「熊本市庁舎建替え問題」、疑問や問題点がますます浮き彫りになった庁舎整備特別委員会

さまざまに議論されてきた熊本市役所の建替え問題。建設費だけでも400億円程度と見込まれている大型ハコモノ建設をこのまますすめていいのか、意見の分かれている問題です。
この問題の発端は、2018年に熊本市が行った「本庁舎整備計画作成業務委託」における耐震性能評価で、市庁舎地下の杭3分の1が致命的に損傷するとの結果でした。（安井設計へ委託）
その後、庁舎整備特別委員会に参考人として出席された建築構造士で、超高層ビルをいくつも設計してきた経験のある齋藤幸雄氏から「震度6強の地震で損傷していない市庁舎地下の杭が致命的損傷を受けるとは考えられない」という指摘があり、今年になって「地下連続壁等の効果に関する調査」（山下設計へ委託）が実施され、10月に結果が報告されました。今回調査の結果は、「すべての杭が致命的損傷」、「地下連壁の効果なし」というものでした。
11月2日に開かれた「市庁舎問題特別委員会」には、山下設計の坂上参考人を招致し、今回調査についての議論が行われましたが、さらに多くの疑問や問題点が浮き彫りになる結果となりました。

熊本地震で損傷しなかった市役所本庁舎の地下杭が「すべて致命的な損傷」というのは、信じられない結果
目を疑うような結果に対し、委員会ではいくつかの点を指摘しました。
「違う基礎データで発注した2018年度調査と今回調査、こんなずさんな発注の調査では検証になりません」
2018年調査と今回調査では、公表された地下杭の図面が異なっていました。山下設計の説明で、2018年調査では「設計図」、今回調査は「竣工図」で行われたことがわかりました。違う図面で調査を発注すれば、結果も違ってきます。設計図による調査は、現存庁舎でない建物を調査したことになります。
市のずさんな調査発注の実態が明らかになりました。
「今回調査は山下設計もこれまでやったことがないという「稀で複雑」な調査、検証しなければ信頼性は得られません」
2018年調査の手法が一般的なものであるのに対し、山下設計も「やったことがない」という今回調査の「連成系時刻暦応答解析」は極めて稀で複雑な解析であるために、「結果の妥当性を検証しなければ、結果の信頼性が担保できない」と専門家も指摘しています。しかし、検証は行われていません。
「なぜ、熊本地震の地震波で検証しないのでしょうか？」
今回の調査は、「告示波」というつくられた地震波で解析が行われています。しかし、日本建築センターが「熊本地震の影響が考慮されていない検証では、現状の建物を評価していることにならない」とコメント。斎藤参考人も、「熊本地震波での検証は必須」と繰り返し述べられています。
「すべての杭が致命的損傷」は、「熊本地震に無傷」と相反します
今回調査では「すべての杭が致命的損傷」という結果になりましたが、震度6強の熊本地震で無傷であったことと相反します。「これまでの地震で上部構造に影響を与えるような杭の損傷の事例はない」と専門家も指摘しています。
「なぜ、2カ所の評価機関に評価を依頼したのでしょうか？」
日本建築センターの任意評定は「引き受けられない」という回答を受け、　山下設計は次の評定機関である㈱ERIに依頼しています。山下設計は、「前にすすまないので、どこかないかということでERIにお願いした」と説明しました。何が何でもすすめる方向だったことが明らかです。　㈱ERIは建替えを一貫して主張した高橋参考人の関係する会社です。（高橋治氏は、「日本ERI 株式会社」のグループ企業である「株式会社 東京建築検査機構」の耐震改修評定委員会の専門委員）
事業者の選定にも疑問が残ります。
「すべての杭が致命的損傷」という結果は、社会的にも影響あります
市庁舎地下の強固な場所打ちコンクリート杭すべてが致命的に損傷するというならば、熊本市内の高層建築物の耐震性能はどうでしょうか。今回の調査結果は、社会的にも影響を及ぼす問題です。
建築基準法では、現存する超高層建築物（高さ60メートル以上）の耐震性能評価は、義務づけられていません。
そうでなければ、今全国にある多くの超高層建築物を耐震性能評価をして、耐震性能が不足すれば、「建替え」となってしまう可能性があるからです。

あらためて浮き彫りになった数々の問題点、そして一連の調査が、建て替えありきですすめられていることが問題です。
新型コロナ対策に莫大な予算を必要とするとき、400億円もの大型ハコモノ整備をすすめればどうなるでしょうか。
真剣に、じっくりと検証すべき問題です。