乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 六 煩悩(ほんのう)の垢(あか)かき 【3】十七丁ウ 井原西鶴

2020-05-23 | 井原西鶴

 


 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 六 煩悩(ほんのう)の垢(あか)かき 【3】十七丁ウ 井原西鶴

  

中高(なかたか)なる顔にて、秀句(しうく)よくいへる女あり、とらえて、

「御名(な)ゆかしき」と問(と)へば、忠度(たゞのり)と申、「いか様 是を只(ただ)は

置(をか)れじ」と、うす約束(やくそく)するよりはや、あがり湯(ゆ)の

、くれやう、ちらしをのませ、浴衣(ゆかた)の取(とり)さばき、火入(ひいれ)に

気(き)をつけ、鬢水(びんみづ)を運(はこ)び、鏡(かゞみ)かすやら、其(その)もてなし

、何国(いづく)も替(かは)る事(こと)なし、風義(ふうぎ)ハ、ひとつきる物、つまたるに、

白帯(しろおび) こゝろまゝ引しめ、「やれたらば 親(おや)方のそん、

久三、提灯(てうちん)ともしや」と、いふかた手に、草履(ざうり)取出し

くゞり戸(ど)出まわり、調子高(てうし たか)に、はうばいを譏(そし)り、

朝夕の、汁(しる)がうすひの、「はさみを、くれる筈(はず)じやが、

たるゝか、しらぬ」と、ひとつとして、聞(きく)べき事にもあらバ

 

中高(なかたか)なる顔にて、秀句(しゅうく)よく言える女あり、とらえて、

「御名(な)ゆかしき」と問えば、忠度(たゞのり)と申、「いか様(さま) 是を只(ただ)は

置れじ」と、うす約束するより早、あがり湯の

くれやう、ちらしを飲ませ、浴衣の取りさばき、火入れに

気を付け、鬢水(びんみず)を運び、鏡かすやら、其 もてなし

、何国(いづく)も替る事なし、風儀(ふうぎ)は、ひとつ きる物、妻たるに

白帯(しろおび) 心(の)まま引きしめ、「やれたらば 親方の損、

久三、提灯 灯しゃ」と、言う片手に、草履 取出し

潜り戸(ど)いでまわり、調子高 に、はうばいを譏(そし)り、

朝夕の、汁が薄いの、「はさみを、くれる筈じゃが、

足るるか知らんと、ひとつとして、聞くべき事にもあらば

 

中高

 1 中央が小高く盛り上がって、周囲が低くなっていること。また、そのさま。「料理を中高に盛る」

 2 鼻筋が通って整った顔であること。また、そのさま。「中高な(の)面立ち」

中高(なかたか)なる顔

 鼻筋が通って整った顔

ゆかし 形容詞シク活用   古語辞典
 ①見たい。聞きたい。知りたい。  出典徒然草 一三七
 ②心が引かれる。慕わしい。懐かしい。  出典野ざらし 俳文
 
御名ゆかしき
 お名前をお聞きしたい
 
忠度  (平忠度)
 平安時代の平家一門の武将。平清盛の異母弟。
 謡曲『忠度』有り。
 
如何様(いかさま)
 いかにもその者らしい の意。偽物。まがい物。
( 副 )
 ① かなりの確率を抱きながら、推測する場合に用いる。いかにも。きっと。恐らく。 
 ② 決意を表す語。きっと。 
(形動ナリ)
 どのよう。いかよう。いかよう。
( 感 )
 なるほど。いかにも。 
如何様(いかよう)と読む場合は、
 どのようにも、どんなふうでも、といった意味の表現。

只(ただ)は置(をか)れじ

 只(ただ)は、忠信の掛詞

ちらし

 線香、こがし

浴衣(ゆかた)の取(とり)さばき

 「浴衣(ゆかた)の取(とり)さばき」という言葉で、片岡仁左衛門の鯔背なゆかたの着こなし(浴衣を宙にさっ!と 広げ上げて、両手を通し、浴衣を着る)を思い浮かべた。

風義(ふうぎ) 

 風儀のこと

はうばい(朋輩) 

 なかま。友だち

 

 



『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 六 煩悩(ほんのう)の垢(あか)かき 

【1】十六丁ウ 井原西鶴

十三夜の月、待宵(まつよい)めいげつ、いつくハ、あれと須磨(すま)は

殊更と、波(なみ)爰元(こゝもと)に、借(か)りきりの小舟(こぶね)、和田(わだ)の御崎

をめくれは、角(つの)の松原塩屋(まつはらしおや)といふ所ハ、敦盛(あつもり)をとつて

おさえて、熊谷(くまかへ)が付さしせしとほり、源氏酒(けんじさけ)と、たハ

ふれしもと、笑(わら)ひて、海(うみ)すこし見わたす、浜庇(はまひさし)に

舎(やど)りて、京よりもたさる、舞鶴(まいつる)花橘(はなたちはな)の

口をきりて、宵(よい)の程ハなくさむ業(わざ)も、次第(したい)に、月さへ

物すこく、一羽の声(こゑ)ハ、つまなし鳥かと、なを淋(さい)しく

一夜も、只ハ暮らし難(かた)し、若ひ蜑(あま)人ハないかと、有ものに

まねかせててみるに、髪(かみ)に指櫛(さしくし)もなく、顔(かほ)に何(なに)塗(ぬる)事も

十三夜の月、待宵名月、何處はあれど、須磨は

殊更と、波 爰元に、借りきり小舟、和田の御崎

をめくれば、角の松原塩屋といふ所ハ、敦盛をとつて

おさえて、熊谷(くまがへ くまがいか)源氏酒(げんじさけ)と、戯

れしもと、笑いて、海少し見わたす、浜庇(はまびさし)に

舎(やど)りて、京よりもたさる、舞鶴(まいづる)花橘(はなたちばな)の

口をきりて、宵(よい)の程ハ 慰む業(わざ)も、次第(しだい)に、月さへ

物すこく、一羽の声(こゑ)ハ、妻無し鳥かと、尚 淋(さい→さみ 掛詞)しく

一夜も、只ハ暮らし難(がた)し、若い蜑(あま)人ハ無いかと、有(無、有 掛詞)ものに

招かせててみるに、髪に指櫛(さしくし)も無く、顔(かお)に何塗(ぬる)事も

【2】十七丁オ 井原西鶴

しらず、袖(そて)ちいさく、裾(すそ)みぢかく、わけもなふ磯くさく、こゝち

よからざりしを、延齢丹(ゑんれいたん)などにて、胸(むね)おさえ、「昔(むか)し行平(ゆきひら)

何(なに)ものにか、足(あし)さすらせ、気をとらせ給ひ、あまつさへ

別(わかれ)にか、香(かう)包(つゝみ)、衛士籠(ゑじかご)しやくし、擂鉢(すりはち)三とせの世帯道(だう)

具まで、とらされけるよ」と、又の日ハ、兵庫(ひやうご)迄(まで)来(き)て、遊女(ゆうちよ)

の有様、昼夜(ちうや)のわかちありて、半(はん)夜と、せハしく

かきり定めるハ、今にも此(この)津(つ)ハ、風にまかする身(み)とて

、舟子(ふなこ)のよびたる声(こゑ)に、小歌(こうた)を聞(きゝ)さし、或(あるい)は

戴(いたゞひ)て、さし捨(すて)にして行ハ、こゝろのこすハ、のこる

べし、何とやら騒々(そう/″\)しく、是(これ)によこるゝもと、すぐに

風呂(ふろ)に入て、「名(な)のたゝば、水(みず)さします」なとと、口びるそつて

知らず、袖(そで)小さく、裾(すそ)短く、訳も無う磯臭く、心地

良からざりしを、延齢丹(えんれいたん)などにて、胸(むね)おさえ、「昔 行平(ゆきひら)

何者にか、足さすらせ、気をとらせ給い、あまつさへ

別れにか、香包(こうづつみ)、衛士籠(えじかご)杓子、擂鉢(すりばち)、三年(みとせ)の世帯道

具まで、とらされけるよと、又の日ハ、兵庫(ひょうご)迄来て、遊女(ゆうじょ)

の有様、昼夜のわかちありて、半夜と、せわしく

かぎり定めるは、今にも此(この)津(つ)は、風に任まかする身(み)とて

、舟子(ふなこ)の呼びたる声に、小歌(こうた)を聞きさし、或は

戴(いただい)て、さし捨てにして行くは、心残すハ、残る

べし、何とやら騒々しく、是(これ)によこるるもと、すぐに

風呂に入て、「名のたたば、水 さします」などと、口びるそって

【3】十七丁ウ

中高(なかたか)なる顔にて、秀句(しうく)よくいへる女あり、とらえて、

「御名(な)ゆかしき」と問(と)へば、忠度(たゞのり)と申、「いか様 是を只(ただ)は

置(をか)れじ」と、うす約束(やくそく)するよりはや、あがり湯(ゆ)の

、くれやう、ちらしをのませ、浴衣(ゆかた)の取(とり)さばき、火入(ひいれ)に

気(き)をつけ、鬢水(びんみづ)を運(はこ)び、鏡(かゞみ)かすやら、其(その)もてなし

、何国(いづく)も替(かは)る事(こと)なし、風義(ふうぎ)ハ、ひとつきる物、つまたるに、

白帯(しろおび) こゝろまゝ引しめ、「やれたらば 親(おや)方のそん、

久三、提灯(てうちん)ともしや」と、いふかた手に、草履(ざうり)取出し

ゞり戸(ど)出まわり、調子高(てうし たか)に、はうばいを譏(そし)り、

朝夕の、汁(しる)がうすひの、「はさみを、くれる筈(はず)じやが、

たるゝか、しらぬ」と、ひとつとして、聞(きく)べき事にもあらバ

中高(なかたか)なる顔にて、秀句(しゅうく)よく言える女あり、とらえて、

「御名(な)ゆかしき」と問えば、忠度(たゞのり)と申、「いか様(さま) 是を只(ただ)は

置れじ」と、うす約束するより早、あがり湯の

くれやう、ちらしを飲ませ、浴衣の取りさばき、火入れに

気を付け、鬢水(びんみず)を運び、鏡かすやら、其 もてなし

、何国(いづく)も替る事なし、風儀(ふうぎ)は、ひとつ きる物、妻たるに

白帯(しろおび) 心(の)まま引きしめ、「やれたらば 親方の損、

久三、提灯 灯しゃ」と、言う片手に、草履 取出し

潜り戸(ど)いでまわり、調子高 に、はうばいを譏(そし)り、

朝夕の、汁が薄いの、「はさみを、くれる筈じゃが、

足るるか知らんと、ひとつとして、聞くべき事にもあらば

 

 

 

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『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 六 煩悩(ほんのう)の垢(あか)かき 【2】十六丁ウ 井原西鶴

2020-05-23 | 井原西鶴



 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 六 煩悩(ほんのう)の垢(あか)かき 【2】十六丁ウ 井原西鶴

 

しらず、袖(そて)ちいさく、裾(すそ)みぢかく、わけもなふ磯くさく、こゝち

よからざりしを、延齢丹(ゑんれいたん)などにて、胸(むね)おさえ、「昔(むか)し行平(ゆきひら)

何(なに)ものにか、足(あし)さすらせ、気をとらせ給ひ、あまつさへ

別(わかれ)にか、香(かう)包(つゝみ)、衛士籠(ゑじかご)しやくし、擂鉢(すりはち)三とせの世帯道(だう)

具まで、とらされけるよ」と、又の日ハ、兵庫(ひやうご)迄(まで)来(き)て、遊女(ゆうちよ)

の有様、昼夜(ちうや)のわかちありて、半(はん)夜と、せハしく

かきり定めるハ、今にも此(この)津(つ)ハ、風にまかする身(み)とて

、舟子(ふなこ)のよびたる声(こゑ)に、小歌(こうた)を聞(きゝ)さし、或(あるい)は

戴(いたゞひ)て、さし捨(すて)にして行ハ、こゝろのこすハ、のこる

べし、何とやら騒々(そう/″\)しく、是(これ)によこるゝもと、すぐに

風呂(ふろ)に入て、「名(な)のたゝば、水(みず)さします」なとと、口びるそつて

 

知らず、袖(そで)小さく、裾(すそ)短く、訳も無う磯臭く、心地

良からざりしを、延齢丹(えんれいたん)などにて、胸(むね)おさえ、「昔 行平(ゆきひら)

何者にか、足さすらせ、気をとらせ給い、あまつさへ

別れにか、香包(こうづつみ)、衛士籠(えじかご)杓子、擂鉢(すりばち)、三年(みとせ)の世帯道

具まで、とらされけるよと、又の日ハ、兵庫(ひょうご)迄来て、遊女(ゆうじょ)

の有様、昼夜のわかちありて、半夜と、せわしく

かぎり定めるは、今にも此(この)津(つ)は、風に任まかする身(み)とて

、舟子(ふなこ)の呼びたる声に、小歌(こうた)を聞きさし、或は

戴(いただい)て、さし捨てにして行くは、心残すハ、残る

べし、何とやら騒々しく、是(これ)によこるるもと、すぐに

風呂に入て、「名のたたば、水 さします」などと、口びるそって

 

 

延齢丹(えんれいたん)   大辞林

 江戸時代の健康常備薬。曲直瀬道三(まなせどうさん)の養子 玄朔(げんさく)の創製  

曲直瀬道三(まなせどうさん)    大辞林

 (1507~1594) 安土桃山の医者。京都生まれ。号、翠竹院、盍静翁(こうせいおう)など。

 正親(お荻町)天皇や足利義輝の寵遇を受ける。

 京都にに医学舎啓迪院(けいてきいん)を設立。

玄朔(げんさく)   ウィキペディア

 曲直瀬 玄朔(まなせ げんさく、天文18年 (1594) - 寛永年(1632))は、安土桃山時代、江戸時代の医師。義父は曲直瀬道三。

あまつさへ (剰え)副詞

 ①そればかりか。 出典平家物語 一・鱸 「あまっさへ丞相(しようじやう)の位にいたる」[訳] そればかりか大臣の位に至る。

 ②事もあろうに。 出典平家物語 一一・文之沙汰 「あまっさへ封をも解かず」[訳] 事もあろうに封も解かずに。
 
 参考「あまりさへ」の促音便。現代語では音便の意識がなくなって「あまつさえ」となったが、古文では「アマッサエ」と促音で読む。
 
衛士籠(えじかご 籠、篭)〔衛士がたくかがり火の籠に形が似るところから〕
 
 空薫そらだきに用いる道具。一寸(約3センチメートル)四方ほどの網に香をのせて針金の鉤かぎにかけ、火鉢などに刺して用いる。
 
舟子(ふなこ)  船子、舟子
 
 船頭の指揮の下にある水夫。船人。水手かこ。水主。 「楫取かじとり、-どもに曰いわく/土左」
 
名のたたば   大辞林
 
(浮世が立ったら) (「名のたたば、水 さします」は湯に埋める、浮世がたつにかけてある)

 



『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 六 煩悩(ほんのう)の垢(あか)かき 

【1】十六丁オ 井原西鶴

十三夜の月、待宵(まつよい)めいげつ、いつくハ、あれと須磨(すま)は

殊更と、波(なみ)爰元(こゝもと)に、借(か)りきりの小舟(こぶね)、和田(わだ)の御崎

をめくれは、角(つの)の松原塩屋(まつはらしおや)といふ所ハ、敦盛(あつもり)をとつて

おさえて、熊谷(くまかへ)が付さしせしとほり、源氏酒(けんじさけ)と、たハ

ふれしもと、笑(わら)ひて、海(うみ)すこし見わたす、浜庇(はまひさし)に

舎(やど)りて、京よりもたさる、舞鶴(まいつる)花橘(はなたちはな)の

口をきりて、宵(よい)の程ハなくさむ業(わざ)も、次第(したい)に、月さへ

物すこく、一羽の声(こゑ)ハ、つまなし鳥かと、なを淋(さい)しく

一夜も、只ハ暮らし難(かた)し、若ひ蜑(あま)人ハないかと、有ものに

まねかせててみるに、髪(かみ)に指櫛(さしくし)もなく、顔(かほ)に何(なに)塗(ぬる)事も

十三夜の月、待宵名月、何處はあれど、須磨は

殊更と、波 爰元に、借りきり小舟、和田の御崎

をめくれば、角の松原塩屋といふ所ハ、敦盛をとつて

おさえて、熊谷(くまがへ くまがいか)源氏酒(げんじさけ)と、戯

れしもと、笑いて、海少し見わたす、浜庇(はまびさし)に

舎(やど)りて、京よりもたさる、舞鶴(まいづる)花橘(はなたちばな)の

口をきりて、宵(よい)の程ハ 慰む業(わざ)も、次第(しだい)に、月さへ

物すこく、一羽の声(こゑ)ハ、妻無し鳥かと、尚 淋(さい→さみ 掛詞)しく

一夜も、只ハ暮らし難(がた)し、若い蜑(あま)人ハ無いかと、有(無、有 掛詞)ものに

招かせててみるに、髪に指櫛(さしくし)も無く、顔(かお)に何塗(ぬる)事も

【2】十六丁ウ 井原西鶴

しらず、袖(そて)ちいさく、裾(すそ)みぢかく、わけもなふ磯くさく、こゝち

よからざりしを、延齢丹(ゑんれいたん)などにて、胸(むね)おさえ、「昔(むか)し行平(ゆきひら)

何(なに)ものにか、足(あし)さすらせ、気をとらせ給ひ、あまつさへ

別(わかれ)にか、香(かう)包(つゝみ)、衛士籠(ゑじかご)しやくし、擂鉢(すりはち)三とせの世帯道(だう)

具まで、とらされけるよ」と、又の日ハ、兵庫(ひやうご)迄(まで)来(き)て、遊女(ゆうちよ)

の有様、昼夜(ちうや)のわかちありて、半(はん)夜と、せハしく

かきり定めるハ、今にも此(この)津(つ)ハ、風にまかする身(み)とて

、舟子(ふなこ)のよびたる声(こゑ)に、小歌(こうた)を聞(きゝ)さし、或(あるい)は

戴(いたゞひ)て、さし捨(すて)にして行ハ、こゝろのこすハ、のこる

べし、何とやら騒々(そう/″\)しく、是(これ)によこるゝもと、すぐに

風呂(ふろ)に入て、「名(な)のたゝば、水(みず)さします」なとと、口びるそつて

知らず、袖(そで)小さく、裾(すそ)短く、訳も無う磯臭く、心地

良からざりしを、延齢丹(えんれいたん)などにて、胸(むね)おさえ、「昔 行平(ゆきひら)

何者にか、足さすらせ、気をとらせ給い、あまつさへ

別れにか、香包(こうづつみ)、衛士籠(えじかご)杓子、擂鉢(すりばち)、三年(みとせ)の世帯道

具まで、とらされけるよと、又の日ハ、兵庫(ひょうご)迄来て、遊女(ゆうじょ)

の有様、昼夜のわかちありて、半夜と、せわしく

かぎり定めるは、今にも此(この)津(つ)は、風に任まかする身(み)とて

、舟子(ふなこ)の呼びたる声に、小歌(こうた)を聞きさし、或は

戴(いただい)て、さし捨てにして行くは、心残すハ、残る

べし、何とやら騒々しく、是(これ)によこるるもと、すぐに

風呂に入て、「名のたたば、水 さします」などと、口びるそって

 

 

 

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