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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

重工伝説の崩壊

2007年11月06日 | 清掃工場
ひとつの伝説がある。「重工が(技術的に)できないというなら、日本(の技術)ではできないということだ」。
 重工とは三菱重工業のことである。ビーバーエアコンから防衛、宇宙産業までという世界企業に対する全幅の信頼が生み出した伝説だ。その重工にいま信じ難いガタ(綻び)が来ている。
 まず最も新しい綻びは本年11月1日午前、愛知県名古屋空港で起きた航空自衛隊F2支援戦闘機の離陸失敗・炎上事件であろう。屈辱的だったのは「機体製造元で整備点検を全面的に手がけている」天下の重工が愛知県警の立入り捜査を受けたことである。赤福や比内地鶏じゃあるまいし。

◆ほかのメーカーでは考えられない事故
 第二の綻びは2005年3月末、仙台市で起きた清掃工場の装置焼損事故である。焼却プラントとしては最終工程ともいうべき触媒反応塔が急激な酸化反応を起こして炎上するという「技術以前の」事故であった。プラントを仙台市側に引き渡す前に重工側が行なっていた試運転中の出来ごとである。
 触媒反応塔とはバグフィルター(濾過装置)では除去しきれぬダイオキシン類をもう一度念入りに分解するきわめて高価でデリケートな装置。焼損の原因が判明したのは2ヶ月近くも経った5月20日である。
 それによると3月下旬、焼却炉の後部についているボイラーがトラブルを起こしたため、3つの焼却炉全部を緊急停止した。もう少し詳しくいうと、①ボイラー内部の小部品(大気放出板という一種の安全弁)が操作ミスで吹き飛び、②その在庫が現場になく、取り寄せるのに数十時間がかかった、③この間、ごみが炉内で不完全燃焼を起こし、大量の炭化水素ガスが発生、④そのガスが触媒反応塔に溜まり、⑤部品修理後に炉を再起動した3月31日、1号炉と3号炉で排ガスを急激に再加熱したところ溜まった炭化水素が高温になって触媒が燃えてしまった、というものである。
 つまり備えおくべき部品に在庫がなく、取り寄せるまでに時間がかかり、その間、炉内の異常に気がつかず、重要な装置を焼損させた、というのである。さらに分かったのはその種の異常を検知すべき「ばいじん濃度計」が作動していなかったことだ。作動していれば「炉内の残り火」への対策も立ったはずであり、現場における技術の劣化と緊張感の緩みを端的に物語る事件ではあった。

◆現場も呆気にとられた耐火レンガ崩落事故
 三つ目は去年(06年)4月29日に起きた高知市清掃工場内の灰溶融炉2号炉から大量のスラグが流出した事故である(冒頭写真)。これは耐火レンガの劣化とそれを事前検知する機能がまったく働かなかったことが原因といわれている。スラグ流出とは普賢岳や桜島の溶岩噴出と同じ現象と考えればいい。周囲に人がいたら確実に死傷事故は間違いなかった。だからこそどのメーカーも耐火レンガには最大の神経を使うのである。
 すでにこの種の事故は2001年6月のいわき市、同年8月の愛知県小牧岩倉、2004年7月の静岡市といくつも起きていた。
 高知清掃工場は2002年4月に稼動開始。灰溶融炉(40トン/2基)は約3ヶ月ごとに1炉づつ交替で運転していたが、耐火レンガの劣化が予想外に早く進んだ。しかし現場はそれを検知できなかった。
 同工場の三本博三工場長は電話口で次のように愚痴った。「 じわじわ消耗が進んだのなら炉底の外側のケーシング(覆い)が赤くなるとかで異常が分かったのですが、事故が起きた当日もギリギリまで作業員が見回っていたのにまったく異常に気づきませんでした」。
 また地元紙によれば「稼動から1年弱経過した03年7月に初の大規模補修が行なわれ、三菱重工業が炉底レンガを交換していますが、この時にレンガの消耗が激しく、工場関係者によると『ほとんど残っていない状態』で、すでにレンガの耐久性に問題ありという危険信号は出ていました」(高知民報06年6月4日付)。
 この時点で重工側はレンガの材質を変えることにより16ヶ月の耐久性を持たせたとし、次の交換時期を06年6月としていたという。しかし半分以下の7ヶ月でこれまた「ほとんど残っていない」状態でスラグ流出事故を起こしたのである。
 劣化していたのは耐火レンガではなく、「重工の技術」であった。

◆溶融スラグから96倍の鉛
 そして今年5月、不祥事が起きた。東京二十三区清掃一部事務組合(一組)が運営する中央防波堤内側(通称中防)の灰溶融施設から出た溶融スラグに基準値の96倍という鉛が検出されたのである。機種は黒鉛電極を用いたプラズマ式灰溶融炉(100トン炉4基)。これも三菱重工業が受注・設置したプラントである。
 中防では5月25日、問題のスラグを1ヶ所に集め、積んだ山からアトランダムに15ヶ所選んで溶出試験を行なったところ、再び0,15mg/l、から0,53mg/lという高い数値が出た。ちなみにスラグ中防の鉛溶出基準は0,01mg/lである。
 現在東京23区で灰溶融炉が設置されている清掃工場は20工場中8、炉数は17である。そのすべてが安定稼動するなら灰処理能力は1,650トンとなり、23区で稼働中の清掃工場の焼却灰(飛灰)が全量処理できるというのが一組の計算だったが、それはみごとに外れた。中防については1号炉と4号炉が5月24日から9月5日まで、2号炉は5月22日から10月16日まで、3号炉は5月26日から10月16日までという大規模修理工事になった。
溶融という技術を普及させるためには「排泄」されるスラグを何としても土木資源として有効利用する必要がある。そのため重金属類の漏出だけは何としても避けたい。現在全国で動いているガス化溶融炉は79、灰溶融炉は116あり、今後も増える傾向にある。それにつれてスラグも溜まる一方だ。業界の試算によると2010年に約60万トン、2014年には約100万トンが滞貨するという。これがスムースに捌かれないとスラグは処分場行きとなり、「溶融の目的は処分場の延命」というスローガンは宙に浮く。
 焦った国と関連業界は昨年(06年)7月、3年越しの懸案だったスラグのJIS化を実現させた。そこをスタートとしてスラグの有効利用を図る。東京がその旗振り役になるはずであったが、今回の鉛事件で前途に暗雲が立ち込めた。中防の担当者は「辛いなんてものじゃない」と頭を抱えていた。その意味でも重工の責任はあまりにも重い。
 
◆今度は排ガスから水銀
 中防の灰溶融炉で鉛が基準値を大幅に超えた理由はプラズマトーチの失火である。なぜトーチの失火によって鉛が検出されることになったのか。中防の現場を取材したところ、「焼却灰の流動がよすぎて供給装置から灰がドーッと炉の中に流れ込んだため」だという。失火によって炉内温度が低下し、重金属類、とりわけ鉛がスラグ中に残存することになったのである。
 ではなぜ「焼却灰の流動」がよすぎたのか。聞けば聞くほど三菱重工業側の設計ミスとの疑念が深まる。流動過剰は焼却灰をピットから炉へ供給する際に調整する混合器の不備であった。現に同じ黒鉛電極のプラズマを使っている葛飾清掃工場(55トン2基)の場合、そんな事故を起こしていない。ちなみに葛飾のメーカーはタクマである。
 9月6日、中防1・4号炉が大規模修理は終え、再稼動に漕ぎ着けたが、10日に至って今度はもうひとつの仰天情報が飛び出した。排ガスから自主基準値を超える水銀が検出されたのである。
 一組がHPを通じて水銀の基準値超過を報じたのは9月13日のことであった。それによると、「中防溶融施設のうち1号炉と4号炉の排ガス中の水銀濃度が9月7日から10日にかけ、独自に定めた《自主規制値=1立方メートルあたり50マイクログラム》を超過していた」という。最高値は9倍の(1立方メートルあたり)450マイクログラムだった。
 水銀濃度については大気汚染防止法の規制がない。それに代わって廃棄物処理法が自主規制値の遵守を義務付けたのである。
 一組では、この結果を受けて9月10日、2炉とも停止させ、その結果を東京都に報告している。11日午後、東京都による立入調査が行われ、「原因分析や今後の対応について早急に報告するように」との指示を受けた。
 この稿を書いている11月5日、水銀が出た原因についてはまだ明らかになっていない。
  

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