2013年10 月26日 (土曜日)
「男なんて、同じね。最低!」
静香の言葉が包丁の刃ととも徹の胸にグサリと刺さった。
「自分は恨んだあの男と同じじゃないか」
徹は母親の男のことを思い浮かべた。
男から深い理由もなく些細なことで母親も徹も殴る蹴るの暴力を受けてきたのだ。
「何時か殺してやる」徹は7歳であり、まったく抵抗ができず、恨みを募らせていく。
「何であんな嫌な男を家に入れたのか!」徹は母親にも怒りを覚えた。
居酒屋で働いていた母親は、20代の後半であったから男にとって誘惑の対象であっただだろう。
昭和24年闇市での暴力団の抗争に巻き込まれて、徹の父親は死んでいた。
徹の父親の戦友の真田は現場に居たが難を逃れた。
襲ってきた相手は3人であった。
自分たちに因縁を付けてきたが、明らかに相手側の勘違いであった。
一人が徹の父親の胸を短刀で突く。
それは問答無用であり、「話し合おう!」と真田が言った瞬間、男たちの一人が隠し持っていた短刀が抜かれ、体の反動とともに勢い良く徹の父親の背中から胸に突き立てられた。
激戦の戦場で生き抜いた徹の父親は、呆気なく皮肉にも短刀の刃で命を失ったのだ。
徹は後年、真田から父親の死の様子を聞かされた。
「徹君の親父さんを助けられなかったんだ」戦友の真田は無念さを思い浮かべ涙ぐんだ。
戦後の混乱期であり、闇市では犯罪も多発していた。
幼い頃、徹は進駐軍たちの横暴を聞いてきた。
戦後の復興期には平和を願う日本各地で米兵による婦女暴行が横行していたのだ。
それは敗戦国の屈辱である。
真田はそうした米兵の一人を殺していたが、これは闇に葬られていた。
真田が通りかかるとある家屋の庭で、昼間の時間であったが米兵が日本女性を暴行していた。
真田は怒りを爆発させ短刀で米兵を背後から殺したのだ。
真田はその家の庭に深く穴を掘り、そこに米兵の死体を埋めた。
2013年10 月25日 (金曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 7 )
人生の伴侶として「私のことを選んでくれてありがとう」と誕生日などの区切りに感謝の気持ちを伝える。
静香はそのことを率直な気持ちとして何度も吐露してきた。
だが、人生は皮肉なものであり、相思相愛と思われた2人が、ボタンの掛け違いのようになってしまうこともある。
そして、下向きな愛の心があったのに、その意に反して憎しみあい、最終的に互を憎悪するハメにもなる。
徹は静香に不信の念を抱いた。
「静香、お前に男ができたんだな!」
性行為のあと徹が唐突に言う。
「ええ!なんのこと?」
同衾から静香は身を起こした。
「ふざけるな、おれは節穴じゃない。お前の今日の反応はこれまでにまいものんなんだよ」
徹は静香のこれまでにないような性の反応に疑念を抱いた。
だが、それは静香にとって、到底理解に及ばぬ言いがかりであった。
静香は日々徹の求めに応じて性行為に及んでした。
だから、性行為は生活の営みに付随しており、静香にとっては特別なことではない。
「自分の性に対する反応は、繰り返されれば画一的なるはずだ」と静香は思っていた。
心外にも徹は言いがかりをつけるように静香に理不尽なことを言ったのである。
「徹さんは、私に何を言いたいのよ。はっきり言ってよ」静香は声を荒げた。
徹はいきなり、静香の顎にパンチを食らわせた。
「オイ、静香、俺以外の男とやっているな!」
静香は逆上して、台所へ向かい包丁を手にした。
徹は刺されないと思い込み無防備であった。
だが静香は躊躇いもなく徹の胸に包丁を突き立てた。
徹はあっけなく抵抗もできずに台所の床に崩れ落ちた。
徹が幸運であったのは、刃が心臓を外れていたことである。
そしてこの出来ごとが警察沙汰にならなかったことであり、それは奇跡でもあった。
2013年10 月24日 (木曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 6 )
静香は18歳の時に東京・新橋の印刷工場の経理課長であった52歳の市川孝介に酒を飲まされ、強姦された。
その市川は優しそうに見えたが豹変し、暴力的に振舞ったのだ。
結局、静香は市川から逃れたのであるが、後楽園競輪場で出会って同棲していた徹も突然、豹変し暴力を振るう男になっていた。
「私のこと選んでくれてありがとう」
あの日、鎌倉でのデートで恋心が高揚して、静香は徹に真情を伝えたのであった。
「人を好きになる感情はいいものね」
円覚寺の山門を潜ると静香は自らの腕を徹の腕に回した。
その仕草は如何にも女らしく、徹は静香の愛情の発露に心が満たされていく。
出会いがまさに縁であったのだ。
20歳の徹と21歳の徹は、ともに歩んで行くこことなった。
だが、徹の暴力によって期待は完全に裏切られた。
静香は父親のような男の優しを求めていた。
アパートを飛び出した静香は、大久保から夜道を新宿方面へ向かって歩きはじめていた。
「本当に優しい男がいるのなら、会いたい」
静香は涙を浮かべた。
路地裏で空を仰ぐと滲んだ目に朧月が見えた。
月も泣いているように静香には映じた。
静香は歌舞伎町まで歩いて行く。
そして、映画の看板に誘われるように深夜映画館へ入り込んだ。
映画は「骨まで愛して」であった。
深夜映画館へ女性が一人で入るべきではない。
油断すると痴漢行為をされるのだ。
静香は隣に座る男の手を払い除けて、立ち上がると外へ出た。
「私は、これから何処へ行けばいいの?」
静香は思い余って、新宿駅で真田に電話を入れた。
「こんなに遅い時間に電話をかけて申しわけありません」
「静ちゃんどうしたの? 何かあったのかい」
真田の声は包込むように温かかった。
静香は経緯を告げた。
「そうかい。徹君も困ったものだな。今、何処にいるの?」
「新宿駅にいます」
「ともかく、アパートに戻りなさい。いいね。明日徹君に会って、2度と静ちゃんに暴力を振るわないように諭すからね」
静香はその言葉に背中を押され大久保のアパートへ戻った。
徹は寝ずにテレビを見ていた。
「もう、戻って来てくれないと思ったよ。謝るよ、悪かった。俺はどうかしていた」
徹は頭を下げた。
「二度と暴力は振るわないと、誓える?!」静香は怒りが収まらず、徹を睨み据えた。
「誓うよ」徹は座ったまま、立っている静香を藪にらみにした。
その視線から静香は徹のことを信頼できない男だと思った。
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<参考>
映画は「骨まで愛して」
監督
斎藤武市
脚本
川内康範
原作 川内康範
製作
企画 仲川哲朗
出演者
渡哲也
松原智恵子
浅丘ルリ子
城卓矢
宍戸錠
『骨まで愛して』(ほねまであいして)は、1966年(昭和41年)製作・公開、斎藤武市監督による日本の映画である[1][2]。本作に本人役で出演している城卓矢の同名のヒット曲を原作に、同曲の作詞をした川内康範が脚本を執筆、 渡哲也、松原智恵子、浅丘ルリ子らが主演した
2013年10 月23日 (水曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 5 )
徹は小学生向けの百科事典の販売が段々苦痛になってきた。
人を騙してまで、百科事典を販売していいのだろうかと疑心暗鬼に駆られたのである。
先輩の社員の一人は言う。
「俺たちは、悪いことをしているわけではないよ。こんなに良い学習百科事典は他にないね。自信を持って売り込むべきだな」
徹は反論の言葉を選びながら反論した。
「でも、学校の方から来たと人を騙しています」
「それは方便だ」先輩はニヤリと笑った。
「方便?」
「そうだ、嘘も方便と言うよね。世の中に神など存在しない。でも、あたかも神が存在するように聖職者は説いているんだ」
先輩の話は飛躍していたので徹は戸惑った。
「学習百科事典には間違いなく価値がある。だが、それを理解している人はあまりいない。だから、我々が啓蒙活動をしているんだよ」
「啓蒙活動ですか?」
「そうだ、啓蒙活動だ。何ら卑屈になったり、罪悪感など感じる必要はないんだよ。社会に児童の教育に我々は役立っているんだよ」
先輩の言っていることは詭弁だと思って、徹は受け入れ難く思った。
アパートに戻った徹は、同居する静香に意見を求めた。
「徹さんはどうしたいの?」
徹は意見を述べない静香に腹を立てた。
「静香の考えを聞きたいんだよ!」
「私には、何とも言いようがないのよ」
徹は苛立ち静香の頬をいきなり平手で打った。
「私に八つ当たりするのね。呆れた」
静香は立ち上がり、洋服ダンスへ向かった。
「おい、出かけるのか?」徹はさらに怒りを爆発させ、静香の腰に背後から蹴りを入れた。
静香はよろけて、洋服ダンスに頭をぶつけて倒れ込んだ。
「私に暴力を振るったのね。徹さんには愛想が尽きた!」
涙を浮かべた大きな瞳に憎悪の感情が浮かんでいた。
醜く歪む静香の顔に一層、徹は怒りを爆発させ、静香の髪を背後からつかみ引き倒した。
「もう、終りね!」立ち上がった静香は挑みかかるように徹の下腹部を蹴りつける。
徹は激痛でうずくまる。
静香は立ち上がると部屋を飛び出して行った。
2013年10 月23日 (水曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 4 )
徹は入社して半年、2人の先輩社員のアドバイスを受け、月に10冊前後は百科事典を売ることができた。
最高20セット売れたこともある。
運が良かった。
ある日、桜が咲き始めていた時節であったが、東京の目白方面へセールスに行く。
名簿を手に大きな邸宅の門をくぐった。
樹齢数十年と思われる見事な桜の木が生垣沿いに数本あった。
徹は心が臆していたが、玄関のベルを押した。
出てきたのは17、8 歳のお手伝さんとお思われる女性であった。
白いエプロン姿で、濃紺のセーターにグレーの長いスカート姿であった。
「何でしょうか?」東北訛りがあった。
「学校の方から来ました」徹は何時ものセールストークで切り出した。
「学校の方からですか。お待ちください」相手は恐縮したようである。
玄関の扉を大きく開き徹を迎え入れた。
会社の女性社員たちが都内の役所の出張所へ出向き、住民台長を手書きで写してきていた。
会社から手渡される名簿には、訪問する家に何歳の子ども居るか記されていた。
徹たちは単なるセールスに過ぎないが、「学校の方から来た」と言うだけで相手は勘違いをした。
学校と関係する人の訪問だと思い込むのである。
「何時も、学校の方でお世話になっております」と相手にまず丁重に頭を下げる。
「お子さんは本を読みますか?」
「いいえ、ほとんど読まず、漫画ばかり読んでます」
「実は私自身も子どものころはそうでした。そこで、お子さん方に本への興味をもってもらうようにと、ふさわしい教材を学校とともに企画しました。本日、持参したのがこの百科事典です」と鞄から1冊を取り出す。
「ご覧のように、イラストや写真が多いですね。とても読みやすく、お子さんたちの興味を引き付ける内容になってます。この事典は単なる事典ではなく学校の教科書を補完する教材なのです」
このセールストークで相手の心の警戒心を解くのであるが、甘くはない。
「うちの子は、全く本に興味を示しませんから、結構です」
「まず、お母さんにこの百科事典に興味を持っていただきたいのです。本を読む面白さをお子さんに伝えてください」
「私は忙しいのよ、百科事典を読む時間などありません」
「実は来年から文部省の学習指導指導要領が改訂されます。この百科事典は学習指指導要領に沿って学校とともに編纂したものなのです」
これは嘘であり、ハッタリだ。
この日、徹が訪問した目白の大きな邸宅の奥さんは、「分かりました。百科事典を送ってください。それから、娘のお友たちにもご紹介しましょう」とあっさりと購入してくれたのだ。
徹は嘘を並べた罪悪感もあったが、心のなかで小躍りした。
地味な色合いの和服姿の奥さんは、気品があり美しかった。
長い黒髪をアップにしていて、女優の誰かに似ていた。
見た瞬間、徹は気おくれしたが、スラスラと何時ものセールストーク口から出てきたのだ。
育ちの良さを感じさせる人であった。
邸宅の門を後にしながら庭の桜を見上げた。
目白駅へ足早に向かう徹は「あのようなご婦人を騙してはいけない」と思いはじめていた。
2013年10 月21日 (月曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 3)
徹は7月生まれなので断然、陽光がギラギラ頭上から照りつける夏が大好きだ。
吹き出す汗が体中から流れ出ると「自分は21歳の青春の今を生きているのだ」と実感した。
紆余曲折はあったが、徹は新宿に職場を得て大久保の安アパートで静香と暮らし初めていた。
静香は徹の父親の戦友であった真田の会社で働いていた。
徹は真田に誘われたが静香と同じ会社で働くことを避けたのだ。 徹の仕事は、小学生向けの百科事典の販売である。
百科事典は10冊セットで1万円であった。
厳密な意味で固定給とは言えないが、5000円の基本給に1セット売れば2000円が給与に換算される。
先輩、社員の中には月に50セットも売る人も居た。
月収10万円余は当時としては価値があり、先輩の一人であった木嶋悟は派手に飲み歩いていた。
木嶋の奥さんは飯田橋の外堀に面していた喫茶店で働いていたので、木嶋は家へほとんど金を入れていないようであった。
徹は木嶋に可愛がられいたので、連れられて歌舞伎町界隈でキャバレーやバーへも行った。
徹は入社して半月、販売成績が思わしくなく、所長の指示で木嶋との同行販売で板橋方面へ行く。
性格が明るく、声が大きく見るからに元気であり、エネルギーが溢れるような木嶋の販売姿勢に徹は目を見張った。
ユーモアもあり、訪問した家庭の主婦たちを笑わせていた。
木嶋は落語好きであり、新宿の寄席にも行っていた。
木嶋は家庭訪問による百科事典のセールスを楽しんでいるような姿勢であったのだ。
また、木嶋とトップ成績を競っていた近野宏治は彫刻家である。
彫刻家では食べられないので、百科事典のセールの身に甘んじていたようであった。
誠実な人柄で何処か学者のような知性を感じさせた。
常に微笑みを立てていて、出会う人たちに好感を持たれる男であった。
近野の奥さんは同じ芸大卒であり、高校の音楽教師をしていた。
徹は近野との同行販売でも学ぶことがあった。
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<参考>
○昭和40年(1965)の物価:白米10kg:1,125円、公務員初任給:21,600円、日雇労賃:972円、週刊誌:50円。
○07/04 誘拐殺人:吉展ちゃん事件(38年3月)の容疑者・小原保逮捕(5日都の円通寺で遺体発見)。
○昭和40年(1965).1.〔暴力団による家出娘の人身売買事件〕
東京都新宿区を根城としている暴力団員11名は、芸妓置屋が芸妓の不足に困っていることに目をつけ、昭和39年4月ごろから昭和40年1月までの間、新宿、池袋の喫茶店、バー等で知りあった家出少女ら16名に対し、甘言をもって近寄り、肉体関係を結んだうえ、池袋、中野の芸妓置屋に1人5万円から20万円ぐらいで売り飛ばし、さらにその後も同女等から働いた金を絞りとっていた。
2013年10 月19日 (土曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 2)
優しく思われた上司の市川孝介は豹変した。
「静香、男ができたんじゃないか!」
東京・湯島の安ホテルでの性交のあとにいきなり頭を拳骨で殴られた。
「私、市川課長が初めての男です。誰とも付き合っていますん」
頭の痛みを堪えながら静香は訴えた。
「ふざけんは、このやろう! 俺は節穴じゃねいぞ!」
市川は怒り立ち、今後は静香の髪を鷲掴みにして、両頬を何発も平手で打った。
「今日のお前の反応、これまでになかったんだよ。どこのどいつと、お○こ。やったんだ!」
市川は鬼の形相となり、忌々しげに荒々しく乳房を鷲掴みにする。
「どこのどいつに、この乳を吸わせたんだよ!このやろう」再び頭を拳骨で殴られた。
静香は恐ろしさと屈辱で顔を両手で覆って子どものよう大声を上げて泣いた。
静香の泣き声の大きさに市川は狼狽した。
「静香、もう泣くな。分かったよ」
市川は冷笑を浮かべた。
そしてタバコ臭い口が眼前に迫り、市川は唇で静香の鳴き声を封じた。
静香は再びの性交行為の中で、市川と分かれることを決意した。
翌日には新橋の印刷工場を辞めた。
そして、東京・北区王子のアパートの大家さの奥さんの紹介で、後楽園競輪場の食堂で働くことになった。
静香は徹とその食堂で出会ったのだが、皮肉にも映画を観に行く約束をした日に、アパートに戻ると大家さんの奥さんから電報を手渡された。
「ハハシス スグニカエレ ハルコ」
電文は実家の姉からのものであった。
短い電文を繰り返し読み、静香は大声で泣いた。
「あの優しかった母が、亡くなった? どうしてなの?」
深い悲しみに沈みながら静香は、上野発の急行列車に乗り故郷へ向かった。
2013年10 月17日 (木曜日)
創作欄 徹と静香の愛と別離 1)
静香が9歳の時に、両親が離婚した。
母と6人の子どもたちはたちまち困窮を余儀なくされた。
静香は毎日、学校給食に救いを感じた。
自宅のご飯は、白米に醤油か味噌である。
父親は地方公務員であったが、職場の不祥事で退職した。
地元の建設業者にわずかなお金をもらったり、接待攻勢に乗ってしまったのだ。
しかも、飲み屋の女と深い関係になっていた。
結局、地元の国立大学を出たのに人生を挫折してしまった。
静香は中学を卒業すると、東京・新橋の印刷工場に就職した。
そろばんができたので事務所の経理に配属された。
静香は18歳の時に印刷工場の経理課長に酒を飲まされ、強姦された。
カクテルを飲んだのは初めてであり、その口当たりの好さを堪能した。
だが、最後に飲んだのが足腰が立たないような強いカクテルであった。
静香の上司の経理課長市川孝介は前科6犯、詐欺や窃盗を繰り返していたが、東京・新橋の印刷工場に採用された。
刑務所で印刷工としての技術を身に付けていた。
ハンサムでメガネをかけている市川は知的な男に見えて、如才がなく紳士的に振る舞っていた。
静香は父親の愛を求めていたのだろうか、52歳の市川に心が惹かれた。
「静ちゃん、若さは宝だ。大切しなよ」市川は優しく接してくれた。
「静ちゃん、栄養つけているかい? たまには美味しいもの食べるか?」
市川は何度もご馳走してくれた。
ご馳走されて静香は多少の負い目を感じていた。
だから、市川に誘われるままに、あまり飲めない酒の席にも同伴した。