goo blog サービス終了のお知らせ 

思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

モンベルによる『岳人』14年9月号の第一印象と校正の結果

2014-08-31 23:59:59 | 出版・言葉・校正

今春から触れている、『岳人』の出版元が東京新聞からモンベルの関連会社の株式会社ネイチュアエンタープライズに移行し、今月に発行の14年9月号から新装刊、の件に関する続き。

12日(火)の発売日から、校正のいち作業の「素読み」ばりに時間をかけて本気で精読してみると、たしかに写真のように判型は小さくなって、ページ数も(写真の9月号の下に敷いた)東京新聞版の8月号の7割ほどと減ったものの、読み物が主体で写真も案外きれいで本自体は結構良い。ただ、予想通りに? ツッコミどころは版元が変わっても相変わらず多かった。
以下に特に目立ったものを。「×→○」は明らかにおかしい誤植で、「疑→改」は疑問点とその改善案を。


●P8、本文下段

× 山男たちに出迎えらた
○ 山男たちに出迎えられた

※単なる脱字。

●P15、マッキンリー(デナリ)の写真

× 1970年に植村直己が~遭難した山として知られる
○ 1984年に植村直己が~遭難した山として知られる

※この山で植村直己が冬季単独登頂後に遭難したのは1984年2月。植村直己の略年譜を要参照。

●P17、本文中段

疑 冒検を行うには
改 冒険を行うには

※この場合は一般的には「冒険」だが、類語の「探検」と意図的に混ぜた、両方の意味を含めた表記も野外系雑誌では稀に見られる。「冒検」や「探険」のように。しかし本文のエヴェレスト登頂については登山業界ではよくあることなので(海抜0mから8848mへ人力移動で到達という記録は珍しいが、前例はある)、ふつうに「冒険」でよいと思う。

●P23、本文上段

× 内蔵の調子を整え
○ 内臓の調子を整え

※人間を含む動物の体(身体)に関する記述で分野を問わず、よくある誤変換。最近は人体および健康に関する媒体・記事のほかに、釣り(釣った魚を捌くくだり)や狩猟(熊・猪・鹿・兎・鳥類などの獣の解体)に関するものでも増えてきたような気がする。

●P29、筆者紹介

× 『空へ』(文芸春秋)
○ 『空へ』(文藝春秋)

※単に文藝春秋の社名で略字か正字か、の判別。ただ文春の場合は社名が「文藝春秋」なので、やはりこのとおりに書くべきで。また、P39の座談会記事の本文3段目にも雑誌名の『文藝春秋』があり、これと字面を統一させる意味でも正しく書きたいものだ。
ちなみに、『空へ』は文藝春秋の単行本・文庫本版よりも現在はヤマケイ文庫版のほうが新しいが、まあそこはあまり気にしなくてもよいかも。

●P30、本文上段

× 『石器時代のへの旅』
○ 『石器時代への旅』

※単なる衍字(えんじ。不必要な字)。絶版状態の50年前の本なので、amazon.co.jpの古書の書影を参照した。
もちろん国会図書館にはあるようなので、行く機会があれば確認してみたい本ではある。
ちなみに、同ページ下段の「現在カルステンツ・ピラミッドへの~」からの改行は、改行字下げが1字(全角)ではなく2字分になっているのも誤り。

●P32、下段(天地の「地」)の表

疑 7~400万円
改 70~400万円

※マッキンリーの登山費用に関する表記で、日本から最安で7万円で行けるものなのか? という疑問。おそらく金額の桁が1桁少ないと思われるが、ひょっとしたら日本からこの登山で最寄りのアメリカ・アンカレジまで格安で渡航できる方法があるのかもしれない。この山に登頂した知人もいるのでなんとなく聞きかじった話では、たしか入山料だけでも200ドルほど必要だと思うが、となるとそれ以外の航空券代など諸費用を5万円前後で、というのは至難の業か……。

●P32、33

疑 所用日数
改 所要日数

※この号の特集のセブンサミッツ(世界七大陸最高峰)の登頂を目指すさいの難易度や費用や時間の紹介で、「所用」か「所要」の違い。多くの一般登山者にとっては趣味的な登山という行為を用事・用件という事務的な意味合いの「所用」と扱うよりも、この場合は純粋に登頂するためにはこのくらいの時間が必要であるという「所要」のほうが適していると思う。
ただ、この見開きページを監修している(エヴェレストに6回登頂など高所登山の経験豊富な)倉岡祐之氏のような山岳ガイドにとっては、主に仕事として登りに行っているということで「所用」のほうの感覚なのかもしれない。

●P68、本文4段中2段目

× 登攀そして、そして滑り手にとって
○ 登攀、そして滑り手にとって

※これも「そして」が重複で、衍字のはず。

●P78、「前号までのお話」

疑 ツンドラをサバイバル登山スタイルで隕石湖まで徒歩旅行させて、新種のイワナを釣りあげさせる(食べさせる)という番組企画を
改 ツンドラをサバイバル登山スタイルで隕石湖まで徒歩旅行して、新種のイワナを釣りあげる(そして食べる)という番組企画を

※服部文祥氏の連載で、14年1月にNHKBSで放送された『地球アドベンチャー ~冒険者たち~』の極東シベリア行の顛末を書いているが、この取材のあらすじとして「~させる」という使役の表現が目立つ。が、この番組ディレクターの山田和也氏の話も聞いたことはあるが、(山田氏から番組企画を申し出た)服部氏とは使役のような主従(上下)関係にはなかった気がする。この「前号までのお話」のような書き方では、山田氏が服部氏に指示して演出としてやらせている、という純粋なドキュメンタリー番組とは言い難い意味にも取れてしまう。
取材とはいえ旅なので、そのような主従関係ではなく、服部氏がこの連載で詳述しているように現地入り後は(というか日本を出国する前から許可の件も含めて)トラブル続きではあったようだが運命共同体として対等な人間関係で苦楽をともにしたと見受けられるのだが。よって、不適切と思われる「~させる」表記には疑問出ししたい。

●P103、本文中段

× 三陸リアス式海岸は
○ 三陸リアス海岸は

※7、8年前からだと思うが、世代を問わず地理教育上の専門用語では「リアス式海岸」の「式」を取った「リアス海岸」のほうが一般化している。この畠山重篤氏の連載では漁場の宮城県・気仙沼について触れているが、リアス海岸については地域は問わないと思う。

「リアス式海岸」から「リアス海岸」への変更について (帝国書院編集部)
岩手県にはなぜリアス式海岸があるの? (NHK盛岡放送局)
Q3「リアス海岸」について (教育出版)

3つ挙げたリンクのなかで、教育出版の根拠が最もわかりやすいかも。帝国書院の地図帳を凝視すると、スペイン北西部に「リアスバハス海岸」があるし。
僕も仕事で高校地理の教材をかれこれ7年ほど扱っているが、たしかにその頃からすでに「リアス海岸」に切り替わっているため、僕は「リアス式海岸」という表記は古い、という認識である。ただ、用語の大枠としては「式」があっても間違いではないので、実務では赤字(要修正)扱いではなく疑問出しに留めておいたほうがよさそう。
「リアス海岸」を各地で当てはめる場合の大雑把な意味合いとしては、「(スペインの)リアス(地方)のような沈水海岸」ということかなあ。だからこの本文の表記もホントは、「三陸にある、リアスのような沈水海岸」が正しいのかもしれない。ただそれでは長すぎるから、便宜的に「三陸リアス海岸」に縮めざるを得ない、みたいな。

●P125、「Profile」

× カイトボーデイングに親しむ
○ カイトボーディングに親しむ

※鈴木英貴氏の連載で、筆者プロフィール内の「ボーディング」の「ィ」が小文字か大文字かという、単に字面の問題で内容にはまったく抵触しない程度の傍目にはどうでもよい? ことだが、国内の代表的な団体である「日本カイトボード協会」のウェブサイトでは「カイトボーディング」と小文字の表記なので、これに沿った表記にしたいものだ。

●P126、筆者略歴

× 1954年生まれ。登攀暦半世紀。
○ 1945年生まれ。登攀歴半世紀。

※海津正彦氏の連載の筆者略歴で、生年の4と5が入れ替わっている(入れ替わると9歳違いになってしまう)。東京新聞版の8月号以前は合っていたのだが……。
また、「暦」と「歴」という「れき」の使い分けでは、半世紀(50年間)の「登攀」という経験年数を言い表す場合は「歴」だろう。
「暦」で「こよみ」の読み方の意味も厳密に考えると、(年・月・週・日などの)言わばカレンダーの1年間の範囲内の話なので、やはり不適切だと思う。


という感じ。内容・意味に抵触するほどでもない字面の問題だけという点も気になるのは、もはや職業病なので致し方ない。
まあそれはそれとして(しかし改善はもちろん所望するが)、このカタチの新しい『岳人』を末永く発行し続けてほしい、と期待する。



※14年9月末の追記
9月発売の10月号の巻末に、「9月号のお詫びと訂正」として「1970年」の件が出ており、「1984年」に改めている。
また、10月号で「1954年」は「1945年」に修正された。しかし、「登攀暦」は変わらず……。

※15年3月上旬の追記
15年3月号から、「登攀暦」は「登攀歴」に修正されている。

夏以降の『岳人』は検討中

2014-06-06 23:59:59 | 出版・言葉・校正
春から気にし続けている月刊誌『岳人』の発行元が東京新聞からモンベルの関連会社の株式会社ネイチュアエンタープライズへ移行、の件の続き。
先月下旬から、9月号以降の年間購読の受付が始まっているのね。

で、僕としては今年は『岳人』の節目の年なので、1月号から毎号を所有・保存しておこうと決めていて今日までに1月号から6月号まで6冊すべて所有しているので、軽く特集の予告が出ている12月号まで入手して12冊を揃えるつもりだが、9月号以降は年間購読に応じるか(=来年の1月号以降も買うか)否かはちょいと検討中。金欠でまだ申し込めないからということもあるが。
でも、現行の雑誌からページ数は減って寸法もB5判に縮小することもあっての新価格が税込734円であれば、思ったよりも入手しやすいかも。

内容については、ひとまず現行の連載で僕好みのものでは「スーパー(超)・登山論」(現行の連載のなかでも特に校正に注力したほうがよい気が……)と、「登山クロニクル」と「アルパインクライミングのプロファイル」(この2本が現在の『岳人』の胆だと思う)の継続が決まったようでなにより。

あとはほかの読み物と、いったい誰が作るのかが最も気がかりなんだよなー。ほかにも、(今年、毎号を校正者目線で例年以上に精読すると疑問点が結構多いことを個人的に憂慮しているが)雑誌の質の良し悪しを左右する校正も引き続き(山岳書の翻訳家としても有名な)海津正彦氏が担当するのかどうか、も注視したい。

そういえば、9月号以降の表紙に使わせてもらうという畦地梅太郎の作品だが、愛媛県宇和島市の「畦地梅太郎記念美術館」へ観に行くのは距離的に厳しいので、そこよりも行きやすい東京都町田市の「あとりえ・う(畦地梅太郎ギャラリー)」のほうはやや変則的な開館日を狙って年内に一度は覗きたいものだ。

まあとにかく、東京新聞版の7月号と8月号の残り2冊の発行を期待しながら、モンベル版の続報を待つ。


※15日(日)の追記
畦地作品、「あとりえ・う」からも近い、町田市内の「町田市立国際版画美術館」にもコレクションの一部として所蔵しているそうだが、ここは企画展を催してくれないとそれらを拝むことはできないようなので、今後はここの展示に関する情報も注視したい。

資格名もフィクション?

2014-05-30 23:45:51 | 出版・言葉・校正

今クール(4月始まり)のテレビドラマで特に好んで観ている作品のひとつに、杏が3月までのNHK朝ドラ『ごちそうさん』の直後に連続で主演ということで話題の『花咲舞が黙ってない』があり、池井戸潤が原作の銀行ドラマとして『半沢直樹』とはまた異なる「臨店」という立場からの切り口のためか、視聴率も結構よろしいらしいね。
曲がったことが大嫌いな主人公の花咲舞の決めゼリフ「お言葉を返すようですが……」という目上の方に対しても腑に落ちないことがあれば盾突く反論口調は、僕も日常のあらゆる場面で違和感のある言い草に対してはできれば即座に言い返したいタチなので(大人になりきれておらず、我慢弱い?)、共感できる部分も多い。

で、先週の21日(水)放送の第6話で、ゲストの堀部圭亮が演じた「大前次長」の経歴が書かれた用紙が出る場面があったが、その記載の下のほうの資格に「TOEC」と「宅地建造物主任取引者」という誤字があったのを僕は見逃さなかった。
で、今週も改めて観直すと、やはりおかしい。「TOEC」と発音する地域もあるらしいが、日本国内では聞いたことはない気が……。
これらは正しくは「TOEIC」と「宅地建物取引主任者」で。これで解決。

と思ったのだが、よく考えるとテレビドラマというフィクションなのでべつに誤りのままでよいのか? という疑問もちらついたが、しかしやはりストーリーの本筋はいろいろ作り込んでいても、そういった細部もきちんと現実味のある正しい表記にしておくほうが話に厚みは増し、視聴者のほうも観るうえでより身が入るというものだ。細部も疎かにしてはならない。
最近はテレビのデジタル化による画質向上やHDDレコーダーの普及で早送り・早戻し(「巻き戻し」ではない)・コマ送りも容易にできるようになってビデオデッキの時代よりも細部を手早くチェックできてしまうので、気を付けてほしいものだー。

ちなみに僕がなぜこの2つの誤記にすぐに気付いたかというと、結果的には挫折したがいずれも学生時代の一時期に少し勉強していたためで、就職に活かそうとか本気では取り組んでいなかったせいでその内容はすっかり忘れてしまったが、資格名だけはきちんと憶えていた。ましてや資格名で「建造物」なんて聞いたことがないし。
ああでも今後、TOEICはタイミングが合えば一度は受験してみようかしら。850点なんて到底無理だろうけど。中学時代からまったく更新されていない英検3級では、資格としては高校生頃までは通用しても今はなんの役にも立たないからなあ。

なお、今クールはまた性懲りもなくテレビドラマを、朝ドラ『花子とアン』も含めて8本も観まくっているせいで睡眠時間が減ってほぼ自滅状態だが、そのなかでベスト3を挙げると、『MOZU Season1 ~百舌の叫ぶ夜~』と『花咲舞』と『続・最後から二番目の恋』だったりする。
ドラマ視聴の目下の問題は、併せてなんとなく追っているNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』が微妙なので今後も観続けようか切ろうかとずっと迷っていることと、『MOZU』の来月下旬からのSeason2は共同制作のWOWOWの放送に移るがそちらは未加入のために観られなくなるから続きが気になる、という2点か。うーむうーむ。

夏以降の『岳人』の方向性は如何に

2014-04-10 00:00:00 | 出版・言葉・校正
先月30日(日)の投稿の、『岳人』の件の続き。

モンベルが2日(水)に東京都内で記者会見を開き、翌日にモンベルのウェブサイトでも株式会社ネイチュアエンタープライズが『岳人』を引き継ぐ旨が発表されて、会見を受けての今後の概要は「A kimama」の記事でも取り上げている
この記事よりももうちょい詳しい新雑誌の方向性も、この会見に出席した野外業界関係者のツイッターのツイートなどでなんとなく把握しているが、詳細は現行の雑誌やモンベルから改めて正式に発表されるのを待ちたい。会見で公になった概要は、僕の予想は半分は当たってもう半分は外れた感じ。
でもまあこの件では、いっそのことここで潰してまったく新しい媒体を創っちゃえば? とかいう厳しい意見もあったりするなか、『岳人』の誌名というかブランドが継続されることは僕はとても良いことだと思っている。

で、この会見の翌日以降は、14年9月号から切り替わるという新雑誌について毎日考えながら、新たな誌面の構成とか判型・紙質を含む造本とか内容とかここ数年の『山と溪谷』のような電子化の有無とか、勝手に想像を膨らませている。
例えば『文藝春秋』や『ナショナルジオグラフィック』を目指すとのことで、前者のような総合誌や文芸誌の体裁は連載の読み物の連発が主体で、後者はカラー写真満載のルポが主体で、と誌面の雰囲気と見せ方が真逆だと思うが双方のいいとこ取りを狙っているのか。後者寄りになると、広告の多寡と制作費との兼ね合いによる紙質の選択がかなり重要になるはずだが。現行の雑誌の紙質はかなり良いほうなので新雑誌は印刷コストを下げて発行部数を多めにするのかも。などという想像というか妄想が、今から止まらない。うーん、夏までどうしても気になる。
だから、(僕は年齢的なことも考慮するとこれは予想外だった→)新編集長を務める辰野勇会長の頭の中身を物凄く覗き見したい気分なのだが、いち読者としてはあと4か月でどんな雑誌に生まれ変わるのかを静観しながら期待するしかないけど。
出版業界関係者の端くれとして、何か協力できることがあればしたいのですがねー。

でも僕が最も気になる変化は単純に、誰が書いて、それを誰がまとめる(編集する)のか、という人選のことで。
先の投稿でも触れたが、『岳人』に寄稿する書き手の「書ける」と「登れる」の割合をどのくらいに設定するのか、がやはり雑誌の方向性を決める肝だと思うので、辰野会長の審美眼に期待するしかない。
僕個人的には、新雑誌は読み物が主体らしいのでそうなると長い連載モノを書ける人が重宝されると踏んでいるが、その候補は(現在の連載陣も含めて)十数人いると思うのだがなあ。それに、これまでの『岳人』は同業他誌と比較するとどちらかと言うと書くことのプロではない「登れる」ひとの寄稿の割合が高く(『アルプ』よりも『新ハイキング』寄り?)、そのぶん文章も良い意味で(生業とするうえで利害関係を考えてしまって自主規制が入りやすいプロの書き手にはない)素人っぽさが随所に表れている面が特に好きなのだが、新雑誌も現行と似たような割合を期待したいところ。

まあとにかく、この先4か月の『岳人』も、それにこの報を受けての同業他誌の動向も、例年以上に注視する。

商業誌にしては独自性が貴重な『岳人』の行く末を考える

2014-03-30 15:45:51 | 出版・言葉・校正
最近は杉花粉の飛散がここ数日がピークらしいので花粉症の症状が例年どおりに酷くてブログ更新も億劫なくらいにだるい日々だが、それをふっ飛ばして目も覚めてしまうニュースが昨日あった。
本ブログでも野遊び関連の雑誌や校正ネタでちょいちょい触れている、山岳専門の月刊誌『岳人』について。

★「岳人」9月号から モンベルの発行に 本社、商標権を譲渡
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/yama/CK2014032902000249.html

詳細は今週に記者会見があるそうなので、今春で読者歴20年になる一般読者のひとりとしては続報はそれを待つしかないが、06年の、現在はインプレスグループに入った山と溪谷社と同様に経営的に苦しい状況だったということか。やや寝耳に水の話で。

でも、芳しくないという噂はなんとなく小耳に挟んでいて、しかも改めて考えると昨年からその予兆にいくつか心当たりもある。今年は(その編集者のひとりの、服部文祥氏との別件でのかかわりの影響も多少あって?)『岳人』を(最近は仕事が少ない)校正者としてのリハビリも兼ねて1冊を例年の3倍くらい時間をかけて精読しているのだが(その結果としては毎号、せっかく内容は良いのに細部で興を削がれる誤植が結構ありますけど……)、発売中の14年4月号を読んでも、明後日からの消費税増税による価格改定とは別のことだろうが年間の定期購読を中止しているのも気になっていたし。
昨年からのカラーページが増えた誌面のリニューアルで上向きになったと思ったのだが、雑誌の制作と、営業を含む経営というか運営はまた別の話か……。

ここ数年、商業誌としての山岳雑誌は山と溪谷社・東京新聞・(エイ)出版社のほかにも各社から出ていて競合が年々激しくなっているが、そんななか『岳人』は『山と溪谷』に次ぐ65年超の歴史があって、しかも同業他誌では多く参入している、いわゆる“アウトドアライター”のように書くことを生業とする「書ける」ひとよりも、書くこと以前に普段は(生活のために)ふつうに勤め人をやりながら週末クライマーと化したり、山岳ガイドのようにプロとして登山に携わったり、と登山の濃度が人一倍濃い「登れる」ひとの文章を多く集めた(ちょっと語弊があるが)文集というか記録集のような体でこれまで続いていて(もちろん、「登れる」と「書ける」を高い質で両立できるひとが次から次へとたくさん現れれば最高だが……)、そうなると時代ごとによりマニアックというか登山の本質を常に追求してゆくような密度の高い、『岳人』でしか読めない記事が多いように思う。少なくとも、『PEAKS』14年4月号のように特集丸ごと新しい山道具カタログ、みたいな(雑誌に「内容」を求めたがる目の肥えた読者には露骨に商売に走っていると受け取られても仕方ない誌面で、批判が噴出して落胆も多そうな)賛否両論ある誌面は作らない、はず。

これまでも触れたと思うが、(趣味として)現在の登山業界において主要の『岳人』と『山と溪谷』と『PEAKS』という3つの月刊誌も、その他の雑誌も隔月刊・季刊も含めて常にほぼ網羅している(自称)“平成時代の山岳雑誌マニア”の僕としては、学生時代に読み始めた当初から「登れる」ひとの比率は高い=情報の質もおおむね高い印象の読み物である『岳人』の独自性はとても貴重なので、今後も誌面の雰囲気は変わることなく「日本を代表する登山専門誌」として存続を切望するのだがなー。

というなかでの、『岳人』が(東京新聞の大元の)中日新聞社からモンベルへ譲渡されることにより、発行元も変更なのね。他分野の雑誌ではこのような他社への移籍はたまにあるが、野外業界では珍しい。まあ休刊に陥るよりはましなので、存続が決まったのは良いことだ。
他分野の商業誌で経営的に苦しいときの苦肉の策として、刊行ペースを落とすことはままあるが(月刊から隔月刊や季刊へ縮小、みたいな)、それは避けて月刊を維持するのかねえ。

モンベルの関連会社の株式会社ネイチュアエンタープライズの実情は全然知らないが、現状はモンベルで出版というと、会報誌『OUTWARD』も1997年の創刊号から今春の63号まで毎号チェックしているが(僕はモンベル会員歴17年)、まあ内容的にもページ数は少ないこれと『岳人』は方向性が異なるので融合することはないだろうし(例えば、『OUTWARD』で長期連載のある野田知佑御大が『岳人』に書くなんてことはあり得ない)、元々はモンベルを興す前はクライマーだった辰野勇会長は『岳人』によく登場するような良くも悪くも(先日、ここ十数年の『岳人』の記事にもたまに登場している今年の植村直己冒険賞の受賞が決まった田中幹也氏もよく言う)灰汁が強い、というか「登山が人生のすべて」みたいな傍から見ると偏屈な? 一般社会の枠組みから逸脱したひとも多い登山者や登山家・冒険家(と呼ばれるひと)の心理にも理解が深いはずだから、今後の誌面もモンベルに「迎合」して雰囲気が(月刊誌『ランドネ』が14年5月号から新装刊したような)まったくの別物として路線変更するようなこともないでしょう(でも制作にかかわる関係者の異動というか変更は、編集長をはじめ大幅にあるかも)。
このような場合、受け手からすると特定の企業の宣伝媒体に成り下がるのではないか? という危惧は当然あるが、モンベルに限ってはそれはない、と信じたい。
ひとまず今週以降の、特に今夏の親会社の変更へ向けての動向はもちろん注視する。

ちなみに、『岳人』14年4月号でモンベルの商品の広告や紹介記事、および装備使用の写真が掲載されたモンベル色がとりわけ濃いページを試しに数えてみると、表紙・裏表紙も含めて196ページ中8ページだった(最も目立つ表紙モデルへの衣装協力がモンベルですし)。夏以降もこのくらいの割合で変わらないのか、それともモンベル商品の露出度がより高まる(=ページ数が増える)のか、その点もしっかり見届けてゆくつもり。

服部文祥本に関する最近の“私事”の成果

2014-01-31 23:59:59 | 出版・言葉・校正

一昨年から触れている服部文祥氏の著書とのかかわり、というかこの年末年始に出版のその新刊にまつわる僕の“私事”の成果やそのほかの本の最新情報について。

ひとまず、先月発売の『百年前の山を旅する』(新潮文庫)と今月発売の『富士の山旅』(河出文庫)の写真だけ挙げておく。
その下に敷いた、発売中の『岳人』14年2月号が通巻800号という節目の号であることも少し触れようかしら。
いろいろ写っている本の過半数は服部氏からのいただきものですけど。それも含めて後日。



追記。

それで校正者の立場としての僕の、上記の「かかわり」について。
『富士の山旅』のほうは特に何もないのだが、『百年前の山を旅する』の文庫版のほうは昨年、4刷まで進歩していた東京新聞が出版の単行本版は一昨年からの“私事”として校閲の作業を続けていた最中の黄金週間あたりに5刷の増刷を止めて新潮文庫へ移行することを聞き(もちろんこれは、その段階では社外秘に近い重要事項だと認識し、この件は昨年末に発売されるまで口外することなく黙っていた。さすがにこのような情報の扱いは僕の信用問題にもかかわるので、それなりにちゃんとやります)、歴史のある大手版元のあの文庫の作品群に加わるのかー、と驚いた。

でもまあ4刷以降を出版する版元がどちらにせよ、この状態のままでは改善できるならばすべき問題点が多々あるのはわかっていて新しい本を出すわけにはいかず(と、服部本という「舟」に一度乗りかかった僕としては看過できないもので)、引き続き僕にできる作業を続け、思ったよりも時間がかかりながらも夏前にその校閲分を服部氏に渡した。今回は別紙の表を作成とかではなく、本を1冊いただいてそれにいろいろ書き込むカタチだったので幾分やりやすかったが、10回近く通読しても次から次へと疑問点が浮上したもので……。
僕がなんでもかんでも書き込んだそれを基に服部氏が原稿を直したのが、今回の文庫版で。でも文庫では紙幅が限られるので、単行本のほうには掲載されている写真や(国土地理院の)地形図の引用は大幅カットで、本文の分量も削ったために全体的には減っている。良く言えば文章が「引き締まった」とも言えるのだろうか。

ちなみに、本文とは別のことで(服部氏に責任はなく)対外的にもあまり悪影響もなさそうなことだと思うが、実は単行本版の「黒部奥山廻りの失われた道」の章の挿絵として引用していた地形図の一部で標高の誤植を1か所見つけたりもしたが(白馬岳西方の不帰岳の周辺)、でもこれは現在は紙の地形図でも電子版の地理院地図でも修正済みと確認した。地形図の誤植は珍しいので、ひとつ勉強になったなあ。しかし文庫版ではそこはカットで、まあ仕方ない。

そんなわけで、僕の(結局は一昨年の年末から6か月以上かかった)校閲による指摘もいくらか反映されているし、原稿が新潮社に渡ったあとは出版校正・校閲では最高峰であるここの校閲部も通ったので、手前味噌ながら文庫版のほうが本としてはよりしっかりしたモノになったと、他人事ながらやや得意気になっている。
とはいえ実は、新潮社のほうで文庫版の本文に新たにここの社内基準? によってかルビが大量に追加されたのだが、そのなかでルビの誤字もあるにはある……。でもまあこれもそんなに悪影響はないかも。

また、文庫版は今や大作家? の角幡唯介氏による解説も加わり、でもまあこれは解説というよりも角幡氏が朝日新聞の記者職を辞めて物書きとして活動し始めた頃からの『岳人』および服部氏との数年来の関係を書いた身の上話のようなものだが、それでも面白い。最近のノンフィクションの分野においては人気上昇中で昨年末にはアイドル顔負け? の娘さんも誕生して現在は公私ともにノリノリの、しかし今冬も特注の六分儀を携えて北極の探検へ出かけてしまったくらいに約3年前から“北極バカ”に成りつつあるノンフィクション作家・探検家(および朝日新聞書評委員)の一文も加わってさらに箔も付いた感もあるので、本としての完成度は単行本版よりも高まったはず。もちろん、「新潮文庫」という出版業界的には屈指のブランド力にも期待している。
文庫なので比較的安価ですし、『百年前の山を旅する』を一家に1冊、ぜひ。

『富士の山旅』は、たぶん来月以降に読むつもり。

それから、年始の2日(木)のNHKBSプレミアム『地球アドベンチャー ~冒険者たち~』の放送に絡む販促の一環なのだろうが、みすず書房からの既刊の『サバイバル登山家』と『狩猟サバイバル』をこの年末年始にまた増刷した。前者が15刷(2013年12月6日付)で後者が9刷(2014年1月15日付)。まあ以前から、これらは造本的にも上製本(=ハードカバー)で本文も良質の紙を使っている単価の高い本なので、増刷の部数も損しない程度に細かく刻まざるを得ない影響でその回数が多いのだろうけど(僕は製本の現場もよく知っているので、発行部数も含めたそういう出版業界の裏事情もだいたい予測できる)。
よって、昨年同時期の投稿から服部本(主に単著)の現況を整理し直すと、

サバイバル登山家 (みすず書房、2006年)  15刷
サバイバル! ――人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書、2008年)  初版
狩猟サバイバル (みすず書房、2009年)  9刷
百年前の山を旅する (東京新聞出版部、2010年)  4刷(5刷の増刷はなし。だからこれで絶版?)
狩猟文学マスターピース (みすず書房、2011年)  初版
百年前の山を旅する (新潮文庫、2014年)  初版
富士の山旅 (河出文庫、2014年)  初版

となる。
昨年の投稿で書いたとおりに僕の“私事”があったものの『狩猟サバイバル』は何も変更なく8刷になってしまったが、今回の9刷は服部氏からいただいた本を確認すると僕の視た箇所でいくらか改善されている。しかし、そうでもない箇所もまだあって完璧主義者の僕としては納得いかない面も少々あるが、それでも本の完成度としては二、三歩は前進した感がある。こちらもまだまだ絶賛? 発売中なので、ぜひ。

最近、本業の「仕事」が少ないので、この服部本とかかわる“私事”が(ちょっと失礼な言い方だが本心を正直に挙げると)僕にとっては「仕事」の感覚を取り戻すためのちょうど良いリハビリにもなり、こちらとしてもいくらか勉強にもなる良い、そしてありがたい機会であった。

上の写真には『岳人』14年2月号も2冊入れているが、1冊は服部氏からいただき、もう1冊は買った。この号は通巻800号という節目にあたり、その特別企画「明日へのエール」が良かったから久々に保存用として買ったわけで。なかでも「真摯に山と向き合う 座談会 塩沼亮潤大阿闍梨×山野井泰史さん×竹内洋岳さん」は、人力派としては考えさせられることが多いので、今後も事あるごとに何回も読もうと思う。

そういえば、服部氏の連載「超(スーパー)・登山論」で1月号からは先のロシア行のテレビ放送の内容というか取材の顛末を詳述しているが、この話も含めて今後は連載の書籍化も目論んでいるらしいので、この件で服部“文章”(←ええ、もちろんダジャレですけど、ホントに文章のことだもの)とのかかわりはまだまだ続くかも。
これまでは報酬は一切断っているがその代わりのお礼として著書を今回のように“現物支給”されているあくまで趣味的な“私事”だったが、今年以降は金銭的な対価の発生しそうな「仕事」として触れることになるとよいけどなあ。

あと、発売中の『BE-PAL』14年2月号の、国内の世界遺産をはじめとする歩き旅の特集に服部氏も「歩けば歩くほど世界は美しくなる」というタイトルで2ページ寄稿しているが、「人力とは現場に生身で飛び込むという覚悟なのかもしれない」など、人力派としても納得の良記事で『百年前の山を旅する』の内容にもかかわることで、かつ服部本に触れる前の取っ掛かりとしても最適の一文なのでぜひ一読を。
僕が数年前から服部本に採算度外視? で入れ込んでいる最大の理由は、近年の活動で目立つ言わば(一般的には色眼鏡で判断されてしまいがちの? 05年秋から山梨県で銃による狩猟を始めて今冬で9シーズン目の)猟師の立場の「サバイバル登山」以前に、人力移動が主体で正直でもあるいち旅人としてのこの一文のような姿勢に共感しているからなのですよ。人力派の旅人は皆、正直者だと信じたい。

もちろん、同業他社からも特に野外関連の媒体の質をより引き上げるための校正・校閲の話があれば引き続き、よろしくお願いします。

2013年の野外関連の誤植実例

2013-12-30 00:00:00 | 出版・言葉・校正
今年も野外系の雑誌をチェックしているときにどうしても目についてしまった、代表的な誤植の実例を挙げていろいろ考えてみた。


●『ワンダーフォーゲル』13年2月号(山と溪谷社)

×指輪や爪は事前に外す、切る
○事前に指輪は外す、爪は切る

※山の鎖場を通過するときの持ち手の、拡大写真の解説の一部。これはふつうに読むと「外す」べきなのは指輪で「切る」のは爪だという意味はわかるのだが、この文字どおりの表記のままでは、指輪を切る、爪を外す、という常軌を逸した? 非人道的な? 恐ろしい行為にも読めなくはないので、改善すべき。意味・意図は変えずに別の表現に書き換える一例を挙げると、「事前に指輪は外す、爪は切る」が最適だと思うのだが。

●『山歩みち』010号(フィールド&マウンテン)

×御岳山ロープウェイ
○御岳山ケーブルカー

※東京都・奥多摩の御岳山(みたけさん)のコース紹介の記事で、ケーブルカーとロープウェイを勘違いしたと思われる表記が。地理院地図で確認しても(索道ではなく)「御岳登山鉄道」の表記なので。
まあこれは、(ロープウェイのある)長野県木曽町の木曽御嶽山のほうと勘違いしているのかもしれず、山名が同じそことの情報の取り違いもよくあるけど。

●『TRAMPIN'』vol.11(地球丸)

×2012年6月30~31日
○2012年6月30日~7月1日

※残雪期の越後駒ヶ岳(駒ケ岳)の取材日の表記で、6月なのに末日が「31日」とは……。ただこれは、31日のほうが合っている可能性もなくはないので、6月のほうが誤りで5月30日から5月31日までの可能性もある、気がする。だから疑問出しが妥当か。
この記事の越後駒ヶ岳の写真で残雪量がだいたいわかるが、しかし5月か6月かのどちらかは判別し難い。それに積雪量やその融解の速度は年によって異なるだろうし。この取材日はいったい5月と6月のどちらなのだろうか。

●『PEAKS特別編集 山旅100ルート』(出版社)

×標高2,00m前後の山域
○標高2,000m前後の山域

※苗場山・佐武流山を経由するルートの紹介の一部。標高の下1桁「0」がなんらかの原因によって削除されてしまったまま。まあこれも価格などの表記でも頻出しがちな脱字ではある。

●『ランドネ』13年5月号(出版社)

×山田洋二、『15才』
○山田洋次、『十五才 学校IV

※屋久島の登山の記事で、山田洋次監督の映画を引き合いに出したのだが、名前(氏名の「名」)と作品のタイトルが誤り。予告編の動画もあるが、これでわかるでしょう。日本映画界の重鎮に対して、とても失礼……。

●『Hutte』Vol.09(山と溪谷社)

×国際興行バス
○国際興業バス

※埼玉県と東京都の境にある棒ノ折山への交通機関の説明の一部。「国際興業バス」は埼玉県民と東京都北西部の住民にはお馴染みのバス会社なのだが、それ以外の地域の方は勘違いしやすいかも……。

●『BE-PAL』13年5月号(小学館)

×イモトアヤコさんをキリマンジャロ、アコンカグア登頂に導いた
○イモトアヤコさんをキリマンジャロ登頂に導いた

※国際山岳ガイド・角谷道弘氏の紹介のなかで『世界の果てまでイッテQ!』のガイドの仕事に関する記述もあった。が、イモトはキリマンジャロには登頂しているが、厳密にはアコンカグアは頂上手前までは行ったが登頂していないので、それぞれ個別に結果を書き分けるべき。これは番組をちゃんと観ていればわかることだ。今秋のマナスル登頂と来年以降? のエヴェレスト登山も控えている影響により、今後はイモトの過去の登山記録が取り上げられる回数は一般の媒体でも増えるかもしれないので、それぞれの登山の記録は正しく書いてほしいものだ。
でもまあ今後はこのような紹介の場合、アコンカグアの代わりにマナスルを当てはめることができるのはイモト陣営? には強みではあるね。

●『PEAKS』13年5月号(出版社)

×看板には『秩父多摩国立公園』と書かれていた
○看板には『秩父多摩甲斐国立公園』と書かれていた(もしくは本文とは別に注記で『秩父多摩甲斐国立公園』について触れる)

※13年3月に行ったという雲取山の登山記事のなかの、(僕も8回くらい見て触っている)雲取山の頂上の看板を撮影した写真の注釈で、「甲斐」が抜けていて説明不足になっている。旧環境庁の頃の2000年に、名称に「甲斐」を加えて「秩父多摩甲斐国立公園」となったが、奥多摩や奥秩父の山へ行くと登山道や山頂などの案内板や看板は旧名称の「秩父多摩国立公園」のままで残っていることが多いが(おそらく、設置物がまだ丈夫だから交換・追記する必要はない、という判断なのだろう)、たしかに設置されているものをそのまま読めば旧名称なのだろうが、現名称とは異なることを同一記事内に注釈を入れるなりして補足すべきである。近年のこの国立公園名の経緯にも注意を払ってほしいものだ。

●『THE MOUNTAIN GEAR 山のベストギア&ウェア2013』(山と溪谷社)

×マカボニー材
○マホガニー材

※ユニバーサルトレーディングが扱っているブランドのDUGの接ぎ箸「ウッドスティック」の材質説明の一部。マホガニーに関してはこのウェブサイトがわかりやすいか。
輸入木材を使っていると、このような中南米の伐採の問題も当然あるわね……。

●『鈴木ともこさん一家の上高地案内ブック』(上高地観光旅館組合、松本観光コンベンション協会)

×大正池から見た穂高連邦
○大正池から見た穂高連峰

※今夏に長野県・上高地周辺の登山を盛り上げるために創られたフリーペーパー「上高地散策マップ」の説明の一部で、誤変換。登山に関する記事で、この「連邦」という誤変換もよくある(「国家」ではなく「山」の話……)。一般のウェブサイト・ブログやSNSではもっと頻出している感が。

●『freefan別冊 安全BOOK3』(フリーファン編集部)

×支払金額:\49,50
○支払金額:\49,500

※金額の脱字。沢登りの滑落事故の支払事例で、「第1腰椎圧迫骨折、重傷、約6週間の安静入院」の場合の「FAクライミング保険」の支払い金額。この事例で4桁の金額というのは安すぎるのでおかしい、と気付きやすい(僕も学生時代に残雪期の谷川岳の下山中に滑落して痛めた肩と足首の治療で、入院は免れても通院で5桁はかかっていたから、症例によってどの程度の金額になるかは、それに掛け捨ての山岳保険に学生時代から加入し続けていることもあってだいたいわかる)。0が1つ抜けているということなのだろう。どの分野の媒体でも、金額が1桁異なるのは標高などの数値よりも大問題になる可能性が高い。

●『ワンダーフォーゲル』13年6月号(山と溪谷社)

×日本山岳会東海支部冬期南壁初登頂
○日本山岳会東海支部冬期南壁初登攀(または初完登)

※ローツェ南壁の近年の日本隊の登山記録の説明で、06年の日本山岳会東海支部の登攀は南壁を冬期(冬季)に初めて「完登」はしたものの、そのあとに目指していたローツェの頂上への登頂は断念して下降しているため、厳密には初めての「登頂」ではない。
この記録に関連のある記事をインターネット上で探ると、

日本山岳会東海支部
小屋番の山日記
ボスの部屋
日本山岳会会報『山』2009年3月号(№.766)(PDF、p4「ローツェ南壁、秩父宮記念山岳賞を受賞」)
日本山岳会東海支部報 No.125(PDF、p14『K2からローツェへ』)

この5つが妥当か。件の書き手はここまできちんと精査したうえで、それでもローツェ南壁の完登を「登頂」と書いたのだろうか?
これらは調べるのが面倒、もとい大変だったが、厳正に書くにはここまで調べ直す必要があるはずだ、世界的な登山記録を扱うのであれば。しかもこういうことを書いて対価を得ようとするのであれば。

●『ワンダーフォーゲル』13年8月号(山と溪谷社)

×ルート設定会義の北部編です
○ルート設定会議の南部編です

※南アルプスの北部編と南部編の登山計画に関する記事で、「北部編」というまとまった記事の見出しのような箇所の「会義」の誤字状態をそのままコピーおよび貼り付け(ペースト)してしまい、さらに貼り付け先は「南部編」に変えるべきなのに「北部編」のままで未修正で流れてしまった、という元データの誤りが別ページに伝播してしかも放置されて(校正や校了でも見逃して)しまったカタチに。

●『WILDERNESS』2013 No.1(出版社)

×149,99ドル
○149.99ドル

※昨年に竹内洋岳氏がダウラギリI峰登山でも使っていたアメリカ産のGPSのような位置確認のための機器「SPOT」の「Gen3」という機種の年間使用料の記述で、「.」=ピリオドが「,」=カンマ(コンマ)になっていて、本来の値段はピリオドで小数点を表していて149ドル99セントなのだろうが、カンマにすると1万4999ドルという(日本円に換算すると150万円超という)とんでもない値段に誤読される可能性もあるため(カンマの位置も「149,99」ではなく「14,999」が正しいのではないか? という疑問も発生して、余計に紛らわしい)、しっかり見極めてほしい。しつこいようだが金額はホントに1桁や2桁が異なるだけでも大問題だから。記号も同様。

●『山歩みち』013号(フィールド&マウンテン)

×三六五度の展望が
○三六〇度の展望が

※大阪府・剣尾山(けんぴさん)の頂上からの眺めに関する記述。まあこのままでは一周まわって五度オーバーしているということになるが、ホントにそうだとしたら表記は「五度」でよいではないか、という話なので。
ただこれ、ひょっとしたら「五」ではなく「三」のほうが誤字で「ニ六五度」や「一六五度」の可能性もあるため、ホントは何度なの? と疑問出しでよいのかも。
この問題を解決する最良の手段は、実際にこの山を登って頂上で展望の様子とそれが何度かを自分の目で確認することだが、遠方であれば実際にそれをやるのは困難だから、この山に詳しい方に尋ねるのが最も現実的な判別法か。


以上、今年は15例にしておいた。
また、もうひとつはおまけで、しかも写真付きで。


●『ランドネ』13年12月号(出版社)



×264号線
○国道246号

※この地図の右側の「264号線」は一般国道の「246号」の誤字だが、「264号線」や「246号」だけでは不充分で国道か(この場合は東京都・渋谷駅周辺の地図なので)都道か、のどちらなのかも厳密に書き分ける必要がある。この場合の表記は「国道246号」か、簡易的によく使われる「ROUTE(ルート)」の頭文字「R」を使った「R246」にすべき。
ちなみに、国道264号は佐賀県・福岡県なのよね。また、たまにはウィキペディアに頼ってしまうが、現在は「都道246号」も「都道264号」もない
なお、ランドネ12月号はなぜ写真があるかというと、これを書店で買わずに撮影したらそれこそ“デジタル万引き”になってしまうが、このなかの連載「希良の山で逢いましょう」に(今年下半期の本ブログの投稿に頻出の)<か>が出ていたからそれ目当てで買って、所有しているため。で、そのついでに書店で立ち読みのとき以上に熟読してみたら、このような図版の酷い誤字も見つけてしまったということ。
これ、ついでに言うと渋谷駅を通る鉄道も東急東横線のみというのもなあ。この駅周辺の景観的にはJR山手線・埼京線(および湘南新宿ライン)のほうが目立つと思うのだけど……。東京メトロや京王井の頭線や東急田園都市線も加えるとごちゃごちゃして見にくくなるから省略するのはわかるが、せめて地上を通るJRくらいは……。
あと、ハチ公(忠犬ハチ公銅像)の位置も道路上ではない気が……。


野外業界の出版全体的に誤植が減ったわけではなく、「てにをは」程度の軽微な誤りも地名・人名の誤記や誤変換等の致命的な誤りも、(エイ)出版社の出版物を中心に逆にいちいち挙げるのが面倒なくらいの多さで。それに今年はほかの投稿でも校正ネタはちょいちょい出していてそれと似たような傾向だったので、ここでは少なめにしておいた。

ほかにも赤字レベルではないが疑問出ししたい点も例年どおり、いや例年以上の多さだったかも。最近もわかりやすい事例では、『自転車人』No.033(山と溪谷社)の山梨県は精進湖畔の飲食店の記事で、「レストラン ニューあかいけ」の紹介のなかでここの名物料理と謳う「鹿カレー」の価格が「0000円」という仮に入れておいたダミー表記のまま残っている(正しい価格に変更し忘れた)こともあったが、これは実際の価格を要確認の疑問出し扱いだなー。こういう誤植も校正の現場では実際によくある。
そういえば今年は、山と溪谷社の『山と溪谷』以外の雑誌に落ち度が結構あったなあ。『山と溪谷』は校正者が3人付いていて(そのうち1人は数年前からの知り合いだったりして)比較的しっかりしているが、それ以外がなあ……。なんでだろう。雑誌のみならず書籍の出版も含めてこの業界ではトップランナーで在り続けなければならない版元なので、来年以降の再起を期待したい(「再起」の前に、転倒していることの自覚症状がないのかもしれないけど……)。

それから、野外系の媒体に限らず特に冬場に頻出する表記のひとつに「温かい」と「暖かい」の使い分けがあるが、今年、これに関する(使い分けの)わかりやすい判断基準を見つけたので、NHK放送文化研究所のリンクを張っておく。
僕はこれまでは「温かい」は液体(例:コーヒーやスープなどの飲料)や個体(例:焚き火で熱を帯びた薪=熾火)に、「暖かい」は気体(例:ダウンジャケットやダウン寝袋の内部に溜め込んだデッドエア)に当てはめる、という解釈が主だったが(ほかにも人体や風呂などで内部から「あたたかくなる」もしくは「あたためられる」かその外側が太陽光などで「あたたかい」状態か、というような、内=温、外=暖、の使い分けも考えられる)、このリンクの「反対語を当てはめる」ほうがもっと簡便である。
例えば、ご飯などの食事を「暖かい」という表現にすると反対語は「寒い」となり、「寒いご飯」ではどう考えてもおかしくて、「温かい」の反対語の「冷たい」のほうにして「冷たいご飯(冷や飯?)」であればまだ通じるため、どちらかと言うと「温かい」にすべき、というふうに。
ただ、冬場の防寒対策のあれこれで、例えば炬燵(こたつ)の「あたたかさ」を表現する場合は、反対語の「寒い」も「冷たい」も両方とも通じる気がするので(炬燵の電源を入れていないと内部の空気は冷たくて「寒い」、電源を入れて「あたためて」いない炬燵は脚も布団も床も、掘り炬燵であればさらに底も「冷たい」、それこそ猫も入りたがらない状態みたいな)、この場合は前後の文脈(時間経過や動作)も考慮して判断すべきか。
今後、この使い分けで何か説明が必要なときは、このような論法を試してみようっと。

一般的な雑誌での誤植は僕の仕事にもかかわってくる、ざっくり簡潔に言うと読者に「ウソ情報を垂れ流している」と言えなくもない、相変わらずのこれらのような媒体の質の低下は看過できない大問題なので、今後もさらに突き詰めてゆきたい。

「あたらしい」趣向の? 野宿本の協力者というのは

2013-09-27 00:00:00 | 出版・言葉・校正
23日(月・祝)の投稿のやや続き、みたいな。ふたりの新刊について。特に<か>のほうにツッコミを入れる感じで(いわゆる「書評」ではありません)。

その前に、<む>の『島旅ひとりっぷ』(小学館)のほうを。
この本のなかで北は北海道・礼文島から南は沖縄県・鳩間島まで15の島について触れているが、僕はそのなかで過去に屋久島と礼文島しか行ったことがないので、しかもそれもかなり時間が経っているから最近の島の変貌ぶりは知らず、通読によって未踏の島も含めて最新の島事情がいくらかわかって良かった。

そういえば、この本の版元は小学館だが(『ドラえもん』や『名探偵コナン』と同列の、こんな大手の版元から出版できたのは凄いよなー)、アスペクトの過去3冊と今年の『ちょこ旅 瀬戸内』と同様の体裁でのほほんとした筆致のイラストを描いていて、なかでも特に印象的なのが山口県上関町の祝島の章で、ここは島民による上関原発への反対運動が以前から盛んなことは僕も映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を通じて概要を知ってはいるが、そういうタイムリーな時事ネタも入れたのはびっくりした。おまけに原発に関する個人的な主張も少々ではあるが絡めているし。ここで併せて触れていたもう1本の映画『祝の島』は未見なので、追々なんとか。
明るく楽しくそして嬉しい面だけではなく、そういう過疎化や財政難とは別の(主に外圧による)政治的・環境的な諸問題を抱えている島も全国各地にたしかにあるので、<む>のほかにも離島の旅を題材にしている人はそういう現実的なこともわざと外さずにもっと真摯に触れるべきだと思う(例えば沖縄県全体の米軍基地の問題も含めて)。そういう現実的な部分を避けてばかりだと逆にどうしてもウソっぽい内容に成り下がってしまう気がするので(著者本人の作家性も疑われてしまいそうなので)、この本で原発の件も併せて触れてくれたのはむしろ良いことだと思う。旅は楽しいことばかりではない、とは僕も常々思っているので。そこは書(描)き手の腕の大きな見せどころだよなー。

小学館というと、発売中の『BE-PAL』13年10月号の特集がタイミング良く「島旅」で、そのなかに<む>も1ページ登場している。ホントはこの分野ではもっと大きな扱いでもよいと思うのだがー。

ちなみに、普段のツイッターを覗いていても<む>も<か>も脱原発に関するツイートが結構多いので、旅とともにいつも注視しているその点でも通じるものがあり、20日(金)の八重洲ブックセンター本店のトークイベントでの競演は必然の流れだったのかも。


で、本題の<か>の『あたらしい野宿(上)』(亜紀書房)だが、ここ2か月のラジオ出演やトークイベントが主の宣伝活動で、毎回必ずと言ってよいほど「(上)ということは(中)や(下)という続編も今後出るのか?」とツッコまれているが、相変わらずそういう引っ掛かりを始めから狙っている策士ぶりで舌を巻く。というか、版元のほうも企画出版でこのようなミニコミレベル? の書名遊びをよく受け入れたな、本の売り上げを結構大きく左右する書名からネタにするとは、と、唖然である。

<か>は最近の媒体露出でも、細身、色白、黒髪、ショートカット、声はかわいい、女子、などともてはやされているが、実はお金絡みの事象にはしたたかなのはよく知っているので(まあ数年前からミニコミ誌の切り盛りで10万円単位のお金を度々動かしていることもあるし)、だから<か>の性格を考えると、(中)はどうかと思うが(下)はノープランを装いながらも続編として出版する気満々だと思う。今後のネタの仕込み量次第か。

そういえば、<か>の容姿に関して最近面白かったのが、8月14日(水)深夜にゲスト出演のTBSラジオ『荻上チキ Session22』のなかで、芸能人では誰に似ているか? という話の流れで(NHK紅白歌合戦でも常連の)いきものがかりのヴォーカルの吉岡聖恵に似ていると挙がり、そういう見方もあるのか! とこれは初耳でびっくりした。仲間内では以前から片桐はいりが最も近いか? というのは聞いていてその印象で固定されていたところに……。
またそれで今年だからこそ連想するのが、ショートカットの髪型だけを遠めから見ると能年玲奈に見えなくもないことで、今春以降の『あまちゃん』人気の便乗でそれを引き合いにしてもよさそう。そうすれば本はもっと売れるのではないか、と年内いっぱいは充分に通用する新たな戦略として提案したい。実際、僕は『あまちゃん』を4月から1話も欠かさず観続けてきて能年(天野アキ)と片桐(安部小百合)の二人芝居(そば・うどん・まめぶ汁の移動販売とか)の場面ではいつも<か>を連想してしまっていたから。今からでも遅くはない、『あまちゃん』の年に出版できたことを好機と捉えるべきだ。

<か>のほかのラジオ出演では、ニッポン放送『上柳昌彦 ごごばん!』5日(木)分と、文化放送『吉田照美 飛べ!サルバドール』17日(火)分、の出演時の文字起こしは比較的わかりやすいか。『吉田照美-』のほうはいつまで配信するかは不明だが、ポッドキャストあり
あと取材ではないが、野外系ポータルサイト「A Kimama」でも軽く紹介されている。でもほかの媒体の書評とかはまだだなあ。これから出るのかなあ。それも売り上げに大きく影響するからなあ。というか、この本は一般的な活字本から大きく路線変更してお子様向けのイラスト多用の絵本調なので、ちょいと評価し難いこともあるのか(すでに内輪褒めはいくらか見聞きしているが、<か>と無縁の一般読者がどう読み解くか……)。でも中身をよく読むとまったくお子様向けではない、<か>のほぼ本性と言っても差し支えない腹黒さ満載の野宿啓蒙本ですけど。

なお、以上の在京局のラジオ出演3本を僕はすべて聴いているが、特に『荻上チキ Session22』が面白かった。というのも、ほかのテレビ・ラジオの討論系の番組にも頻出する荻上はこれまでは無表情で早口でまくし立てる嫌味なインテリ眼鏡野郎の印象が強かったのだが、この初対面で<か>は自分への詰問とは逆に彼がまだ無名の頃? の青春18きっぷを使った北海道旅の話を引き出したり、要所要所の野宿ネタと受け流し方で笑わせたりもして、彼はあんなに笑うキャラなのか、と、この新進批評家の印象がやや好転した。最近もこの生放送を録音したのを聴き直したが、<か>のここ数年の媒体露出のなかでも最もぐっじょぶ、だったと思う。

ああそれで、内容の詳細についても触れようと思っていたが、もう書くのがめんどくさくなってきたので割愛。「野宿あるあるネタ」はたしかに多く、それが1冊に凝縮された感じではある。
ただ、校正者目線でツッコミを少し入れると、活字本よりも文字数が少ないながらも誤植および誤認識、それから倫理的にこれはどうよ? と疑問に思う点が20か所以上あり(本文ページ数が96ページのわりには多いかも……)、過去の『野宿入門』(草思社)と『野宿もん』(徳間書店)よりも粗く、もったいない印象もある。特にこのような始めからギャグ路線を狙ったつくりの場合に誤字などがあると、余計に恥ずかしいっす。

本をすでに読んだ方限定のネタとして、これはまずいのではないか? と僕が疑う代表的な問題点を(ページ順に)少し挙げると、山頭火、敷物、探してもらえないよ、ほおっておく、1980年代中旬、寝たふりじゃなくて死んだふりをする、所轄、ビックカップ、暖かいものが食べられる、もう野宿なんてしないだなんて、か。
あと、「倫理的」の点では本文中に「盗んだバイク」という(東武東上線沿線出身の大スターであった)尾崎豊のあの名曲からの引用の表現が2回出てくるのだが、これは尾崎を全然知らない世代の人にとっては違和感ありありの表現とも読み取られる可能性もあるので、「虚構タイムス」のウソネタマキタスポーツのネタのアンサーソングみたいなのも一応は気にしたうえで出しているのかなあ、とも気になった(前者はウソネタだが、このような論調は以前から見聞きしている)。
しかし逆に、例えば、35ページ「みんながみんな、じぶんに好意的なんてことはないし、べつに会ったひと全員と仲良くならなくたって、いいんだからね」、40ページ「敵は他人じゃない、じぶんの自意識だよ」、83ページ「「みんなと違う」ってひとからおもわれることが、怖いのかもしれません」、のような人生訓めいた刺さる名言? もあり、このへんは普段ののらくらでのほほんとした(つい騙されそうな)立ち居振る舞いとは裏腹のかなり鋭い言い回しで、なかなかやるではないか! と唸る部分もたしかにある。本文中の硬軟の振り幅は案外広い。ほかにも、駅寝に関する「某大手鉄道会社・現役職員さんにこっそりインタビュー」はとりわけミニコミっぽいネタではあるが僕も十数年前からずっと気になっていた興味深いことで、こういうことを実際に訊いちゃうのかー、とこれまた唸った。

それで、最後にようやくこの投稿のタイトルの一件についても補足しておこうかと。
本の奥付の上のほうに、「本書にご協力くださった方たち」ということで本の制作過程でかかわった人名を挙げているなか、後ろのほうになぜか僕の名前も入っている。しかし僕は特に協力した覚えはなく(とはいえ、春先にも<か>からこの道具や写真を持っているか? という照会は数回あったが、結局その件では全滅で、だから協力したことにはならないけど)、心当たりがなくて不思議に思っていたのだが、精読しながら再確認すると、(記憶が正しければ)2点のみだが僕が以前に<か>に提供した野宿絡みの写真が使われていて、そのことだと判明した。
ただそれはこの本の制作のために新たに提供したカットではなく、数年前からたまに<か>が欲したときに適宜送りつけている写真からの抽出らしい。そういうこともあるのか。まあいいや。


<む>の本は校正者(第三者)の目もちゃんと通しているようなので全国各地のどこに行き渡っても無問題だろうが(誤字というほどでもないが僕個人的に気になる表現は2、3か所あるにはあるが、個人差程度の些細なものだ)、<か>の本は今回は図書館にも入り難い内容かもなー。もっと校正にも力を入れて欲しかった、気もする(僕に事前に言ってくれれば仕事として……)。となると、今後もできるだけ買ってもらうように努めないと。版元は販促に力を入れる気はあるのかねえ。
そういえば、<か>の書名で、漢字表記の「新しい」ではない「あたらしい」というかな表記も、小学校の教科書にありがちな、という点から教育書っぽい雰囲気も狙ったそうだが、ここ数年はほかの分野の本でも書名で「あたらしい」を使っているのは散見されるので、類似の表現が増えると何気に作戦失敗かも……。

でもまあとにかく、脚色なしで正直になんだかんだと2冊の新刊について触れてきたが、今後の生活に役立つか否かはともかく旅や野宿に興味・関心のある、もしくは一般的な観光やパックツアーに飽きてきて旅にこれまでとは別の可能性を求めたい方は、それぞれのこだわりぶりを一読しておいても損はないと思う。ぜひ。
僕は、<む>の『ちょこ旅 瀬戸内』(アスペクト)もなるべく早めに買わないと。


※13年10月5日(土)の追記
本文中で書評はまだない、としたが、発売中の『散歩の達人』13年10月号の(今夏のリニューアル後も続いている)編集部員が各自1冊の本を毎月紹介する本のコーナーで『あたらしい野宿(上)』を今月分の一押し的に取り上げているのを、この更新のあとに気付いた。それが初めてか。
今回の紹介者は菊野令子女史で、以前に『山と溪谷』の編集部にも一時期だが在籍していたことも少し触れたが(その前に在籍していた演劇専門誌? は知らないけど)、昨年にある催しで一度会ったときの印象では<か>と同程度のゆるキャラと見受けられたので、同8月号でも<か>は1ページ寄稿していたが今後も菊野女史を通じてこの知名度抜群の雑誌と良好な関係が続くとよろしいですね。


また、13年10月3日(木)の読売新聞朝刊1面の下の広告欄にも広告を打ち、宣伝に努めている。全国紙の1面の広告料金は比較的目立つだけにかなりお高いはずだが、それなりに力を入れているようね。これでさらに売れますかねえ。
そういえば、8月の発売当初からこれらの宣伝文でもスルー状態だが、「のじゅ先生」は本文中の正しい表記は「のじゅくせんせい」なのよね……。『ドラえもん』を『ドラエモン』とうっかり書いてしまうのと同等の酷さ……(世間一般への影響力は雲泥の差があるけど)。

<か>は今夜、ベイエフエムの番組『ザ・フリントストーン』に出演した、らしい(僕はこれは外出していて聴けなかった)。この番組は事前収録なので、文字起こしがすぐに反映されるので助かる。これで3回目の出演とは、もう常連ではないか。
ちなみに、<む>も昨年末に出演している(1回目)

※13年11月30日(土)の追記
<か>の本の発売から3か月ほど経っても雑誌やラジオ番組にはちょこちょこ登場していて、それぞれまあまあ良い宣伝にはなっているのだろうか。実際に売れているのかどうかはわからないけど。
最近目立ったところでは、インターネット上だがexciteニュースの記事で、これは<か>のマニアでないと差異はわかりにくいかもしれないが、本の中身の一部の紹介とともにこれまでの著作や取材では出てこなかった話も引き出しているのが結構面白い。

マンガ好きにとっても出版業界においても良い“事件”だった、小学館ビルの「ラクガキ」一般公開

2013-08-31 23:59:59 | 出版・言葉・校正

今月、特に後半は良くも悪くもいろいろなできごとがあり、ここ1週間はブログの更新なんかしている場合ではない人生の転機とも言えそうなこともあるにはあったが、それも終わってようやくなんとなく落ち着いた感じ。

そんななか、東京都は神保町にある大手出版社の小学館、の社屋である「小学館ビル」、(藤子不二雄作品のおかげで儲かって建てることができたから付けられたという)通称“オバQビル”とも呼ばれていたこの建物が46年経って建て替えとなり(まあ、そんなに古くて大きな建物では耐震補強するのも困難だし、アスベストもたっぷり含まれているだろうし)、来月の取り壊しを前に、僕もよく読んでいるビッグコミックスピリッツ編集部内の雑談がきっかけで始まったこの建物内に懇意のマンガ家に落書きをしてもらう、という催しが話題となった。
当初は、在京キー局や全国紙や有力ウェブ媒体で報道されるくらいにまで大ごとになることは思いもよらなかった盆休み前の9日(金)頃からなんとなく始まった単なる内輪のお遊びのようなものだったらしいが、ツイッターや報道を介して徐々に広まって結局は先週末の24日(土)と25日(日)に各日3000名に入場整理券を配布して一般公開する、という事態にまで発展した。僕も翌10日(土)あたりから一連の動きはなんとなく小耳に挟んでいた。

その2週間ほどの短期間での急速な発展ぶりをまとめたNAVERまとめもあり、コトの発端は特にこの2ページ目でわかる。「togetter」にもある。
ここに限らず、壊す建物に惜別の意味で描画や装飾を施すことはたまに聞くが、小学館の場合は特にマンガにおいては数々のヒット作があってお世話になってきた、それに現在もお世話になっている作家さんも多く、描くプロが揃った場なので、こういった滅びの美学? 的な催しでは過去最大の動きではなかろうか。少なくとも出版業界内では(前例はあったかもしれないが)規模的には最大だったと思う。
というわけで僕も、単なるマンガ好きという立場とともに、いち出版業界人の目線も持ちながら、この「ラクガキ」を間近で観て、限定的な“お祭り”に参加しておきたかったので、一般公開は25日夜に行ってみた。
実は前週の18日(日)の日中にも観に行っていて、窓ガラス越しに1階ロビーの「ラクガキ」を見物してはいたが、その後参加した作家さんが増えて「ラクガキ」もかなり増えたこともツイッターで知っていたので、やはり館内からも観ておきたいということで。

当日は、時間帯によって来客の多少にもよるが3、4時間先の入場整理券を6階で配布し、その指定された時間に集合して(1回あたり150人か200人くらいか?)、1階ロビーの鑑賞(「ラクガキ」は即興で描いたとはいえ作家性のある「作品」とも呼べそうなものなので、「観賞」よりは「鑑賞」の表記でよいと思う)時間は10分間という時間制限もあったが、その程度でも結構楽しめた。
(学生時代に小学館の入社試験の書類をもらいにロビー入口まで入ったことはあるが)実質は今回初めて入った小学館の館内は、まず整理券獲得のために1階から6階の昇り降りは階段を移動する順路だったが、その階段の壁面にも「ラクガキ」があり、移動の苦痛? を和らげる配慮もあって結構楽しませてくれた。
それで指定時間に再訪して1階ロビーへの入場では、来場者の大半は生で目で観るよりも写真を撮るのに夢中になっていた感じだなあ。動画撮影とフラッシュ使用は禁止されていたが静止画は10分間のうちに無制限で撮影できて、商用目的でなければネット上での公開も可だったので(NAVERまとめにも多々挙がっているし、後日、小学館としてもきちんと撮影した写真を公開するそうで)、それもあって撮りまくりの人が多かった。まあ僕もその一員だったけど。

1階の10分間が終わると地下1階の食堂街に降りてそこを通ってから北側の地上出口に出る、という順路が設定されていたが、その通りにも一般公開前に追加された「ラクガキ」が多くあり、そこでも撮りまくり。だから結局は交通整理のアルバイト? に次の組のために会場を早く立ち去るように促されながらも正味25分間くらいは2フロア分の「ラクガキ」を堪能した。

来場者の世代や趣味嗜好によって好みの差はあるだろうが、藤子不二雄や石ノ森章太郎の作品のオマージュ、池上遼一、浦沢直樹、島本和彦、ゆうきまさみ、原秀則、高橋留美子、藤田和日郎、河合克敏、あたりのベテラン勢? は僕と同世代か上の世代にはグッとくる。最近もよく読んでいるところでは『週刊ビッグコミックスピリッツ』や『週刊少年サンデー』の若手連載陣の描くものも観ることができて、感無量(よく考えたら、同業他誌も含めて活躍中のマンガ家は僕よりも歳下のひとがどんどん増えているなあ)。僕はもう疎くなったが、若い世代には『コロコロコミック』の作家陣の描いたのも感動的なのか。会場内を隅から隅までもっと高画質のデジカメで撮りたかったなあ、としきりに後悔しつつ会場内をデジカメ片手にほかの来場者にぶつからないように努めながらせかせか歩き回っていた。

翌26日(月)からは工事の都合で目隠しされるためにこの日が実質は最終日だったが、なんとかギリギリで滑り込んで堪能できて、ホントに良かった。この“事件”は業界内でもしばらく語り継がれるだろうなあ、というくらい、(致し方なく会場の交通整理をする人員を急遽雇ったのを除いて)ほぼ手弁当の感じで進められ、とても粋な催しに成った。スバラシイ。

この今夏の良い“事件”を契機に改めて、小学館のマンガおよび編集者、そして社風を見直そうと思う。僕個人的には小学館というと四半世紀前から月刊誌『BE‐PAL』の印象が強いのだが、マンガもね。
特に、今回の一件でより名を上げた? 編集の山内菜緒子女史の仕事はもっと注視しようかと。現在の担当作のひとつの『月刊!スピリッツ』連載でヒット中の『重版出来!』(=じゅうはんしゅったい。元柔道選手の女性新人マンガ編集者が主人公の雑誌編集話)も好んで読んでいるし。今後の、3年後らしい新社屋が完成してからの活躍も期待しちゃう。

ランキング急浮上は校正者に追い風なのか、ただの突風なのか

2013-07-01 23:00:11 | 出版・言葉・校正
昨日、遅まきながらフェイスブックを介して知ったのだが、13歳のハローワーク公式サイトの「人気職業ランキング」の5月分で、「校正者」が100位圏外から9位に急浮上したそうで。原因は不明。なんでだろう、ホントにわからない。最近の校正に関する大きな話題は、今年1月に『abさんご』で芥川賞の黒田夏子氏が以前は校正者だったという経歴のほかに何かあったっけかなあ。うーむ。

そうなるとこれは、追い風というか一過性の突風と思われるので、まあ話半分に受け止めておく。
でも、もし今後も順位が急降下するようなことなく100位以内に留まり続けてくれるとなれば、校正業界の未来も明るいのだけどなあ。
最近、web媒体の増加や電子書籍の普及もあってか出版業界全体的に誤植の総量は増えている観があるので(単に比較的若い執筆者や編集者の国語力の低下もあると思うけど……)、生活のためか自己実現(肯定)のためかは人それぞれで、新たなモノを書いて「表現」するのもいいけど、大概そこには大きな落とし穴もあるものだから、より良いモノを作る(創る)ためにみんなで校正しようぜ。

村上龍による「校正者」の説明を読むとだいたい合っていて、たしかに実際の仕事では大半は文字・活字にあたるものだが、それだけではなく、写真、イラスト、統計(グラフ)、地図、などの文字以外の校正もあるし、とりわけ絵的な媒体に多い色合いのみを確認する「色校正」もあるし、印刷前の紙面・誌面のサイズやずれなどを確認する「検版」もあるので(これも最近はデジタル化が進んでいる)、それぞれに専門性が求められるものだ。

そういえば僕の今年の本業の収入面というか仕事事情を振り返ると、上半期はなぜか例年よりも厳しい結果で(お金にはならない“私事”は随時やっていたけど)、昨年末から最近まで半年ほど1件もなかった、という過去最悪の超酷い状況であった。
半年間も仕事なし、副業的なアルバイトで糊口しのぎのみで終わりそう、というのは10年ぶりくらいか、と諦めていたところに先月下旬、ようやく単発の仕事が入り、そのワースト記録? は樹立せずに済んだ。

仕事先は日々いろいろ開拓しつつあるが、コネなしの会社ではいずれも実際に声がかかるかどうかは微妙なところ。下半期もこんな感じで続くのか、それとも例年どおりに秋以降に増えるのか。
最近は周りからは毎日遊んでいて悠々自適な生活のように見られているのがちょっと悔しい、慢性的に仕事に乏しいフリー校正者生活は、不安定ながらもまだまだ続く。

『PEAKS』13年3月号の校正の結果

2013-03-10 00:00:00 | 出版・言葉・校正
先月、特別付録の件で触れた『PEAKS』13年3月号を、先週に風邪というよりはインフルエンザ? にやられて久々に体温が最高で38度4分まで上がったせいでしばらく臥せっていたりしながらも、昨日ようやく読み終わった。

これまでの校正ネタと同様に、「×」は赤字指摘レベルの箇所で(業界的には赤字は未だに古風に「朱字」と書くところもあるが)、「○」がその訂正例。
それとともに、赤字で指摘するほどではないけどたぶん違うんでないの? と問い質したい場合は疑問出しとし、その箇所は「疑」とする。

ちなみに僕の普段の校正の仕事上の基準では、赤字はどこからどう考えても間違っている、と資料を時折添えたりしながらも確証のある場合のみ出していて、それが得られない、決定的な根拠を示すことができない場合は疑問出しにとどめている。だから逆に言うと、なぜそこが誤りだと判定できるのか? と自分の口から断言できない場合は赤字指摘すべきではないので(これは多くの校正者がそうしていると思うけど、どうなんだろうなあ)、僕は基本的にあまり赤字は出さないように努めて、赤字扱いにする自信が100%はない場合や、わざと曖昧さを残しつつ再考を促すための選択肢を増やすために、あえて疑問出しに切り替えることもある。



その最近のわかりやすい一例を、『山と溪谷』13年1月号の(毎年恒例の)特別付録「山の便利帳2013」を軽く校正したときの一部を写真で見せると、「トムラウシ山遭難事故」は2009年のことなので2010年のままではおかしい、という感じ(この写真の青字は内容とは無関係の極私的な疑問なので、無視してちょ。左の赤字のみ)。ちなみに今年からは購入者限定の特典としてPDFでも覗けるようになった? この本の(直ちに修正すべき)問題点のいくつかは、すでに『山と溪谷』編集部に指摘済み。

とかいう屁理屈はここまでにして、『PEAKS』の結果を以下に。


P005、007、009
疑 TRAIL HEAD
※P019目次では「Trail Head」。

P019目次
× /035 WiFi利用可の山小屋、現わる
※P019目次で抜け、「/035 山小屋ビフォーアフター」の後ろに要追加。

P019目次
× Beacause
○ Because
※P105の連載タイトルは正しいが、目次では中学生レベルの英単語の綴りを……。(※1)

P043
疑 シーズン前にひと遊び。山のイベントカレンダー
※P019目次では「シーズン前のひと遊び 山のイベントカレンダー」。

P043
× アイスキャンディ
○ アイスキャンディー
ミレーのウェブサイト参照。

P045
× 同ユースB優勝。
○ 同ユースB優勝
※「Biography」では文末に句点「。」を入れていないため、統一。

P050
疑 2012年、“売れた”ギア
※P019目次では「2012年“売れた”ギア」。

P051
× 2000円代
○ 2000円台
※一般的に価格・数値などのおよその値や目安を示す場合は「台」のため(「代」は年齢や年月のときに使用)。

P052
× SOD‐301
○ SOD‐310
※僕も喉から手が出るほど欲しい新富士バーナーの「SOTO」ブランドの来月発売の新商品の解説で、同ページ内に頻出。やはり4本ゴトクのほうが良いでしょう。

P053
疑 厳寒地で
※P019目次では「極寒地で」。

P053
× 1512kcal/h
○ 1,512kcal/h
※ P052のように、火器の4桁の出力の数値は標高・価格・重量と同様にカンマ(コンマ)で3桁のところで位取りしているため。

P054
疑 183,200cm
○ 183cm,200cm
※(寝袋の)サイズ展開が183cmと200cmの2つであることを示しているが、この場合に限ってはカンマの区切りの位置から、6桁の「じゅうはちまんさんぜんにひゃくセンチ」という(寝袋としては)あり得ないサイズにも読めなくはないため、分類するために両方のサイズに「cm」という単位をそれぞれ入れるほうがよい気がする。(※2)

P055
疑 10万円オーバーのスペシャルギア
※P019目次では「10万円オーバースペシャルギア」。

P056
× 1500g
○ 1,500g
※全体的に、横組で4桁以上の標高・価格・重量の値はカンマ(コンマ)で3桁ごとに位取りしているため、統一。

P057
× 99,750、22,050~31,290
○ \99,750、\22,050~31,290
※全体的に、価格には円マーク(\)が入っているため、統一。

P061
疑 雪山でも、エアバッグで
※P019目次では「雪山でもエアバッグで」。

P061
× エアバック
○ エアバッグ
※同ページ内に頻出。

P062
疑 スタッキング自慢
※P019目次では「スタッキング自慢!」。

P062
疑 辿りついた
※同ページ内に「たどり着いた」と混在。

P062
疑 外径86mm、内径86mm 外径76mm、内径71mm 
※P063のように「外径86mm/内径86mm 外径76mm/内径71mm」に統一?
(カタログ的な校正仕事では、肝心の型番・価格・寸法・重量のような記号・数値以外の、端から見るとどうでもよさそうな? このくらいの区切りの表記の細かい差異と整合性を視ることもある)。

P064
× キューベンファイーバー
○ キューベンファイバー
※P096にもあるように、一般的には「ファイバー」。

P068
疑 再検証!
※P019目次では「再検証」。

P073
× 柔らかな履き心地
○ 柔らかな穿き心地
※一般的に、下半身に身に着ける衣類は「穿き」(媒体の分野を問わず、よくある誤植。靴下や靴は「履き」)。

P078
疑 エベレスト写真を発見!
※P019目次では「エベレスト写真を発見」。

P082
× PAGO WORKS
○ PaaGo WORKS(PAAGO WORKS)
「サイトウデザイン」のウェブサイト参照。

P083
× ポートレード
○ ポートレート(もしくはポートレイト)
※綴りは「portrait」なので、一般的には「ト」で終わる、と思う。

P085
疑 絶対のオススメです
※P019目次では「絶対オススメです」。

P088
× 里いも煮
○ 里芋煮
※写真の商品名は「里芋煮」で、写真と活字の表記が揃っていないため。商品名を勝手に「いも」に変えてはいけません。(※3)

P089
疑 喜ばれるか、どつかれるか……
※網囲みの説明の文末で、「食べ比べてみるのもいいかも。」と同様に句点で終わらせるか否か、不明。

P089
疑 写真はブナのドングリ
※網囲みの説明の文末で、「食べ比べてみるのもいいかも。」と同様に句点で終わらせるか否か、不明。

P093
疑 ホームグランド
※ホームグラウンド? 本ブログの過去ネタの観点からも疑問出し。

P094
疑 山映画必見ベスト5
※P019目次では「山映画ベスト5」。

P097
× みずかららPCTハイカーで
○ みずからPCTハイカーで
※誤字。

P099
× \5,0000
○ \50,000
※全体的に、4桁以上の金額のカンマの位取りは3桁ごとのため、統一。

P100
× 昨年は雨天にも関わらず
○ 昨年は雨天にも拘(わ)らず
※一般的に「AにもかかわらずB」というAの打ち消しを伴う表現の場合の漢字は「拘」で、迷う場合は「かかわらず」とかな表記にするのが安心だが、もし漢字にする場合は「関」のほうでは誤り(これも媒体の分野を問わず、よくある誤植)。

P103
疑 マウンテンブラウジング
※P019目次では「マウンテンブラウンジング」。

P108
疑 請求書には1%も乗ってない
※載ってない? ただこの場合の漢字の使い分けでは、本来の金額に上乗せするという意味では「乗」のままでよいし、単に金額の記載の有無を指す場合は「載」で、その両方の意味を含むようにも読み取れるため(どちらか一方には判別し難い)、疑問出し扱い。

P113
疑 Mountain CULTURE CATALOG
※P019目次では「MOUNTAIN CULTURE CATALOG」。

P113
疑 PICK UP
※P019目次では「Pick up!」。

P119
疑 ライチョウ
※雷鳥? カナ表記でも間違いではないが、その下の例文集で「雷鳥」を使っているため、統一すべき?

P121
× ロジャース
○ ロヂャース
※これは偶然だが最近フェイスブックでも、特に埼玉県民には馴染み深いこの店名をネタにしたばかり。ウェブサイト参照。店名の誤認識が目立つのはやはり県民としては許せない。ちなみに、ホーボージュン氏がこの連載記事(「道なき道のケルン」)で触れていた吉祥寺店にも数回行ったことはある。ロヂャースの支店のなかで最も狭い店内だけど。

P127
× サイトウデザイン、サタケ、サニーエモーション、ザ・ノース・フェイス3(マーチ)、サーモスお客様相談室
○ サーモスお客様相談室、サイトウデザイン、サタケ、サニーエモーション、ザ・ノース・フェイス3(マーチ)
※一般的に五十音順リストの場合、「ー」(長音、オンビキ)は母音で発音するため、「サーモス」の場合は「あ」。

P127
× ジオサーフ、シダスジャパン、シック・ジャパン、シナノ、シリオ、新富士バーナー、GPSDGPS.COM、秀岳荘
○ GPSDGPS.COM、ジオサーフ、シダスジャパン、シック・ジャパン、シナノ、秀岳荘、シリオ、新富士バーナー
※一般的に五十音順リストの場合、「ー」(長音、オンビキ)は母音で発音するため、「GPS」で「ジーピーエス」の場合は「い」(ただ、媒体によっては、かな・カナの五十音順とアルファベットのAからZの順番をそれぞれ別々に考えることもある)。また、(北海道の)「秀岳荘」で「しゅうがくそう」は単に順番違い。

P127
× DECEMBER、チャムス表参道、ティムコ、ティンバーランド ジャパン、DKSHジャパン、ティートンブロス
○ チャムス表参道、DKSHジャパン、ティートンブロス、DECEMBER、ティムコ、ティンバーランド ジャパン
※一般的に五十音順リストの場合、「ー」(長音、オンビキ)は母音で発音するため、「DKSH」で「ディーケーエスエイチ」の場合は「い」。ただ、読みが「ディー」ではなく「デー」の場合は母音は「え」で、また順番が異なる。「DECEMBER」で「ディッセンバー」は単に順番違い。読みが「ディセンバー」か「ディッセンバー」かでも、また微妙に順番が変わる(いちいち細かい)。

P127
× ホグロフスジャパン、ボルテージデザイン、ホールドオール
○ ホールドオール、ホグロフスジャパン、ボルテージデザイン
※一般的に五十音順リストの場合、「ー」(長音、オンビキ)は母音で発音するため、「ホールド」の場合は「お」。

P127
× ムトーエンタープライズ、ムーンライトギア
○ ムーンライトギア、ムトーエンタープライズ
※一般的に五十音順リストの場合、「ー」(長音、オンビキ)は母音で発音するため、「ムーン」の場合は「う」。

P134
疑 シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記
※P019目次では「シェルパ斎藤の山小屋24時間滞在記」。(※4)

P138
疑 ディテイル
※P138からP140で「ディテール」と混在。

P138
× エアテック
○ エアーテック
※グリベルのクランポン(アイゼン)を掲載するマジックマウンテンの毎冬の商品カタログでは、日本向け商品名は正しくは「エアーテック」。P140にもあり。

P140
× 1080g
○ 1,080g
※全体的に、横組で4桁の重量の値は3桁で位取りのカンマを入れているため。

P140
疑 行なわれる
※同ページ内で「行われる」と混在。

P143
疑 ネギ
※2の料理「長ネギとササミの生姜塩ラーメン」の料理名と材料では「長ネギ」のため、「作り方」でも「長ネギ」に統一するほうがよいと思う。写真を見れば長ネギであることはわかるが、それでも「ネギ」のみではタマネギも連想してしまうため。

P143
× 仕上げにネギを加え、
○ 仕上げにネギを加え(写真3)、
※写真番号の括弧書きが抜け。この上下の別の料理の「作り方」では写真番号をすべて付記しているため、統一。

P144
× ハイブリット
○ ハイブリッド
※綴りは「hybrid」なので、一般的にはカナ表記は「ド」で終わる、はず。

P144
疑 ヘッドライト
※同ページ内に「ヘッドランプ」と混在。

P144
疑 2300mAh
※金額・標高などと同様に、4桁の消費電力もカンマで3桁の位取り(2,300mAh)?

P148
× アルパインクラミング
○ アルパインクライミング
※単なる脱字。

P149
× キャノン
○ キヤノン
※「ヤ」の大文字の扱いについては、ウェブサイトにも掲載されている。「シヤチハタ」や「キユーピー」などの社名と同様に(大概は社名の登記のさいに小文字が使えなかった名残だそうだが)、読み・小文字→書き・大文字、の差異も媒体の分野を問わず頻出する誤り。キヤノンの場合は特にデジタルカメラを紹介するときに多く見られる。

P155
× 108g、104g
○ 105g
※日本では今月後半から発売らしいアメリカのメーカー・GSIの「パックキッチン8」の紹介で、重量がおかしい。ただ本家のウェブサイトの「スペック」では重量は3.7ozとあり、オンス(oz)をグラム(g)に換算するときに仮に1オンスを28.35グラムで計算すると、104.895グラムとなる(ウィキペディアには28.349523125グラムとあるね。こちらで計算すると104.8932355625グラムだが、実際に扱う場合はこんなに細かすぎる数字は要らないと思う)。
となると、小数点第一位で四捨五入すると105グラムである。と僕は思うのだが、小数点第一位で切り捨てると104グラムとなるし、同業他誌でもこの商品を紹介しているのを先日読むと「104g」だったので、ひょっとしたらGSIの商品を輸入販売するエイアンドエフが提供する今年のカタログデータで「104g」としていて各媒体もそれに倣った、ということなのかもしれない。
だからこれは、赤字扱いではなく疑問出しにしたほうがよいか。いちいち細かいが104グラムと105グラムという1グラムの違いでも妥協してはならない。まあこの場合、「108g」のほうは完全に誤字だけどねー。(※5)

P160
疑 いじっくって
※いじくって? 「いじる(弄る)」の変化形は「いじくって」だと思うのだが。「っ」を入れるのは方言か何かなのかなあ。僕には「っ」を入れる意図が全然わからない。

P160
疑 山シーズン到来前
※「山シーズン」とはいつからいつまでの時季・時期のことか? という疑問が発生する。この表現ではおそらく登山するのは無雪期のみに限定している(つまり、この号の発売時期はちょうどオフシーズンの)読者を想定しているのだろうが、登山の頃合いには個人差があって積雪期の山にも行きたがる、つまり1年間の365日すべてが登山適期と捉えている僕のような読者も近年の登山人口とその動向を考えると少数派? ながら当然いるだろう。だから、このような冬から春への移り変わりの時期を「山シーズン」の「前」と断定する書き方は改めるべきだ。


ほかにも、横組で重量の単位が「グラム(g)」ではなくアルファベット小文字の「ジー」と混在しているところも多々ある。全体的な統一感ではグラムのようだけど。

創刊からもうすぐ3年の『PEAKS』、今回こんなに深く突っ込んで丁寧に視たのは創刊以来初めてだったが、思ったよりも酷かった……。でも、これでいつもよりも少ない、まだましなほうかもしれない。
同業他誌で、常任の校正者が居る『山と溪谷』や『岳人』や『ワンダーフォーゲル』では疑問点はもっと少なくて比較的引っかかることなくちゃんと読むことができる(ちゃんと読むことが、ってなんだ……)。ただ、『ランドネ』や『TRAMPIN'』や『GO OUT』は今回と同じくらいの分量のツッコミどころは毎号ある印象ですな。

ああそういえば、『ランドネ』13年4月号も結局は特別付録が目当てで買ってしまった……(〇TL)。こちらも後日それなりに精読するが、今回のような洗い出しはやめておく。『PEAKS』だけでも疲れたから。趣味でやり続けるには労力が……(これが仕事であれば話は違うのだがなあ……)。



●2013年4月10日(水)の補足

※1
4月号で「Because」に修正を確認。

※2
4月号の山道具特集や、最近の別冊(特別編集)のムックを眺めると、2つのサイズの違いはカンマではなく読点「、」で区切っているところが多く、これでもよいと思う。カンマで区切ると紛らわしいから。
だから、ここを修正する場合は「183、200cm」となるか。おお、このほうが断然良いではないか。

※3
「里芋煮」だが、本家のローソンのウェブサイト(ローソンセレクト)を覗くと、そこでは「里いも煮」になっている……。となると、この元データどおりに誌面に反映させたのであれば誤りではないのだろうか。うーむ。でも僕としてはこの本家の「いも」の表記がそもそも誤りだと思うなあ、だって商品パッケージは……(しつこい)。

※4
4月号で「斉藤」に修正を確認。

※5
最近、エイアンドエフのウェブサイトでGSIの日本語版のカタログも更新されたが、そこでは104gであった。
先週に入手した、紙のカタログのほうでも同様に確認した。ということで、104g(小数点で切り捨て)で解決。



しっかし、数年ぶりに触ったエイアンドエフのカタログは相変わらず分厚いよなあ。厚さを測ったら1.3cmもあったわ。まあ前々から扱っているメーカー・ブランドが多い、そして年々増えているからなあ(ここの取り扱いの特に人気で筆頭メーカーであったグレゴリーの商品は「グレゴリージャパン」の設立によって今年からは完全に除外しても、この厚さですし)。

『PEAKS』13年3月号は、特別付録のために買ったわけではない

2013-02-24 12:30:24 | 出版・言葉・校正

今年の山雑誌、特に『PEAKS』は年始から特別付録つきでこれまで以上に果敢に攻めている感があり(まあこれはこの雑誌が、冬場は雪山登山をしっかり取り上げる同業他誌の『山と溪谷』および『岳人』と比較すると雪山の扱いは少なく、よって特集のネタ集めも苦しい? ためか)、今月発売の13年3月号ではついに、付録として通常よりも100円の値上げだけで「ウォータープルーフエアクッション」(写真左)を付けて980円、というびっくり仰天の価格で出してきた。一般の女性誌ならまだしも野外関連の雑誌でこんな大がかりというかお金がかかっているはずの付録は初めてかね。『BE‐PAL』も一昨年あたりから付録攻勢が激しくなってきたが、それに匹敵するお金のかけようだと思う。
このような付録への力の入れ具合は、それだけ儲かっているということか。それとも単に売り上げが落ちる時期のテコ入れのためなのか。

本ブログでもたまに『PEAKS』をネタにすることはあるが、実は毎月これは立ち読みで済ませていて、買うのは今回が約2年ぶりだったりする(普段は立ち読みばかりの理由は経済的な問題のほかにもいくつかあるが、ここでは割愛)。
ただこれ、この小型エアクッションというかエアマットが目当てというよりも、もうすぐ3年になるんだっけか、『PEAKS』が月刊化されて以降は他誌とともに毎号チェックを欠かさず続けていて、それを途切れさせなくないから。雑誌の付録つきの号の場合は書店でも付録の脱落の予防のために雑誌本体とともに紐締めや輪ゴム留めにしていることが多く、そうなると立ち読みし難く、中身をチェックするのが困難だからなあ。
よって、毎号チェックの継続のために、あえて? わざわざ? 買ったわけで。
まあ、普段の立ち読みがせこい、と言われればそのとおりですけど。

それで、せっかく買ったからにはということで、これまた普段読むときに一昨年から趣味の一環として続けている校正者目線からの雑誌の誤植や体裁のチェックを、いつも以上に時間をかけてやってみようかと思い、昨日から始めてみた。
すると、19ページの目次からすでに僕としては納得いかない問題点が17か所も見つかり(写真右の付箋の箇所。なかには各ページの見出しの疑問符・感嘆符や句読点の有無のような、本文ページとの整合性という問題点としては軽微なものもあるけど。雑誌・本づくりでは目次を軽視しがちだからなあ)、先が思いやられる。
その結果はまた後日。3月上旬には昨年末の校正ネタのような体で報告しようかと。もうこうなったら、(かねてから僕は憂慮している)今や(エイ)出版社を代表するこの雑誌の質を改めて精査しながら徹底解剖してやるっ。

ちなみに、「ウォータープルーフエアクッション」への極私的な評価だが、たしかに山でも普段の街なかでもちょっとしたときには使えると思うなかなかのつくりではあるが、元々僕は(野山の木々や植物のような自然な色ではない、人間が作ったような)緑色が嫌いというか苦手なので、色ははっきり言って好かん。
色味に関しては、昨日発売でこれまたエアクッションを付けて100円値上げの780円で販売するという暴挙に出た? 姉妹誌の『ランドネ』13年4月号の赤色っぽいほうが断然好みである。まずい、このままでは『ランドネ』も買ってしまいそうだな、こちらはまさに付録目当てで。『ランドネ』も毎号チェックは創刊号から続けているので、もし買ってしまって時間があれば、こちらも同様に精査するかもしれない。

こんなカタチで買うようでは、まんまとこの版元の策略にはまってしまっていてやや敗北感というか屈辱感からとても悔しい気分だが、僕の校正者としての矜持のためにも、今回は致し方ない。

“就活”の学生たちとは別視点で注目しちゃう、山と溪谷社のリクナビ

2013-02-11 22:00:59 | 出版・言葉・校正
たしか立ち上げは僕の学生時代の後半あたり(1998年頃?)で、だから僕も当時は多少は活用していた、最近の就職活動略して“就活”に勤しむ学生をはじめとする若い就職希望者には今や必須のWeb媒体となったリクルートの就職関連サービスのリクナビだが、先月下旬から学生でもないのに今年の「リクナビ2014」で注目している企業がある。

それはズバリ、山と溪谷社(以下、ヤマケイ)のことで、そのなかの「人事ブログ」のページが毎週更新されていて、毎週もちろん興味深く読んでいる。

本来は就活生のための仕事の紹介の体だが、普段から『山と溪谷』や『ワンダーフォーゲル』のような雑誌、それに登山やほかの野遊び関連の書籍をいち読者として頻繁にチェックしているために(一時期、『山と溪谷』を毎月買っていたこともあったがそれも含めて、貧しい生活であってもこの十数年でここの媒体に何十万円注ぎ込んだことか……)、ヤマケイは僕個人的にも全国に数多ある出版社のなかでも最も注目しているし媒体を通じてお世話にもなっているところで、ほんの入口程度だがその社内の内部事情を実際に働いている人の目線から垣間見ることができるのは嬉しい。おそらく学生よりも。

僕個人的には、ここの媒体を日々目ざとくチェックしているために記事や編集後記で名前はもちろん存じ上げている、それにこれまでのヤマケイ主催や別会社主催の登山関連の催事で同席してニアミス、もしくは実際に挨拶したこともある(主に編集の)方も“先輩社員”や「人事ブログ」にちょいちょい登場することもあって、とにかく面白い。

ヤマケイは過去10年くらいは誌面を通じて欠員補充的に社員募集は適宜行なっていた程度だったと思うが(あとは縁故と経験者の採用も多少はあったのかねえ。編集補助的なアルバイトの求人はたまにあったけど。それに外部からのフリーランスの力に頼る割合も年々高まっていると思う)、なんか最近の雑誌広告にもあったが昨年あたりからリクナビやフェイスブックを介しての新卒採用が再び盛んになってきて、それは社内の新陳代謝に本腰を入れ始めたからなのだろう、と察する。

ヤマケイには過去に、以前の東京都港区芝大門と、一昨年にそこから移転した現在の千代田区九段北の社内に、所用で計2回行ったことがあるが、後者のときに社内フロアをちらほら眺めただけでも以前よりも随分若返った観があり、良い傾向だな、とは思った(単に双方の建物の古い・新しい、の印象の違いもあったのだろうけど)。
ここ1、2年のヤマケイの出版物を見ても、ひと昔前よりも若者や女性を意識した記事が明らかに増えているし、(いわゆる「中高年」の方々は、言い方は悪いが放っておいても需要はひと昔前から一定数あると思われるが)、今後の登山業界を見据えると送り手も受け手も今後が期待できる若い世代をもっと取り込もう、という意識付けが年々強まっている、気がする。当然、紙媒体とは別の伝え方としての最近の(一般的にも比較的、若者のほうがとっつきやすい)電子書籍を含む電子出版の流れも大きく関係していて、その影響もあって“就活”の門戸を開くことになったのだろうね。ヤマケイも昨年から(僕も読んでいる、昨秋から毎週配信のメールマガジン『週刊ヤマケイ』とともに)電子化に本格的に力を入れるようになったし。

まあ今後も引き続き、これからのヤマケイを担う人材を出版物とともにこのサイトも通じて期待を込めながら、登山業界に一家言あるけれどもふつうのいち読者の目線と、出版業界に辛うじて? 身を置いている校正者としての目線と、両方の立場と目線から、同業他社と見比べながら良くも悪くもチェックしてゆきますよ。ぐへへ。

服部文祥本の現状

2013-01-30 23:59:30 | 出版・言葉・校正
先週25日(金)の地平線会議の報告会は服部文祥氏だったのだが、そこで数か月ぶりに会って立ち話をしたときに(最近、連絡は度々取っているが実際に会う回数はそんなに多くない)、『狩猟サバイバル』が今月に増刷されてつまり8刷になった、しかも著者になんの連絡もなく、と聞いた。

で、今週、東京都内で主に新宿界隈の書店を探ると、たしかに8刷の本が出回り始めていた。8刷は13年1月10日付で。
本を確認すると、昨年末に触れた校正のあとに修正は一切行なっていない、つまり7刷となんら変わらない状態で刷ったため、僕としてはうーむうーむ、とどうしても気になってしまう。

念のため、服部氏の著作(単著)の現状を改めて整理すると、発行順に、

サバイバル登山家 (みすず書房、2006年)  14刷
サバイバル! ――人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書、2008年)  初版
狩猟サバイバル (みすず書房、2009年)  8刷
百年前の山を旅する (東京新聞出版部、2010年)  4刷
狩猟文学マスターピース (みすず書房、2011年)  初版

となる。
『狩猟サバイバル』は9刷に期待。
また、昨年も触れたが、おそらく『サバイバル!』はほぼ絶版で、書店とブックオフはじめ古書店に現在あるぶんだけで終わりではないかと思う。よほどの大きな売れるきっかけがないと(例えば、昨年に紙媒体でがっつり絡んだ瑛太高橋尚子と今度はテレビ番組で共演とか)、新書の再販は厳しいかもなあ。他社に譲ってそこから再販という手もあるか。というか、筑摩書房は新書よりも文庫が幅を利かせているのだから、文庫で再販でもよいではないか。

なお、作業中の『百年前の山を旅する』だが、これも僕の見立てではいくつか問題点があるにはあるので、やはり本の完成度としては今後の5刷以降がよいのかも、と個人的には思う。でもこれは微妙な差異なので、市場に現在出回っているものでももちろん楽しめるはず。

そういえば今月の前半に、試しに埼玉県さいたま市内の図書館へ行ったときに市内の服部本の蔵書を検索で確認すると、5作合計で20冊近く入っていた。政令指定都市の図書館でこんな感じだから、他地域の大都市の図書館もほぼ同様か。有名人の本だけに、図書館にも結構多く出回っているものなんだなー。

もうひとつそういえば、先の報告会で初めて知ったのだが、読売新聞の今月4日付朝刊の社会面(31面)の人物ルポシリーズ「生きる 語る」に服部氏が登場していて、ご本人も自賛していたがたしかに良い記事だった。『狩猟サバイバル』の増刷はこれの影響だったのかなあ。

まあ僕は自分の作業を引き続き粛々と淡々と。でも終わるのはいつ頃になるかはまったく見えない。春分の日までに終わるかなあ。


※13年2月11日(月・祝)の追記
最初に触れた地平線会議の先月の報告会だが(服部氏は今回が3回目の登壇)、そのレポートがもうすぐウェブサイトに出るはずで(僕は書面ですでに読んでいる)、この書き手(某探検家の一番弟子)が服部氏の知られざる? 私生活も含めて余すところなく正直に語っていた内容をホントに忠実に書いているので、たぶん面白いと思う。
ちなみにこの会の数日後に、同じ服部ファンであるこの書き手とともに「ハットリブンショウとは何者か?」みたいな感じで数時間も熱い議論というか意見交換もしたが、その結果もレポートに多少は反映されているかもしれない。ぜひ。

今年、“私事”によっておそらく日本一の服部文祥マニアに成った、かもしれない

2012-12-28 23:59:59 | 出版・言葉・校正
秋以降にようやくそこそこの成果が出て、年末ということもあって初出しの報告を。

23(日)の投稿の続き(前振りの受け)みたいなものだが、今年の年始からずっと服部文祥氏の著作を読んでいた。
服部氏の著作は6年前からの発行順に、『サバイバル登山家』(みすず書房、2006年。現在14刷)、『サバイバル! ――人はズルなしで生きられるのか』(ちくま新書、2008年。同初版)、『狩猟サバイバル』(みすず書房、2009年。同7刷)、『百年前の山を旅する』(東京新聞出版部、2010年。同4刷)、『狩猟文学マスターピース』(みすず書房、2011年。同初版)と単著では計5冊あるが、今年は『百年前の山を旅する』以外の4冊を。
というか、「読む」以上に時間をかけて、校正の仕事くらいの力の入れようで「視た」と言うほうが正しいかも。この件について。

コトの発端は昨年2月のトークイベントで服部氏と会ったときに、「俺の本も校正してくださいよ」と言われたことで、このときはお互いに単なる社交辞令としか思っていなかったはずだが、その翌日以降に、実は僕はそれまでに服部氏の文章は編集部員として所属している月刊誌『岳人』の記事は随時読んでいても既刊の著作を通しででは『サバイバル!』の1冊しか読んでいない状態だったので、なんなら読書ついでにやってみるか! と思い立ち、社交辞令をあえて真に受けて取り組むことにした。
なぜそう思ったかの決め手は、先の投稿でも挙げたように単に登山に関してはここ数年で最も好きな書き手であること。雑誌記事はよく読んでいてもこの頃は単行本のほうはあまり読んでいなかった状態も幸いで、もしすでに全部読んでいたら断って(無視して)いたかもしれない。

ひとまずそう決めて翌月から始めるつもりだったのだが、仕事しながら下準備をしている最中に東日本大震災が起こってしまい、その影響でばたばたしてしばらくはどうしても読む気分にはならず、優先してやるべきことも発生したせいでこの件は放置して無期延期の状態になっていた。

だが、年が明けて今年の年始、手持ちの仕事の区切りがついて落ち着いたこともあって、そろそろいいかな、と1月から着手した(まあ要はただの読書ですけど)。ただこれは報酬の発生する仕事ではないので、特に見返りなんか期待することもない極私的な趣味の一環として、しかしやるからには仕事並みに注力するために、仕事と趣味の中間のような位置付けで自分のなかでは“私事”という呼称で取り組んでいた。

で、具体的にどういう作業だったかは秘密、でもなくて挙げてもよいが細かく説明するのが面倒なので割愛するが、僕は本への書き込みは元々嫌いなのでそれはやめてふつうに別紙にメモを取ったり付箋を使ったりして疑問点を洗い出した一覧表を作って、1冊終えては服部氏に結果を随時送る(贈る?)、を繰り返すカタチであった。

服部本を改めて詳しく視ると誤植が結構あり、しかも今春に服部氏と東京都内某所で個人的に会ったときの“事情聴取”で知ったが、増刷するたびに気付いた点は修正していると聞き、だから刷数が後の本のほうが徐々に改善されている。とはいえ、一応はプロ校正者の僕の見立てでは正直とても改善したとは言えない(失礼ながら)お粗末な状態の箇所も数多く見受けられた(しかもそれが本の発売以降はずっと放置された状態で、なぜ誰も指摘しなかったのか……)。

僕は読者歴が今年で18年の『岳人』というと、今月発売の13年1月号からの誌面の大幅なリニューアルに伴って服部氏はなぜか編集部員なのに「スーパー(超)・登山論」という新連載を持つようになったが、それも含めてこれまでの氏の記事のなかでも誤植および誤植と疑わざるを得ない表記も散見され、ああせっかく表現者としてカッコイイことを書いてまとめたつもりでもそういう粗相がたとえ1文字か2文字程度でも存在するとそのぶん説得力を欠き、面目丸潰れまではいかなくてももったいないよなあ、と常にいち読者として心のなかでツッコミを入れていた。なので、(出版のために書き下ろした箇所も多々ある)本も似たような傾向なのかと最初から疑ってかかると案の定で、読み進めるうちに疑問点が次から次へと浮かび上がってきた。まあ良く言えば校正しがいがある、ということか。
今年は服部本を視ながら、良い内容なのに「もったいない」と心のなかで何百回言ったことか、というくらいにもったいない状態である(現在、全国の書店や図書館に流通している本たちが、ということ)。

“私事”で苦労した点をひとつ挙げると、読書以上に力を入れて読むために(1冊あたりで少なくとも3、4回は読み返すくらい時間をかける。というかホントは校正という作業は文章を読んではいけなくて文字を1つずつ追うものだが)、集中力を持続できる環境を探すのが大変だったことか。まあ大概は客入りの少なそうな立地・時間帯のマクドナルドを狙って行って毎回2時間以上は集中して取り組んでいたが(今年4月のエイプリルフール無視ネタで触れた、2月の沖縄県内の旅の最中に読んでいた本も『狩猟サバイバル』だった)、テレビやら菓子類やら横になれる布団やら誘惑の多い自室で、しかもあぐらのままずっと作業し続けるのは腰を痛めたりして限界があるので、どうしても誘惑を断ち切るために、そしてたまには椅子に座りたいがために外出する回数が多かった。だから今年は特に、最近流行りの“ノマド(ワーキング)”みたいなカタチが多く、ファストフード店や喫茶店に長時間入り浸る人たちの気持ちもわからなくはない。
ただ僕の場合はPCはあまり使わないほとんどアナログ作業なので(普段のちゃんと報酬のある仕事も、ペンを持ちながら校正紙とにらめっこの時間が大半)、“ノマド”が毎回苦慮する電源確保の問題とはほぼ無縁だったけど。

そういえば今年の服部氏の動向を振り返ると、お得意の“サバイバル登山”は少なめだった気がする(「気がする」というのは服部氏がウェブサイトやブログや最近流行りのSNSに否定的で、私的な情報発信は昔気質の活字媒体にこだわっている=お金にならないものは書きたくないからで、そのぶん私生活の情報は出さない影響もあるけど)。
その代わりに? 3月は神保町で内澤旬子女史の対談相手に指名され、4月は(『岳人』12年6月号の表紙と記事にもなったが)服部氏のファンだと公言する人気若手俳優の瑛太とともに八ヶ岳南部の雪山へ行き、夏はつり人社のムック『渓流 2012 夏』で登山装備の持論展開とともになぜかセミヌード写真!? を披露し、昨年の震災の影響で延期して今年開催となったモンベルの「冒険塾」では野田知佑・関野吉晴など野外業界の重鎮とともに講師役として名を連ねて参加者たちに泊まりがけで“サバイバル登山”を伝授し、陸上競技で数年前から取り組んでいるという中距離走の年代別で全国優勝し(記録は男子M40の800mのところに)、10月には実は旧知の仲の(ヒマラヤ8000m峰14座完登の)竹内洋岳氏との公開対談に登場し、ほかにもそれらの合間に講演がいくつかあり、と自分の行為と表現を突き詰めるよりも他者と交わる機会のほうが多かったか。なんでだろう、今年に偶然重なったのかなあ。というか、『岳人』の編集部員という本業以外の副業がやたら多いよなあ。

まあこれは、業界的に比較的どころかかなりの有名人の服部氏のことなので公的な情報は集めやすく、参考までにつらつら挙げてみましたけど。
このような服部氏の動向も掴みながら随時、僕が服部本を読了してからまとめた“調査結果”を随時送り、それに関する連絡・補足等をメールでやりとりしていた(ざっくり言い換えると、僕が服部氏に容赦なくツッコミを入れ続けていた)。氏の今年の表立った活躍の裏で、実は僕がそういう嫌味? なことをやっていたのであった。


渓流 2012 夏』。今夏、服部氏がこれにも登場していることを知っている人は釣り人以外では少ないと思われる。僕の仲間内でもほかに1人しか知らないっぽいから。この記事のなかにも目を覆いたくなるような大問題の誤字がある。

ああそういえば瑛太は、来月からの1月クールのテレビドラマに、フジテレビとテレビ東京の2本掛け持ちで主演するという無茶をやるらしいが、大丈夫かねえ(近年、同じクールのドラマを2本か3本、さらには映画や舞台演劇も、と仕事を複数掛け持つ役者は多いが、ドラマで主演級の掛け持ちは異例。でもまあ撮影時期はたいしてかぶっていなかったのだろうけど)。しばらくは山に行くどころではないだろうがまあ面白いので、同じ服部ファン目線で観るつもり。
ついでにもうひとつそういえば今年、瑛太と杏が共演の某飲料のテレビCMを観ると、登山経験者のあの組み合わせでオリジナルの山ドラマか映画を創ればいいのに、と思った。

そして、僕のその働きかけ? の結果どうなったかを宣伝ついでに挙げると、まだ『サバイバル登山家』の1冊のみだが、実はこの本は10月に約1年ぶりに増刷して14刷になったが、この刷から僕の指摘によって修正されたところが数箇所あり、若干だが本として改善されている。ただこれは素人目にはわかりにくいと思うが、たしかに替えている部分はある。さてどこでしょう。

おそらく絶版状態の『サバイバル!』の増刷や再販は今後も無いと思われるが(でも僕はこの新書サイズが最も読みやすいと思う)、服部本は各種媒体の本の特集記事や書店のフェアなどでも度々取り上げられるので、今後の再注目による売れ行き次第では『狩猟サバイバル』と『狩猟文学マスターピース』はまだまだ増刷の可能性がありそうなので、修正してそれぞれ8刷と2刷が刷られる場合は同様に僕の指摘部分が改善される、かもしれない。
ただ、どこを修正するかはやはり最終的に著者の判断に委ねることに。僕は最大限の選択肢を提供した時点で作業はおしまい。校正者という立場は作者を尊重するために出しゃばりすぎてもいけないので(本来こういう私的な話をブログに書くのもどうかと思うが、すでに世間に出回っている本のことですし、ネタとして面白いので、使ってしまってすみません)、結局はそんなものだ。

指摘箇所は、プロではあっても登山に疎い校正者が視ると見逃す、もしくはわざと流す点もあると思うし、登山の専門用語などある程度は登山のことを知っている者でないとわかりにくい記述もあり(道具、動作、仕組み、山・谷・尾根の名称、俗語などなど)、服部本の作業は(手持ちの時間が多いという意味も含めて)数多の校正者のなかでも近年の登山および関連媒体の傾向も掴んでいる(つもりの)僕にしかできないことではないか、と自負している。服部氏が『岳人』の編集に加わった約16年前から氏の書くものに触れているため、筆致を人一倍知っていることも強みだとも思いますし。
おそらく、服部氏の筆致は感覚的にも年配もしくは山岳関係の編集者やほかの書き手でも理解し難い部分もあるだろう(と、今回取り組んで尚更そう思った)。だから、服部本の一連の“私事”は面倒ではあったがやりがいは普段の仕事以上にあった。野外業界内の服部氏と僕の年齢的な立ち位置を再確認することもできてむしろ良い勉強にもなった。

ホントは服部本に関連する内容の媒体もなるべく調べて反映させたかったのにその時間はあまり取れなかったのは悔しいが、僕も普段の生活があるもので、どうしても、ねえ。まあこれが報酬付きでお金の懸かったれっきとした仕事であれば、目の色を変えて最優先で取り組むだろうけど。
でもまあ関連のある作品として今年、映画では『デルス・ウザーラ』と『リバー・ランズ・スルー・イット』を観て、あとマンガネタで挙げなかったがイブニング連載『山賊ダイアリー』(岡本健太郎、講談社)の既刊2冊も読んで、それらの作品に触れることも服部本の世界観の理解の一助にはなった。

出版物の編集と校正を担当する場合、その著者(もしくは依頼・発注者)の思惑や世界観にいかに深く寄り添うことができるか、というのが肝要だとは常に思いながら取り組んでいて(週刊ヤングジャンプ連載『ハチワンダイバー』で言うところの“ダイブ”の感覚で)、その点は仕事でも“私事”でも変わらないと思う。という僕の普段の仕事の初心に立ち返ることもできた、(僕が得することはほとんど無い、しかも無収入状態で取り組む、という意味で)苦しくも有意義な作業であった。こういう機会が生まれたことを逆に(僕の“私事”を受け容れる懐の深さもある)服部氏に感謝したい。今後はこのようなカタチを仕事としてできるとよいけどなー。

というわけで、今年の“私事”のおかげ? せい? で、服部本に限ってはおそらく書いたご本人以上に詳しくなった、かもしれない。とりわけ、漢字の使い分けや固有名詞・ルビの扱いやかぎ括弧付き会話文の挟み方など表記の癖に関しては尚更。なんなら、ビッグコミックスピリッツ連載『花もて語れ』ばりに情景描写を踏まえた朗読もできそうだなー。というか今後の何かの催しで、服部氏が直接それを披露すると面白いと思う。

ホントは併せて年内に終わらせたかった『百年前の山を旅する』が残ってしまったので、来年の年始から取り組んで早めに完結したい。それとともに僕は現金なヤツなので、業界的に顔も広い服部氏を介して今後は正式な仕事が入るといいなー、と淡く期待もしている。いわゆる、「損して得取れ」ということです、はい。