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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

JFEシアン垂れ流し事件とは何であったか

2007年10月20日 | 廃棄物政策
(1)発端と経緯
 海上保安庁千葉海上保安部(以下千葉海保)がJFEスチール東日本製鉄所(旧川崎製鉄・千葉市中央区)の護岸付近から強アルカリ(pH12以上)の違法排水を発見し、千葉県と千葉市に通報したのは2004年12月16日のことである。翌17日、県と市は合同立ち入り調査を実施。その後のJFEによる内部調査で意外な事実が判明した。
 ひとつはアルカリだけでなく、水質汚濁防止法上「検出されてはならない」筈のシアン化合物が排水1リットルあたり7.57mg検出され、西6号線排水口から六価クロム化合物が、これも基準値を超えて検出されていた。もうひとつは2001年4月から04年末にかけ、水質管理データ8万9,642件のうち1,109件のデータ改ざん(基準値内のデータに書き換え)があったのである。
 この事実が本年(2005年)2月3日、内外に公表され、翌4日には環境省が担当者を派遣。実情調査に乗り出し、3月8日に千葉海保と千葉地検が工場の家宅捜査に入った。千葉海保が押収した資料はダンボール約700個に及び、目下警備救難課8人が土日返上で点検にあたった。
 3月16日、市から水質汚濁防止法にもとづく改善命令の交付を受け、同月24日には県・市との確認書・細目協定が締結されたが、その時点でJFE側はシアン化合物流出の原因となった設備(ダスト精錬炉の排ガス冷却塔)を行政との事前協議なしに撤去していた。直接の監督官庁である千葉市の責任は重大である。なぜなら1998年の立ち入り調査でシアンの流出を確認し、その後2年間検出されなかったため01年以降、シアン化合物を調査対象から外していたのである。だが皮肉なことに今回のJFE内部調査でシアン流出が起きたのは01年4月から04年末にかけてであることが判明している。

(2)アルカリ・シアン等流出の原因
①高アルカリ
 同製鉄所は総面積823ヘクタール。東京湾に突き出る形で西工場、東工場、生浜地区の3エリアが形成されている。
 その西工場エリアの北西に位置する水抜きパイプから千葉海保、市などが前記強アルカリを検出した。原因は野積みの高炉スラグ(製鉄過程から出る鉱さい)に雨水が入り、排水溝以外から海域へ浸出したというもの(写真)。ちなみにJFE全体で高炉スラグは年間1560万トン排出されている(2003年度)。
②シアン
 10年前、西工場にダスト精錬炉が建設された。これはステンレス製造工程から出るクロム、ニッケルダストを精錬し、再び同一金属を取り出す一種のリサイクル装置だが、炉の熱風中に含まれる窒素分と炭素分が反応してシアン化合物が発生。約700度の排ガスを冷却水に通すときシアンが水に溶け込み、霧状になって飛散する。
このメカニズム以外にも排水設備の不完全さや防液堤の高度不足などが高濃度シアンの海域流出につながったのである。
③六価クロム
 廃酸輸送のタンクローリー車の管理不徹底で漏れたろ液が舗装道路の雨水側溝に流れ込み、排水溝の水質異常をもたらした。

(3)問題は何か
 まず公害防止協定がJFE、千葉県、千葉市三者だけで結ばれ、市民の参加が保証されていないことである。千葉市(環境局)は05年3月10日付けでJFEに対し「施設改善計画を05年5月16日までに提出し、施設の構造若しくは使用の方法または汚水等の処理の方法の改善を5ヶ月以内に進めるよう」求めてい(「JFEスチール㈱東日本製鉄所(千葉地区)の環境問題に関する行政措置等について」)。しかし水質管理担当者によるデータ改ざんは確認できただけでも3年余にわたっており、前任者もやっていたというからほぼ10年間もデータ隠しが行われていたことになる。
 第二にJFE側の内部事情である。現在リサイクル装置としてのダスト精錬炉は「一時停止命令」で運転が止まっているが、ステンレスダストは1日約200トン出つづけている。1本300トン収納可能な巨大なサイロが4本存在しているが、それも数ヶ月で満杯になるという。やむなく脱水して仮置きするほかはなく、市のいう「5ヶ月間で施設改善」はそれを見越してのものといわざるを得ない。企業との癒着を疑われても仕方がない。「8月中のダスト精錬炉再開」はJFE側にとっても至上命令なのである。
 4月28日、JFEは千葉県知事、千葉市長に対し改善対策の実施状況報告を提出した。現在の環境防災部を廃止し、環境管理部を新たに設置する。人員についても従来の12名体制から22名体制とし、パトロール機能を強化。さらに操業部門が指示に従わず、有害物排出のおそれがあれば操業を止めさせる権限を環境管理部に与えるなどとしているが、その前にやるべきことがある筈だ。なぜ現場担当者が10年にわたってデータ改善をやったのか。ハインリッヒの法則ではひとつの大きな事故の背後に27のトラブル、100のヒヤリ体験があるとし、現場は本能的にその体験を隠すともいう。企業内部だけで新たな組織をつくり、管理職全員にCSR(企業の社会的責任)とコンプライアンスの徹底を図るといった内向きの対策だけで済む話ではない。外部監視機関の導入や現経営陣の総入れ替えなど思い切った発想転換と、それを促すための市民参加が不可欠であろう。
 第三に捜査機関、行政機関の足並み不一致である。千葉海保がすべての資料を精査し、立件(地検への事件送致)を終えるのは少なくとも本年度(2005年度)一杯とされ、しかも悪質なデータ隠しや改ざんについては「陸の犯罪」として水質汚濁防止法の対象にはならないとの見解を示している。
 仮に千葉海保がデータの精査を終え、地検に対し「事件送付」に漕ぎ着けても、JFEの操業再開とは何のかかわりもない。市も県もJFEを告発する気は毛頭なく、ここには「それぞれの領分」を後生大事に守るだけで、ダイナミックに環境犯罪を摘発しようという仕組みや気構えは皆無なのである。
こうした法的アナーキー状況の中で、三重のRDF発電と同様、操業再開だけが目的化されようとしている。               (2005年6月)
 


 
 

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