先週発売の雑誌『CYCLE SPORTS』10年5月号で、石田ゆうすけさんの連載「ぼくの細道」のあとのモノクロページに「池本元光からエミコまで 世界一周サイクリストの軌跡」という10ページの特集記事があって、これを本ブログでも度々触れてお世話になっている安東浩正さんが書いている。
内容は基本的に、世界一周や国外で長距離の自転車旅を実践する旅人が集まっているJACC(日本アドベンチャーサイクリストクラブ)の創立30周年記念にまつわる話なのだが、ここに未加入の僕でも知っている旅人の名前が結構あって、記事中に登場している42人中10人は安東さんや石田さんを含め、これまでに地平線会議や各種催事の場で会って話を直接聴いたり少し会話したりして各々の人間性をわずかではあるが実際に触れて知っている人たちであるね。
で、この記事の後半に、安東さんがこれまでとこれからの自転車乗りについて書いた一文が良かったので、ここで引用する。
「なにごとにもオシャレが重要なクールな時代に、テント、寝袋、生活道具を全部自転車に積みこんで、ときに野宿して旅する自転車野郎は多くない。だけど旅する自転車野郎が将来消えることもない。なぜなら旅は人類の宿命であり、自転車はそれに最もふさわしい乗り物だから。」
「宿命」はちょっと大げさかもしれないが(これは安東さんのクセとも言える表現の手法)、でも手段は自転車に限らず、僕も基本的に人間は食欲や物欲や性欲などの普段の生活にまつわる欲望と同等に、目的や規模や頻度に個人差はあれど、普段の生活から逸脱して他所の土地を巡りたいという意味での“旅欲”は誰しも持ち合わせている、ありきたりな表現だが「ここではないどこか」へ旅したい無意識の欲求もある、と思っているので、この表現には納得。
やはり人間は、きっかけは物見遊山でも自分探しでも自己表現でもいいからとにかく、日常を離れて旅しなきゃならんのですよ。全国各地で最近流行っているB級グルメ探訪やテレビ『ちい散歩』的な日帰りで行くぽてぽて散歩でも、数年がかりの自転車世界一周やシロクマの襲来に脅えながらマイナス40度以下の極地のスキーによる踏破行でもなんでも。
それに関連して、今年2月と4月に東京都内で、世界一周ではないがそれに近い結構大きな自転車旅話を聴く機会があったのだが、それらも事前に小耳に挟んでいたうえでの予想以上に面白かった。
前者が、記事の中盤でも触れられている、07年5月~08年12月にユーラシア大陸のネパール~マケドニア間約1万4000kmを単独で横断した松尾由香(まつお・ゆか)さんで、僕と共通の知人も何人かいたりする。女性が単独でこの長距離を、しかも中央アジアや、女性が屋外を出歩くには制限があって世界的にも特に気を遣うべきイスラム圏のイランも走破していることが珍しくて興味深かった。普段のブログとは別の、件の旅の最中に更新していたブログは以下。
http://yukacycle.exblog.jp/
『CYCLE SPORTS』で昨年にこの旅について短期連載していたのも読んでいたが、実際に会うと小柄でかわいらしくて、体力勝負の体育会系な雰囲気なんて微塵も感じられないこの雰囲気のままでユーラシア横断だなんて、と外見と、旅への準備期間や想いの深さおよび旅の結果との差異に驚いた。
それから後者は、07年7月にこちらも中国からユーラシア大陸横断に出て、インドシナ・チベット・ネパール・バングラデシュを経て、でも昨年末に旅の資金が尽きてインドで旅を中断している西川昌徳(にしかわ・まさのり)くん。
こちらは08年5月の中国・四川省の大地震のときにちょうど現地にいて、この被災地の支援活動に4か月かかわったり、そのあと初冬のチベットを南下してネパール・カトマンズで一度尽きた資金作りのためにネパール産ジーンズを自主制作・販売して(元々、学生時代に衣類関連の販売の経験があった)、ほかにも現地の子どもの教育支援にも参加して結局は09年前半に6か月も滞在したりして、と旅のなかで滞在期間が結構長く、旅の過程で各地でのボランティア活動も通じて人との出会いとつながりを比較的強く意識した旅、という印象。
彼は四川省・成都でその大変なときにタムラアキオ(本ブログで昨年触れた、大学の後輩)と会い、そのつながりから僕も今年初めに知り合ったが、なかなかのイケメンで、しかも来春に旅を再開するまでに関西圏を中心に講演活動に力を入れるためかすでにここ3か月で数本こなして喋り慣れていて、近年視てきた新たな旅人のなかでも比較的とっつきやすい感じの青年であるね。ブログは以下。
http://ameblo.jp/masanori0615/
件のジーンズもこのブログを介して1本6500円で販売していたそうで(ネパール-日本間のいわゆる「フェアトレード」の名目もある)。その後、インドでTシャツも制作していたとか。来年の旅の再開後もこういった動きは採り入れていくのかな。
最近の旅人は、諸外国からのブログ更新も国内にいるのと同様にふつうに行なっていてしかも盛んですなあ。そういえばふたりとも関西人のためか、喋りは巧いのよねえ。写真もともにデジタル一眼レフを使っていてなかなかですし(松尾さんはキヤノン、西川くんはニコン)。
それに、大きなことをやった・やろうとしている旅人は大概ギラついた雰囲気を醸し出しているものだが、ふたりともそういった尖った、(旅の経験で培われた)ある種他人を容易に寄せ付けないための壁や自分を護るための膜を張っている感じが見られなくて、旧来の冒険・探検的行為に臨む人よりも比較的のほほんとしているのも面白かった。旅の過程で死活問題に直面したこともあっただろうに、そういった面をあまり見せないスマートな物腰であることも、聴いていて感心するとともに逆に悔しくも思う。21世紀の旅人は各地で(心の壁を作らずに)出会いを重視する、という傾向になっていくのかね。まあ近年は旅人の年代性別や移動手段にかかわらず、地理的自然的な探索・発見よりも自己の内面を見直したり自己肯定感を味わったり自分の視野を拡げたりするための極私的な旅が増えているからなあ。
くぅー、旅を表現するというか記録する者のひとりとして、僕はふたりに対してかなりの敗北感がある(今年は例年よりもほかにも敗北感を味わってしまう旅人を知る機会がなぜか多い)。いろいろあってここ2年くらいは自転車旅から遠ざかっているし。それにそう簡単に比較するものでもないから、まあいいや。
というわけで、上記の安東さんのお言葉どおりに、今後も旅の自由度や達成感や資金面を熟考したうえで、あえて旅の移動手段に「人力」の自転車を選択する旅人は絶えず現れ続けるだろう、とは僕も周りの各種旅人の旅話に触れているなかで日々感じている。
内容は基本的に、世界一周や国外で長距離の自転車旅を実践する旅人が集まっているJACC(日本アドベンチャーサイクリストクラブ)の創立30周年記念にまつわる話なのだが、ここに未加入の僕でも知っている旅人の名前が結構あって、記事中に登場している42人中10人は安東さんや石田さんを含め、これまでに地平線会議や各種催事の場で会って話を直接聴いたり少し会話したりして各々の人間性をわずかではあるが実際に触れて知っている人たちであるね。
で、この記事の後半に、安東さんがこれまでとこれからの自転車乗りについて書いた一文が良かったので、ここで引用する。
「なにごとにもオシャレが重要なクールな時代に、テント、寝袋、生活道具を全部自転車に積みこんで、ときに野宿して旅する自転車野郎は多くない。だけど旅する自転車野郎が将来消えることもない。なぜなら旅は人類の宿命であり、自転車はそれに最もふさわしい乗り物だから。」
「宿命」はちょっと大げさかもしれないが(これは安東さんのクセとも言える表現の手法)、でも手段は自転車に限らず、僕も基本的に人間は食欲や物欲や性欲などの普段の生活にまつわる欲望と同等に、目的や規模や頻度に個人差はあれど、普段の生活から逸脱して他所の土地を巡りたいという意味での“旅欲”は誰しも持ち合わせている、ありきたりな表現だが「ここではないどこか」へ旅したい無意識の欲求もある、と思っているので、この表現には納得。
やはり人間は、きっかけは物見遊山でも自分探しでも自己表現でもいいからとにかく、日常を離れて旅しなきゃならんのですよ。全国各地で最近流行っているB級グルメ探訪やテレビ『ちい散歩』的な日帰りで行くぽてぽて散歩でも、数年がかりの自転車世界一周やシロクマの襲来に脅えながらマイナス40度以下の極地のスキーによる踏破行でもなんでも。
それに関連して、今年2月と4月に東京都内で、世界一周ではないがそれに近い結構大きな自転車旅話を聴く機会があったのだが、それらも事前に小耳に挟んでいたうえでの予想以上に面白かった。
前者が、記事の中盤でも触れられている、07年5月~08年12月にユーラシア大陸のネパール~マケドニア間約1万4000kmを単独で横断した松尾由香(まつお・ゆか)さんで、僕と共通の知人も何人かいたりする。女性が単独でこの長距離を、しかも中央アジアや、女性が屋外を出歩くには制限があって世界的にも特に気を遣うべきイスラム圏のイランも走破していることが珍しくて興味深かった。普段のブログとは別の、件の旅の最中に更新していたブログは以下。
http://yukacycle.exblog.jp/
『CYCLE SPORTS』で昨年にこの旅について短期連載していたのも読んでいたが、実際に会うと小柄でかわいらしくて、体力勝負の体育会系な雰囲気なんて微塵も感じられないこの雰囲気のままでユーラシア横断だなんて、と外見と、旅への準備期間や想いの深さおよび旅の結果との差異に驚いた。
それから後者は、07年7月にこちらも中国からユーラシア大陸横断に出て、インドシナ・チベット・ネパール・バングラデシュを経て、でも昨年末に旅の資金が尽きてインドで旅を中断している西川昌徳(にしかわ・まさのり)くん。
こちらは08年5月の中国・四川省の大地震のときにちょうど現地にいて、この被災地の支援活動に4か月かかわったり、そのあと初冬のチベットを南下してネパール・カトマンズで一度尽きた資金作りのためにネパール産ジーンズを自主制作・販売して(元々、学生時代に衣類関連の販売の経験があった)、ほかにも現地の子どもの教育支援にも参加して結局は09年前半に6か月も滞在したりして、と旅のなかで滞在期間が結構長く、旅の過程で各地でのボランティア活動も通じて人との出会いとつながりを比較的強く意識した旅、という印象。
彼は四川省・成都でその大変なときにタムラアキオ(本ブログで昨年触れた、大学の後輩)と会い、そのつながりから僕も今年初めに知り合ったが、なかなかのイケメンで、しかも来春に旅を再開するまでに関西圏を中心に講演活動に力を入れるためかすでにここ3か月で数本こなして喋り慣れていて、近年視てきた新たな旅人のなかでも比較的とっつきやすい感じの青年であるね。ブログは以下。
http://ameblo.jp/masanori0615/
件のジーンズもこのブログを介して1本6500円で販売していたそうで(ネパール-日本間のいわゆる「フェアトレード」の名目もある)。その後、インドでTシャツも制作していたとか。来年の旅の再開後もこういった動きは採り入れていくのかな。
最近の旅人は、諸外国からのブログ更新も国内にいるのと同様にふつうに行なっていてしかも盛んですなあ。そういえばふたりとも関西人のためか、喋りは巧いのよねえ。写真もともにデジタル一眼レフを使っていてなかなかですし(松尾さんはキヤノン、西川くんはニコン)。
それに、大きなことをやった・やろうとしている旅人は大概ギラついた雰囲気を醸し出しているものだが、ふたりともそういった尖った、(旅の経験で培われた)ある種他人を容易に寄せ付けないための壁や自分を護るための膜を張っている感じが見られなくて、旧来の冒険・探検的行為に臨む人よりも比較的のほほんとしているのも面白かった。旅の過程で死活問題に直面したこともあっただろうに、そういった面をあまり見せないスマートな物腰であることも、聴いていて感心するとともに逆に悔しくも思う。21世紀の旅人は各地で(心の壁を作らずに)出会いを重視する、という傾向になっていくのかね。まあ近年は旅人の年代性別や移動手段にかかわらず、地理的自然的な探索・発見よりも自己の内面を見直したり自己肯定感を味わったり自分の視野を拡げたりするための極私的な旅が増えているからなあ。
くぅー、旅を表現するというか記録する者のひとりとして、僕はふたりに対してかなりの敗北感がある(今年は例年よりもほかにも敗北感を味わってしまう旅人を知る機会がなぜか多い)。いろいろあってここ2年くらいは自転車旅から遠ざかっているし。それにそう簡単に比較するものでもないから、まあいいや。
というわけで、上記の安東さんのお言葉どおりに、今後も旅の自由度や達成感や資金面を熟考したうえで、あえて旅の移動手段に「人力」の自転車を選択する旅人は絶えず現れ続けるだろう、とは僕も周りの各種旅人の旅話に触れているなかで日々感じている。