北村清治は、母の梅子と、妹の春子と銭湯に行っ日に、たまたま母と妹の二人を桜坂で写真にとどめることとなる。
その時のカメラは1000円の小型のものであり、11歳の誕生日に祖父から贈られたものであった。
そして桜坂の上の商店街の写真屋に現像を頼む。
すると、その店の主人が「君は、写真の才能があるかもしれないな。構図がいいんだ」と褒めるである。
だが、小学生の清治には「構図がいい」の意味を図りかねずにいた。
時は経て、19歳になった妹の春子は、その時期は勤務した企業で残業続きであったのだ。
妹は当時、日比谷にあったミシン会社に勤めていた。
「お兄ちゃん、なるべくなら、春子のこと用賀駅まで向かいに来てね。お願い」春子の懇願に対して、兄の清治は上の空であった。
清治はその日、大学の同期生の杉田桃子とデートの約束をしていた。
そして、行きつけの歌声喫茶「灯」で二人で歌い、盛り上がった後にラブホテルに向かう。
悲劇はその時間帯に起きたのである。
妹の春子は、用賀駅から付けていた男から、自宅からわずか5分の地点の畑の中に連れ込まれて強姦されしまう。
近くには小川が流れていて、男から強姦された春子は当時、流行した歌謡曲の「川は流れる」を犯されるなかで果敢なくも脳裏に浮かべていたのである。
男から乱暴なまでも何回も身体を犯されて家に辿りついた春子は、自分の部屋の机に飾ってあったあの日に、兄が写した自身と母の桜坂の写真を涙を流しながら見詰め、何時までも遠き日の思い出の中に身を投じていたのである。
「同じに、男から犯されるなら・・・お兄ちゃに犯されてた方がいかった」春子は日記に記していたのだが、後日のその箇所を黒地で覆い隠したのである。
それは、決して他人には絶対に明かさない複雑な女の不可思議な心情であったのだ。
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