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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

廃炉庁

2012年12月14日 | 廃棄物政策

毎日新聞12月12日付の記事にやや違和感を覚えた。第2面の「原電が公開質問状:活断層の科学的根拠示せ」なる記事の写真である。2人の男が書面のヤリトリをしている。キャプションには「原子力規制庁の名雪哲夫審議官(左)に公開質問状を手渡す日本原電の増田博副社長」とある。もともと公開質問状の類いは立場の弱い側が強い権力を握る側に、半ば陳情の形で提出するものだが、毎日の写真では“権力側”の規制庁が首をすくめるように書面を受け取っている。無理もない。日本原子力発電株式会社(以下日本原電)はまさに倒産の危機に晒されており、「お前(名雪審議官)では役不足だ」となじりたい気持ちが増田副社長の高姿勢にありありと出ている。写真は怖い。
 ことの経緯は以下のとおりである。
 
◆日本原電のピンチ
 原子力規制委員会の島崎邦彦委員と専門家4人は、敦賀原発で本年12月1日から2日間行った現地調査を受けて、12月10日、断層を評価する会議を開いた。その中で2号機の真下を走る断層が活断層の可能性があるという判断が下されている。
 そのあと規制委員会の田中俊一委員長は記者会見を行い「今のままで再稼働の安全審査はできない」と述べた。その結果、敦賀原発の2号機は、運転再開できずに近い時期に廃炉になる可能性も出てきたのである。
 敦賀原発(福井県敦賀市)1、2号機が廃炉となれば、巨額の損失計上は避けられず、日本原電は危急存亡の秋に立たされる。造成工事に入っていた敦賀3、4号機建設も先行き不透明だ。加えて廃炉のための費用と原発施設の資産価値はゼロになる。
【経済産業省の試算によると、日本原電が12年度中に東海第2を含む全3基を廃炉にした場合、2012年3月末の純資産1,626億円を上回る2,559億円の損失が発生するという。敦賀1、2号機だけでも1,000億円超に達しそうだ。将来の再稼働を見込んで大手電力から受け取っている年1,000億円超の「基本料金」も見直しを迫られるのは必至。「原電の経営が立ちゆかなくなる」(電力首脳)懸念が広がっている】(日本経済新聞12月11日)。増田副社長が怒るのも当然の話だ。
 なお日本原電とはどんな会社か。Wikipediaから引用する。
【原子力発電を日本で事業化するため1957年、電力大手9社と当時国有だった電源開発が共同出資して設立した原発専業会社。66年に日本初の商業炉となる東海原子力発電所(茨城県東海村)の営業運転を始めた。発電した電力は出資者である電力各社に販売する。東海原発は98年に運転を終え、商業炉として初めて廃炉になった。現在、東海第2、敦賀1、2号機を保有するが、すべて停止中。2012年3月期連結決算の売上高は1,460億円、最終損益は128億円の赤字。従業員数は連結ベースで2254人である】。

◆人身御供の敦賀原発
 アーサー・ビナード氏(Arthur Binard、1967年7月2日生 )をご存じだろうか。氏はアメリカ合衆国、ミシガン州生まれの詩人で、俳人、随筆家、翻訳家でもある。1990年6月に単身来日、通っていた日本語学校で教材として使用された小熊秀雄の童話「焼かれた魚」を英訳したことをきっかけに、日本語での詩作、翻訳を始めた。
 現在は活動の幅をエッセイ、絵本、ラジオパーソナリティなどに広げ、日本国内各地で講演活動等を行っている。原発事故の被災地も何度となく訪問しているという。
 この人はいま吉田照美の文化放送番組(よしだてるみのソコダイジナトコ=早朝6時~8時30分)のコメンテーターを務めており、的を射た社会的発言がリスナーの心を掴んでいる。この人をコメンテーターに選んだ吉田照美氏の見識に脱帽である。
 以下、今月12日に放送された氏のコメントを紹介する。前述した規制委の動きを受けての発言である。
【確かに(規制委)調査団の専門家はまともですし、まともな論議をし、まともな結論を出しました。しかしこれで規制委がまともな組織だと思い込んだら危険です。規制委員会は核燃料サイクルを何としても守りたい組織であり、そのPRに今回の「廃炉」を示唆する結論が利用されたのです。つまり敦賀原発はほかの核開発施設を守るためのスケープゴート、いわば「人身御供原発」です。敦賀原発1号機は1970年3月につくられました。すでに築40年という賞味期限を過ぎています。問題の2号機は87年に建設されました。その以前から活断層があることは知られていたのですが、それを無視して建設が進められたのです。日本原電は原発だけの電力卸売業者ですからいずれ潰れます。株主は9電力とj-power(電源開発株式会社)で、90%の株を保有しています。だから日本原電が潰れてもまた政府が税金で穴埋めする流れになるでしょう】。

◆原発は不良債権
ここでMCの吉田照美氏が質問する。
「関西電力は敦賀原発が動くかどうか分からないのに『日本原電からの電力買い取り費用』を値上げ申請中の電気料金の原価に入れております。これは経済産業省の料金値上げ審査委員会が明らかにしたものですが、この点についてアーサーさんのご意見は?」。
 アーサー氏は次のように答えた。
「どの電力会社も原発が止まったから料金値上げだといいます。しかしこれはまやかしで、原発をつくるとこういう結果になる、ということです。電源の比較で原発建設のコストが最も高いという点はハッキリしているし、今後何十年かにわたり不良債権として抱え続けなければなりません。『原発稼働は粉飾決算の増殖炉』なのです。動いていれば先送りできますが、止まってしまうと粉飾の実態が重くのしかかってきます。そういう経営陣の判断ミス、そのツケが電力料金の値上げという形で我々に廻ってくる。『原発は不良債権』という現実をよくみることです」。 

◆安全な原発開発?
次に吉田照美氏は「内閣府原子力委員会の在り方を見直す有識者会議報告書」について質問した。会議は12日に開催されたが、そこで示された選択肢は5点。すなわち①原子力委員会を内閣府に残す、②規制委員会のような独立性のある組織に改編する、③「原子力庁」のように内閣府の外庁とする、④経産省、文科省、外務省などに機能を移管する、⑤国会の付属機関とする、というものであった。ただしその場で絞り込みはせず、判断を次期政権に委ねた。
 これについてアーサー・ビナード氏はにべもなく次のように裁断した。
「所詮、看板のスゲ替え、どれを採用しても無意味です。ただ報告書にはバックエンド対策という用語がでてきますが、このとんでもない不良債権をどうするかをまず検討すべきです。そのためにいま必要なのは『廃炉庁』です。その上でいま抱えている問題を国民の前に公開して、将来これだけたいへんな作業になるということを包み隠さず理解してもらう。それをやるのが廃炉庁です。ところで今月15日から17日まで、国際原子力機関(IAEA)との共催で,『原子力安全に関する福島閣僚会議』が開催されますが、そのスローガンは『福島の教訓を生かそう』です。しかし会議の目的は『あくまで核開発をつづける』ことが前提です。しかし教訓を生かすというなら廃炉に向けた決断をし、それを世界に訴えること、それ以外にはありません」。
 いまなお福島第1原発周辺の人々は向こう5年間は自宅へ戻れないという。浪江町では避難指示によって8万6,000人の被災者がいる。テレビカメラに向け「帰れるまでに生きていないべ」、ある高齢の女性がそう語った。
 こうした現実を前によくも「安全な原発を目指す国際会議」などを開けたものである。


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