山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

有志連合-国連に代わる21世紀の同盟

2003年09月08日 | 日本の外交
イラク統治に手を焼いている米ブッシュ政権が、ついに国際社会の協力を求め始めたもようだ。しかし、米国が頼りにしようとしている国連とは、今もなお信頼に足る安全保障機構として機能しているのだろうか。

第二次世界大戦の「戦勝国サロン」として発足した国連は、戦利品の分配をめぐって仲間割れし、長く開店休業の状態を続けてきた。東西冷戦が終結した1990年代、国際社会は新たな戦勝国クラブである「G7」を、21世紀の安全保障機構へと発展させるべきだったが、残念ながらその努力を怠った。逆に「敗戦国」であるロシアを加入させ、同じく負け組の中国にも色目を使っている。

クリントン政権の時代、社会主義を仮想敵としてきた日米安保条約は形骸化し、「同盟としての死」を迎えようとしていた。橋本内閣は日米安保の再定義に躍起だったが、沖縄での米兵の蛮行が「駐留同盟」の欺瞞を露呈させ、「日米安保新時代」を標榜した共同宣言は単なるセレモニーに終わった。

ところが、21世紀に入って日米安保をめぐる国際環境は、にわかに新たな段階を迎えた。2001年9月11日の米国での悲劇が、瀕死の日米同盟に新たな魂を吹き込むこととなった。

「テロとの闘い」を通して、国連にも、G8にも幻滅した米ブッシュ政権は、一部の有志国と手を携え、新たな秩序の形成に乗り出したのである。小泉首相は、このブッシュ政権の姿勢を全面的に支持したが、この判断は正しかった。より正確には「これ以外に選択肢はなかった」のだ。

米国が「新しい戦争」と呼ぶ、一連の国際治安活動が終結したとき、小泉首相の選択は、高く評価されることだろう。「勝ち組」か「負け組」かを決する関が原の合戦を、政局的直感に優れた小泉首相は、ベストの選択で乗り切ったと思う。

今や国際社会は、西側と東側に分かれて競う「ドッヂボール」の時代を脱し、敵と味方が入り乱れる中、信頼できるチームメートを探しながら前進する「ラグビー」時代へと変わりつつある。

「国連」でも「日米安保」でもない、臨機応変で緩やかな同盟が求められている。普段は互いを尊重しながら、いざとなれば強固な意志を共有できる関係。それこそが21世紀の同盟の形である「有志の連合」なのだ。 (了)


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4 コメント

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イラク戦争の大義は崩れたが (山川草一郎)
2004-11-29 18:52:10
この投稿の後、イラクが大量破壊兵器を持っていなかったことが明らかになり、イラク戦争の大義は完全に崩壊した。



それと同時に、米国と行動をともにした「有志連合」の絆にも綻びが見え始めた。



誤解のないように断っておくが、私はこの投稿でイラク戦争の是非を道義的観点から論評したかった訳ではない。イラク戦争は国連憲章をはじめとする国際法に違反していることは明らかだ。



ただし、国際法は存在しても、それを執行する手段(法治の体系)が未整備な国際社会の現状では、国連のような合議機関がテロや大量破壊兵器の脅威を取り除く上で効果的でないことも、また事実であろう。



その意味で、唯一のスーパーパワーである米国が、国連に代わって治安行動に出たことを安易に批判するのは妥当でないと、今でも思う。



拳を握った不良少年に「掌を見せろ」と説得しても応じない場合、周囲の人間にとってそれは紛れもない「脅威」である。たとえ手の中に何もなかったとしても。



9月11日の自爆テロを経験した米国人にとって、「もし、あの自爆機に生物兵器や核兵器が搭載されていたら・・・」といった想像は、耐えられない恐怖であったに違いない。



フセイン大統領は、掌の中身を隠したまま、危険なゲームに興じるべきではなかったのだ。



既に「イラク戦争と近衛声明」と題した投稿(外交・安保・国際政治2003年8月)で示した通り、イラク戦争は戦前の日本が歩んだ道と同じ苦難を、米国に経験させるであろう、というのが私の基本的考え方である。



あの頃の日本と、現在の米国の立場の違いは「より力の大きい大国が存在しかた否か」に過ぎないのである。無論、曲がりなりにも国連決議を正当性根拠としたイラク戦争の方が、「大東亜戦争」より用意周到であることに違いはないが・・・。

我々は米国を非難できるか (鹿島)
2004-12-02 09:59:48
鹿島と申します。

よろしくお願い致します。



私にイラク戦争そのものを支持する考えはございませんが、単独行動主義といわれる近年の米国の行動を、我々日本国民は本当に非難でるのだろうかと、よく自問自答いたしております。



もし、中東とその周辺地域から米欧などの影響力が排除されイスラムを機軸に地域内各国が結束を強めることがあれば、日本の行動はこの力に大きく支配されることとなるかもしれません。



石油の調達先ということはもちろんですが、この地域が独自の力を増すことは同時に中国という地域大国の政策自由度が増すことをも意味するはずです。



イラク戦争は米国の利益のために米国が起こした行動ですが、結果として米国と利害の一致する日本が、果たして米国を非難できるのか。



このあたり、山川さんと理解を共有できることではないかと思い、また、ご意見を拝聴したく投稿させていただきました。
重要な視点だと思います (山川草一郎)
2004-12-02 12:04:12
コメントを頂き、ありがとうございます。鹿島さんのご意見は、非常に重要な問題提起だと思います。



ご指摘の通り、日本外交をリアリズムに徹した世界戦略の視点で考えるならば、最大の石油供給源である中東地域の安定は、わが国のエネルギー安全保障に直結しますから、「米国主導のイスラム社会の民主化」という目的は(善悪の判断を無視すれば)本来、好都合なはずです。



その意味で、自衛隊のイラク派遣は必ずしも「良好な日米関係の維持のため」だけとは言いきれない。



一方で、東西冷戦期に日本が独自の中東外交を展開したことを評価し「現政権の対米一辺倒外交はその蓄積を損なうものだ」とする意見があることも、理解できます。



また、国際人道主義を日本外交の本旨に位置付けるならば、西欧の価値観を一方的に押し付ける米国のやり方に手を貸すことは出来ないという判断になります。さらに、子どもたちが犠牲になっている戦場の残酷な映像は、議論の余地さえも失わせます。



イラク戦争に際して、本来は「静観」を決め込むのが最も賢明な立場だったのでしょうが、しかしながら、ポスト冷戦の不安定な時代に米国が「旗幟を鮮明にせよ」と求めてきた以上、日本政府に「支持」以外の選択肢はなかっただろうと思います。その考えは今でも変わりません。



非戦(あるいは反米)の立場の人からすれば、絶対に受け入れられない、不道徳で、悪魔的な意見だということは重々承知の上ですが。

もっと多くの方に (鹿島)
2004-12-02 13:21:25
早速の返信をありがとうございます。



>非戦(あるいは反米)の立場の人からすれば、

>絶対に受け入れられない、不道徳で、悪魔的な

>意見だということは重々承知の上ですが。



全く同感です。

リアリズムを強く意識すると、このような理想主義的主張を忘れ、ともすればそれを非難嘲笑するかのような思考に陥ってしまいがちです。



そうなってはいけないと思うのです。



是非山川さんのお考えを、政治家も含めたもっと多くの方に主張されてはと、思う次第です。



出すぎたことを申し上げて恐縮ですが、これが私の正直な気持ちです。