現代人の起源をめぐる二つの説

2021年02月10日 11時02分10秒 | 事件・事故

DNA人類進化学 ~ 現代人の起源

 何々の起源というと、いつもいくつかの仮説が提唱され、それらをめぐる論争になるのが常のようである。現代人の起源の問題も同様であり、現在二つの対立する仮説が提唱されている(図)。

 「アフリカ単一起源説」は、すべての現代人(新人)はアフリカに出現した単一の祖先集団に由来するというものである。

アフリカ単一起源説を強く支持する例としては、分子遺伝学者のアラン・ウィルソンらのグループによって発表された現代人一四七人のミトコンドリアDNAの多型分析と、それに基づく系統樹がある。

この系統樹では、アフリカ人の一部が系統樹の根元から枝分かれし、続いて他のアフリカ人とすべての非アフリカ人(ヨーロッパ人、アジア人、オセアニア人)が枝分かれしている。このことからウィルソンらは、現代人のすべてはアフリカの祖先集団に由来すると主張した。

  このとき彼らは、ミトコンドリアDNAの塩基配列の進化速度の一定性より、最初の枝分かれの年代を一四万年から二九万年前と推定したが、その後どういうわけか約二〇万年前という年代が一般的に定着した。

しかもアフリカ単一起源説は、「イブ仮説」とよばれたことにより、すべての現代人は約二〇万年前のたった一人の女性に由来し、彼女以外の女性はその当時いなかったという、「イブ」という言葉からくる大いなる誤解も生じた。

  一方、ミルフォード・ウォルポフやアラン・ソーンらの形態人類学者の提唱する「他地域並行進化説」は、ホモ・サピエンスの祖先種であるホモ・エレクタスが約一〇〇万年前にアフリカを出て地球上の各地に移住した後、現代人は地球上の何ヵ所かで独立に祖先種から進化したとするものである。多地域並行進化説のもとでは、オーストラリア原住民はジャワ原人から進化したことになるし、われわれ日本人や中国人は北京原人の子孫ということになる。

またヨーロッパ型のホモ・エレクタスからネアンデルタール人へと進化し、ホモ・サピエンス・サピエンスになったのが、現在のヨーロッパ人ということになる。さらにアフリカでも、原人から旧人、新人への進化が独立に起こったことになる。

  この論争は、遺伝学と形態学というまったく異なる研究手法での解釈の対立でもあるが、論争の中心となる点は、ホモ・サピエンスの起源の年代が本当に一〇〇万年前にまでさかのぼるのか、あるいはせいぜい二〇万年くらいしかないのかという点にある。

宝来の研究グループでは、この論争の決着をめざすべく研究を進めてきた。ミトコンドリアDNAの解析から、現代人の起源とその年代を明らかにしようというのである。

宝来聰著「DNA人類進化学」(岩波科学ライブラリー52)より引用

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人類の進化

概要[編集]
人類の祖先に、どのような進化的変化が起きたかは、幅広い科学的探求の主題である。
この研究は多くの分野、特に形質人類学、言語学、遺伝学、考古学などと関連している。
なお、「人類」という用語は人類の進化の文脈ではヒト科ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ヒト属生物に対して用いられるが、他の属(アウストラロピテクス属など)を含むヒト亜族生物を指す場合もある。
本記事では、人類という用語をチンパンジー亜族と分岐し直立二足歩行していたヒト亜族生物に用い、脳の発達したヒト属生物については学名で表記し、特にヒト属生物のうちホモ・サピエンス・サピエンスについては現生人類と表記する。
ヒト属(ホモ属)はおよそ200万年前にアフリカでアウストラロピテクス属から別属として分化しヒトの属するホモ・サピエンスは40万から25万年前に現れた。
またこれらの他にも、すでに絶滅したヒト属の種が幾つか確認されている。

その中にはアジアに生息したホモ・エレクトゥスや、ヨーロッパに生息したホモ・ネアンデルターレンシスが含まれる。
ホモ・サピエンスの進化と拡散については、アフリカ単一起源説と多地域進化説とが対立している(#人類進化のモデル)。
アフリカ単一起源説では、アフリカで「最も近いアフリカの共通祖先 (RAO)」であるホモ・サピエンスが進化し、世界中に拡散してホモ・エレクトゥスとホモ・ネアンデルターレンシスに置き換わったとしている。

多地域進化説を支持している科学者は世界中に分散した単一のヒト属、おそらくホモ・エレクトゥスが各地でそれぞれホモ・サピエンスに進化したと考えている。
化石の証拠はこの分野における激しい議論を解決するのに十分ではない。

人類はホモ・ハビリスの頃から石器を使い始め、次第に洗練させてきた。およそ5万年前を境に現生人類の技術と文化は変わり始め、現代的行動がとられるようになった。

古人類学の歴史
古人類学は化石、道具のような遺物、居住の痕跡などにもとづく古代の人類研究である。現代的な科学としての古人類学は、1856年のネアンデルタール人の発見から始まったが、初期の研究は1830年以来始まっていた。

1859年までに現生人類と大型類人猿の形態的な類似性は議論されていたが、同年11月にチャールズ・ダーウィンが『種の起源』を著すまで「生物の進化」という概念は一般には正当化されなかった。

ダーウィンの進化に関する最初の本は人類の進化についてはほとんど何も述べなかった。
「人類の起源と歴史に光が投げかけられるであろう。」
これがダーウィンが人類について述べた全てであった。それでも進化論の暗示は当時の読者にとって明らかだった。
トマス・ハクスリーとリチャード・オーウェンの論争は人類の進化に集中した。ハクスリーは1863年の著書『自然の中の人類の位置』で、類人猿と現生人類の多くの類似性と相違点について説得力を持って論じた。ダーウィンが『人間の由来と性選択』(1871)でその問題について論じる頃までにはその問題は広く知られ議論の的であった。

チャールズ・ライエルとアルフレッド・ウォレスのようなダーウィンの支持者の多くも、現生人類の象徴的な精神性と道徳的な感性が自然選択によって形作られたという考えを好まなかった。
カール・フォン・リンネの頃から類人猿と現生人類は非常に似ているように見えるために、科学者たちは類人猿は人類の最も近い親類かもしれないと考えていた。

19世紀にはゴリラ、チンパンジー、オランウータンのいずれが現生人類にもっとも近縁か論争があった。ダーウィンはチンパンジーかゴリラと考え、人類の祖先の化石が見つかるとしたらアフリカだろうと予測した。

エルンスト・ヘッケルはオランウータンを人類にもっとも近縁と見なし、東南アジアから人類の祖先の化石が発見されるだろうと予測した。

アフリカからは多くの化石人類が発掘された。一方ヘッケルの東南アジアの予測を信じたウジェーヌ・デュボワは東南アジアのインドネシアジャワ島トリニールでジャワ原人の化石を発見し、後にこれがヒト属のホモ・エレクトゥスの亜種であるホモ・エレクトス・エレクトスに分類されている。

タウング・チャイルド(英語版)の化石
人類の祖先と思われる化石がアフリカで発見されたのはハクスリーやダーウィンの時代からしばらく後の1920年代であった。
1925年にレイモンド・ダートはアウストラロピテクス・アフリカヌスを記載した。模式標本は洞穴の中から発掘されたアウストラロピテクスの幼児で、タウング(英語版)の名にちなんでタウング・チャイルド(英語版)と呼ばれた。

南アフリカ共和国にある発見地タウングの洞窟では、コンクリートの原料が採掘されていた。タウング・チャイルドの化石は非常に保存状態の良い頭蓋骨を保持しており、頭蓋腔を推定できた。脳は小さかったが(410cm3)、その形は洗練されており、チンパンジーやゴリラのものよりも現代人に似ていた。
また、化石は短い犬歯を持っており、大後頭孔の位置は直立二足歩行の証拠であった。これらの特徴全てはタウングチャイルドが二足歩行の人類の祖先で、類人猿から人類に変わりつつある証拠であるとダートに確信させた。
しかしダートの主張は彼の発見に類似したより多くの化石が見つかるまで軽視され、真剣に検討されるまでに20年かかった。

当時の主流な見解は二足歩行の前に脳の巨大化が起きたというものであり、現代人と同じような知性の発達が二足歩行の必要条件であると考えられていた。
アウストラロピテクスは現在、現生人類が属するヒト属の直接の祖先と考えられている。

アウストラロピテクスとホモ・サピエンスは共にヒト亜族の一種である。しかし近年[いつ?]のデータは現生人類の直接の祖先としてアウストラロピテクス・アフリカヌスの位置に疑問を投げかける。彼らは進化的行き止まりの“従兄弟”であったかも知れない。

アウストラロピテクスは当初、華奢なタイプと頑強なタイプに分類された。その後、頑強なアウストラロピテクスはパラントロプス属として分類し直されたが、一部の研究者はまだアウストラロピテクスの亜属と考えている。

1930年に頑強なタイプが最初に記載されたとき、パラントロプス属が用いられた。1960年代に頑強な変種はアウストラロピテクスに加えられたが、近年[いつ?]では最初の分類どおり異なる属とする傾向がある。

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