ち上げるほどの資金と労力が必要になるだろう。日本国内の取材網は大幅に削減し、全力をアジア地域に傾注すべきだ。共同通信との統合も視野に入れなくてはならない。ロイターやBBCのように、外国人(現地人)のスタッフや記者、カメラマンを多数抱えた多国籍企業にならざるを得ない。
幸いにして日本のメディアは、政府から独立し、中立であると世界的に認知されている。これに比べ、中国が一党独裁の共産党政権であり続ける限り、アジア発の新華社電は、中国政府の宣伝手段として見られるだろう。日本の国際メディアが入り込む余地は、強いて言えばそこにある。
とはいえ、アジア発の情報をAPと新華社、CNNとCCTVが競い合う時代はそこまで来ている。「東京から中国中央電視台の陳がお伝えしました」―。日本の政局を報じるこんなニュースを、ヨーロッパ某国のホテルで目にする日は、そう遠くないかもしれない。今から慌ててNHKの体力を強化しても、到底対抗できる話ではないのだ。〔了〕
日米貿易摩擦の頃にも、日本の対外情報発信力の弱さが議論された時期があった。当時はバブルで日本の情報価値が高騰したけれど、欧米系のテレビ局や通信社によって世界に伝えられる日本像が不当に歪曲されている、と国会でも指摘された。
せっかくのNHK改革の議論に水を差すつもりはないが、政府がいくら力を注いでもNHKの海外放送は国際世論に影響力を持ち得ないだろう。なぜか。理由は簡単。国際社会に対する日本の影響力が小さいからだ。日本発の情報に対するニーズが、そもそも低いのである。
戦前の国策通信社、同盟通信が海外で「DOMEI」として知られたのは、その情報収集力やニュースの信頼性が高く評価されていたからではない。当時の国際社会で、日本の行動が注目を集めていたからだ。実際、同盟の流すニュースは日本政府や軍部による政治宣伝の一部だった。
今でいえば中国国営の新華社が、アジアを代表する国際通信社として扱われているのと同じだ。イラク戦争でアルジャジーラが注目を集めたように、情勢が不安定な紛争地域も、一時的に情報ニーズが高まる。
もし日本が、国連安保理常任理事国に加入し、核兵器を保有し、地域大国として台頭すれば、戦前と同じように世界は日本の動向に注目し、共同やNHKのニュースに対する需要も高まるだろう。
現実には、東アジアの地域大国はお隣の中国である。国際世論に対する新華社やCCTV(中央電視台)の影響力は、今後10年で大幅に飛躍するに違いない。やがてはAPやCNNと肩を並べ、ひょっとするとロイターやBBCの地位を危うくするかもしれない。
我々が今、ヨーロッパ発のニュースをCNN経由で知るのと同じように、将来は日本を含むアジア発のニュースは、中国やインドのメディアによって世界に発信されるようになるだろう。
NHKの海外戦略を議論するなら、まずはそうした長期ビジョンを描かなくてはならない。日本国内の情報を海外に伝える方法をいくら議論していても、在外邦人以外にニーズがない以上、経営が成り立つはずがない。
日本のメディアが国際社会で発言力を保つには、
<中国やインドを中心とするアジアの情報を、世界に伝える国際メディア>
になる方策を真剣に考えなくてはならないと思う。それは並大抵のことではない。
NHKを本気でそうした国際テレビ局に変えようというなら、新組織を立ち上げるほどの資金と労力が必要になるだろう。日本国内の取材網は大幅に削減し、全力をアジア地域に傾注すべきだ。共同通信との統合も視野に入れなくてはならない。ロイターやBBCのように、外国人(現地人)のスタッフや記者、カメラマンを多数抱えた多国籍企業にならざるを得ない。
幸いにして日本のメディアは、政府から独立し、中立であると世界的に認知されている。これに比べ、中国が一党独裁の共産党政権であり続ける限り、アジア発の新華社電は、中国政府の宣伝手段として見られるだろう。日本の国際メディアが入り込む余地は、強いて言えばそこにある。
とはいえ、アジア発の情報をAPと新華社、CNNとCCTVが競い合う時代はそこまで来ている。「東京から中国中央電視台の陳がお伝えしました」―。日本の政局を報じるこんなニュースを、ヨーロッパ某国のホテルで目にする日は、そう遠くないかもしれない。今から慌ててNHKの体力を強化しても、到底対抗できる話ではないのだ。〔了〕
この記事では悲観的に書きましたけど、国際メディアの強化は真剣に考えてほしいものです。「日本→欧米」のニュースを中国メディアが独占するという未来は、想像しただけでも悪夢です。
竹中平蔵総務相の私的研究会「通信・放送の在り方に関する懇談会」の会合が9日開かれ、座長を務める松原聡東洋大教授は、NHKがインターネットを使って海外向け放送を強化し、その財源の一部にCMを導入することを容認する考えで一致したことを明らかにした。
小泉純一郎首相の国際放送強化の指示に沿ったもので、詳細な方法については今後、詰める。国際放送に限られた一分野ではあるが、CMが導入されれば、受信料制度で成り立っているNHKの在り方を変えることになる。民放各局からの反発が強まるのは必至だ。(共同通信) - 3月9日22時20分更新
安上がりで、かつ民放の抵抗も少ないという判断なのだろうが、肝心の「何を報じるか」は議論されているのだろうか。アジア取材網の構築は巨額の資金がかかると思うのだけれど、やはり国内のニュースを英語で放送するというイメージなのか…