太平洋ひとりぼっち

2012年10月31日 | ショートショート



イルカたちが水しぶきをあげてジャンプしている。
艶やかに輝く、しなやかな体。まぶしく空中に飛散する水滴。
光線に目を細めながら、微動だにしないイルカたちの影を見上げた。
何年も前に見上げた時と寸分違うことのない情景。
船は近い。
確かに、水平線の彼方にポツンと小さく船影が見えている。
あそこまで歩くのにあと何日かかったっけ?
ボクは大海原の上を歩きはじめた。
正確に言うなら、ここに時間という概念は存在しない。完全停止してしまったのだ。
ただ、動いているのはボクだけ。時間が存在するのはボクだけ。
なぜボクだけ特別の存在になってしまったのだろう?
イルカもジャンプしたまま。飛沫も空間に浮かんだまま。雲も太陽もずっと同じ位置。
一時停止ボタンを押した映像そのままの、物理とか化学とかの常識なんか超越した世界。
数年前に突然、家族や友人とクルーズ船で太平洋を航行中にすべてが停止した。ボクを除いて。
仕方なくボクは、樹脂が固まったようにカチカチの海面を歩いて陸地をめざした。
陸へ到着して町から町へと彷徨ったが状況は同じだった。
普段の生活を寸断されて固まったまま動かない人、人、人。
人のみならず動物も機械も。ボク以外に動くものは何もなかった。
いったいこんな世界でボクはどう生きればいいんだろう?
結局、ボクは太平洋に浮かぶ船に戻ることにした。

乗船すると、甲板上は家族や友人たちが楽しいパーティーの真っ最中だった。
大笑いする者、見つめあう者、御馳走を頬張るもの、楽器を鳴らす者。
だが彼らには時間も音もない。数年前に会食中に停止したときのまま。
まるで実物大の立体記念写真。幸福を描いた絵の3D。
ボクは、あの瞬間に腰掛けていたデッキチェアに戻った。
そして舳先に立って両手を高く掲げたままの少女を見つめた。
そしてあの瞬間を思い出す。
少女が振り向くと、海風に髪がなびいた。そして輝く瞳でボクに了解を求めた。
彼女の両手に包まれているのは一羽の鳩。
彼女が看病し続けたおかげで元気になった白い鳩が目をキョトキョトさせている。
ボクがうなずくと、勢いをつけて一気に鳩を放った。
彼女が広げた両腕と同じくらいに、鳩が広げた翼の影。眩しいほどの陽の光。幸福。
その瞬間。
ボクは心から願ってしまったのだ。



(最後まで読んでいただいてありがとうございます。バナーをクリックしていただくと虎犇が喜びます)  


映画『L.A.コンフィデンシャル』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: カーティス・ハンソン
原作: ジェームズ・エルロイ
脚本: ブライアン・ヘルゲランド、カーティス・ハンソン
ラッセル・クロウ バド・ホワイト
ガイ・ピアース エド・エクスリー
ケヴィン・スペイシー ジャック・ヴィンセンス
ジェームズ・クロムウェル ダドリー・スミス
キム・ベイシンガー リン・ブラッケン
ダニー・デヴィート シド・ハッジェンス
デヴィッド・ストラザーン ピアース・モアハウス・パチェット
ロン・リフキン エリス・ローウ
マット・マッコイ ブレット・チェイス
ポール・ギルフォイル ミッキー・コーエン
サイモン・ベイカー=デニー マット・レイノルズ
グレアム・ベッケル ディック・ステンスランド
パオロ・セガンティ ジョニー・ストンパナート
アンバー・スミス スーザン・レファーツ
ブレンダ・バーキ ラナ・ターナー

 縄張り争いが激化する'50年代のロス。街のコーヒーショップで元刑事を含む6人の男女が惨殺される事件が発生した。殺された刑事の相棒だったバド(ラッセル・クロウ)が捜査を開始。殺された女と一緒にいたブロンド美人リン(キム・ベイシンガー)に接近する。彼女はスターに似た女を集めた高級娼婦組織の一員。同じ頃、その組織をベテラン刑事のジャック(ケビン・スペイシー)が追っていた。野心家の若手刑事エドも事件を追い、容疑者を射殺。事件は解決したかに見えたが、彼ら3人は底なしの陰謀に巻き込まれていく。鬼才ジェイムズ・エルロイの描いた1950年代のロサンゼルス。その退廃と虚栄を、「ゆりかごを揺らす手」のカーティス・ハンソンがみごとに脚色、映像化。主演のラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、ケヴィン・スペイシーが演技で火花を散らす。謎の高級娼婦リン役のキム・ベイシンガーが、妖艶な演技でアカデミー助演女優賞に輝いた。又、脚本もアカデミー脚色賞を受賞している。

★★★★★
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

これはとにかく脚本がいい。ロスにマフィアが横行していた1950年代を舞台にしたマフィア犯罪もので、麻薬やら売春やら政治家のスキャンダルやらが描かれていくクラシカルなクライムサスペンス映画って掃いて捨てるほどあるから、そんな犯罪映画の一本かなとタカをくくっていたら、さにあらず。確かにその手のジャンルには間違いないのだが、ストーリーの構築ぶりが惚れ惚れするほど巧い。ラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、ケヴィン・スペイシーの三者三様のクセのある警官を中心として、鍵を握る美女キム・ベイジンガー、そして黒幕の男。彼ら五人によってストーリーが展開していくのだが、表面的な人物描写でいったん性格づけされているかに思わせて、ストーリー展開の中で互いに絡み合っていくうちに新たな一面が現れてきて、それぞれの人物に厚みが増していくという作りになっているのだ。映画の中でひとりひとりの人間が息づいているといった感じだ。
いちばん得した役は、ケヴィン・スペイシーかもしれない。ちょうど『アンタッチャブル』のショーン・コネリーみたいに美味しい役である。黒幕に不意打ちを食らい、死ぬ直前に口走るたった一語に、犯人逮捕への一縷の希望や、後継者に託す思いが溢れていて泣かせる。また、若いラッセル・クロウがまだマッチョでないのが、腕力にものを言わせる一本気の警官らしくていい。今だと悪人の一人や二人、簡単に首をへし折りそうで、この頃のほうが普通人っぽくていい。ガイ・ピアースも憎まれ役に見えていいとこあるなと思わせてまた失望させたりと観客をほっておかない。キム・ベイシンガーも軽はずみな女なのか内にピュアを秘めているのか最後まで見守りたくなってしまう。
若い役者たちが皆、この映画のあとで大成していることからしても、いい脚本と演出で演技が活きるタイプの映画だと思う。この映画、あの『タイタニック』がアカデミー賞を11部門受賞と総なめにした98年に、9部門でノミネートされ脚色賞と助演女優賞のみを受賞したそうだ。自分の好みからしたらこっちの映画に軍配を上げる。ただ、CGによって史実をリアル&ダイナミックに再現するという新しい映画文化を世に知らしめた功績でいえばやはり『タイタニック』でよかったのかもなあ。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『ジャッカー』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督 エリック・レッド
ロイ・シャイダー コーエン
アダム・ボールドウィン テイト
ハーレイ・クロス トラヴィス・ナイト
クーパー・ハッカビー ジェフ・ナイト
スザンヌ・サヴォイ マーサ・ナイト
マルコ・ペレラ FBI ジョージ
トム・キャンビテリ FBI フレッド
アンドリュー・R・ギル FBI ロイ
フランク・ベイツ ハイウェイ・パトロール
ジェームズ・ジェター
ジェフ・ベネット

組織抗争の殺人を目撃したためFBIに証人として保護されている少年を二人の殺し屋が誘拐。組織の待つヒューストンまでの三人の奇妙な道行をサスペンスフルに描いたスリラー。年代が全く異なる三人のキャラクターが良く出ており、「ヒッチャー」「ニア・ダーク/月夜の出来事」の脚本家E・レッドが監督デビュー作としては手堅くまとめ、小品に仕上げている。

★★★★☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

発掘良品の、未見の映画の中で今のところいちばんの拾い物はコレ。なんらかのヤバイ場面を目撃した少年がその両親とともにFBIかにかくまわれている。そこを二人の殺し屋が襲って皆殺しにして、少年を連れ去る。少年を組織に引き渡して報酬を得るために、殺し屋二人は車で少年を連行するが・・・といったストーリー。
初老のベテランの殺し屋を演じるロイ・シャイダーがとにかくかっこいい。ロイ・シャイダーって生真面目な役人が似合いそうなキャラだと思っていたが、この映画のロイ・シャイダーは凄味もあるし愁いもあるしで、とにかくかっこいい。
いや映画自体がとにかくかっこいいのだ。
殺し屋に狙われるまでのいきさつ紹介なんてなし。もちろんとってつけたような説明的なセリフもなし。ロイ・シャイダーが死を覚悟したときに手紙を送るのだけど、その説明もなし。いやはやハードボイルドというかドライというか。観客はいきなり殺し屋たちと少年の逃避行につきあわされるだけ。何が起きるか先が読めないまま一緒に車に乗せられてしまった気分なのだ。
九歳の坊主に翻弄されて頭悪すぎ!なんて思わずに、とにかくこの世界観に浸りたい。コレ絶対、おすすめ!


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『パラサイト』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: ロバート・ロドリゲス
イライジャ・ウッド
ジョシュ・ハートネット
ジョーダナ・ブリュースター
ショーン・ハトシー
クレア・デュヴァル
ローラ・ハリス
アッシャー・レイモンド
ロバート・パトリック
ファムケ・ヤンセン
パイパー・ローリー
サルマ・ハエック
ジョン・スチュワート
ビービー・ニューワース
クリストファー・マクドナルド
ダニエル・フォン・バーゲン
サマー・フェニックス

 「デスペラード」「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のロバート・ロドリゲスと、「スクリーム」の脚本家ケヴィン・ウィリアムソンが組んだSFスリラー。気弱な少年ケイシーは、ある日、グラウンドで奇妙な生き物を見つける。その生き物を水槽に入れた時、その生き物は変形し、攻撃的な本性を露にした。やがて、ケイシーはやたらに水を欲しがる辺りの人達のおかしな行動に気づく。「あの生物が人間に寄生しているかもしれない」と感じたケイシーは、仲間と共に学園の調査を開始。そこで、取り付かれた先生が保険医を襲う場面に遭遇する……。

★★★★☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

圧倒的な能力をもつ寄生エイリアンが、なぜ大都市とかじゃなく、わざわざ地方都市の高校から侵略に着手するのか?しかもわざわざボスを高校に送り込むのも、主人公たちグループに潜ませるのも危なすぎ。自家製ドラッグの利尿作用によって干からびてしまうのがエイリアンの弱点だとわかるのだが、人体の水分を奪う作用がそれだけ強力なら、エイリアンよりも前に人間がミイラになってしまうだろう。ドラッグが弱点だとしたら、ドラッグが蔓延していてもおかしくない高校を舞台に侵略を開始するのはエイリアン、頭悪すぎ。
・・・などなど、ツッコミどころ満載なんだけど、そこも含めてB級映画としてすばらしく面白い。
登場する高校生6人たちも、実にカリカチュアされてて個性が立っている。いじめられっ子のケイシー(ロード・オブ・リングのイライジャ・ウッド!)、生育歴を隠すクールな不良のジーク、悩み多きスポーツマンのスタンの男子3人。才色兼備ながら見栄っ張りのデライラ、SFオタクで孤高を気取るストークリー、軽~いブリッ子の転校生メアリーベスの女子3人。そろいもそろってヒーロー&ヒロインタイプじゃない一癖あるヘンテコ高校生たちが主人公っていうのがミソ。
一方の寄生された侵略者軍団が、原題(ザ・ファカルティ)どおりの『教師集団』。未知の侵略者が洗脳していく侵略行為が、権威的な教育者集団が価値観を押しつける行為のメタファーとして使われているのがいい。いかに教師集団の理不尽な支配やら抑圧から逃れ、自分らしさを守り仲間と協力して自己を確立していくか、というテーマがまったく嫌味なく描かれているのが爽やかだ。
当然、映画を観ているときは頭を空っぽにして楽しみたいB級SFホラーアクションの超娯楽お気楽映画である。だが、噛み終わったら味気ないガムみたいにつまんない駄菓子で終わらないコクのある美味さの残って、またつい観てしまいたくなるタイプの映画だ。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『シーラ号の謎』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: ハーバート・ロス
脚本: スティーヴン・ソンドハイム 、アンソニー・パーキンス
ジェームズ・コバーン
リチャード・ベンジャミン
ダイアン・キャノン
ジェームズ・メイソン
ラクエル・ウェルチ
ジョーン・ハケット

 ハリウッドのプロデューサー、クリントンの妻がひき逃げされるという事件が起こった。クリントンは犯人が身近にいるとにらみ、妻の復讐のため関係者を一堂に集める。集められたのは女優、監督、脚本家など、ハリウッドで仕事をする者ばかり。やがて、犯人を確定させる死のゲームが始まる……。

★★★★☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

推理小説がお好きな方は、気に入る映画じゃないだろうか。特に、近年の推理ものの映画やドラマって、意外な犯人とか意表を突いたトリックとかに重きを置いてて、鑑賞者が手がかりをもとに犯人を推理する楽しさってのが希薄な気がする。もちろん手がかりが多すぎると犯人が早々に割れてしまってまどろっこしいのだが、手がかりがなさすぎると真犯人はこいつだ!って言われてもハイハイそうですかって気分になってしまう。やはり推理小説の名作を読むときのように、いくつも提示された推理材料をもとに犯人やトリックを推測して、ほらやっぱり!ああなるほど!と言ったふうに楽しむのが醍醐味ってものだろう。
そんなわけでこの『シーラ号の謎』は推理ものとして実によくできている。なんといっても登場人物が少ない!クルージング船のシーラ号に乗り込んだ数名の男女7人だけの密室状態。その中に被害者も犯人もいるわけで。ポアロものの映画化とか豪華スターがたくさん出てくるけれど、本だと読み返して確認できるけど映画だと誰が誰やら整理がつかない印象なのに対して、潔いくらいの少人数なのがいい。しかも、犯人の顔だけは隠されているけれど犯人の姿は出てくるしで、推理の手がかりが観る者にたくさん提示されつつ事件が進行していく。こんなに手がかりを出していいの?と思いつつ、予想外の展開に向かいつつさらにどんでん返しで納得!という展開も唸らせる。クライマックスの推理の場面がイコール緊迫の場面であるところも巧いし。名優ジェームズ・メイソンが適役。ただしこの映画、主役級のジーイムズ・コバーンが今いち。だって妻の復讐を企てて不眠に悩む富豪のイヤラシサ皆無の飄々としたいつもの笑顔。好きな俳優だけどこの映画にはミスキャストじゃないかな。
ちなみにこの映画のすばらしい脚本を手がけたのは、あの『サイコ』青年のアンソニー・パーキンスなんだそう。才能のある人だったんだなあ。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『アンドロメダ・・・』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: ロバート・ワイズ
アーサー・ヒル ジェレミー・ストーン博士
デヴィッド・ウェイン チャールズ・ダットン博士
ジェームズ・オルソン マーク・ホール博士
ケイト・リード ルース・リーヴィット博士
ポーラ・ケリー カレン・アンソン(看護婦)
ジョージ・ミッチェル ジャクソン老人
ラモン・ビエリ マンチェック少佐
リチャード・オブライエン グライムズ
エリック・クリスマス 上院議員
ピーター・ホッブス スパークス将軍
ケン・スウォフォード トビー
フランシス・リード クララ・ダットン
リチャード・ブル 空軍少佐
カーミット・マードック ロバートソン博士

赤ん坊とアル中の老人の二人を除いて全滅した中西部の田舎町。墜落した人工衛星に付着した未知の細菌が原因である事を突き止めた科学者達は事態の対策を図るが……。マイケル・クライトンの『アンドロメダ病原体』を原作に、周到なディティールと徹頭徹尾なドキュメンタリー・タッチで迫るリアルなSF映画。主要登場人物は全て科学者で舞台も地下研究室だけ、地味と言えばこれ以上地味な物はないが、徐々に細菌の正体が判明して行く過程とクライマックスのサスペンスは映画的な面白さに満ち溢れている。

★★★★☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

昔、深夜劇場で観たはずなんだ。たぶん他チャンネルでも観たい映画をやっていて、チャンネルをカチャカチャしながら。で、もう一本の映画が終わって『アンドロメダ』に集中したときは、もう自爆装置の解除が始まっていた。一切の感情を持たない無機質なカウントダウンの声と、解除するためにレーザー光線をくぐっていく科学者。緊迫感があって震えたなあ。あんまりにもよかったので、そのあと、ハヤカワ・ノベルズの『アンドロメダ病原体』を購入して読んだ記憶がある。
そして今回、発掘良品で見つけて、観直してみてビックリ。自爆装置解除シーンってこんなに短かったのか!ボクの記憶の中でこの解除に向かうシーンは増幅して20分くらいのクライマックスになっていたのだ!あらためてボクの中でトラウマみたいに大きくなっていることを実感した次第である。
それにしても同じく発掘良品で観た『地球爆破作戦』が1970年で、この作品が1971年。こういうシリアス近未来SF映画の良品が作られていた時代なのだなあ。今どきなら、売らんがためにもっと派手なアクションや特撮をばんばん入れて台無しにしちゃうんだろうなあ。ほぼ同じ頃に作られた映画にも関わらず、『地球爆破作戦』に比べて『アンドロメダ・・・』の施設は陳腐な感じがしないのにも驚いた。『2001年・・・』もそうなんだけど、やはり装置デザインにも先見の明があるもんだなあ。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『パララックス・ビュー』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: アラン・J・パクラ
ウォーレン・ベイティ フレイディ
ウィリアム・ダニエルズ オースティン・タッカー
ヒューム・クローニン リンテル
ステイシー・キーチ・Sr
ポーラ・プレンティス

 上院議員暗殺事件を追うジャーナリストのフレイディは、パララックスという暗殺組織の存在を突き止める。その実態を暴こうとする彼に、パララックスは黒い手を伸ばすが……。政府機関による暗殺組織の恐怖をスリリングに描いた社会派サスペンス。

★★★☆☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

『俺たちに明日はない』(67年)から『タクシードライバー』(76年)まで、アメリカン・ニューシネマと呼ばれる潮流の作品群がある。ベトナム戦争が泥沼化して反対運動が繰り広げられた時期、希望に溢れる理想の国アメリカといった神話が崩れて体制に抑圧された個人の無力を描いた作品が盛んに作られた。この『パララックス・ビュー』は、『俺たちに明日はない』のウォーレン・ベイテイが『俺たち』同様に制作・主演していることからもわかるように、アメリカン・ニューシネマらしい一本というべきものだ。というか、もうアメリカン・ニューシネマそのもの、これほどストレートに、圧倒的な国家権力を背景にした組織VS個人という図式を描いた映画もそうそうないだろう。
シアトルタワーで大統領候補が暗殺されるショッキングなシーンから始まる。この暗殺事件後、事件の目撃者たちが次々と謎の死を遂げており、自分も狙われていると告げた女性もまた死体となる。調査に乗り出した主人公は、反社会的な人物をリクルートして洗脳し暗殺者として利用する闇組織パララックスの存在を知る。組織の次の標的が次期大統領候補であると知った主人公は単身演説会場に潜入する・・・といった内容。つまりもう、アメリカン・ニューシネマの図式を現代サスペンス映画仕立てにしたと言っていい。
監督は、『大統領の陰謀』などで知られる社会派監督のアラン・J・パクラ。この人の作る映画は、ドライで淡々としていてドラマチックじゃないのが多い。主人公に感情移入しにくいというか。そういうところが逆に視点人物が違うが故に心情を類推する余韻となって味わい深くなっていた『ソフィーの選択』なんて傑作もあるのだが。
この映画では演出の手腕以上に、カメラワークがいいと思った。冒頭のシアトルタワーの描き方やクライマックスの演説会場の描き方。時代が時代だけにロケとセットの組み合わせっぽく絵づくりがなってしまいがちだけど、臨場感たっぷりに描いている。
いまどきのナンデモアリ映画じゃ、何十人もの敵に囲まれても簡単に脱出できたり、なぜか都合よく殺されずにすんだりと、リアリティのかけらもないけれど、そういう娯楽映画とひと味もふた味も違った、生身の人間が追い詰められていく緊迫感に満ちている。
ちなみに、映画中盤、飛行機に搭乗した主人公が機体に爆弾が仕掛けられていることを察知する。飛行機はすでに飛び立っている。さあ、どうする?・・・といった状況に追い込まれたら参考になる映画だ(笑)


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『青春☆金属バット』

2012年10月31日 | 映画の感想




監督: 熊切和嘉
竹原ピストル 難馬邦秋
安藤政信 石岡
坂井真紀 エイコ
上地雄輔 石岡の同僚警官
佐藤めぐみ コンビニのアルバイト女子高校生
江口のりこ 石岡の妻
若松孝二 ベイブ・ルースの息子(自称)
寺島進 落合

「鬼畜大宴会」「アンテナ」の熊切和嘉監督が古泉智浩の同名コミックを映画化した異色の青春コメディ。退屈な毎日を送るダメ男の主人公が、酒乱の巨乳女との出会いをきっかけに、挫折した青春を取り戻そうと悪戦苦闘する姿を描く。主演はバンド“野狐禅”の竹原ピストル、共演に安藤政信と坂井真紀。
 コンビニでアルバイトをする27歳の男、難馬。冴えない毎日を送る彼が、唯一本気で打ち込んでいるのがバットの素振り。“究極のスイング”を目指してバッティングセンター通いを続けていた。そんなある日、呑んだくれの巨乳美女、エイコと出会う。暴力女のエイコに振り回され、難馬はいつしかエイコとともに“バット強盗の2人組”として警察に追われる身に。しかし、そんな2人を見つけたのは全くやる気のない警官、石岡だった。しかも難馬と石岡は、高校時代、同じ野球部に所属していた仲間だった…。

★★★☆☆
この世は、どうしようもないクズばかり。
どいつもこいつもクズ。
おまえもクズなら俺もクズだ。
このクズの世界、どうしようもなくなったら起死回生、一発かましてやろう。
そんなクズどもが暴走する夜、
クズの神様はブリーフ一丁でベランダに立って、祝福の雄叫びを上げる!
かしこまって、かしこぶって作った映画に厭きたら、こんな映画もいい。
主演の竹原ピストルの朴訥で鬱屈とした雰囲気がいい。エンドロールで彼の自作の曲が流れるけれど、本編の彼と歌の彼とのギャップがいい。
ぶちキレた警官役の安藤正信と、巨乳のアル中役の坂井真紀も、そのヤクドコロを嬉々として演じているのが伝わってくる。きっと安藤正信や坂井真紀のファンにとっては嬉しい映画だと思う。
けれど、この映画に合っているかというと首を傾げてしまう。つまり役者でなくキャスティングがよくないと思う。二人ともクズに見えないんだもの。
いくらアル中といっても女はあんな飲み方はしないだろうし、車をぶっ壊しても平気なんて。しかも、それでいて服装やら髪やら整ってるんだからリアリティがない。もっと小汚い女じゃないと。それが映画を見ていくうちにどんどん魅力的になっていくのが見たいんだよなあ。
安藤正信の警官役も漫画的すぎ。あまりにストレートに不良警官で、アッと言う間に免職になりそうでリアリティがない。表面は真面目を装いながら内面は屈折しまくりというほうがリアリティがあるはず。犯人の似顔絵を破いたり万引きした主婦に下着を見せるように要求したり、そういうキャラだと思わせての、あとで理由付けがされるあたりはなんかとっても肩すかしだった。
この映画もコミック原作ものらしい。コミック原作ものってアイディアは面白いけれど、ストーリー展開が荒唐無稽になったり、登場人物がやたら類型的で深みがなかったりする傾向がある。この映画も然り、残念ながらそういう傾向がある。
この映画、胡散臭いおっさん役で、数日前に亡くなった若松孝二監督が出演している。こんな形で姿を見ようとは思ってもみなかった。ご冥福をお祈りします。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『聖者の眠る街』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: ティム・ハンター
ダニー・グローヴァー
リック・エイヴィルス
ヴィング・レイムス
ジョー・セネカ
ニーナ・シマーシュコ
バーニ・ターピン

 親に頼らず美術学校で写真を学んでいた苦学生が、アパートの立ち退きを食らい、吸い込まれるように路上に暮らし始める。今のニューヨークでならありふれた現実かもしれない。しかし、ホームレスの生活は過酷だ。警察はただ、治安の悪いシェルターに彼らを放り込めばこと足りると思っている。そんな中、とまどう彼に口汚くであるが、あれこれ構ってくれる黒人の男がいた。彼は他の連中と違い、切実にこの境遇から抜け出ようと、車の窓拭きの“仕事”にも精を出していた。そのバイタリティにつられ、青年も協力。いつしか二人して八百屋を始め、念願のアパート暮らしもできるようになるのだが……。ディロン(このところ彼は地味だがよい脚本を選んで、ちょっとマジである)、グローヴァーともに素晴らしく、擬似的親子の情愛をホームレスの生活の中に切実に表現、自力更生の過程も嫌味なく描かれ、これを見れば「フィッシャー・キング」が例えファンタジーだとしても、どうにも嘘寒く感じるはずだ。

★★★★☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

分裂症の若者と、黒人ホームレスの交流を描いたハートフルドラマ・・・なんて一言で説明しちゃえば済んでしまいそうな映画。けれども、一度観てしまうと、ずしんと心に居ついてしまうタイプの映画なのはなぜだろう。きっと『ロード・トゥ・パーディション』がただのマフィア組織に復讐する話なのに一度観たら忘れられない映画なのと理由は同じ。つまり、映画の中で生きている人間を感じることができるのだ。こういう魅力っていうのは、主演のマット・ディロンとダニー・クローヴァーの二人の一世一代(?)の名演技にもよるものでもあるけれど、やはり脚本がすばらしいんだと思う。確かに聖者としてマット・ディロンをとらえることもできる作りになっているけれど、そこをファンタジーにしてしまわないセンスがいい。マット・ディロンが手を触れマッサージすると、足の痛みが消えたり手の痺れがなくなったりというエピソードがある。しかし、これは「つもり」に過ぎないだけかもしれない。心遣いが心を温め、「痛いの、痛いの、飛んでけー」効果を生んだともとれる。そして、なにより触れることで人の役に立てたマット・ディロンが空っぽのカメラにフィルムを入れることができるようになり、前向きに生き始める点だ。こういうさりげない心の機微がさりげなく描かれているあたりがこの映画の魅力と言える。
それでいて、映画冒頭のちびくろサンボのたとえ話にあるように、持ち物を盗られないかと虎を心配して生きている私たち「持てる者」が、この映画の中で描かれているホームレスたち「持たぬ者」と、どっちが幸せなんて言えるのだろうかという疑問を突きつける映画でもある。
ネットのシネマトゥデイの、マット・ディロンのインタビュー記事で、彼曰く、「今まででいちばん残念だったのは『聖者の眠る街』がヒットしなかったこと。いい作品だけど、ホームレスの映画に観客が金を払ってくれなかった。いい作品なんだけど」なんて主旨のことを言っていた。彼自身、思い入れの深い映画なんだろうなあ。
こういうまったく知らなかった名作に出会えるのも発掘良品のおかげ。
いい映画を発掘するぞ~!


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『シルバラード』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督 ローレンス・カスダン
ケヴィン・クライン ペイドン
スコット・グレン エメット
ケヴィン・コスナー ジェイク
ダニー・グローヴァー マル
ジョン・クリーズ 保安官
ロザンナ・アークエット ハンナ
ブライアン・デネヒー コッブ
ジェフ・ゴールドブラム スリック
リンダ・ハント ステラ

既に作られなくなって久しかった西部劇大作を、R・カスダンが製作から脚本、監督まで務めて復活させた痛快娯楽ウェスタン。とある事件で投獄の身だったエメット(グレン)は故郷であるシルバラードに帰る途中、下着姿で砂漠に横たわるペイドン(クライン)や縛り首の刑寸前の弟ジェイク(コスナー)、酒場で揉め事を起こしたマル(グローヴァー)などを助けながらシルバラードに辿り着く。しかしそこには土地独占を企てる牧場主が嫌がらせを続けており、エメットの姉夫婦も立ち退きを要求されていたのだった。そしてその一味の中には、以前ペイドンが無法者だった頃に仕事を共にし、いまや酒場のオーナーで町の保安官として君臨しているコッブ(デネヒー)がいた。そしてコッブ達の余りにもひどい悪徳ぶりに怒ったエメット達4人は、町や愛する者たちの平和を守るべく一味に戦いを挑んで行くのだった。歴代西部劇の名シーンを思わせる場面や、西部劇には欠かせないキーワードの全てをふんだんに取り入れ、それでいて古臭さを感じさせない軽快な演出が飽きさせない、まさに一級の娯楽大作。出演者も皆好演で、それぞれの役を生き生きと演じている。

★★★☆☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

ローレンス・カスダン監督の娯楽西部劇の名作。一度ちゃんと見ておきたかった。で、観終わった感想は一言。豪華幕の内弁当、お腹いっぱい!である。
主役のガンマン4人からしてスゴイ。ちょっとイーストウッドの面影を彷彿とさせるシーンもある渋いリーダーをスコット・グレン。『七人の侍』における三船敏郎的な剽軽で若々しい弟にケヴィン・コスナー。いわくありのガンマンにケヴィン・クライン。そして人情味のある狙撃の名手にダニー・グローバー。こんだけでも超豪華で濃い。
対する悪人どもが、F/Xのブライアン・デネヒーに、モンティ・パイソンのジョン・クリーズに、蝿男のジェフ・ゴールドプラム。おまけに酒場の女主人役は、あの危険な年で男性を演じてアカデミー賞をとったリンダ・ハント。
お話はホント、西部劇の王道を突っ走る内容で、ひとりひとりに見せ場が設けられていて、飽きさせない。でも観終わったあと、あ~おもしろかった、満腹、満腹・・・という感じ。ひととおり揃っていて無難だけども、クセになる一味が足りない。そんな幕の内弁当だなあ。
あ、マカロニによくある、残酷さと色っぽさが特に足りていないか。・・・ってことは、幕の内よりもお子様ランチに近いかも・・・。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『クリミナル』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: グレゴリー・ジェイコブズ
製作: グレゴリー・ジェイコブズ、スティーヴン・ソダーバーグ、 ジョージ・クルーニー
ジョン・C・ライリー
ディエゴ・ルナ
マギー・ギレンホール
ピーター・ミュラン
ジット・カザン
ジョナサン・タッカー
ジャック・コンレイ
ローラ・セロン
マイケル・シャノン

 プロの詐欺師と青年詐欺師がコンビを組み巧妙な騙し合いを繰り広げる、アルゼンチン映画「NINE QUEENS 華麗なる詐欺師たち」をリメイクした犯罪ドラマ。
 ロサンゼルスのカジノ。ロドリゴは、ギャンブルでマフィアに借金をした父を助けようと、素人ながら釣り銭詐欺を働いていた。そこへ一人の刑事が現われるが、実は彼はプロの詐欺師リチャードだった。そして、彼らは1日だけコンビを組むことに。そんな中、リチャードの妹ヴァレリーを通じ、大仕事の話が舞い込む。それは、大富豪ハニガンへ偽造証券の売り込みに失敗した老詐欺師に代わり、リチャードたちが挑むというもの。こうして、リチャードとロドリゴのテクニックにより、順調に事が運んでいくが…。

★★★☆☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

ボクが書いている映画の感想記録は、ネタバレとかあんまり気にせずに鑑賞記録をつけることを目的に書いているので、ネタバレは気にしていない。だから気にせずにネタを書くんだけども、この映画のようにネタだけで勝負だとやはり書くのは勇気がいるなあ。
とにかく、ボクはこの映画が始まって5分で仕掛けがあるなあと見破ることができた。そして開始10分でラストの大団円場面が浮かんできてしまった。
面白い仕掛けのある映画だけど、この手の映画ではノーマルになっちまった仕掛けなのが辛い。
そしてやっぱりこの映画の評価を低くしてしまうのは、仕掛け人の多さ。こんなにたくさんの人が関わって仕掛けるのは不可能だと断言する。人を騙すとき、それが騙しだと露顕するのは、騙す側の人数の二乗に比例するっていう話がある。つまり二人で騙そうと画策すればばれる危険は4倍になるってわけ。人数が増えれば増えるほど計画を完遂するのは難しいはず。そのへんのところを考えるとストーリーがあまりにデキスギで、素直に驚けない映画だと言える。
この映画、もともとアルゼンチン映画『NINE QUEENS 華麗なる詐欺師たち』のリメイクだそうだ。制作に、スティーヴン・ソダーバーグ、 ジョージ・クルーニーの二人がかんでいるあたり、いかにもいかにもな映画だと言える。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: バリー・レヴィンソン
ダスティン・ホフマン
ロバート・デ・ニーロ
アン・ヘッシュ
ウディ・ハレルソン
デニス・リアリー
ウィリー・ネルソン
キルステン・ダンスト
ウィリアム・H・メイシー
スザンヌ・クライヤー
ハーランド・ウィリアムズ
スージー・プラクソン

 デ・ニーロとD・ホフマンの二大名優が競演したシニカル・コメディ。現役合衆国大統領が執務室で少女と淫行に及ぶという衝撃的事件が発生。通称もみ消し屋ことブリーンが、大衆の目を事件からそらすように依頼される。ブリーンはハリウッドのプロデューサー、モッツを利用し、架空の戦争をでっちあげる。爆撃作戦を実行したように思わせ、反戦ソングを一晩で作り上げる。すべてはうまくいったように見えたのだが……。

★★★☆☆
ここ数年、ご近所のゲオでもっぱらレンタルしていたけれど、TSUTAYAだけ!っていう『キックアス』を見んがために、少し離れたTSUTAYAまでチャリンコをこいで出掛けてビックリ、発掘良品なんてコーナーがあって、ボクにとって幻の名作がズラリ。そんなわけで先週から映画三昧に拍車がかかっている。これもその中の一本。

ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンの掛け合いが楽しい政治ブラックコメディ映画。あんまり二人のおしゃべりが多いもんだから、なんだか舞台劇でも見ている感じ。そう言えば、『アナライズ・ミー』&『アナライズ・ユー』もそうだったな。あの主演ふたりの掛け合いをデ・ニーロとダスティン・ホフマンで演っている。で、中身は精神分析医とマフィアの首領ってワケじゃなくて、大統領側近のモミ消し屋デ・ニーロと、映画プロデューサーのダスティン・ホフマンが協力して大統領再選を果たすために、スキャンダルから大衆の目を逸らすためにメディアをいかにコントロールしていくかが描かれた映画。
実際、クリントン大統領の性的なスキャンダルが話題になったことがあったけど、あのときはイラクの問題に目を逸らせるような動きがあった。しかも、スキャンダル自体、アメリカにイラクに介入させるためにイスラエルが仕組んだのではないか?なんて謀略説すらあったりする。日本でも世間が大騒ぎするような事件が起きている最中に、イチャモンつけられそうな法案を通しているみたいな話を聞かないでもないし。
そのへんのメディア操作をこれでもかと描いたのが本作。大統領が執務室で見学に来た少女に淫行って、もうこの時点で大統領選どころの話じゃないというか資格もない気がする。スキャンダルをモミ消すために、戦争をでっちあげたり太平洋戦争の英雄を仕立てたりと大衆を欺こうとする。戦地アルバニアを逃げまどういたいけな娘を合成で作るあたりや、平和を願う歌を「ウィアーザワールド」並みの歌に作るあたり、英雄のはずがブチ切れた強姦魔ってあたりが最高に面白い。しかも、その少女役が若き日のキルスティン・ダンストだったり、歌を作るのがウィリー・ネルソンだったり、強姦野郎役のウディ・ハレルソンなど、なんかもうゲスト出演的なノリで楽しんで演じている。
うん、そうだ。『アナライズ・ミー』とかと一緒。みんな、楽しんでいる現場の空気がそのまま映画から伝わってくるようなタイプのブラックコメディー映画だ。
映画の冒頭に丁寧に説明されているけれど、犬が尻尾を振るかわりに、尻尾が犬を振るってのが、ワグ・ザ・ドッグという題名の意味。つまり本末転倒なわけ。さて、犬と犬の尻尾の関係はいったい何だろう?大統領と側近の関係か?マスコミと大衆との関係か?いやもしかしたらこの映画と観客の関係だったりして。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『大巨獣ガッパ』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: 野口晴康
川地民夫 黒崎浩(週間プレイメイト記者)
山本陽子 小柳糸子(カメラマン)
桂小かん 林三郎
小高雄二 殿岡大造(生物学者)
和田浩二 町田
町田政則 サキ(オベリスク島の少年)
雪丘恵介 船津(プレイメイト社社長)
弘村三郎 細田
押見史郎 大山
藤竜也 ジョージ井上

南洋のオベリスク島にやってきた探検隊は、その地でガッパという怪獣の子供を発見した。彼らは研究のため、子ガッパを日本に連れ帰る。そして子供を奪われた親ガッパたちが、子供のテレパシーをたどり日本に上陸してくる。防衛軍はただちにこれを迎撃するが、ガッパは熱線を吐いて街を壊滅状態に追い込んでいく……。
 怪獣ブームのさなかに日活が製作した怪獣映画。巨大怪獣の脅威と親子の情愛を中心に描き、恋愛ものの要素までも取り入れた意欲作で、その割によくまとまったストーリーは評価できる。また、熱海襲撃シーンなどの特撮の出来も良い。ガッパの名を連呼する主題歌が、子供向きで分かりやすく好印象。

★★☆☆☆
時たま、昔の特撮映画を見たくなる。子どもの頃、雑誌の写真記事や、お菓子のオマケシールなどで怪獣映画の一場面を見ることはあっても、映画館で観ていない作品ばかり。ビデオなどもない時代、たまたまテレビで放送されたときにタイミングよく観れることがあるかないか。そんなわけでゴジラやガメラはもちろん、ガッパとかギララとかにもいまだに興味があるんだよなあ。
で、今回ガッパを観てみたわけだけど、いや~驚いたのなんの。これって怪獣映画と日活アクション映画の融合みたいな路線だもん。さすがに乱闘シーンはなくて怪獣大暴れシーンなんだけど、ヒロインをめぐる三角関係なんかがあったりで。しかも、こんな気障なセリフを棒読み口調で言うなんて~と失笑してしまう、あの日活アクション演技なのだ。ちなみに探検隊の一員の無国籍なジョージなんて役で、若~い藤竜也が出演しててビックリ。
南洋のガッパの島に住んでいる現地人たちが、墨を塗った日本人役者なのは仕方ないけれど、彼らのダンスがまたなんともゴーゴーダンスっぽくて笑える。無国籍映画っぽさ満点なのだ。しかもどうやら大東亜戦争のときに日本兵が来ていた設定で現地人たちが日本語がしゃべれたりするし。日本人が帰ってきた!なんて歓迎ムードだけど、日本の探検隊が来て以来、火山は噴火して神像は壊れるしガッパは暴れるしで迷惑このうえない。
烏天狗のようガルーダ神のようなガッパのデザインは印象深いが、見方によっては羽根をむしりとられたニワトリにも似たり、で・・・。にしても、ガッパってのがまったく破壊を目的としておらず人間以上に家族愛が深いあたりが新鮮だ。こんなイイモンの怪獣はモスラくらいしか観たことがないなあ。熱海の宴会お座敷の天上から怪獣の足がバリバリバリッという場面が特に印象に残った。でっかい足ハリボテ作ったんだねぇ。
そしてきわめつけは主題歌。もう日活アクションまんまの曲調で、歌詞だけ怪獣もの。美樹克彦が絶唱する「ガッッパァァ~~アア、ガッッパァァ~~アア」の連呼に凍りつく。
いやあ、なかなかの珍品もんですよ、怪獣映画ブームに乗って日活が作った怪獣映画。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


映画『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』

2012年10月31日 | 映画の感想



監督: スティーヴン・スピルバーグ 
製作総指揮: ジョージ・ルーカス、キャスリーン・ケネディ
ハリソン・フォード インディアナ・ジョーンズ
シャイア・ラブーフ マット・ウィリアムズ
レイ・ウィンストン ジョージ・マクヘイル
カレン・アレン マリオン・レイヴンウッド
ケイト・ブランシェット イリーナ・スパルコ
ジョン・ハート ハロルド・オクスリー教授
ジム・ブロードベント ディーン・チャールズ・スタンフォース
イゴール・ジジキン
アラン・デイル

ハリソン・フォード、スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスの黄金トリオで19年ぶりに復活した人気シリーズ第4弾のアクション・アドベンチャー。今回は米ソ冷戦下の1950年代を舞台に、インディが宇宙の神秘を解く力を持つ秘宝をめぐって熾烈な争奪戦を繰り広げる。
 1957年、アメリカ国内で米兵に扮した女諜報員スパルコ率いるソ連兵の一団が米軍基地を襲撃。彼らは、宇宙の神秘を解き明かす力を秘めているという“クリスタル・スカル”を探し求め、その手掛かりを辿っていた。そしてそこには、なんとインディが捕らえられ、クリスタル・スカルの捜索を強要されていたのだった。しかし、スキをみて脱出を図り、何とかスパルコの手を逃れたインディは考古学教授として赴任している大学へと舞い戻る。すると今度は、彼の前に一通の手紙を携えたマットという青年が現われるのだが…。

★★☆☆☆
何を今さら・・・な感じで『インディ・ジョーンズ』を観た。前三作は劇場で観たくせに、この四作めは結局今まで観ずじまいになっていたのだ。
いや~見事な同窓会映画だったなあ。ルーカスもスピルバーグもハリソン・フォードも思いっきり楽しんでいる感じが伝わってくる。アメリカングラフティな冒頭やら、未知との遭遇みたいなクライマックスに至るまで自作のパロディ&前三作のパロディ満載で、息つく暇なしの展開は健在だった。しかし、第一作で球状の巨石に追いかけられたときのスリルや、第二作で地下を縦横無尽に駆け回ったトロッコジェットコースターに乗った感覚など、あの手に汗握る面白さの再現はなかった。
はっきり言って、宮崎駿とスピルバーグには、もう冒険アクション映画は作れないんじゃないだろうか。アクションシーンの背後にある死の危険、一歩間違ったときの悲劇を描ききるだけの、毒や残酷性が今の彼らにはないのだから。
前三作にも、聖櫃やら心臓抜きやら十字軍やらといったオカルト要素のあったインディ・ジョーンズシリーズだから、荒唐無稽の要素があっても別にかまわない。しかし、その匙加減の程度が問題だ。映画冒頭から非現実的なブツを見せられちまうともう何でもありの世界。どんな危険な目に遭おうとも何とかなるでしょ、って気分になってしまう。
ボクが特に気になったのは、ネバダの核実験シーン。例によって難を逃れたインディが放射能を洗浄されるわけだが、あのへんの描き方って、当時の国防相の宣伝映画やら007第1作『ドクター・ノー』の頃の安易な感覚。パロディのつもりなのか?・・・日本人にとっちゃ洒落にならないぞって気がしたのはボクだけだろうか?
ラストで帽子を拾おうとしたジュニア(シャイア・ラブーフ)の手から帽子を奪い取るシーンで、まだまだ若い者には譲れないぜって示したわけだが、正直このあと作っても新しい何かが生まれそうな気はしない。バットマンやスパイダーマンのようにリブートした作品のほうがもっと面白いものができそうな気がするけれど、ずいぶん若いスタッフ&キャストへの入れ替えが必要だろう。何にせよ、このシリーズからコンピューターゲーム感覚のノンストップアクション映画は誕生したのだ。その偉大な功績によって今日のアクション映画は成り立っていると言っても過言ではない。そこには十分な敬意を表したい。


にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村 


3分間電話

2012年10月30日 | ショートショート



カップラーメンにお湯を注いでいたら電話がかかってきた。
最悪のタイミング。
ちょっと待っとけ。無視して内側の線ぴったりに熱湯を注ぎ、フタをする。
携帯を手にとる。オヤ、『非通知』?誰からだ?
「ハイ、もしもし」
「オレだよ」
「オレって、どなた?」
相手がため息をついた。
「オレに決まってるじゃないか。こっち、今、黄色電話からかけてんだよ」
黄色電話?10円か100円を入れる公衆電話の?今どき見かけないぞ。
「3分したら電話、切れちゃうから」
そいつは好都合。相手してやるか。
「で、用件は?」
「用件なんてない。ただおまえと話したくなってさ。そっちは?元気にやってる?」
なんだ、用もないのに電話してきたのかよ。
「ぼちぼちだな」
「そいつはよかった。落ち込んでないか?仕事はうまくいってる?いるの?彼女」
なんだよ、失礼なヤツだな。
「全部、YES。で、おまえいったい誰?」
「全部、YESか。よかった」
深いため息。それから鼻を啜る音。こいつ、泣いてんのか?
「オレさ、メチャ最悪なんだよ。ブチ切れ。どいつもこいつもムカつく奴らでさ。くたばっちまえ、糞野郎!」
電話口で怒鳴るなよ。
「糞!糞!糞!糞!世の中全部糞ばっかだ、畜生!」
大丈夫か、コイツ。情緒不安定だぞ。
「な、落ち着けって。深呼吸しろ、とにかくいっぺん深呼吸だ」
電話の向こうでホントに深呼吸する声がする。
「どうだ?落ち着いたか?何があったか知らないけどさ、自分を追い込んじゃダメだぞ。誰だって心が折れちゃうことがあるんだから」
電話の向こうで、オレの言葉を繰り返す声。
「生きてりゃ辛いこともあるさ。もちこたえるんだ。自分を見失わないようにしなきゃ」
「もちこたえる・・・自分を見失わないように・・・」
言葉を繰り返し、そして黙った。
電話の向こうでは微かに雨の音。そして街頭にかかる音楽が聞き取れた。何年も前の、忘れていた流行歌。
オレが若くて、青かった頃の。
その瞬間、霞が晴れるように記憶が鮮明によみがえった。
どうしようもなく落ち込んで、酒に酔って電話ボックスに入ったっけ。
もっと大人になった自分に電話したつもりになって、泣いたり怒鳴ったりした、あの3分間。
電話の向こうは、まさしくオレだ。あのときのオレなんだ。
「なんとかなるよな、なんとか」
そして唐突に3分間が終了、電話がプツッと切れてしまった。
カップラーメンは、いつもよりちょっとしょっぱい味がした。



(最後まで読んでいただいてありがとうございます。バナーをクリックしていただくと虎犇が喜びます)