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愛犬はチェルノブイリ出身

2018-12-05 06:04:26 | 新聞記事・Webニュース・テレビ・書籍・ブログなど

愛犬はチェルノブイリ出身──原発事故で置き去りにされたペットの子孫を里親へ
Meet the Dogs ofChernobyl

2018年11月30日(金) NewsWeek

リサ・スピアー

<ゴーストタウン化した原発事故の町に生きる約1000頭の犬を保護する活動が進んでいる>
ウクライナ北部の町チェルノブイリで、史上最悪レベルの原子力発電所事故が起きたのは32年前のこと。発電所はもちろん、半径30キロ圏内は「チェルノブイリ立入禁止区域」に指定され、住民は直ちに避難を余儀なくされた。ソ連時代の団地や遊園地は、今も無残な姿で打ち捨てられたままだ。
そんな文字どおりのゴーストタウンで、よく見掛けるのが野良犬たち。
昼間は、雑草が生い茂ってアスファルトが見えなくなった道路に寝そべり、のんびりと日光浴をしている。
日が暮れると、群れをなして走り回ったかと思えば、鼻を空に突き上げて遠ぼえを始める。


チェルノブイリ立入禁止区域には多くの犬が生息する GLEB GARANICHーREUTERS

そんな野良犬たちにとって最大の栄養源は、人間の食べ物だ。チェルノブイリでは今も事故現場の処理作業が続いており、毎朝数百人の一時労働者が列車でやって来る。彼らは愛嬌のある野良犬たちを気に入り、自分の昼食を分けてやるのだ。
だが、野良犬の多くは4歳になる前に死んでしまう。
「5歳の犬を見つけたら、おじいちゃんだ」と、チェルノブイリで働く環境放射線学者のルーカス・ヒクソンは言う。ただし犬たちの寿命が短いのは放射線のせいではなく、凍えるような寒さのせいだとヒクソンは言う。

◆事故とは無関係の被害者
たとえ厳しい冬を生き抜いても、オオカミやイノシシといった捕食者に襲われる可能性がある。
そこでヒクソンは16年、クリーン・フューチャーズ基金(CFF)を立ち上げて、チェルノブイリの野良犬たちの保護活動を始めた。


チェルノブイリの犬 Blinoff-iStock

今年7月、ヒクソンはチェルノブイリで保護した子犬15匹を連れて、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に降り立った。
そこで子犬たちは、アメリカの里親と感動的な対面を果たした。
「胸を打たれた」と、ヒクソンは振り返る。
CFFでは、さらに15匹の子犬の里親も募集する計画だ。
だが、誰でも里親になれるわけではない。
子犬たちが愛に満ちた、安定した家庭に引き取られるよう、里親希望者たちは厳しい審査をくぐり抜けなければならない。
「この犬たちは原発事故とは何の関係もない被害者だ。だから生活の質を改善し、よりよい未来を持てるよう、できることは何でもするつもりだ」と、ヒクソンは言う。
1986年4月にチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で爆発が起きたとき、近隣の町プリピャチでは、住民5万人に緊急避難命令が出た。
状況がよく分からなかった住民の多くは、すぐに戻ってこられると思ってペットを置いていった。
だがそのほとんどは、二度と町に戻ることはなかった。
現在チェルノブイリをうろつく犬は、このとき置き去りにされたペットの子孫と考えられている。
CFFによると、その数は現在1000頭に迫る勢いだ。
「犬好きな人は、チェルノブイリに来てほしい。きっと気に入るはずだ」と、9カ月前から原発処理業務の監督を務めるティム・モロハンは言う。
毎朝、モロハンがチェルノブイリの駅に到着すると、何匹もの子犬が跳びはねて寄ってくる。
「コーヒーを飲まないと一日が始まらないと言う人は多いが、私の場合、犬とじゃれ合わないと一日が始まらない」と、彼は笑う。
「チェルノブイリの犬を故郷に連れて帰れたら最高なのにと、いつも同僚たちと話していた」


子犬の保護活動に従事するボランティア SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

だからフェイスブックで「犬の里親募集」という記事を見つけたとき、モロハンはすぐに米ジョージア州にいる妻に電話した。
事情を説明すると、妻はモロハンが帰国する際に、チェルノブイリの子犬を1匹引き取ってもいいと言ってくれた。
そこでこの7月、モロハンは生後3カ月の子犬フレディーを連れてジョージアに帰ってきた。
フレディーは白い体に黒ブチが入った元気な子犬で、事故のあった4号炉から100メートル足らずの所にある機材小屋で、母犬と共に保護された。
CFFに保護されて里親に引き取られる犬たちは、体毛に放射性ちりが紛れていたりしないように、飛行機に乗る前に徹底的な洗浄を受ける。
さらに1カ月にわたりさまざまな検疫を受けて、健康証明書を発行してもらう。
「体内被曝の検査も受けて、引き取り先の家庭に大きな危険をもたらさないという証明書が発行される」と、サウスカロライナ大学のティム・ムソー教授(生物学)は語る。

◆「奇形」は見たことがない
ムソーは2000年代から、放射能がチェルノブイリの自然に与える影響を研究しており、現在は動物のDNA破壊を調べるために野良犬たちを調べている。
これまでのところ、ほとんどの犬は立入禁止区域の中でも汚染レベルが比較的低い場所に生息していることが分かった。
中には、食べ物と一緒に放射性物質セシウム137の粒子をわずかながら摂取している犬もいる。
だが、放射性物質の混ざっていないエサを数週間あるいは長くても数カ月与え続ければ、代謝されて体外に排出されると、ジョージア大学のジェームズ・ビーズリー准教授(野生生物生態系・管理)は指摘する。
立入禁止区域に生息する動物の一部は、低レベルの被曝により放射線耐性を獲得している可能性がある。
ただ、これまでにそれが確認されたのはバクテリアだけだとムソーは言う。
また、里親プログラムの対象になる犬は皆、避妊または去勢手術を受けているため、アメリカに移住した後にその遺伝子が受け継がれる可能性はないと、ムソーは断言する。
「ほとんどの犬は放射能を浴びたようには全く見えない。これはちょっとした驚きだ。頭が2つある犬といった奇形や大きな遺伝子異常は見たことがない」

◆チワワはいないけれど
立入禁止区域に生息する動物の全てがこうではない。
ムソーは、くちばしに腫瘍がある鳥や、生殖能力のないネズミ類を見たことがある。
クモの生息数も減ったし、ほとんど姿を消してしまった鳥もいる。
ところが犬の数は増えている。
しかも驚きなのは非常に健康なことだと、ムソーは言う。
チェルノブイリの犬の特徴は、大きくて垂れ下がった耳と、筋肉質のがっちりした体だ。
「自然淘汰を勝ち抜いた種は、より強くてタフだ。この区域にマルチーズやチワワはいないだろう?」と、ヒクソンは言う。
ヒクソンは、13年に専門家交流プログラムのボランティアとして初めてチェルノブイリを訪れた。
そのとき路上をうろつく野良犬の数に驚いたという。
その犬たちと地元住民の温かさにほれ込み、16年にパートナーのエリック・カンバリアンとCFFを設立。
ドッグシェルターと動物病院を造って、野良犬たちの保護に当たっている。


クリーン・フューチャーズ。基金では専門家が犬たちの不妊手術やワクチン接種を行っている SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

今年に入り、ヒクソン自身もチェルノブイリから子犬を引き取った。
CFFのチームが保護・治療した犬の第2号だったので、ロシア語で2を意味する「ドゥバ」と名付けた。
「本当に美しくて、好奇心の強い子犬だ」とヒクソンは言う。
「すっかり心を奪われてしまった」
CFFは当初、ドゥバを保護して不妊手術をした後、立入禁止区域に戻そうとした。
だが、何度放しても、ドゥバはクリニックに戻ってきてしまった。
「手術室に座って、獣医たちの仕事をじっと見つめている」と、ヒクソンは言う。
「まるで私たちがちゃんと仕事をしているかチェックしているみたいに」
ドゥバは今、シカゴ郊外のヒクソンの両親の家に住んでいる。
「動物は、人間に重要な影響を与える。実際にペットを飼うまで、動物が自分にとってどんなに重要な存在になるか想像するのは難しいと思う。驚くような共生関係が構築される」と、ヒクソンは言う。
「チェルノブイリの子犬たちも、普通の犬と何ら変わらない。注目されるのが大好きで、愛を必要としているんだ」


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