循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

時局傍観者の原発ブログ(6)

2011年05月07日 | ハイテク技術


「お盆までに私の内閣の責任で希望する方全員を仮設住宅に入居させる」。またも菅直人がどこかの避難所を訪問して大見得を切った。早速これをおちょくったのがTBSラジオ「荒川強啓ディキャッチ」の川柳コーナーである。「お盆まで居座るつもりの意思表示」。
もうひとつ菅のパフォーマンスが夕べ(5月6日)展開された。浜岡原発停止声明である。いわゆる反原発派はまだ正式見解を出していないが、参議院のラウドスピーカー・山本一太は早速「内閣支持率を上げたいという一心で、行き当たりばったりで動いている」とぶち上げた。地元自治体も「何も聞いてない。やるなら全国すべての原発を止めるべきだ」と反発した。本来なら国民こぞって「菅の英断」を称賛する筈が、つくずく人徳のない男である。

◆知識の枠組みの外で
 ある系内では如何に精緻な技術でも、その系を超えたところで起きたアクシデントにはまったくの無力だ。今回の福島原発事故がそれを十二分に証明している。たとえば小中学生向けの副読本で誇示された多重保護システムはその精密さにおいて世界に比類なき技術と評価されてきたが、2011年3月11日の大津波でまず海側のポンプが破壊され、さらにタービンが入っている建屋のシャッターが壊れて開かなくなった。
 ポンプの機能は冷たい海水を引き込み、原子炉の冷却装置に送ることだが、その装置がやられた。シャッターが故障して建屋の中に海水が入り込み、地下1階の非常用発電機が使用不能になった。緊急時にバックアップすべき機能はことごとくやられ、世界に比類なき最高水準の技術は手も足も出なかった。
 後日、原子力安全・保安院のキツネ目をしたスポークスマンがうっかり本音を漏らしたという。「外部電源が落ちてみると、まとめて落ちることがわかった」。その時点ですべてが狂ったのである。

◆知的エリートの驕り
 嫌な奴にしんにゅうをつけ、それを何乗かしたような西部邁(すすむ)氏が珍しくまともなことを書いている。以下、その一部。
「東日本の東海岸における防波堤の決壊や原発施設の崩壊は、『知識は、その部分性においてのみ、確実だ』(M・オ-クショット)という真理を明らかにしている。つまり知識の前提や枠組みの外で予期しない事態が発生したら、技術はもうお手上げだということである」西部氏はまた、こうもいう。「人間組織を支えるのは、技術知よりもむしろ、プラクチカル・ナレッジ(実践知)である。それは過去における経験への確かな解釈と未来に対する想像力豊かな洞察とによってもたらされる」(毎日新聞「異論・反論」2001・4・20)。
 西部氏の言う通り、もともと部分性においてのみ有効だった知識を、あたかも技術の全過程で通用するかのように宣伝してきた知的エリ-トたちの驕り―――。その一端を東京電力や東芝原子力事業部の大衆向けサイトにみることができる。

まず東京電力のサイトから。 【 】が本文

◆多重防護の仕組みとは
【原子力発電所では一次冷却系主配管の瞬間的破断により原子炉の水がなくなるという事故などを想定し、非常用炉心冷却装置や原子炉格納容器が設けられています。まさかの事故の場合でも、燃料を水づけにして冷却するとともに、格納容器スプレー系によって、格納容器内に漏れた蒸気を冷却、凝縮させて格納容器内の圧力を下げ、気体状となっている放射性物質を大幅に減少させます。さらに残留している放射性物質は、非常用フィルターを通して低減させるようにしています。
 その上で原子力発電所全体は五重の障壁に守られています。すなわち、
a.ペレット(第1の壁)b.被覆管(第2の壁)c.原子炉圧力容器(第3の壁)d.原子炉格納容器(第4の壁)e.原子炉建屋(第5の壁)です。
 格納容器の外側は、二次格納施設として約1~2mの厚いコンクリートで造られた原子炉建屋で覆い、放射性物質の閉じ込めに万全を期しています】

◆事故が起きたら
ではいったん事故が起きた場合の緊急措置はどうなっているのか。以下、東芝原子力事業部のPRコーナーが次のように解説する。
「原子力発電は多重防護の考え方に基づいて機器や系統が多重化されているほか、誤操作を防ぐインターロック、間違いをなくすフール・プルーフといった対策が施されています。 また、緊急時にも、異常を感知して『止める』、炉心を『冷やす』、放射性物質を『閉じ込める』ことで、外部への影響を食い止める方策が何段にも備えられています」。
 東芝は代表的なトラブルとして以下の4ケースをとりあげ、発電所システムや運転員がどう対応し、どのように事故を回避するかを動画と音声で説明している。
①「給水ポンプの故障」(11.6MB)②「再循環ポンプの故障」(7.6MB) ③「落雷による原子炉の停止」(9.3MB)④「再循環系配管の破損」(10.8MB)】
注)上記①から④項目のどれかをクリックすると動画パネルが出現し、流麗な女声アナウンスが流れる仕組みだったが、5月以降、映像も音声も出なくなった。つまり画面は真っ白なのである。さすがのエリートたちも気恥かしくなったものとみえる。
 以下は4月半ばに動画音声を採録したものだが、今後、半永久的に視聴不能と思われる。やや煩雑だが、動画「給水ポンプの故障」をそのまま再現する。
《 》内がアナウンス部分。

◆給水ポンプが止まる時
《原子炉の運転中、タービンを回した蒸気は復水器の中で水になり、給水ポンプが原子炉でできた蒸気の一部を使ってタービンを駆動させます。給水ポンプは原子炉に冷却水を供給する重要なポンプなので、その故障に備え、モーターで駆動する予備のポンプが2台設置されています。したがってタービン駆動のポンプが2台とも故障しても予備のポンプが1台動けば原子炉は出力を下げて、そのまま運転を続けることができます。
ここでは最悪のケースとして予備のポンプが2台とも動かない場合について説明します。まず給水ポンプが2台とも停止すると原子炉の給水が止まったことを知らせる警報が
鳴ります。給水ポンプの停止と同時に予備の給水ポンプを動かす回路が働きますが、2台
とも動かないと原子炉の給水が完全に止まるので、原子炉の水位が急に下がり始めます。
水位が通常より60センチメートル下がると「水位が下がった」という警報 が鳴り、すべての制御棒が一斉に挿入され原子炉はスクラムします(スクラム=原子炉に異常が発生した場合に原子炉を緊急停止させること。手動で停止することもある)。
 スクラムすると蒸気の発生が急に少なくなるので水位はさらに下がり続けます。運転員は主蒸気止め弁を閉め、タービンを止めます。原子炉の水位がさらに2メートルまで下がると警報が鳴り、再循環ポンプが停止して主蒸気隔離弁も閉じます。この時、高圧の炉心スプレイポンプと原子炉隔離時冷却系ポンプが起動して復水貯蔵槽の水をくみ上げ、原子炉の水位を回復させます。運転員が操作しなくてもやがて水位が十分回復して通常より50センチ高くなると炉心スプレイポンプと原子炉隔離時冷却系ポンプが自動的に停止します。原子炉はこれで安全な停止状態になります》

◆血の気が引く
以上の解説の中で原子力発電の安全性を担保するキーワードが二つある。ひとつは「水位」であり、もうひとつは「警報」である。ともかく超高温となった炉心を冷やすことが原発運転のイロハであり、少しでも異常があれば遠慮なく警報が鳴る。これは再循環ポンプを含む再循環系統でも仕組みは同じである。
 ここで14年ほど前、三井造船が造ったキルン式ガス化溶融炉を思い出した。プラントはドイツシーメンスから技術導入したものだが、本家のフュルトという都市でキルン部がガス漏れ事故を起こしている。原因はプラントの稼働中、ひっきりなしに警報がなるので、うるさがった労働者が警報装置を切ったまま作業をしていたのである。
 さらに原発労働者は各自にアラームメーターを持たされているという。初めての労働者は「その音が鳴ると顔から血の気が引くくらい怖いもの」らしい。このケースについては次回で紹介する。
 本ブログ(2)では原発事故が起きる背景を三つに整理してみた。そのひとつが「あまりにも神経質な原発技術」というものだが、要するに系内でのみ通用する技術だったのである。現に1989年1月1日、再循環ポンプが壊れるという事故が福島第2原発で発生していた。       (以下次回)
 

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