乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【3】十四丁ウ 井原西鶴

2020-05-18 | 井原西鶴



 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【3】十四丁ウ 井原西鶴

 

なしからや、嶋原(しまばら)の着(き)おろし、あやめ八丈(しやう)から織も

ふる着(き)も、此里におくりて、よきことに、似(に)せける」と

申侍る、かるく、なくさみ所成へし、断(ことは)りなしに、

腰をかきて、わきさし紙入(かミ入れ)そこ/\に置(をき)ながら、見るに

よき事、おほき女なり、「いかなるしるべにて、此所にハ

ましますぞ、殊更うき勤(つとめ)ざぞ」と申侍れば、「人さまに

こゝろあらハに、見らるゝも、自(おのづから)物毎(ものこと)はしたなくなりて、萬

不自由(ふじゆ)なれば、思ハぬよくも、いできて、人をむさぶりて

我か身(ミ)の外の、こし張(はり)をたのミ、あらしふせき候、

小野(をの)のたき炭(すみ)よしの紙(かミ)、悲田院(ひてんいん)の、上ばき迄も

ミつからして、それのミ、雨(あめ)の日差さひしさ

 

 

 

ミつからして(自らして)

 

 


 

 




     袖の時雨ハ懸るがさいはい
浮世(うきよ)の介こざか(漢字)しき事十歳(さい)の翁(おきな)と申べきか、もと
生(むま)れつき、うるハしく、若道(じやくどう)のたしなみ、其比(そのころ)下坂小八
かゝりとて、鬢切(びんぎり)して、たて懸(かけ)に結(ゆふ)事、時花(はやり)けるに
其面影(おもかけ)情け(なさけ)らしく、よきほとむる人のあらば、只(たゞ)ハ通(とを)らじ
と常/″\(つね/″\)こゝろをみがきつれとも、また差別(しやべつ)有へき
とも思ハず、世の人雪(ゆき)の梅(むめ)をまつがごとし、或(ある)日暗部(くらふ)
山の辺(ほとり)に、しるべの人ありて、梢(こずへ)の小鳥をさハがし、
天の網(あミ)小笹(ざゝ)に、もちなどをなびかせ、茅(かや)が軒端(のきば)の
物淋(さび)しくも、頭巾(ずきん)をきせたる、梟(ふくろう)松桂(せうけい)、草がくれ
なぐさみも過ぎるがてにして、帰(かへ)る山本(やまもと)近(ちか)く、雲(くも)しきりに

立かさなり、いたくハふら図、露(つゆ)をくだきて、玉ちる風情(ふぜい)
一 木て舎(やど)りのたよりならねば、いつそにぬれた
袖笠(そでがさ)、於戯(あゝ)、まゝよさて、僕(でつ地)が作り髭(ひげ)の落(おち)ん事を、
悲(かな)しまれるゝ折ふし、里に、影(かげ)隠(かく)して
住(すミ)ける男(おとこ)あり、御跡(あと)をしたひて、からうたをさし
懸(かけ)ゆくに、空(そら)晴(はれ)わたるこゝちして見帰(かへり)、是は
かたじきなき御心底(しんてい)、かさねてのよすがにても、御名(な)
ゆかしきと申せど、それにハ曽而(かつて)取(とり)あへど、御替(かえ)
草履(ぞうり)をまいらせ、ふところより櫛(くし)道具(どうぐ)、元も
いはれぬ、きよらなるをとり出し、つき/″\のものに
わたして、そゝきたる、御おくれをあらため給へと

申侍りき、時しても、此(この)うれしさ、いか計(ばかり)あるへし
「まことに時雨(しぐれ)もはれて、夕虹(にじ)きえ懸(かゝ)るばかりの、
御言葉(ことば)数(かず)/\にして、今まで我おもふ人もなく、
徒(いたづら)にすぎつるも、あいきゃうなき、身の程(ほど)うらみ侍る、
不思議(ふしぎ)の、ゑんにひかるゝ、此後(このゝち)うらなく、思はれたき」と
くどけば、男(おとこ)何ともなく、「途中(とちう)の御難儀(なんぎ)をこせ
、たすけたてまつれ、全(まつたく)衆道(じゆどう)のわかち、おもひおもひよらず」、と
取(とり)あきて、沙汰(さた)すべきやうなく、すこしハ奥覚(けうさめ)て
後少人(せうじん)気毒(きのどく)こゝにきハまり、手ハふりても、恋(こひ)しら
ずの男松、おのれと朽(くち)て、すたりゆく木陰(こかげ)に、腰(こし)を
懸(かけ)ながら、「つれなき思ハれ人かな、袖ゆく水の

しかも又、同し泪(なミだ)にも、あらず、鴨(かも)の長明(ちやうめい)が、孔子(こうし)
くさき、身(ミ)のとり置(をき)て、門前(もんゼん)の童子(わらんべ)に、いつとなく
たハれて、方丈(ほうじやう)の油火(あぶら日)けされて、こゝろハ闇(やミ)になれる
事もありしとなむ、月まためつらしき、不破(ふハ)の
万作、勢田(セた)の道橋(ミちはし)の詰(つめ)にして、欄麝(らんしや)のかほり人の
袖にうつせし事も、是みな買うした事で、あるまいかと、
申」をも更(さら)に聞(きく)も入れぬ、秋の夜(よ)の長物語(ながものかたり)、少人(セうじん)の
こなたより、とやかく嘆(なげ)かれしハ、寺から里(さと)の、お児(ちご)
、しら糸の昔(むか)し、いふにたらず、「さあ、いやならバ、いやに
して」と、せめても此男(おとこ)、まだ合点(かてん)せぬを、後にハ
小づら憎(にく)し、屡(しば)しあつて、かさねての日

中沢(なかさわ)といふ里の、拝殿(はいでん)にて、出会ての上に」と、しかくの
事ども、うきやくそくして、帰(かへ)ればなをしたひて、笹(さゝ)
竹(たけ)の、葉(は)分(わけ)衣(ころも)にすがり、「東破(とうば)を、じせつすいが、風水土(ふうすいど)の
ざき立て待(ま地)しぞ、それ程(ほど)にこそハ、我も又」と、かぎり
ある夕ざれ、見やれば見送る、へだゝりて、かの男(おとこ)
歳頃(としころ)命(いのち)ハそれにと、おもふ若衆(わかしゆ)にかたれば、又ある
べき事にもあらず、我との道路(ミちぢ)を忘(わす)れずとや、
さるとハむごき、御こゝろ入、いかにして、捨置(すておく)へきやと
、おもひの中の、橋(はし)かけ染めて、身ハ外に
なしけるとなり

 
五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【1】

新枕(にいまくら)とよみし、伏見(ふしミ)の里へ、菊(きく)月十月の夕暮、き

のふ汲(くミ)し、酔(ゑい)のまきれに、唐物屋(からものや)の、瀬平といふ

者をさそひ行(ゆく)に、東福寺(とうふくじ)の入相(いリあい)、程(ほど)なく壱く町、こゝろ

さす所ハ爰や、遣屋(やリや)の孫右衛門の辺(ほとり)に、駕籠(かご)乗(も理)捨(すて)て

息(いき)てきるゝ程(ほと)の、道はやく、墨染(すみそめ)の水、のミて何へず

南の門口よりさし然(かゝ)り、「東(ひがし)の入口ハいかなして、ふさぎける

ぞ、すこしハまハり遠(とを)き恋(こひ)ぞ」と、ありさま、ひそかに見

わたせば、都(ミやこ)の人(ひと)さうなか、色白く、冠(かんむり)着(き)さうなる、あたまつ

きして、しのぶもあり、宇治(うぢ)の茶師(ちやし)の、手代(てたい)めきて

ゝる見る目ハ違(ちか)ハじ、其外六地蔵(ろくぢさう)の馬(むま)かた下り舟まつ

 

五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【2】

旅(たひ)人、風呂敷(ふろしき)包(つゝみ)粽(つまき)を、かたけかから、貫(くハん)さしの

もとすきを見合、「若(もし)気(き)に入たるもあらば」と、見つくして

又、泥町(とろまち)に行もおかし、人のすき待(まち)て、西の方の中程(ほと)

、ちいさき釣隔子(つりかうし)、唐紙(からかミ)の竜田川(たつたかハ)も、紅葉(もみち)ちり/″\、に

やぶれて、煙(けふり)もいぶせきすいからの捨(すて)所もなく、かすりなる

うちに、やさしき女、ときに数なく、見られたき風情(ふゼい)

にもあたバ、「袖の香(か)ぞけふの菊」と、筆もちながら、五

文字をきまといてあり顔や、ふかくしのばれて

「此君ハ何として、然(かゝ)るしなくだりする宿(やと)に、置けるぞ」

瀬平(せへい)が、物語せしハ、この人かゝえの親方(おやかた)、此里一人の、

貧者(ひんしや)かくれなくて、いたハし、さもなき人も、もち

 

五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【3】

なしからや、嶋原(しまばら)の着(き)おろし、あやめ八丈(しやう)から織も

ふる着(き)も、此里におくりて、よきことに、似(に)せける」と

申侍る、かるく、なくさみ所成へし、断(ことは)りなしに、

腰をかきて、わきさし紙入(かミ入れ)そこ/\に置(をき)ながら、見るに

よき事、おほき女なり、「いかなるしるべにて、此所にハ

ましますぞ、殊更うき勤(つとめ)ざぞ」と申侍れば、「人さまに

ゝろあらハに、見らるゝも、自(おのづから)物毎(ものこと)はしたなくなりて、萬

不自由(ふじゆ)なれば、思ハぬよくも、いできて、人をむさぶりて

我か身(ミ)の外の、こし張(はり)をたのミ、あらしふせき候、

小野(をの)のたき炭(すみ)よしの紙(かミ)、悲田院(ひてんいん)の、上ばき迄も

ミつからして、それのミ、雨(あめ)の日差さひしさ

 

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『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【2】十四丁オ 井原西鶴

2020-05-18 | 井原西鶴



 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【2】十四丁オ 井原西鶴

 

旅(たひ)人、風呂敷(ふろしき)包(つゝみ)粽(つまき)を、かたけかから、貫(くハん)さしの

もとすきを見合、「若(もし)気(き)に入たるもあらば」と、見つくして

又、泥町(とろまち)に行もおかし、人のすき待(まち)て、西の方の中程(ほと)

、ちいさき釣隔子(つりかうし)、唐紙(からかミ)の竜田川(たつたかハ)も、紅葉(もみち)ちり/″\、に

やぶれて、煙(けふり)もいぶせきすいからの捨(すて)所もなく、かすりなる

うちに、やさしき女、ときに数なく、見られたき風情(ふゼい)

にもあたず、「袖の香(か)ぞけふの菊」と、筆もちながら、五

文字をきまといてあり顔や、ふかくしのばれて

「此君ハ何として、然(かゝ)るしなくだりする宿(やと)に、置けるぞ」

瀬平(せへい)が、物語せしハ、この人かゝえの親方(おやかた)、此里一人の、

貧者(ひんしや)かくれなくて、いたハし、さもなき人も、もち

 

 

 

粽(つまき ちまき)

しなくだり(宿下り)下り)

五文字(発句の五文字)


 

 




     袖の時雨ハ懸るがさいはい
浮世(うきよ)の介こざか(漢字)しき事十歳(さい)の翁(おきな)と申べきか、もと
生(むま)れつき、うるハしく、若道(じやくどう)のたしなみ、其比(そのころ)下坂小八
かゝりとて、鬢切(びんぎり)して、たて懸(かけ)に結(ゆふ)事、時花(はやり)けるに
其面影(おもかけ)情け(なさけ)らしく、よきほとむる人のあらば、只(たゞ)ハ通(とを)らじ
と常/″\(つね/″\)こゝろをみがきつれとも、また差別(しやべつ)有へき
とも思ハず、世の人雪(ゆき)の梅(むめ)をまつがごとし、或(ある)日暗部(くらふ)
山の辺(ほとり)に、しるべの人ありて、梢(こずへ)の小鳥をさハがし、
天の網(あミ)小笹(ざゝ)に、もちなどをなびかせ、茅(かや)が軒端(のきば)の
物淋(さび)しくも、頭巾(ずきん)をきせたる、梟(ふくろう)松桂(せうけい)、草がくれ
なぐさみも過ぎるがてにして、帰(かへ)る山本(やまもと)近(ちか)く、雲(くも)しきりに

立かさなり、いたくハふら図、露(つゆ)をくだきて、玉ちる風情(ふぜい)
一 木て舎(やど)りのたよりならねば、いつそにぬれた
袖笠(そでがさ)、於戯(あゝ)、まゝよさて、僕(でつ地)が作り髭(ひげ)の落(おち)ん事を、
悲(かな)しまれるゝ折ふし、里に、影(かげ)隠(かく)して
住(すミ)ける男(おとこ)あり、御跡(あと)をしたひて、からうたをさし
懸(かけ)ゆくに、空(そら)晴(はれ)わたるこゝちして見帰(かへり)、是は
かたじきなき御心底(しんてい)、かさねてのよすがにても、御名(な)
ゆかしきと申せど、それにハ曽而(かつて)取(とり)あへど、御替(かえ)
草履(ぞうり)をまいらせ、ふところより櫛(くし)道具(どうぐ)、元も
いはれぬ、きよらなるをとり出し、つき/″\のものに
わたして、そゝきたる、御おくれをあらため給へと

申侍りき、時しても、此(この)うれしさ、いか計(ばかり)あるへし
「まことに時雨(しぐれ)もはれて、夕虹(にじ)きえ懸(かゝ)るばかりの、
御言葉(ことば)数(かず)/\にして、今まで我おもふ人もなく、
徒(いたづら)にすぎつるも、あいきゃうなき、身の程(ほど)うらみ侍る、
不思議(ふしぎ)の、ゑんにひかるゝ、此後(このゝち)うらなく、思はれたき」と
くどけば、男(おとこ)何ともなく、「途中(とちう)の御難儀(なんぎ)をこせ
、たすけたてまつれ、全(まつたく)衆道(じゆどう)のわかち、おもひおもひよらず」、と
取(とり)あきて、沙汰(さた)すべきやうなく、すこしハ奥覚(けうさめ)て
後少人(せうじん)気毒(きのどく)こゝにきハまり、手ハふりても、恋(こひ)しら
ずの男松、おのれと朽(くち)て、すたりゆく木陰(こかげ)に、腰(こし)を
懸(かけ)ながら、「つれなき思ハれ人かな、袖ゆく水の

しかも又、同し泪(なミだ)にも、あらず、鴨(かも)の長明(ちやうめい)が、孔子(こうし)
くさき、身(ミ)のとり置(をき)て、門前(もんゼん)の童子(わらんべ)に、いつとなく
たハれて、方丈(ほうじやう)の油火(あぶら日)けされて、こゝろハ闇(やミ)になれる
事もありしとなむ、月まためつらしき、不破(ふハ)の
万作、勢田(セた)の道橋(ミちはし)の詰(つめ)にして、欄麝(らんしや)のかほり人の
袖にうつせし事も、是みな買うした事で、あるまいかと、
申」をも更(さら)に聞(きく)も入れぬ、秋の夜(よ)の長物語(ながものかたり)、少人(セうじん)の
こなたより、とやかく嘆(なげ)かれしハ、寺から里(さと)の、お児(ちご)
、しら糸の昔(むか)し、いふにたらず、「さあ、いやならバ、いやに
して」と、せめても此男(おとこ)、まだ合点(かてん)せぬを、後にハ
小づら憎(にく)し、屡(しば)しあつて、かさねての日

中沢(なかさわ)といふ里の、拝殿(はいでん)にて、出会ての上に」と、しかくの
事ども、うきやくそくして、帰(かへ)ればなをしたひて、笹(さゝ)
竹(たけ)の、葉(は)分(わけ)衣(ころも)にすがり、「東破(とうば)を、じせつすいが、風水土(ふうすいど)の
ざき立て待(ま地)しぞ、それ程(ほど)にこそハ、我も又」と、かぎり
ある夕ざれ、見やれば見送る、へだゝりて、かの男(おとこ)
歳頃(としころ)命(いのち)ハそれにと、おもふ若衆(わかしゆ)にかたれば、又ある
べき事にもあらず、我との道路(ミちぢ)を忘(わす)れずとや、
さるとハむごき、御こゝろ入、いかにして、捨置(すておく)へきやと
、おもひの中の、橋(はし)かけ染めて、身ハ外に
なしけるとなり

 
五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【1】

新枕(にいまくら)とよみし、伏見(ふしミ)の里へ、菊(きく)月十月の夕暮、き

のふ汲(くミ)し、酔(ゑい)のまきれに、唐物屋(からものや)の、瀬平といふ

者をさそひ行(ゆく)に、東福寺(とうふくじ)の入相(いリあい)、程(ほど)なく壱く町、こゝろ

さす所ハ爰や、遣屋(やリや)の孫右衛門の辺(ほとり)に、駕籠(かご)乗(も理)捨(すて)て

息(いき)てきるゝ程(ほと)の、道はやく、墨染(すみそめ)の水、のミて何へず

南の門口よりさし然(かゝ)り、「東(ひがし)の入口ハいかなして、ふさぎける

ぞ、すこしハまハり遠(とを)き恋(こひ)ぞ」と、ありさま、ひそかに見

わたせば、都(ミやこ)の人(ひと)さうなか、色白く、冠(かんむり)着(き)さうなる、あたまつ

きして、しのぶもあり、宇治(うぢ)の茶師(ちやし)の、手代(てたい)めきて

ゝる見る目ハ違(ちか)ハじ、其外六地蔵(ろくぢさう)の馬(むま)かた下り舟まつ

 

五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【2】

旅(たひ)人、風呂敷(ふろしき)包(つゝみ)粽(つまき)を、かたけかから、貫(くハん)さしの

もとすきを見合、「若(もし)気(き)に入たるもあらば」と、見つくして

又、泥町(とろまち)に行もおかし、人のすき待(まち)て、西の方の中程(ほと)

、ちいさき釣隔子(つりかうし)、唐紙(からかミ)の竜田川(たつたかハ)も、紅葉(もみち)ちり/″\、に

やぶれて、煙(けふり)もいぶせきすいからの捨(すて)所もなく、かすりなる

うちに、やさしき女、ときに数なく、見られたき風情(ふゼい)

にもあたバ、「袖の香(か)ぞけふの菊」と、筆もちながら、五

文字をきまといてあり顔や、ふかくしのばれて

「此君ハ何として、然(かゝ)るしなくだりする宿(やと)に、置けるぞ」

瀬平(せへい)が、物語せしハ、この人かゝえの親方(おやかた)、此里一人の、

貧者(ひんしや)かくれなくて、いたハし、さもなき人も、もち

 

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『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【1】十三丁ウ 井原西鶴

2020-05-18 | 井原西鶴



 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【1】十三丁ウ 井原西鶴


新枕(にいまくら)とよみし、伏見(ふしミ)の里へ、菊(きく)月十月の夕暮、き

のふ汲(くミ)し、酔(ゑい)のまきれに、唐物屋(からものや)の、瀬平といふ

者をさそひ行(ゆく)に、東福寺(とうふくじ)の入相(いリあい)、程(ほど)なく壱く町、こゝろ

さす所ハ爰や、遣屋(やリや)の孫右衛門の辺(ほとり)に、駕籠(かご)乗(も理)捨(すて)て

息(いき)もきるゝ程(ほと)の、道はやく、墨染(すみそめ)の水、のミて何へず

南の門口よりさし然(かゝ)り、「東(ひがし)の入口ハいかなして、ふさぎける

ぞ、すこしハまハり遠(とを)き恋(こひ)ぞ」と、ありさま、ひそかに見

わたせば、都(ミやこ)の人(ひと)さうなか、色白く、冠(かんむり)着(き)さうなる、あたまつ

きして、しのぶもあり、宇治(うぢ)の茶師(ちやし)の、手代(てたい)めきて

かゝる見る目ハ違(ちか)ハじ、其外六地蔵(ろくぢさう)の馬(むま)かた下り舟まつ

 

 

 

 




 

 




     袖の時雨ハ懸るがさいはい
浮世(うきよ)の介こざか(漢字)しき事十歳(さい)の翁(おきな)と申べきか、もと
生(むま)れつき、うるハしく、若道(じやくどう)のたしなみ、其比(そのころ)下坂小八
かゝりとて、鬢切(びんぎり)して、たて懸(かけ)に結(ゆふ)事、時花(はやり)けるに
其面影(おもかけ)情け(なさけ)らしく、よきほとむる人のあらば、只(たゞ)ハ通(とを)らじ
と常/″\(つね/″\)こゝろをみがきつれとも、また差別(しやべつ)有へき
とも思ハず、世の人雪(ゆき)の梅(むめ)をまつがごとし、或(ある)日暗部(くらふ)
山の辺(ほとり)に、しるべの人ありて、梢(こずへ)の小鳥をさハがし、
天の網(あミ)小笹(ざゝ)に、もちなどをなびかせ、茅(かや)が軒端(のきば)の
物淋(さび)しくも、頭巾(ずきん)をきせたる、梟(ふくろう)松桂(せうけい)、草がくれ
なぐさみも過ぎるがてにして、帰(かへ)る山本(やまもと)近(ちか)く、雲(くも)しきりに

立かさなり、いたくハふら図、露(つゆ)をくだきて、玉ちる風情(ふぜい)
一 木て舎(やど)りのたよりならねば、いつそにぬれた
袖笠(そでがさ)、於戯(あゝ)、まゝよさて、僕(でつ地)が作り髭(ひげ)の落(おち)ん事を、
悲(かな)しまれるゝ折ふし、里に、影(かげ)隠(かく)して
住(すミ)ける男(おとこ)あり、御跡(あと)をしたひて、からうたをさし
懸(かけ)ゆくに、空(そら)晴(はれ)わたるこゝちして見帰(かへり)、是は
かたじきなき御心底(しんてい)、かさねてのよすがにても、御名(な)
ゆかしきと申せど、それにハ曽而(かつて)取(とり)あへど、御替(かえ)
草履(ぞうり)をまいらせ、ふところより櫛(くし)道具(どうぐ)、元も
いはれぬ、きよらなるをとり出し、つき/″\のものに
わたして、そゝきたる、御おくれをあらため給へと

申侍りき、時しても、此(この)うれしさ、いか計(ばかり)あるへし
「まことに時雨(しぐれ)もはれて、夕虹(にじ)きえ懸(かゝ)るばかりの、
御言葉(ことば)数(かず)/\にして、今まで我おもふ人もなく、
徒(いたづら)にすぎつるも、あいきゃうなき、身の程(ほど)うらみ侍る、
不思議(ふしぎ)の、ゑんにひかるゝ、此後(このゝち)うらなく、思はれたき」と
くどけば、男(おとこ)何ともなく、「途中(とちう)の御難儀(なんぎ)をこせ
、たすけたてまつれ、全(まつたく)衆道(じゆどう)のわかち、おもひおもひよらず」、と
取(とり)あきて、沙汰(さた)すべきやうなく、すこしハ奥覚(けうさめ)て
後少人(せうじん)気毒(きのどく)こゝにきハまり、手ハふりても、恋(こひ)しら
ずの男松、おのれと朽(くち)て、すたりゆく木陰(こかげ)に、腰(こし)を
懸(かけ)ながら、「つれなき思ハれ人かな、袖ゆく水の

しかも又、同し泪(なミだ)にも、あらず、鴨(かも)の長明(ちやうめい)が、孔子(こうし)
くさき、身(ミ)のとり置(をき)て、門前(もんゼん)の童子(わらんべ)に、いつとなく
たハれて、方丈(ほうじやう)の油火(あぶら日)けされて、こゝろハ闇(やミ)になれる
事もありしとなむ、月まためつらしき、不破(ふハ)の
万作、勢田(セた)の道橋(ミちはし)の詰(つめ)にして、欄麝(らんしや)のかほり人の
袖にうつせし事も、是みな買うした事で、あるまいかと、
申」をも更(さら)に聞(きく)も入れぬ、秋の夜(よ)の長物語(ながものかたり)、少人(セうじん)の
こなたより、とやかく嘆(なげ)かれしハ、寺から里(さと)の、お児(ちご)
、しら糸の昔(むか)し、いふにたらず、「さあ、いやならバ、いやに
して」と、せめても此男(おとこ)、まだ合点(かてん)せぬを、後にハ
小づら憎(にく)し、屡(しば)しあつて、かさねての日

中沢(なかさわ)といふ里の、拝殿(はいでん)にて、出会ての上に」と、しかくの
事ども、うきやくそくして、帰(かへ)ればなをしたひて、笹(さゝ)
竹(たけ)の、葉(は)分(わけ)衣(ころも)にすがり、「東破(とうば)を、じせつすいが、風水土(ふうすいど)の
ざき立て待(ま地)しぞ、それ程(ほど)にこそハ、我も又」と、かぎり
ある夕ざれ、見やれば見送る、へだゝりて、かの男(おとこ)
歳頃(としころ)命(いのち)ハそれにと、おもふ若衆(わかしゆ)にかたれば、又ある
べき事にもあらず、我との道路(ミちぢ)を忘(わす)れずとや、
さるとハむごき、御こゝろ入、いかにして、捨置(すておく)へきやと
、おもひの中の、橋(はし)かけ染めて、身ハ外に
なしけるとなり

 
五 尋(たづね)てきく程(ほど)ちぎり 【1】

新枕(にいまくら)とよみし、伏見(ふしミ)の里へ、菊(きく)月十月の夕暮、き

のふ汲(くミ)し、酔(ゑい)のまきれに、唐物屋(からものや)の、瀬平といふ

者をさそひ行(ゆく)に、東福寺(とうふくじ)の入相(いリあい)、程(ほど)なく壱く町、こゝろ

さす所ハ爰や、遣屋(やリや)の孫右衛門の辺(ほとり)に、駕籠(かご)乗(も理)捨(すて)て

息(いき)てきるゝ程(ほと)の、道はやく、墨染(すみそめ)の水、のミて何へず

南の門口よりさし然(かゝ)り、「東(ひがし)の入口ハいかなして、ふさぎける

ぞ、すこしハまハり遠(とを)き恋(こひ)ぞ」と、ありさま、ひそかに見

わたせば、都(ミやこ)の人(ひと)さうなか、色白く、冠(かんむり)着(き)さうなる、あたまつ

きして、しのぶもあり、宇治(うぢ)の茶師(ちやし)の、手代(てたい)めきて

ゝる見る目ハ違(ちか)ハじ、其外六地蔵(ろくぢさう)の馬(むま)かた下り舟まつ

 

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映画『藁の楯 』(わらのたて) 2013年 監督:三池崇史 脚本:林民夫 大沢たかお、松嶋菜々子、藤原竜也

2020-05-18 | 映画

  映画『藁の楯 』(わらのたて) 2013年 監督:三池崇史 脚本:林民夫 大沢たかお、松嶋菜々子、藤原竜也

 

 この映画も二度目だが、初めから最後まで見入ってしまった。

 この映画も好きだな^^

 

 一昨日から昨日にかけて、wowowでは藤原竜也特集のように、複数本の映画を放映された。

 ラッキーとばかりに全てを録画した私。映画『Diner ダイナー』をもう一度見られるのはありがたい。

 

 今回も記録のみにて失礼いたします。

 

 

 

 監督:三池崇史
 脚本:林民夫

 2013年  126分

銘苅一基 大沢たかお
白岩篤子 松嶋菜々子
清丸国秀 藤原竜也
蜷川隆興 山崎努
奥村武 岸谷五朗
関谷賢示 伊武雅刀
神箸正貴 永山絢斗
由里千賀子 余貴美子
大木係長 本田博太郎

 

 126分

 

wowow公式HP ▼

大沢たかお、松嶋菜々子、藤原竜也が共演した、鬼才・三池崇史監督のノンストップサスペンス。警察は10億円の賞金を懸けられた凶悪犯を九州から東京まで護送できるのか。

コミック作家きうちかずひろが木内一裕名義で発表した小説を映画化。凶悪犯に殺された少女を孫に持つ財界の大物が、犯人の命に10億円の賞金を懸ける。日本全国がにわかに殺気立つ中、警視庁は5人の警官に犯人を護送させようとするが、次から次へと邪魔者が現われ……。日本の新幹線が舞台のシーンを台湾の新幹線でロケするなど、邦画のスケールを超えたビッグアクションが見ものだが、警察内部でも裏切りや妨害があるなど、二転三転するサスペンスとしても見応えたっぷり。俳優陣では凶悪犯役の藤原の熱演が光る。

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