和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「よく出来ました、おめでとう」

2020-04-16 | 前書・後書。
本は読まずに、前書きと、後書きのパラパラ読みで
すませる私がおります。はい。それだけで満腹。

ネット上で、本の検索をするのですが、
今回の検索は、芳賀徹でした。
うん。文庫本の解説を芳賀徹氏がしている。
その本も、検索に引っ掛かるのが、何ともありがたい。


さっそく
山川菊栄著「武家の女性」(岩波文庫)をひらく。
はい。お目当ては、芳賀徹の解説文でした。
そこから、引用することに

「・・興味津々の話題が多く・・・
『お縫子(ぬいこ)として』の章の次の挿話などはどうだろう。

それは菊栄の母千世が13になって、水戸川崎町の
石川富右衛門という貧しい老藩士の奥さんのところに
お裁縫を習いにいっていたときの話である。

六尺ゆたかの、頭の禿げた老藩士は、いつも息子とともに
傘張りの内職に精出していたが、一方、自分の家にくる10人
ばかりのお縫子たちのことが可愛くて自慢でならなかったらしい。

奥さんのお師匠さんの方もそのことをちゃんと心得ていて、
お弟子さんが着物を一枚仕立て上げると、
『それでようござんすからおじいさんの所へもっていらっしゃい』

という。そこでいそいそとおじいさんの仕事場にもっていくと、
おじいさんはいかにも心得たような顔で
仕立物のあちこちを調べたあげくーーー

『結構です、よく出来ました、おめでとう』
と褒(ほ)めて祝ってくれます。それから

『それでは私が霧を吹いてあげよう』
といいます。その頃の着物は手織もめんですから
縫っている間に皺(しわ)だらけになるので、
仕立て上げると霧を吹くことになっていました。

おじいさんは、毎日傘を張っては霧を吹くので、
霧吹きは慣れたもので確かに名人です。・・・・・・

おじいさんに、お礼をいって部屋へ帰り、
仕立物をお師匠さんの前において手をつき、

『おじいさんがこれでいいとおっしゃいました』
と報告します。そこで始めてお師匠さんも、
『おめでとうございます』
と祝ってくれ、ここでまたお礼をいい、
それからお友達一同に向かい、仕立物を前において、
『皆さん、ありがとうございました』というと、
口々に、『おめでとうございます』といってくれるのでした。
 (本文、41~42頁)

芳賀徹氏は、こうして解説の中で本文を引用したあとに

「なんとも美しく、またほほえましい話ではないか。
そして話題にぴったりと合った、その語り口のうまさ。
・・・・・・・・・・
そのゆるやかなテンポが、このまるで童話か民話のような
お針塾の雰囲気をかえっていきいきと伝えてくれる。
・・・・・・・・・
菊栄は娘のころから母千世のこんな昔話を聞くのが好きで、
繰り返し繰り返し聞くうちに、その昔風ののどかな口調まで
おぼえてしまったのにちがいない。
・・・・・・・・
菊栄も昭和17・8年のころ、戦時下の薄暗い藤沢の田舎で
・・・・このような遠い昔の母や祖母やおばたちの話を
書いてゆけば、いくらかはその心もなごみ、
勇気づけられる思いがしたことであろう。」

この後に、芳賀徹氏は指摘するのでした。

「古い日本では、お裁縫を習い、簡単な着物一つでも
仕立てるということは、少女たちにとってはこれほどにも
真剣な、大切な修業の一つだったということであろう。

彼女らの人生における一つの通過儀礼のようなもの
でさえあったらしい。だからこそ、一段を通過するたびに、
おじいさんは霧を吹いてくれ、お師匠さんも仲間たちも
『おめでとうございます』をいってくれ、当人は
『皆さん、ありがとうございました』をいったのである。

この水戸の石川夫人の塾に限らず、ほかでも多分そうだった
のだろうと思うが、そこにはたしかに儀礼というのに近い
一つのしきたりがあった。」(~p196)


はい。この解説で私は満腹。
最後の解説を引用したので、
著者のはじまりの『はしがき』からも引用。

「私がここに御紹介するのは、安政4年、水戸に生れて、
今年87歳になる老母の思い出を主とした、幕末の
水戸藩の下級武士の家庭と女性の日常の様子であります・・」

この文庫には写真が2枚あります。
文庫のはじまりに、山川菊栄の母親・青山千世が、
青山千世のご両親といっしょの写真(明治12年)。
もう1枚の写真はというと、解説にありました。
それは、昭和5年5月の自宅の庭での写真らしく、
千世と菊栄の二人が写っております。

はい。その2枚の写真を見てるだけでも、
いいんです(笑)。









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2 コメント

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情景 (きさら)
2020-04-17 07:40:54
老夫婦とお針仕事の娘さんたちとの
やり取りの情景が 浮かんでくるような
文章ですね。

私は 短大の家政科を出ましたので
和裁も学びました。
浴衣やウールの着物などの 単衣の着物を
縫いましたよ。
コワイ高齢の先生の下に提出すると~
出来の悪い箇所があると
「お直し」をさせられるのです。
私も何度かさせられました。
不器用なものですから。。。

それでも 今のこのヒマな時期に
私が
「刺し子」などという お針仕事で楽しめるのは
この授業のせいかもしれませんねえ。
今の方が 針仕事は上達したかも。。。

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手作りマスク (和田浦海岸)
2020-04-17 09:06:33
きさらさん、コメントありがとうございます。
ちょうど、身近では、家でも、知り合いも、
手作りマスクをつくっておりまして、
そういえば、新聞・ネットでも手作りマスクの
作り方のさまざまが開示されてたのしめました。

まるで、手作りのお弁当をつくるような、
そんな感じで、マスクをこしらえてる。
そのように思って見ておりました。

うん。その連想から、この本の箇所が
思い浮んだのかもね(笑)。

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