占い(創作)

2021年03月26日 06時13分11秒 | 創作欄

2005年10月12日

 人生は人との出会いが面白い。私は24歳の時ある占師に手相を観てもらった。その日は私の誕生日で、二人の友が500円づつ負担して、私の手相を観てもらった。
 大きな拡大鏡を持ち、おもむろに構えた40歳代中頃と思われる豊満な体の女性占師は、私の手相を吟味したあと、確信に満ちた声で、「あなたは、大金をつかみます。でもそれは一時的です。だから地道に生きて下さい。そうですね」と言葉を切って、私の手相を改めて吟味した。しばしの沈黙が流れ、二人の友人は固唾を飲んで、私の手相をミラー越しに除き込む。
 「あなたは将来、大きな挫折を経験します。一つは死で、これは乗り越えます。その死の危機も三度。いずれも事故死につながる危機です。水難には特に気を付けましょう。それから病です。脳の病ですが、これも克服します。お酒でトラブルを起こします。これがあなたの命取になると思われます。でも生き方一つであなたは変わることができます。40歳を過ぎたあなたは、人間的な魅力が出てきます。きっと女性たちにとても好かれます」
 占師は将来の私を脳裏に描いているように、目をうっとりとさせた。「20年後のあなたに、お会いしたいですね」うまい殺し文句だ.
 占いはほんの遊びに過ぎない。でも私は新宿小田急デパート前の占師の行灯の灯に、手を預けた光景が今でも鮮明によみがえてくる。
 親友と呼べる人間は数少ない。それは私の人格の未熟さであった。
 「大人に成り切れていない」と指摘した友人が、私に愛想をつかして、去って行ったのは正直、応えた。その時啓示を得たように、24歳の時の占師の言葉がよみがえってきた。
 「40歳を過ぎたあなたは、人間的魅力が出てきます・・・」
 「大人にならねば」と自省した。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 憎むのは、過去の囚人であり... | トップ | 片木奈緒里の論点 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

創作欄」カテゴリの最新記事