吉田光邦著「日本の職人」(角川選書)をひらいてたら、
今まで食わず嫌いのままだった落語関係本に興味がわく。
これから、落語の本が読めるかもしれない(笑)。
さて「日本の職人」のなかに江戸時代の年季奉公を
とりあげた箇所があるのでした。
「・・年季奉公のほかに一年または半年で代る出替り奉公があったが、
技術を身につけねばならぬ職人の場合は、こうした例はみられない。
商家でも番頭、手代、丁稚(でっち)、小僧はふつう10年を
奉公の期限としていたが、職人も同じように10年をふつうとしていた。
・・・・・・・・・
徒弟は衣食住一切を、主人から支給されて働くことになる。
衣はつまり御仕着(おしきせ)で夏冬二回がふつうだった。
また正月、7月の2回に3日ずつ藪入(やぶい)りといって
実家に帰り休養することができた。この1年に6日が
奉公人の唯一の休日だったのである。・・・・ 」(p271・徒弟制度)
ああ、そういえばと、与謝野蕪村が思い浮かぶ。
ここには、中村草田男著「蕪村集」(大修館書店)から引用。
やぶ入(いり)の夢や小豆の煮(にえ)るうち
草田男訳】 藪入に帰った子供が、親の心づくしの小豆が煮えあがるまでと、
しばらく身をやすめて眠っている。いかにも時間が限られた
あわただしい夢の間だが、そこには楽しくもさまざまな
想いが通っていることであろう。
そのあとの注に、季題は藪入として
『 毎年正月16日に、男女の奉公人が許されて父母の膝下に帰り、
一日の休養をとりまた随意に行楽すること。 』
つぎの句は、『 やぶ入りの跨(またい)で過(すぎ)ぬ凧の糸 』
うん。高橋治著「蕪村春秋」のはじまりは、『やぶ入り』でした。
最後に、そのはじまりを引用。
「 やぶ入や浪花(なには)を出(いで)て長柄(ながら)川
春風や堤(つつみ)長うして家遠し
・・・・上掲二句により蕪村不朽の傑作
『春風馬堤曲(しゅんぷうばていのきょく)』が書き出される・・
蕪村の前書きによれば、ある日やぶ入りで故郷に帰る若い女と道連れになり、
同行数里、18首からなる詩句でその女の心を詠んだ作品だという・・
やぶ入りは正月と盆の16日前後に、昔の奉公人が
親もとに帰る貴重な休暇である。・・・ 」
ちなみに、高橋治氏のこの本には、こうもありました。
「 蕪村吟とされるやぶ入りの句は11句残されている。
とびぬけて多いとはいえないものの、ひとつの季語
による作品数としてはかなり目立つことである。
因みに、芭蕉にはやぶ入りを詠んだ句は一句もない。 」