サンデルの「公共哲学」を読了。
NHKで放送されたハーバードの講義で有名な教授。
前作「これからの正義のはなしをしよう」以来、私のアンテナの中では気になる人物。
公共哲学とは、私たちの社会をどのような理念とルールによって組み立てていけばよいのかを
様々な観点からじっくり掘り下げていく学問のことだ。
この本はサンデル教授が、これら問題に関心のある一般読者を対象にまとめあげたエッセイ集。
彼独自のクリアな思考により、現代の米国を中心とした政治哲学の諸問題が整理され、
ひとつの方向性が提示されている。
サンデル教授によれば米国の公共哲学は、リベラル派と共和主義という2つの立場の間を揺れ動きながら形成されてきた。
リベラル派は、主に独立した個人の自由に重きを置く集団。
自分の人生の目標はそれぞれの個人が自由に設定すればいいのであり、他人が外からとやかく言うべきものではないとする。
そのような個人主義を保証するためにも、国家が権利や自由について公正な枠組みをしっかりと作り上げるべきであると主張。
これに対して共和主義は、人間というものは歴史や地域のコミュニティ・共同体から切り離された「負荷なき自己」ではないと主張する。
人間は、家族の中での自分とか、コミュニティの共同生活への参加者としての自分をイメージすることなしには自己は存在し得ないのであり、
そういう意味で、国民が共有すべき市民道徳を流布させることこそが大事であるとする。
これに対しリベラル派は、そんなことをしたら特定の伝統に頼る全体主義に陥ってしまうと批判するが、
サンデルは共和主義の肩を持って、全体主義はむしろ、個人がバラバラになって社会の中での居場所を失い、
公共生活が衰退するときに生じるのであって、逆にリベラル派の方が危険なのだと挑発する。
前作「これからの~」のサブテキストのような感じで読み進めることができて、内容が面白い本なので半日で読み終えてしまった。
昨今やたら流行しているブッダやニーチェやサルトルの焼き直しも読み物としては面白いが、
今を生きる哲学という意味では内田樹や池田晶子さんの著作と共にオススメしたい。
書店ではこれらの本を手に取るのは主に20代、30代の若い子が多いように思えた。
それは私として目下のどうしようもなく危機的な政治状況下においては少なからず小さな未来の希望のように思えたが、
逆にこれらの本を手にすることはないであろう多くの中年達には失望しか感じない。
もはやシステム変更不可能と諦めてしまった40代より上の層はもうこのような本は読まないのかもしれない。
写真は近所の園芸店で次に何を育てようか悩む子供。