今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

大ナゲシ、赤岩尾根 ①

2005年12月17日 | 山登りの記録 2005
平成17年5月11日(水)

 今年になってやっと3回目の登山、子供抜きで一人だけで行くのは今年初めてだ。前回前々回と西上州2連発で岩場があるところだったが、今回選んだ大ナゲシと赤岩岳も岩場があって、ガイドブックのグレードは★★★★だ。もっとも前回子供と行った碧岩・大岩も★★★★だったが、お助けロープが設置してあったりでグレードは下がっていると思う。かつては鎖はおろか残置ロープの類もなかったバリエーションルートも、このところの中高年登山ブームのせいか、赤テープや固定ロープの設置が増えている。特別にこだわりなんか無いので、あれば結構利用してしまうが、そのせいでグレードは当然下がって一般コース化しているように思うのだが…。
 
 大ナゲシをネットで検索するとかなりヒットする。ガイドブックにも載っているから登山者は多くなっているらしい、この山は雰囲気からすると天丸に似ているが、登った人たちの報告では岩場はなかなかスリルがあるように書いてある。一応今回は念のため補助ロープを持参することにしたが、使うこともなさそうだ。

 前夜出発。当日の朝でも良かったのだが、朝早起きして出発する方が大変だから前の晩に出ることにした。地図などで検討した結果、上野村経由で行った方が時間も早そうだ。南牧から上野に抜ける湯ノ沢トンネルのおかげで、この方面へは大分時間短縮された感じだ。志賀坂トンネルから先、金山林道と八丁トンネルの道路状況が分からなかったのでやや不安だったが、ここもすんなり通過し午前1時前に小倉沢の鉱山住宅駐車場に着いた。家を出てから3時間かからなかった計算だ。

 使われていそうもない木造の歴史建造物の様な公民館?(或いは昔の事業所の事務所にでも使われた建物か)の前が比較的広い駐車場だが、そこには30台くらいの車が停めてられていた。予想していたのと違って廃墟に近いというその鉱山住宅には住民がまだ結構いるようだった。周囲には古い木造の平屋の住宅がたくさんあるが、これらはもう人が住んでいないようだ。その上の段に2階建ての比較的新しいアパート風の建物が2,3あってそこの窓には灯りが点っているところもあるから、ここに住人がいるらしい。今晩はこの時期にしては冷え込むと言う予報通り、車の外に出ると寒かった。今のところ、まだ星がまたたいていて晴れているが、天気予報では明日は曇りになるという。
 登り口が分からないので住宅街の中を少し歩いてみたが、見つからなかった。まあ、朝になれば分かるだろう。周囲に停まっている車はほとんどが熊谷ナンバーだが、いくつかは北海道のナンバーがあった。やはり鉱山と言えば北海道、こんな所にまで出稼ぎに来ているのか?駐車場のはずれに相模ナンバーの軽ワゴンが停まっていて、そのとなりにテントが張ってあった。どうも明日山に登る人がこうして泊まっているような気配だが、気にせず眠ることにした。シュラフにもぐっても少し寒いような感じだった。コースタイムを考えると早起きしなくてもいいかなと思ったから、アラームは7時に設定したが、明るくなるのが早いこの時期にそんな時間まで寝ていられるわけも無いだろう。

 朝方かなり冷えたので寒かった。目が覚めると、周囲の車が少なくなっていた。もう、現場に出かけたのだろうか?携帯の時計は5時45分、外はすっかり明るくなっていて、古い建物の上にのしかかるように赤岩岳が高く見えていた。ただ、この赤岩岳は想像していたのと違って、岩峰というよりも川や海の側に良くある崖の様だった。相模ナンバーの車の主はテントをたたんでもう山に入ったのか、そこにテントはなかった。早立ちしたところを見ると、赤岩尾根の縦走に違いない。こっちは大ナゲシと赤岩岳の往復だからもう少し寝ようかとも思ったが、今は真っ青な青空が広がってはいるが、今日はだんだん曇ってくると言うことだから、できることなら晴れていて景色が見えるうちに上に出たいから、出発の準備をした。
 赤飯の冷たくて硬いおむすびは一個食べるのがやっとだった。出発しようと車の外に出たら、鉱山住宅の人が駐車場にやってきて車に乗り込んで出て行った。軽く会釈したけれど特に関心は無いようで、何もいわなかった。駐車場の入り口に「無断駐車禁止 日窒工業管理者」という古い看板があったのは少し気がかりだけど…。

 鉱山住宅の家並みをはずれると、そこに看板が二つと良く読めない石碑が建っていた。看板には「大ナゲシは頂上部が岩場で危険なため、ザイルなどを持参して初心者は入らないように…遭難事故が起きている由。赤岩尾根は岩がもろくルートも不明瞭で危険なため、ザイルを持参した経験者のみが入山するように…遭難事故が起きている由」とある、石碑の方は古いもので赤岩峠への矢印が書いてあるようだが、判別できない。そこから藪のなかを細い踏み跡が上に向かっていた。初めはかなり藪がひどかったが、しばらく登ると鉱山住宅の屋根を見下ろすようになり、道もはっきりとして伐採された見晴らしの良い斜面を急登するようになった。上に見えている赤岩岳よりも左手のつるっとした大きな岩壁の方が目を惹いた。素晴らしい快晴で、これから直ぐに天気が悪くなるとは思えない。それでも、向かいの両神山から東に延びた派生尾根の向こうの山々や、高く見えている奥秩父の山々には薄雲が掛かり始めていた。、目指す赤岩峠方面は真っ青な空が広がって気分も上々だ。
 道はジグザグになり、左手の岩壁寄りの尾根に取り付くが、ますます急になってあえいだ。寒いことを予想して、この時期この程度の高さの山なのに厚いラグジャーを着ているから、汗をかなりかいた。でも、呼吸を整えるために立ち止まっていると直ぐに冷気で汗は引いていくのだった。このかっこうで今日は丁度良いだろう。

 尾根から最後に幅の広い斜面となり、明るくて気持ちの良い登りが終わると、小さな祠がぽつんとあるだけの赤岩峠に着いた。錆びて、元は木にでも打ちつけてあったのだろう、赤岩峠と書かれた小さなプレートが木の根元に立てかけてあった。ここは十字路で右に赤岩岳方面、左は大ナゲシ、登ってきた道をそのまま下る道が群馬県側に付いていた。これが野栗沢に下る道らしいが、意外にはっきりした道が下に延びている、一番薄くて踏み跡程度なのが大ナゲシへの道だった。
 樹林越しに逆光でそそり立っている赤岩岳が覆いかぶさるような迫力だ。先行したテントの主と思われる複数の人声がその下でしていた。やはり赤岩岳の縦走であるようだが、正面壁に少し登って引き返してきたり、大ナゲシの山頂に立つ時になっても、いつまでも赤岩岳の周囲で声がしていたりと、アカヤシオの写真撮影が目当てのグループかなと思った。

 赤岩峠では休まずに先に進む、露岩のある稜線を向こうに見える大ナゲシに向かって辿る。道は至って歩きやすい、かなり人が歩いている様な感じでガイドブックにも多数紹介されている山だから、それなりに人が多いのだろう。小さなこぶを越えて次のピークは道なりに巻いた。赤テープは多いし、なにより踏み跡ではなくてきちんとした登山道といえる道だった。標識類がまったくないのはむしろ好ましい、こういった一般ルートと言えるかどうか微妙な山の方が我先に標識類をあちこち付けたりする、一種の「プレート設置マニア」が出没するのだ。1,483㍍峰を巻き終わると直ぐそこに大ナゲシがそそり立った。大ナゲシは上部が二段の岩峰で、手ごわいという岩場はあの辺かなあ、など緊張感もはしる。鞍部にコバイケイソウが若葉をぽこぽこ落ち葉の中から出していた。まさにぽこぽこと言う感じでかわいらしい。稜線沿いにもアカヤシオは多いけれど、先ほど見上げた赤岩岳は北側の岩稜沿いにびっしりとピンクの塊を何層にも装っていた。これ程多くのアカヤシオの群落は初めてだ、今見上げている大ナゲシにもアカヤシオはそこここにピンクの花群れを作っていた。この木はやはり岩場の北斜面に多いようだ。
 鞍部を過ぎると、岩が立ちはだかった。赤岩岳の赤っぽいチャートとは違う岩質だ。グレーの石灰岩で割れた断面は赤味がかっている。岩自体は硬いが全体にもろくて、手で簡単に割れてしまうものもある。古代生物の遺骸が堆積して出来たものだろうから、その生成の過程と、こうして目の前にある実際の岩に思いを巡らせる。時空の観念に気が遠くなるというものだ。と、いうような考えはこれからどんな危険な岩場が待っているのか…緊張している(わくわくしている)この時に出てこようはずもない。ガイドブックやネットで得た情報を反芻するまでもなく、その岩場には迷うはずのない赤テープや赤ペンキが点々と付けられていた。その通りに岩の左手に回り込み、幅が1㍍程の岩棚を斜上する。木が生えているので、それも手がかりに加えられるから容易に登っていけるが、もしかしてここがヤバイとかいう場所?足元は確かに切れていて10数㍍くらいの段差があるが、そこには細い灌木がびっしりと生えていて、実際には高度感もあまりない。残置ロープのしっぽまであって、何と言うこともなく通過した。また樹林の中に入り、少し進むと高さ10㍍程の岩頭になり、その上が頂上らしかった。この岩場は中央が屈曲した凹角になって斜度もあまりないため、すたすた登っていったらそのまま左に回り込み頂上に出た。ガイドブックにあった「最後の岩場を乗り越えると頂上…」というのは左に回り込まずにそのまま直上したらそうなるということ、どのみち回り込もうが直上しようが大差なく、帰りは岩場の方を下った。

 さて、どんな危険な岩場かとわくわくしていた気分はぷしゅーっと音を立てて萎んでしまった。まあ、いわゆるガイドブックの上級だの熟達者向きだのは、所詮この程度なんだな…。大ナゲシ頂上は展望が素晴らしいということだったが、中央に三等三角点がぽつんとあるだけのシンプルな山頂からの眺めは、ほぼ南側だけだった。北側には低木が茂って見晴らしは良くない、登り始めてから2時間足らずの山頂だった。少し気が抜けたが(これで、大ナゲシはそこそこ自分の中では難度の高い山として温めていたわけだから…)ここでおむすびを食べて休んだ。ここからみる赤岩岳と赤岩尾根はさすがに容易ではなさそうな雰囲気で、ごつごつとした岩峰をステゴザウルスの背中の様に並べ、逆光でシルエットになっている。その向こうに両神山があって、やはりぎざぎざの山稜を見せている。右手には奥に甲武信や三宝山から去年の暮れに登った雁坂嶺や破風山、そして憧れの和名倉山と遠くに雲取山などの奥秩父の主稜線が見えていた。その手前に幾重もの山並みが迫り、狩倉岳の尖鋒が近い。更に東北には上武国境の山並みの中に懐かしい帳付や大山・天丸山が意外に遠く見えていた。峠越えの林道が山肌に醜い傷を作っているのは興ざめな眺めだけれど。それらの山並みの向こうに、薄く蟻ヶ峰や大蛇倉山などの上信国境の山もまた懐かしく、更に奥にはまだ雪が斑に残った八ヶ岳も見えていた。
 低木の藪を回って北側を見たが、御荷鉾山の他はもやもやとした雲に隠れてよく見えなかった。赤岩尾根の左手には二子山の白っぽい岩山が低く、そのまた左手にはほぼ平らになってしまった叶山(元叶山というべきか?)もみえる。群馬県側は直ぐ下の上野村辺りだけ、まだ晴れ間になっていた。埼玉県側も曇っていたし、群馬県側も曇っていた。北東の湿った冷たい空気が関東平野や東北の太平洋側に雲を作って押し寄せて来ている、ここは関東平野から衝立になっている両神山が雲を止めていたから晴れ間ができているようだ。

 30分ほどで大ナゲシを降りた。「前宣伝」?ほどこの山の山頂は去りがたい場所でもなかった。雰囲気的には天丸向かいの大山の山頂に似ている。下りは岩場の方から降りた。この山を離れて見ると樹林の上、2段重ねに岩頭を載せている様に見える。丸いドームの上に少し尖った角を出している様な、その「角」が今降りた岩場で、その下にドーム型に見えるのは中央が凹角になっているもろい岩場だった。ここも崩れ易いという点を除けば容易で問題なし。再び樹林に入り、岩棚のトラヴァースからルンゼ状の岩場を下った。上部の岩場に比べれば少し気を使うが、特にここも問題なく通過し、そのまま鞍部に降りた。鞍部はコバイケイソウがフェアリーランドを作っていた?そのくらいここは感じの良いおとぎの森の一角の様なところだ。手前のピークを巻いて再び赤岩峠に戻ってきた。ここに来てまだ先行したグループの声が赤岩岳の上の方から聞こえてくるのだった。ばかにのんびりした連中だなあ、それにしては随分早立ちしたものだが…?
 赤岩峠は通過で、そのまま赤岩岳に登る。左手にまたもや迷いたくても迷えないほどはっきりとルート(りっぱな登山道)が付いていた。頭上に赤岩岳正面岩壁と降るようなアカヤシオがある下を、岩壁に沿ってやや下り気味に回りこみ、岩が切れたところから陰気な感じのする急なルンゼ(岩くずの詰まった溝)を登りつめると岩稜に出た。ここからだと目の前の赤岩正面岩壁を横から眺めるようになるが、岩壁の縁を彩るようなアカヤシオが余りにも見事だった。固まって群生していて、今年はやや遅れ気味だったせいか、ちょうど今が見ごろのすばらしい光景だった。 お花見だけでも価値がありそうだ。西上州にアカヤシオの見事な山は沢山あるけれど、ここの規模は超えられまい、ここに続く両神山はアカヤシオの名所らしいが、登山者の多さが何といってもマイナス、岩壁の大きさでもこの赤岩岳の正面岩壁を超えないのだから、ここが一番なのかな?そのくらい見事だった。
 赤岩岳北稜は岩稜になっている、ルンゼを抜けて飛び出したところから左手に岩頭があったのでそこに登ってみた。目の前の赤岩大岩壁とアカヤシオの群落は見事だが、この岩頭もまたアカヤシオが一杯だった。アカヤシオに混じってヒカゲツツジもかなりあった。ヒカゲツツジは葉だけ見るとシャクナゲのようでやや革質のつややかな細い葉と、2輪づつ繊細な雰囲気のあるオフホワイトの花が咲いている。アカヤシオに比べるとはかなげな印象を与えて、その上に数が少ないので眼にすることは少ないが見つけると何となく嬉しい思いがした。ここからの眺めは大ナゲシが一番、頂上部の岩峰はとても簡単には登れそうもないようにいかつく見えた。
見上げても、赤岩岳の山頂は見えないが、直ぐそこの岩稜を詰めるともう間もなくであるには違いない。少し写真を撮ったりしてから、そのアカヤシオに埋まった北稜を登った。簡単な岩登り少しで藪に入り、低木がややうるさい山頂らしくない山頂に出た。あの岩壁の上とも思えない、岩壁側をのぞき込んだが、藪の斜面が下っている先は空間になっていた。

 赤岩岳の山頂部はいくつかのコブがあって、山頂標識も三角点もないここが本当に山頂なのかどうか分からないので、そのまま先に進んでみることにした。下から見上げた印象とは違って余り展望もない藪っぽい頂上部だが、それでもところどころに切れ間があって周囲が少しづつ見渡せた。やや下り気味になって痩せた岩稜になり、そこから南側にストンと一気に空間が広がった、下から見上げた岩壁の縁に出た訳だ。真下に小倉沢の鉱山住宅や、そこから少し離れた石灰鉱山の施設がごま粒のように見えている。500㍍一気の高度差は、のぞき込んでも凄い高度感だ。双眼鏡を出して自分の車を捜した。駐車場を出てきた時より少ない数の車の中にぽつんと愛車が見えていた。石灰鉱山からは白い煙が薄く立ち昇り、時々がらがらと大きな音がしている。向かいの両神山東稜との間の深い谷の底は緑で埋まり、石灰鉱山とその住宅だけが不釣り合いな人工物だった。しばらく痩せ尾根が続いたが、小さなコブを最後にまた藪の下りになっていた。結局最初のピークが赤岩岳の頂上らしかった。引き返して赤岩岳の頂上で小休止。時間はまだ10時を少し回ったくらいで、このまま下ったらお昼前に小倉沢に降りてしまう。登り始めるのが早かったから、これで終わりでは物足りない、大ナゲシも赤岩岳も思ったほどの山ではなくて拍子抜けしていた。天気は薄曇りだがこれから直ぐ悪くなるような気配もない。
 ここで少し思案した、このまま赤岩尾根を縦走出来ないだろうか?天気も時間も、今までのルートの状態も特にそれを不可能と思うような要素はなかった。幸い赤岩尾根のガイドブックの写しは持ってきているし、そうでなくとも大体のルートや岩場の様子は既にチェック済みだ。ここから八丁峠までコースタイムでは約2時間半、そこから小倉沢まで1時間で、合計3時間半あれば充分だった。遅くとも3時までには降りてしまえる計算で、一応今日は4時までに下山するのを予定にしていたから「行ける!」また機会を作ってここからの縦走をするのもいつになるか分からないし、チャンスだからこの際縦走したいと思った。
そうと決まればここに長居は無用。ザックに荷物をしまい込んで、また再び西に向かった。

②に続く
 

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