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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

伝え、遺す原発ブログ(3)

2011年06月09日 | ハイテク技術
◆失敗学登板
 前というか、現と呼ぶべきか、菅直人総理が5月24日、福島第1原発の「事故調査・検証委員会」の委員長に畑村洋太郎東大名誉教授(70)を任命した。畑村氏は東大大学院機械工学科修士課程を修了し、66年に日立製作所に入社。68年に東大工学部助手に転身し、2001年から名誉教授を務めている。
 畑村氏の名を一気に高めたのは00年に発表した「失敗学のすすめ」(講談社)だ。畑村氏は、日本社会には、失敗を恐れ、それを隠そうとし、失敗に学ばないという欠点があると主張する。その原因は明治以来、欧米のマネをすることで失敗を避け、効率よく仕事を進めてきたために、正面から失敗に学ぶシステムが生まれなかったことにあるという。
 失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する。勝負事は「痛い目」に会わないと身につかない、など畑村語録はよく知られている。
 また畑村氏は「行動する学者」として有名だ。「現地・現物・現人」が口癖で、まず事故現場に立つ。そこで現物を見て、その場所の空気を読み、関係者から話を聞くことを第一義としている。
 畑村氏はJR福知山線脱線事故や六本木ヒルズの回転ドアの少年死亡事故でも活躍した。福知山事故ではJR日本安全有識者会議委員を務め、ヒルズの事故では個人的に「ドアプロジェクト」という組織を立ち上げている。
 しかし福知山事故は鉄道恐怖症という言葉を生むほどの大事故だったが、鉄道は社会に不可欠なインフラであり、全否定するわけにはいかない。その意味では事前防御と事故の可能性究明という日常不断なルールづくりが必要だった。
だが、福島原発はそれと同じだろうか。そして畑村氏の役割は―――。

◆事態はメルトスルー
この委員会がどれだけ事故究明に役立ち、責任の所在を明らかにし得るのか。首相も含め、政府は福島原発事故の“被告”である。この言葉は菅自身が自虐的にどこかで使っていた。その被告が裁判所としての検証委員会を設置するという。しかもこの委員会の事務局は内閣官房に置かれる。畑村氏を任命したのも政府で、日刊ゲンダイの表現を借りれば「身内の取り調べ」なのである。
 もうひとつは畑村氏自身の姿勢だ。原発の危険性をとことん洗い出す、という立場にはない。最近のインタビューでも「人類は原発を知り尽くしてはいない。だからこれからも事故は起きるだろうが、それを克服して原発を使っていくべき」と明言したという。
 だが原発が一度、重大事故を起こしたらそれこそ取り返しのつかない人類の危機を招くという実例がいま我々の眼前に展開されているのだ。しかも解決のめどもつかぬまま。
 一昨日(7日)政府がIEAI(国際原子力機関)に提出した報告書では福島第1原発事故で起きたのはメルトダウン(炉心溶融)どころか、メルトスルー(溶融貫通)だったという。炉心が損傷し、溶け落ちた燃料が原子炉圧力容器のそこに溜まる事態が「メルトダウン」だが、燃料の塊が格納容器の底を突き破ってしまうのが「メルトスルー」だ。
 原発事故初期のころ、「普段からものもいえなかった原発反対派が嵩にかかって『メルトダウン』などといい触らしているが、自重してもらいたい」などと原発擁護派がキャンペーンを張っていたが、事態はそれを大きく上回っていたのである。
 報告書は震災以降の1~6号機について炉心や水素爆発の状況、放射性汚水の漏れなどについて記述、地震発生と同時に外部電源が、そこに大津波が重なって冷却機能が失われ、1~3号機が「メルトスルー」した可能性に言及している。これらの事実は国際機関に向けて報告されることで国民の前に初めて明らかにされたのである。
 では当時の政府発表は何だったのか。それを右から左へ書き連ねただけのマスメディアはいま何事もなかったようにIAEA報告書の解説を我々に届けている。

◆被害はさらに拡大
 大震災直後の3月18日、IAEAが調査に来た時、日本政府は30キロ圏に入れさせなかった。国際的にはIAEAの調査を拒否したリーダーとして菅直人は世界的に名声があがったのである。むろん悪名だが。
 だがこのツケは大きい。IAEAでは中国、オーストラリアなどの提言(海洋の放射線汚染に関する国際的な監視体制の構築)を受入れ、理事会で承認することになった。
 いつ果てるとも分らぬ未曾有の海洋汚染。しかも事前の通告なしに、不可抗力とはいえ、自ら海洋放出したことの意味は大きい。当然巨額の賠償請求がくる。政府はそれを恐れ、「原子力損害の補完的補償に関する条約」(原発事故の被害が国外に広がった場合、損害賠償訴訟の裁判管轄権を事故発生国に限定し、賠償の限度額を定めて電力会社に負わせる国際的な枠組み)への加盟を検討しているという。これも「そんなことはあり得ない」と考えてきた驕りの結果といえよう。
 福島第1原発だけでなく、第2原発も予断を許さぬ状況になっている。タービン建屋地下等に放射能汚水が溜まり、東電が海洋に放出する計画を検討することが明らかになった。大震災時の津波で建屋の地下等に入り込んだ溜まり水が満タンに近づきつつある。溜まり水の総量は分かっていないが、塩分を多量に含んでおり、このまま放置すると水中に使っている機器に悪影響が出るという。
 畑村先生、福島原発事故もただの失敗例なのですか。
 






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