これまで年に100冊ほどの本を読んでいたが、昨年は90冊を切った。その中で特に印象に残ったのは小川洋子さんの「ことり」
次の文章で物語は始まる。
『小鳥の小父さんが死んだ時、遺体と遺品はそういう決まりに則って手際よく処理された。つまり死後幾日か経って発見された身寄りのない人の場合、ということだ。』
彼が小鳥の小父さんと呼ばれていたのは、長い間幼稚園の小鳥の世話をしていたからだ。
両親は早くに亡くなって、彼は独自の言葉を話すお兄さんと暮らしていた。お兄さんの言葉を理解できるのは彼だけだった。彼はゲストハウスの管理人として働き、度々お兄さんと幼稚園の鳥小屋を見に行った。
ある日ひとりで小鳥たちを見に行ったお兄さんは、鳥たちを見ながら亡くなった。
一人で暮らすようになった彼は、これまでよりも小鳥たちに近くなった。これまでよりも少しだけ他の人との関わりが出来た。心を寄せる女性にも出会ったけれど、その女性と会えなくなっても黙って受け入れた。
そして物語の終わりも、静かに訪れた。
彼がメジロを保護したのは偶々で、メジロが元気になったら放してやろうと思っていた。鳥は空を飛ぶものなのだから籠に閉じ込めておいてはいけない。
「明日の朝、籠を出よう。空へ戻るんだ」とメジロに話しかけ、ひと眠りする積りで目を閉じた彼は、二度と目覚めない眠りに落ちた。
こんなにも静かで、でも心を打つ物語があっただろうか。