和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

知的生産のための『技術』

2023-12-10 | 重ね読み
そういえば、津野海太郎著「おかしな時代」(本の雑誌社)を
ひらくと、劇団と津野さんとの関連がわかる。そして、
劇団ということなら、吉田光邦氏とつながる。

うん。この点が面白そうなので引用を重ねます。

西村恭一氏の吉田光邦氏への追悼文に、
演劇にかかわる吉田氏のことがわかるのでした。

「吉田(光邦)先生が当時龍谷大学予科の教授で、演劇部の顧問で・」
          (p55 「吉田光邦両洋の人 八十八人の追想文集」)

そのころは、どんな感じだったのか。こばやしひろし氏は書いてます。

「『詩の朗読と劇の会』は図書館の講堂でやった。・・・
  光邦さんも誰の詩だったか忘れたが朗読された。

  それが下手なのである。実に下手な朗読で何をいって
  おられるのか伝わらないのだ。ところが本人は気を入れて
  おられるつもりだから始末に悪い。・・・・
  残念ながら当日まで下手だった。少なくとも
  リズム感のある人ではなかった。

  舞台に立たれたのはそれだけで後は役者をやるわけでもなし、
  演出をやるわけでもない。ただ私たちの稽古を見ておられるだけである。
  こちらが行き詰まると『こうしたらどう』と助けを出されるが、
  それが助けにならない程度のご意見である。

  それでも大道具を手伝ったり、効果を手伝ったりされ、
  私たちと舞台を創ることを楽しんでおられた。・・ 」(p48 同上 )


はい。ここからが本題「知的生産のための『技術』」となります。
梅棹忠夫著「知的生産の技術」は、イマイチ『技術』という箇所が
わからないでいた私なのでした。

梅棹忠夫著「対論『人間探求』」(講談社・昭和62年)のなかに
吉田光邦氏との対談「産業技術史の文明論的展開」が載ってます。

はい。最後にこの対談から、この箇所を引用しておきます。
小見出しには「技術にささえられた大衆社会」とある。

吉田】 これまで財界人ばかりせめましたが、このことは
    日本人に共通のことのようにおもいます。

    日本の社会が大衆社会だといわれていますが、
    大衆社会が成立しているのは技術があるからこそなんです。

    大衆にマイクとスピーカーでよびかける
    技術がなかったらできないわけです。そういう
    おおくのマスコミュニケーションというものが動く。

    つまりそれまではロンドンのハイドパークで自分の
    のどをふりしぼって政治演説してるマスと、
    現在のマイクやスピーカーをつかてやるマスとでは、
    到達するレベルがちがうでしょう。いわば大衆社会を
    つくりあげるひじょうに大きな役割をもつわけです。

    もちろんテレビ、ラジオ、新聞、印刷、ぜんぶ技術があるから、
    大衆社会ができてきた。だから大衆社会というのは、
    社会学的現象ではあるが、同時にそれは
    技術にささえられてうまれた現象なんでしょう。

    ところが、案外そこがスポッとおちてるんです。
    大衆社会論は山ほどあるけれども、
    それは技術でできあがっているという認識がない。 (p117~118)


このあとでした。演劇の場面からの例を吉田光邦氏は語り
なんともわかりやすかったのです。


吉田】 ほんとにふしぎなんですよ。たとえば伝統芸能といわれる
    能・歌舞伎だって、今日はぜんぜんちがうんです。

    現在の坂東玉三郎や片岡孝夫の人気は、
    あたらしい照明とあたらしい舞台機構にささえられているんです。
    江戸時代の歌舞伎では、百目ろうそくをならべて、  
    その突きだしたろうそくの光で顔を照らしていたわけです。
    ・・・・・

  いま大劇場のうえにいくと、ものすごいスイッチ・ボードがあるんです。
  そのスイッチ・ボードに専門の技術者がいてやるから、
  玉三郎も映えるわけです。その事実が完璧におちている。

  そういう認識が完全におちて、そして歌舞伎は歌舞伎、
  能は能で、これこそ伝統芸能だということでやってるわけでしょう。
  それがおかしいんです。

梅棹】 それが中世から現代までおなじものとしてかんがえとるから、
    ほんとうにおかしい。たしかに、ある種の伝承があって
    おなじ部分がある。それはあるんです。

    しかし、それをささえてる条件というのが、
    過去と現在とではすっかりかわってる。

吉田】 逆にいえば、そういう条件があるからこそいけるんですよ。
    京都の南座でも2400人はいるわけでしょう。
    それがはいるから、歌舞伎興行が成立するんです。

    むかしの二、三百人ではいまの歌舞伎は成立しないんです。(~p119)


はい。対談はこのあとが佳境にはいるのですが、ここまで(笑)。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 現代の職人気質? | トップ | ふたたび席に戻る。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

重ね読み」カテゴリの最新記事