山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

「やめます」型リーダーからの脱却?

2003年08月26日 | 政局ウォッチ
小泉純一郎首相が、自民党総裁として続投か、辞任かの瀬戸際に立たされている。前内閣の不人気から自民党を救った救世主として、小泉氏は首相就任以来、高い支持率を保持してきた。

小泉氏と並び、「次期首相にふさわしい人物」アンケートの上位に必ず顔を出す人物に、東京都の石原慎太郎知事がいる。

小泉首相と石原都知事。いずれも大衆的人気に支えられる両者だが、実は本質的に大きな違いがある。小泉氏が「郵政3事業民営化」「高速道路建設の凍結」などを主張する「やめます」型リーダーであるのに対し、石原氏は「カジノ解禁」「横田基地返還」などを掲げる「やります」型リーダーである点だ。

小泉氏が自民党総裁選で叫んだ「やめます」宣言に国民は拍手を送り、首相就任後の小泉氏は「ハンセン病訴訟控訴断念」で声援に応えた。

一方の石原氏は、過去の政策の見直しよりも「銀行税の導入」や「ディーゼル車の規制」などの新しい施策に重点を置き、都民もそうした石原氏の態度に「リーダーシップ」を期待した。

両者の違いはどこから来るのだろう。一つには石原氏を選んだ東京都の有権者のほうが、小泉氏を選んだ日本国の有権者より、政治的経験において一歩先を行っていたということが考えられる。

石原氏の前の都知事であった青島幸男氏は、それまでの鈴木都政へのアンチテーゼとして「都市博やめます」の一点を公約して当選した。まさに典型的「やめます」型リーダーだ。

ところが青島氏は都知事就任後、具体的な都の政策において何をしたいのか分からないまま迷走。東京都は「行政あって政治なし」の無為な時間を浪費してしまった。

こうした「やめます」型のリーダーの実態に少なからず失望していたところへ、強力なリーダーシップを感じさせる石原氏が登場し、都民の期待を独り占めしていった。東京都民は、すでに「やめます」型政治の限界を体験していたのだ。

それに比べ、日本国民はいまだ「自民党をぶっ壊す」と主張する自民党総裁を見たことがなかった。そのことが小泉氏に対する「何かやってくれるのでは」という期待につながったのである。

「小泉氏の改革は口先ばかり」と野党側がどんなに説得しても、依然、支持率は50%を割る気配を見せない。かつての細川政権や村山政権でさえ、「自民党政治の継承」を公言し、それらの政権を支えていた中核が現在の民主党幹部や自民党橋本派であることを、国民は知っているからだ。

しかし、ここにきて小泉氏は、構造改革が思うように進まないことに焦りを感じ始めているようだ。「やめます」型リーダーである小泉氏にとって、実績を示し続けなくては政権の存在意義自体を失いかねない。「青島都政」の教訓である。

そこで小泉氏と側近たちは、少しづつではあるが、「やります」型リーダーへの脱却を図りつつあるようだ。北朝鮮による拉致被害者を奪還し、喝采を浴びた昨年の日朝首脳会談も、政権側の狙いは拉致問題の解決による日朝国交正常化にあった。

北方領土問題の解決と日朝国交正常化こそは、戦後の歴代内閣が挑戦しながらも、果たせずに終わった2大業績だ。これらの一つでも解決すれば、小泉内閣は歴史に成果を残した政権として記録されるだろう。

―そして、戦後政治がやり残した今一つの課題。それは「憲法改正」にほかならない。

報道によれば、小泉首相は今月、自民党総裁として憲法改正のための党試案をまとめるよう、山崎幹事長に指示したとのこと。核問題で北朝鮮との交渉が暗礁に乗り上げる中、小泉官邸のプロデューサー氏は、いよいよ「最後の宿題」への着手を決断したのだろうか。 (了)


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