山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

「小沢一郎」が動く日

2003年12月12日 | 政局ウォッチ
小沢一郎旧自由党党首が、民主党代表代行に就任した。実質的権限はないそうだが、「参謀」役を好む小沢氏にとっては、願ったりのポストに違いない。菅代表-小沢代行-岡田幹事長の新執行部が、次期衆院選で政権交代を果たせるかどうか。そのカギは、実は来年夏の参院選にかかっているようだ。

★参院選は政権の鬼門

参院は来年7月、半数の議席が改選期を迎える。参院選は政権選択と直結しないことから、国民の関心は今ひとつだが、ある政権の命運は、実はこの参院選の結果にかかっていると言っても過言ではない。

2院制のわが国においては、衆院選が事実上の「首相選挙」であるのに対し、参院選は文字通りの「議会選挙」だ。米国で言えば「中間選挙」に当たり、政権にとっては衆院選後の実績、政治姿勢に対し、有権者からシビアな評価が下される機会になる。

一般に衆院選では、政権交代を望まない有権者が多ければ、政権への批判票は抑制的に投じられる。しかし、参院選は純粋に議会選挙であるため、有権者は比較的気楽に現政権への不満を表明する傾向が強い。

そのため、過去の参院選では野党側が大幅に議席を伸ばした例が珍しくない。選挙後の首班指名選挙で、参院が野党指導者を「首相」に選出した例も2回ある(旧社会党の土井たか子委員長、旧民主党の菅直人代表)

逆に政権党側から見れば、参院選こそは「鬼門」だ。「解散権」を持つ首相が選挙時期を決定できる衆院に比べ、3年周期で必ず訪れる参院選は、政権与党にとっては頭の痛い学期末テストのような存在。橋本龍太郎首相が退任に追い込まれたのも、参院選敗退の責任を取ってのものだ。かつて自民党の実力者は「歌手3年、総理2年の使い捨て」と嘆いたが、「首相の賞味期限」は参院の任期である3年と切っても切れない関係のようだ。

★橋本失脚との類似

ところで、報道によれば、小泉純一郎首相の在職日数は先月、戦後の首相では橋本龍太郎元首相を抜いて6位になったという。「5大改革」を標榜し、国民的人気の高かった橋本首相でも、やはり2年超で飽きられた。

高い内閣支持率に支えられ衆院選で圧勝した橋本氏は、直後の内閣改造でリクルート事件で有罪判決を受けた議員を入閣させた。中曽根元首相の強い要請を渋々受け入れた結果だったが、これにマスコミが反発したため、慌てて撤回。国民はこの経緯を見て、橋本首相の指導力に不信感を抱き、内閣支持率は急落した。

さらに、景気悪化への世論の批判を受け、橋本氏が参院選直前に「減税」へと揺れたことも、国民には「迷走」と移った。いずれも「頑固な改革者」という橋本氏のイメージに、ほんの少し亀裂が入ったがための結果だった。

橋本氏がつまづいた理由はもう一つ。南米旅行中の早大探検部の学生が現地軍の兵士に殺された事件について、学生の軽率な行動が原因とも受け取れるコメントをした「失言」問題だ。この発言に早大当局が猛反発、早大出身者の多いマスコミも首相批判を繰り返した。

一般世論には首相のコメントに理解を示す向きも多かったが、当時TBS系「報道特集」キャスターだった蟹瀬、田丸両キャスターらを筆頭に「首相は辞任を」の声は日増しに高まったのだった。

そんな中での参院選。景気の悪化に加え、「改革イメージの亀裂」と「人命軽視への批判」が橋本政権の足元をすくった。

★小泉自民は負ける

翻って現在の小泉政権だが、相変わらず支持率は高水準ではあるものの、進まない道路公団民営化をめぐり猪瀬直樹氏ら身内から苛立ちが噴出しはじめている。小泉氏としては、青木幹雄参院幹事長の協力を取り付けるためにも、郵政・道路への本格的着手は来年7月の参院選後まで先送りしたいのが本音だろう。しかし、その判断が命取りになる可能性が高いのだ。

すでに述べたとおり、参院選は「現政権への中間評価」の色彩が濃く、そもそも政権与党には不利に動く。そんな状況で、「改革の本丸」に手を付けない首相が「改革推進政党」への支持を訴えても、有権者は不信感を募らせるだけだろう。

加えて、政府は今月「1年以内にイラクに自衛隊を派遣する」との方針を閣議決定しており、米国からの圧力次第では参院選前の部隊派遣も現実味を帯びつつある。万が一、犠牲者が出ようものなら、橋本政権末期と同じような「首相は辞任を」の大合唱が巻き起こることは容易に想像が付く。

つまり、自民党は参院選で負ける。その可能性が高いのだ。

★カギは「小沢」と「北朝鮮」

では、参院選敗退の責任をとって、小泉首相が辞任するかと言えば、それは別問題。彼の性格からして「参院選は中間評価。あくまで責任は衆院選で取る」と主張し、続投することも考えられる。その場合、いよいよ追い詰められた首相がとる道は一つ。――それは「政界再編」だ。

連立の組替え、あるいは野党の一部との連携は、小泉氏が常に公言してはばからない基本姿勢である。問題は連携の相手だが、ここで小沢氏らの動きが重要な意味を持ってくる。

「国際社会で名誉ある地位を占めたい」――。イラク派遣を決めた後の記者会見で小泉首相は、憲法前文を引用して理解を求めた。この一文こそ、過去10年にわたり小沢氏の行動を決定付けてきた最も根源的な政治信条である。小沢氏と小泉氏には「情」の面で通じるところが確かにある。ただ、ふたりはその実行手法において異質なのだ。

簡単に言えば、小沢氏が「体系的法制に基づく国家改造」を志向し、そのために必要な政治手続きを軽視するのに対し、逆に小泉氏は「実質的、漸進的な構造改革」を目指し、そのための政治手続きを不可避ととらえるのである。結果として、小沢氏には「破壊者」「豪腕」の陰口が、小泉氏には「妥協的」「口だけ」の不評がつきまとう。

小沢氏は現在、小泉首相を「パフォーマンスだけ」「開き直る態度は森喜朗前首相より悪質」などと最も辛らつに批判するが、それは彼が小泉氏を脅威と感じているからにほかならない。仮に小泉氏がプライドを捨て、小沢氏に頭を下げて「参謀役」への就任を要請した場合、小沢氏がどう反応するか―。応じる可能性は高い、と私は見るがどうだろうか。

ただし、条件がある。小沢氏の行動には「大義名分」が必要で、過去には「国際情勢の変化」や「経済危機」などが、君子を豹変させる大義となった。今後、北朝鮮情勢がさらに緊迫すれば、「国家の緊急事態」を理由に、小沢氏が「第二の自自連立」を画策する可能性は否定できない。

彼が現在、民主党内の安全保障政策の不一致を批判しているのは、一部マスコミがいうように「発言力の強化が狙い」などではない。それは新しい民主党が、真に国家危機に対応できる政党へと脱皮できるかどうかの見極めであり、言い換えれば将来の「豹変」に向けたアリバイ作りでもあろう。

先の衆院選で政権を取る。小沢氏は本気でそう思っていた。そのために自由党を解党して、民主党に入った。しかし、その目的は達することができなかったばかりか、菅執行部は「2大政党制の一翼を担う足掛かりができた」と無邪気に喜んでいる。囲碁好きの小沢氏はすでに「次の一手」を練り始めているのだ。

来年秋の参院選“後”に向け、菅執行部は政界再編の起爆剤を抱え込んで新たなスタートを切った。(了)

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