映画『ヒューゴの不思議な発明』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 マーティン・スコセッシ
エイサ・バターフィールド (Hugo Cabret)
クロエ・グレース・モレッツ (Isabelle)
サシャ・バロン・コーエン (Station Inspector)
ベン・キングズレー (Georges Melies)
ジュード・ロウ (Hugo's Father)
レイ・ウィンストン (Uncle Claude)
クリストファー・リー (Monsieur Labisse)
ヘレン・マクロリー (Mama Jeanne)
リチャード・グリフィス (Monsieur Frick)
フランシス・デ・ラ・トゥーア (Madame Emilie)
エミリー・モーティマー (Lisette)
マイケル・スタールバーグ (Rene Tabard)

スコセッシ監督が1930年代のパリを舞台に、初めて3Dに挑戦。鍵となるのは“機械人形”と“映画”だ。父がヒューゴに遺した機械人形の修理が完了した時、機械人形は動き出し、「ジョルジュ・メリエス」という署名の入った月の絵を描く。その名はイザベルの養父の名前であり、映画界からこつ然と姿を消した、世界初の職業映画監督の名前でもある。子どもたちの冒険が老人の頑な心を溶かし、忘れていた映画への夢を蘇らせるという、映画への愛にあふれた一作。劇中にはメリエスの『月世界旅行』やリュミエール兄弟の『ラ・ジオタ駅への列車到着』など、初期の映画作品がいくつか登場。スコセッシ監督が映画創世記の監督たちに抱いているリスペクトが感じられるはずだ。
ひとりぼっちの少年ヒューゴは、時計のネジを巻きながらモンパルナス駅に隠れ住んでいた。彼は駅の中の玩具店で玩具を盗もうとし、店主のジョルジュに見つかってしまう。ジョルジュは、ヒューゴのポケットの中にあった手帳を見つけ取り上げた。父の遺品であるその手帳には、父が見つけてきた不思議な機械人形の修理法についての研究結果が書かれていた!手帳を取り返すため、ヒューゴはジョルジュの養女・イザベルに協力を頼む。

★★★★☆
邦題がいけない!
こんな邦題をつけたら、お子様向きの空想冒険ファンタジーじゃんかよ!
客さえ来ればもうけものみたいな発想はいかんよ~。
これじゃまるで、『ニューシネマパラダイス』を日本で公開するときに、
『映画少年サルバトーレとキスシーンの乱れ撃ち』なんて邦題にするくらい、残念だ。
この映画はファンタジー的ではあるけれど、逃避的な空想ファンタジーとは別物だ。
実にきっちり作られたヒューマンドラマである。
これを敢えて、マーティン・スコセッシが監督したことに驚きを感じる。
職人に徹したらこれだけの映画ができるってことだろうか。
だって、ニューヨークを舞台に、あの街の歴史・文化・民族の問題をテーマにしてきた、あの監督なのに、フランス人が英語喋ってる!
このこと自体が、スコセッシ監督の娯楽映画宣言だと受けとった。児童文学の名作が翻訳されるのは当然だし、ディズニーアニメの画面に英語が日本語に書き換えられていても違和感がない、あるいは違和感を感じなくてよいお約束ごとがあるのと同じに・・・。
つまりこれってスコセッシ監督がフランチャイズに徹した娯楽映画なんだ。
児童文学を映像化した映画として観た場合、これは傑作の部類だと思う。
古き良き時代の映画が巷の人々に与えた衝撃を、3Dメガネで再現しようという意図も十分伝わってくる。
だからこそ、敢えて注文をつけたい。
映画の冒頭、会社のロゴを突き破って列車が映画館の観客席に飛びこんでくるくらいのシーンで始めないと!
スターウォーズシリーズの輝かしい伝説はあの冒頭の宇宙戦艦登場シーンのインパクトから始まったのだ。
映像の魔力で酔わせるためには、もうひとつインパクトが欲しかった。
などといいつつ、この映画、忘れられない児童文学の一冊のように、大切に心にもっておきたい逸品であることはまちがいない。


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映画『長ぐつをはいたネコ』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 クリス・ミラー
アントニオ・バンデラス (Puss in Boots)
サルマ・ハエック (Kitty Softpaws)
ザック・ガリフィアナキス (Humpty Dumpty)
ビリー・ボブ・ソーントン (Jack)
エイミー・セダリス (Jill)
コンスタンス・マリー (Imelda)
「シュレック」シリーズの人気キャラクター、“長ぐつをはいたネコ”が主役に躍り出た。『シュレック2』で初登場し、人気者になるも、目立たなかったプスの生い立ちが明かされる。孤児院で育ったプスは、悪友、ハンプティ・ダンプティと街で悪さばかり。しかし、ふとした事で人助けをしたプスは、長靴と帽子を贈られ、街の英雄になり、ハンプティ・ダンプティとは気まずくなっていった。シリーズでも見え隠れしていた、プスのキザなキャラに大笑い。バックに登場する脇キャラ猫たちも反則と言っていいくらい可愛い。犬派の人たちも劇場では猫に鞍替えして、プスの愛らしさに萌え死にしちゃってください。監督は、『シュレック3』のクリス・ミラー。

★★★☆☆
公開間もなくに『シュレック』の一作目は観たと思う。面白かった印象はあるが、二作目からは観ていないはずだ。だから、このアニメ映画が『シュレック』からスピンオフしたものだということを先に知っていたら、たぶん鑑賞する気にはならなかっただろう。たまたま新作のところにたくさん並んでいたので試しに観てみたわけなんだが、これは結構楽しめた。猫が糞をしたあとでシャッシャッと後脚で砂を書ける動作や、尻餅をついて前足だけで全身する動作みたいな、猫の無様だけど憎めない動作なんかがダンスに採り入れられているセンスなんかがツボだ。竹中直人のわざとらしい気取りっぷりも、もともとのキャラが自尊心たっぷりなキャラなので違和感がなかった。
まあ、ただこの映画、ドラマだけで観たら、水増しされているのを感じざるを得ない。旧友のハンプティダンプティと再会するまでの過程にどんだけ時間を費やしているんだよ!みたいな。まあ、その過程での謎のキャットウーマンとの出会いや猫ダンスシーンなんかが映画としては面白いところではあるんだけど。ただ、そのあとの本題であるジャックと豆の木の描写やクライマックスの故郷の町でのモンスターとの戦いに比して、あまりにもバランスが悪い。たぶん、この映画は短編のオムニバスか、他の劇場アニメの付録的な作品として企画されたものを、調子こいて引き延ばしたにちがいない。まあそういう小品っぽさが気軽に楽しめる良さでもある気がするけれど。
実は、この映画のDVDの得点に、もう一作、短編が添えられている。子猫の三銃士とともに声の小さい悪人と戦うという短編なんだけど、こっちが本編以上に笑いのツボを突いてくれた。必見!


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映画『バトルシップ』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 ピーター・バーグ
テイラー・キッチュ (Alex Hopper)
ブルックリン・デッカー (Samantha)
アレキサンダー・スカルスガルド (Stone Hopper)
リアーナ (Raikes)
浅野忠信 (Nagata)
リーアム・ニーソン (Admiral Shane)

アメリカをはじめとする世界各国の護衛艦が集結して大規模な軍事演習が行われるハワイで、沖合に正体不明の巨大な物体が出現する。それは、地球からの友好的な呼びかけに応じて飛来したエイリアンの母船だった。しかし、呼びかけを行った科学者たちの意図とは裏腹に、エイリアンは次々と未知の武器を繰り出し、激しい攻撃を仕掛かけてくる。その戦いの最前線に立たされたのは、演習に参加していた米海軍の新人将校アレックス・ホッパーと、彼がライバル心を燃やす自衛艦の指揮官ナガタだった。弱点も戦略も読めないエイリアンに対し、知力と体力の限りを尽くして立ち向かう海の精鋭たち。果たしてエイリアンの攻撃の目的は何なのか?アレックスとナガタはそれを阻止することができるのか?そして、彼らは地球を壊滅の危機から救うことができるだろうか!?

★★☆☆☆
最近のCGの進化ってスゲーなあ。とにかく敵のスケールのでかさに圧倒される。圧倒される一方で、その映像美に比してあまりにもチープなおバカストーリーにビックリだ。その昔の、原潜シービュー号や宇宙大作戦のエピソードの中で、お子さま向きのヤツで、お話の終わる10分くらい前までは絶体絶命のピンチなんだけど、あれよあれよとご都合よく事がすすんでラッキー!すべて元どおり・・・あの何とも言えない脱力感がよみがえってきた。こういうのって、『アルマゲドン』とか『インディペンデンスデイ』とか、アメリカ人は結局好きなんだろうなあ。この映画の始まりの『愛と青春の旅立ち』みたいな青春映画っぽいノリからしてもう青臭い能天気路線が見えちゃって、やっちまった感たっぷりに疾走していくんだよなあ。
でも救いは日本人の扱いがちゃんとしているところ。浅野忠信ってばっちり存在感のあるやくどころだし。
それにしても最近の侵略者って金属粉砕工具の妖怪野衾(のぶすま)みたいなのがやたら多いような気がするのはボクだけだろうか。


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映画『ジョン・カーター』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 アンドリュー・スタントン
テイラー・キッチュ (John Carter)
リン・コリンズ (Dejah Thoris)
サマンサ・モートン (Sola)
マーク・ストロング (Matai Shang)
キーラン・ハインズ (Tardos Mors)
ドミニク・ウェスト (Sab Than)
ジェームズ・ピュアフォイ (Kantos Kan)
ウィレム・デフォー (Tars Tarkas)
ダリル・サバラ (Edgar Rice Burroughs)
トーマス・ヘイデン・チャーチ (Tal Hajus)
ポリー・ウォーカー (Sarkoja)

1881年のニューヨーク。大富豪ジョン・カーター(テイラー・キッチュ)が謎の失踪を遂げる。しかし、愛する妻と娘を失って以来、他人とのつき合いを絶ってきた彼は、唯一心を許していた甥エドガー・ライス・バローズ(ダリル・サバラ)に一冊の日記を残す。そこに記されていたのは、想像を越えた体験談だった。家族を亡くし、生きる意味を見失っていたジョン・カーターは、不思議な現象によって未知の惑星バルスームに迷い込んでいたというのだ。しかし、地球を凌駕する高度な文明を持ったこの星は、全宇宙を支配しつつあるマタイ・シャン(マーク・ストロング)によって滅亡の危機に瀕していた。地球上でも強靭な意志と身体的能力を誇っていたジョン・カーターだが、重力の異なるバルスームでは桁違いの超人的パワーを発揮。ヘリウム王国の王女デジャー・ソリス(リン・コリンズ)や彼女に忠誠を尽くすカントス・カン(ジェームズ・ピュアフォイ)、サーク族のタルス・タルカス(ウィレム・デフォー)など、バルスームの民たちと心を通わせてゆく。その一方で、ソダンガ王国の王子サブ・サン(ドミニク・ウェスト)はマタイ・シャンに操られ、ヘリウム王国を滅ぼそうとしていた。滅亡の危機にあるバルスームを救うことが、自分に課せられた使命であることに気づくジョン・カーター。しかし、妻と娘を救えなかったという無力感が、戦うことを躊躇わせていた。だが、マタイ・シャンの無慈悲な攻撃にさらされるバルスームの惨状は、彼の中に新たな感情を芽生えさせる。それは、愛する者を二度と失いたくないという強い思い。果たしてジョン・カーターと惑星バルスームの運命は?そして、カーターの日記を受け取ったエドガー自身も、この壮大な冒険の重要なカギを握っていた……。

★★☆☆☆
こりゃあやっぱりどんなにCGを駆使して見せてくれても、所詮はペラペラのSFコミック誌に載っているスペースオペラの世界。むしろ、フラッシュゴードンみたいなチープなスタジオ撮影映画のイメージに近いだろう。ここまでスケールいっぱいに作る価値があるのかどうか・・・。王様や王女様のコスチュームがお伽話世界っぽくて、なんか恥ずかしい感じ。特に王女様は色っぽいドレスなんだけども、やけにエクササイズした小麦色健康ポディでぜんぜん色気がないし・・・。いろいろ残念なんだけど、ラストのひねりだけはイケていると思う。ただし、圧倒的な力を持っているはずの敵がどうして長年主人公を追い詰めきれていないのかが不思議でならないけれど。
スターウォーズ以降のSF冒険ものの先駆的な原作なのはわかるけれど、スターウォーズ以降に作られた『フラッシュゴードン』はスペースオペラと割り切った馬鹿馬鹿しさが楽しい異色作だった。だが、大まじめにスペースオペラを作られても今更なあ。ん~、でもアレだな、シャマラン監督の『エアベンダー』よりはマシか。


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映画『バンディッツ』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 バリー・レヴィンソン
ブルース・ウィリス (Joe Blake)
ビリー・ボブ・ソーントン (Terry Collins)
ケイト・ブランシェット (Kate Wheeler)
トロイ・ガリディ (Harvey Pollard)
ボビー・スレートン (Darren Head)
ブライアン・F・オバーン (Darill Miller)
ステイシー・トラヴィス (Cloe Miller)
ジャニュアリー・ジョーンズ (Claire)
アズラ・スカイ (Cheri)

ブルース・ウィリスが主演する痛快無比なコミカル・アクション。年末の公開が慌しく決定して、宣伝が出遅れているのが残念。なんといっても『明日に向って撃て!』『俺たちに明日はない』などアメリカン・ニューシネマを思い起こさせる設定が懐かしい。しかし、こうした往年の名作とは明らかに違う、すがすがしいまでのハッピーなムードが全編に溢れている。ヒロイン役のケイト(ケイト・ブランシェット)が刺激を求める人妻で、道連れとなった2人の強盗たちを平等に愛するあたりも現代的。彼女の前では、てんでだらしのない男たちの可愛いこと! 心身症の犯罪者に扮するビリー・ボブ・ソーントンが生真面目な演技の中にユーモアを漂わせているのが印象的である。
オレゴン州立刑務所で知り合った、タフガイのジョー(ブルース・ウィリス)と心気症に悩まされるテリー(ビリー・ボブ・ソーントン)。正反対のタイプながら強い友情で結ばれた二人は、ジョーの従兄弟ハーヴィー(トロイ・ガリティ)を仲間に加え、華麗なテクニックで銀行強盗を続けていく。そんなある日、彼らの前に平凡な主婦生活に飽き飽きしていたケイト(ケイト・ブランシェット)が現われ、仲間入り。マスコミに追いかけられ、一躍ヒーローに祭り上げられる中、ケイトはジョーとテリーを同時に愛してしまうようになった。そのことで2人の友情は揺らぎはじめ、そして旅の最終地カリフォルニアに。ジョーとテリーは強盗に入った銀行で互いを撃ち合い息絶える・・・。

★★★★☆
映画を見ながら映画の作り手たちの楽しさが伝わってくる映画ってのがある。あの、二日酔いコメディー映画『ハングオーバー』なんてまさにそれだが、この映画もそう。というか、一応銀行強盗を扱った犯罪映画っぽい体裁をしているぶん、手が込んでいる。だけど、これ、絶対遊びのノリで演者も演出者も楽しんでいるよなあ。ブルース・ウィリスとビリー・ボブ・ソントンの掛け合いにしても、どんだけアドリブが挟まれているのやら。ケイト・ブランシェットをいかに魅力的に面白く撮るかってのに注いだ、ケイト自身&監督の心血ってのもスゴイ。
映画は時系列を遡ってクライマックス部の絶体絶命の危機的状況から描き始めて、そこに至る経緯を回想インタビューなんてのを挟みながらあれやこれやグダグダ描いていく。描き終わったところで、クライマックスの、まさかまさかの「ありえねー」な逆転劇。それをデキスギな映画的虚構としてマイナスに見るか、この映画自体が映画の虚構を楽しみまくるために作られていると見るか、によって映画の評価はまるっきり変わってくると思う。観終わった後で、作ったのはタダモノじゃないなってあらためて監督の名前を確認したら、ああ、バリー・レヴィンソン!なんと懐かしい名前。元気にしていたの?まあ、この映画を観る限り、円熟味を増して、肩の力を抜いた遊び心たっぷりの小作品を今後も作って楽しませてくれそうだ。


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映画『MONDAY』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 SABU
堤真一 (高木光)
松雪泰子 (霧島優子)
大河内奈々子 (近藤理恵)
西田尚美 (町田由紀)
安藤政信 (近藤光男)
大杉漣 (村井良夫)
小島聖 (アキコ)
麿赤兒 (浮浪者/悪魔)
塩見三省 (大島大介)
野田秀樹 (神山伸吾)
山本亨 (花井喜一郎)
田口トモロヲ (島光彦)
寺島進 (中野三郎)
松重豊 (久保正樹)
根岸季衣 (近藤美代子)
津田寛治 (ケンジ)
堀部圭亮 (ベルボーイ)
山田明郷 (ベルボーイ)
並樹四朗 (ベルボーイ)
上杉祥三 (ベルボーイ)
深沢邦之 (サラリーマン)
ベティー (バーのママ)

月曜の朝。見知らぬホテルの一室で目覚めたごく普通のサラリーマン・高木。週末、酔っ払って何をしていたか憶えていない彼だったが、ポケットからお浄めの塩が出てきたことから次第に記憶が蘇ってくるのだった----。日曜日。友人の通夜に参列していた高木は、ラジコンが趣味だという理由だけで、遺体から取り除くのを忘れられていたペースメイカーを外す役を任される。だが、失敗して遺体は爆発。その後、彼はその話を恋人の由紀に面白おかしくするのだが、呆れられフラれるのだった。落ち込んだ高木が訪れたのは一軒のバー。そこで、彼は絶世の美女・優子と出会うも、なんと彼女はヤクザ・花井の女だったのである。ところが、花井にすっかり気に入られた彼は、怖さも手伝って勧められるままに酒を飲み過ぎ・・・。

★★★★☆
うん、これは楽しめた。こんなに映画を面白くする順番で記憶がよみがえるかなあ?なんてツッコミもしたくなってしまうけれど。
「ね~矢菱く~ん、邦画でなんか掘り出しもの、な~い?」
なんて、飲み屋の映画好きのおネーさんから尋ねられたときのボクの定番映画ってのが、
『遊びの時間は終わらない』
あのモックンこと本木雅弘主演のコメディなんだけど、予測不能の展開がやたらそそってくれる隠れた傑作である。
で、今回観たこの映画『Monday』。
これがまた、なかなか楽しい。
こっちの主演は、堤真一。こいつもなかなか予測不能の面白さで楽しませてくれる。
ホテルの一室で目覚めた男が、ひとつ、またひとつと失った記憶を取り戻していくが、その記憶というのが想像を絶する。
アッチャーやっちまったよ、じゃすまされないようなとんでもなさなのだ。
で、最終的に今の自分が孤立無援の危機的状況に立たされていることが判明するわけだけれど、ここからあとの展開が今ひとつ。
『未来世紀ブラジル』っぽい終局への流れは決して嫌いじゃないけれど、なくてもいい。現在に至る経過を膨らませればもっともっと面白くなったし、それ以降はもうなくってもいいくらいだった。
まあ、そのへんの蛇足感は『遊びの時間は終わらない』にも感じたところなんだけども。
どっちにしろ、楽しめる映画であることに変わりはない。堤真一はもちろん、松雪泰子もいさぎよいキレっぷりだけでも十分楽しめる。
というわけで、
「ね~矢菱く~ん、邦画でなんか掘り出しもの、な~い?」
「掘り出しものぉ?『遊びの時間は終わらない』って観た?」
「こないだ貸してくれたじゃ~ん」
「あ、それじゃ『Monday』は?」
「あ、観る観る~!」
という展開を期待して、★5つ!・・・ってちょっとふざけすぎ?(笑)


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映画『不連続殺人事件』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 曽根中生
瑳川哲朗 (歌川一馬)
夏純子 (歌川あやか)
水原明泉 (歌川珠緒)
福原ひとみ (歌川加代子)
金田龍之介 (歌川多門)
泉じゅん (下枝)
田村高廣 (矢代寸兵)
桜井浩子 (矢代京子)
内田裕也 (土居光一)
内田良平 (望月王仁)
小坂一也 (巨勢博士)
殿山泰司 (南雲一松)
初井言栄 (南雲由良)
伊佐山ひろ子 (南雲千草)
石浜朗 (三宅木兵衛)
楠侑子 (宇津木秋子)
神田隆 (神山東洋)
絵沢萠子 (神山木曽乃)
江角英明 (人見小六)
根岸季衣 (明石胡蝶)
木村元 (丹後弓彦)
内海賢二 (内海明)
松橋登 (海老塚医師)
宮下順子 (諸井琴路)
粟津號 (坪田平吉)
岡本麗 (坪田テルヨ)
梓ようこ (八重)
谷本一 (奥田利根五郎)
浜村純 (片倉清次郎)
長弘 (南川巡査)
桑山正一 (平野警部(カングリ警部))
武藤章生 (荒部長刑事(八丁鼻))
清川正廣 (長畑刑事(読ミスギ))
南美由紀 (女中A)
西沢武夫 (喜作)
河原一邦 (新聞記者)

坂口安吾の原作の推理小説を映画化。山奥の別荘に集まった、二十九人の男女がくりひろげるサスペンス・ミステリーを描く。脚本は「国際線スチュワーデス 官能飛行」の大和屋竺と「嗚呼!! 花の応援団 役者やのォー」の田中陽造と曽根中生、荒井晴彦の四人共同、監督は「嗚呼!! 花の応援団 役者やのォー」の曽根中生、撮影は「レイプ25時 暴姦」の森勝がそれぞれ担当。
昭和二十二年夏、敗戦による混乱のおさまらぬ時に流行作家の望月王仁は、N県きっての財閥・歌川多門の豪邸で殺された。その時、多門の家には二十九人に及ぶ男女がいた。兇器の短刃からは、二人の女の指紋が発見され、もう一人の女のものと思われる小さな鈴が、害者のベットの下から発見。女中も含めた、二十九人の内、十人は、多門の息子の一馬によって招待された人々で、戦争中の数年間、歌川家に疎開していた人々であった。そして、そこでは一般の人々の想像を絶するような、男女の淫乱な生活が繰りひろげられていたのである。そして、それにも輪をかけてひどいのが、歌川家の複雑な血縁関係であった。その日の午後、望月王仁の屍体は、解剖のために県立病院へ送られた。そして、その夜、珠緒とセムシの詩人・内海明、千草と次々に殺されるのであった。一週間後の八月二十六日、第五・第六の殺人が行われた。加代子がコーヒーにまぜられていた毒物で、多門がプリンの中へ混入されていたモルヒネで殺害され、同時に異なる場所で殺人が起きた。警察も何んの手がかりもなく、確証も見い出せなかった。そして、これは犯人が自分を見分けることのできないようにとしくんだ、不連続殺人事件であることに気づく。第六の殺人から十日目の九月三日、不連続殺人の不連続たる一石が投じられた。女流作家の宇津木秋子が殺されたのである。さらに、六日後の九月十日、明方四時、あやか夫人と一馬が青酸カリによって死亡。事件は海けそめる空にそむいて、再び不明の闇に落ちた。そして、「九月十日・宿命の日」という一枚の貼紙がその闇より不吉に浮び上った。

★★☆☆☆
この映画を褒める人は絶対いるはず。きっとかなり原作に近いんだろうし。
だいたいこういうお屋敷に集まったいわくありの人々が次々死んでいくっていうストーリー展開なら、ある程度の頭数は覚悟しといたほうがいい。でもまあ、多くの連続殺人ものは、ハイ消えた~って感じで犯人候補が少なくなっていくので、整理されていく感があって、犯人候補を絞っていく楽しみが増していくものだ。
ところがこの映画、登場人物が29人!多すぎて誰が死んだのやら・・・思わず巻き戻して観なおすこと数回。そりゃ小説なら、登場人物を確認したり細部を読み込んだりしてストーリーを押さえていけるけれど、映像でこれだけの人物をきちんと把握するのは、はっきり言って無理。結果、面白さを犠牲にしてしまったような作風になっていて残念。映画と小説は所詮ベツモノ。
小説なら、巻頭の〈登場人物紹介〉なり〈相関図〉なりをチラチラ見ながら読んだり、整理がつかなくなったら思い当たるページに戻って確認なんてのは自然な行為だ。でも映画は基本、時間の流れのままにひたすら情報を送り込まれ続けるわけだもん。
おまけに、このお話はきっと登場人物の男女に淫靡な関係が蠢いているニオイがプンプンしている。こういうのって文章だと確認しやすいが、これだけの登場人物がいてセリフや仕草から読み取ることは難しいだろう。
しかもこの映画、特にそういうサブストーリー的なエロシーンを撮っておきながら客寄せ程度に差し挟んだために、その意味が全体の流れの中で希薄になってさらにわかりにくいものにしている。
う~ん、映画って難しいものですね。登場人物を思いきって整理して、インパクトのあるエロ場面を入れれば、もっと雰囲気のあるサスペンス映画になっていただろうに。大好きな桜井浩子が奥さんの役で出てくるのがボクとしては嬉しかった。シェケナベイベーの内田裕也は、キザなセリフ回しが浮きまくっててがっかりだったなあ。
実はこの『不連続殺人事件』、坂口安吾が原作だそうだ。絶対に犯人が当てられない推理小説を書く!という企画のもとに執筆したんだそう。その意味では、この映画は成功している。人数が多くて犯人を当てられないし、情報量が多すぎて当てる気も失せてしまうから・・・。


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映画『ジーパーズ・クリーパーズ』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 ヴィクター・サルヴァ
ジーナ・フィリップス
ジャスティン・ロング
アイリーン・ブレナン
パトリシア・ベルチャー

大学の春休み。姉トリッシュと弟ダリーは帰省するため長い道のりを車で走っていた。軽口をたたきながらも楽しくドライブしている2人に、不気味なトラックが近づいてくる。煽るトラックを寸でのところでかわし、ドライブを続ける2人。しばらく行くと道路脇に古びた教会が見えた。よく見てみるとその傍らにはさっきのトラックが! さらに2人は、黒い人影のようなものがそのトラックから血にまみれたシーツに包まれた“何か”を担ぎ出し、近くの排水溝に投げ捨てるのを見てしまう。気になった2人はその排水溝を調べることにしたのだが、想像を絶する恐ろしい事態に巻き込まれようとは……。

★★☆☆☆
映画前半、謎の殺人鬼の正体がわかるまではサスペンスホラーの良作だ。冒頭、帰途の車の中、ティーンの姉弟にひたすらベラベラ話させることで状況を把握させていく場面がすごく自然体でいい。こいつらの事情やこいつらの性格をさんざん知らされることで観客は否が応にも感情移入させられていく。おいおい、こいつらに感情移入しちゃいかん!ホラー映画だぞ、必ずこんな奴らだから殺されちゃうにちがいない・・・なんて勝手に葛藤してビビってしまう自分!(笑)そしてスピルバーグの『激突!』を連想させる、謎のドライバーがひたひたと迫ってくる恐怖へと移っていく。
ところがだ。殺人鬼の正体ががっかりするくらいに超越したモンスターだと判明したときのガッカリ感といったら!映画に向かって思わず、「なんでやねん!」とツッコミをいれてしまった。もうそのあとはモンスター映画にありがちな怒涛の展開。しっちゃかめっちゃかな戦いが続いていくが、相手が超越しすぎちゃって、な~んも面白くない。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』までエンタテイメントに徹した破天荒なカタルシスもなく・・・かといって、『フォーガットン』のような最低映画として記憶に残るほどのインパクトもなく・・・。
なんとこの映画、製作総指揮にフランシス・フォード・コッポラが名を連ね、『ヒューマンキャッチャー』という続編も作られているようだ。ティーン向きの娯楽ホラーであるのは確かだが、どうしちゃったの?コッポラ監督。続編は・・・見ないだろうなあ。


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映画『1408号室』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 ミカエル・ハフストローム
ジョン・キューザック (Mike Enslin)
サミュエル・L・ジャクソン (Gerald Olin)
メアリー・マコーマック (Lily Enslin)
ジャスミン・ジェシカ・アンソニー (Katie Enslin)

本作は全米公開されると、『グリーンマイル』を抜いてS・キング原作映画史上最大のヒットを記録した。キングには「キャリー」「シャイニング」といったホラーと、「スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に」のような非ホラー作品があるが、「呪われた部屋」が舞台という本作は、ホラーでもまさに直球勝負の作品。「幽霊を信じないオカルト作家」という、キング自身を皮肉ったような主人公が、呪われた部屋で恐怖のひと時を過ごす。監督は『Evil』でアカデミー外国語映画賞にノミネートされたスウェーデン出身のミカエル・ハフストローム。
マイク・エンズリン(ジョン・キューザック)は、かつては父子の交流を描いたフィクション小説などを書いていたが、幼い娘を失ってから、全米各地の心霊スポットを取材してはその真相を本にして出版するようになっていた。彼自身は超常現象などに遭遇したことはなく、噂は客寄せのためだと割り切っていた。ある日、彼の元に葉書が届く。葉書には“ドルフィンホテル”というホテルの名前と、“絶対に1408号室に入るな”という言葉が書かれていた。マイクは執筆中の新作『呪われたホテルの部屋』の最後の章にこのホテルを載せることを決め、下調べを始める。すると、このホテルの1408号室に宿泊した56人の客すべてが自殺していたことがわかる。マイクはドルフィンホテルにチェックインする。そして1408号室に泊まりたいと訴えるが、支配人オリン(サミュエル・L・ジャクソン)はマイクを説得する。1408号室では56人の自殺以外に、22人が自然死を遂げていたり、偶然バスルームに閉じ込められたメイドが両目を刺して笑っていたり、1時間持ちこたえた人はいなかったという。さらにオリンは死亡した宿泊者のファイルを見せて妥協を迫るが、マイクは鍵を受け取り1408号室へ向かう。

★★☆☆☆

1408号室が正体を現すまでの展開はドキドキする。これは傑作かも・・・と期待していたら、ありゃありゃどうだ、後半は。何でもアリのお化け屋敷かよ!これじゃあまるで、スティーブン・キングが監督したB級ホラーじゃないかあ!っとツッコミを入れた。で・・・作品の感想を書こうとネットの映画紹介ページを開いてみたらやっぱりキング原作じゃないか。キングの映画ってその多くが実に安っぽいホラーになっちゃうんだよなあ。もちろん、スタンド・バイ・ミーとかショーシャンクとか傑作の部類もあるんだけど、監督や脚色、演者らによる映画演出の功績がずいぶん大きいと思う。素材のアイディアがいいので、その原作をもとに文芸チックに描くとだいたいいい映画になっている。逆に本人が監督したりB級映画として映像化した作品はどれもこれもチープ&陳腐なホラー話になっちゃうんだよなあ。シャイニングなんかも、本人が監督したバージョンはまったくもってさんざんな出来だったし。


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映画『非情の罠』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 スタンリー・キューブリック
フランク・シルヴェラ ビンセント
ジャミー・スミス デイビー
アイリーン・ケイン
ジェリー・ジャレット
ルース・ソボトゥカ

“FEAR AND DESIRE”(52)に続くスタンリー・キューブリックの長編第2作で、商業映画としてはデビュー作にあたる。うらぶれたボクサーが、向かいのアパートに住む女を情夫の手から救い出そうとするというだけの物語だが、低予算の中で凝りまくった映像と、しがない男女のふれあいが切なく描かれている小品である。特にマネキン倉庫で迎えるクライマックス、無数のマネキンに囲まれたまま繰り広げられる格闘シーンなどは、ちょっと他では見られない特異な画面だ。44分に短縮された上で短編として'60年に劇場公開されたままだったが、'93年にJSBが全編を放映、[完全版]としてはこれが日本初公開となる。83年には「ストレンジャーズ・キス」という、本作に確実に影響された作品が製作されている。

★★★☆☆
若き日のキューブリックの気合やら気負いやらがひしひし伝わってくる映画だ。ボクシングシーンの斬新なカットの連続攻撃の鮮やかさ。水槽を覗くシーンのカットの工夫。そしてマネキン工場の対決シーン。屋上を逃げていく俯瞰のシーン。キューブリックはストーリーを語りたい以上に頭に描いたイメージをフィルムにしたい人なんだろうなあ。手塚治虫の大胆なカット割りや、斬新なアングルに感じたのと同じ驚きをこの映画のいくつかのシーンに感じた。
ただストーリー自体はフィルムノワール映画としては普通の部類だと思う。ウヘッと思わず声をあげてしまったのは、黒幕に拉致されたヒロインが主人公を裏切ってみせる場面。女の弱さを描こうとしたとも、女が策を講じたともとれる場面だが、急場凌ぎに裏切ったととらえることもできる場面だ。この場面があるからこそラストの駅のシーンが生きるわけだけれど、果たしていまどきの映画ストーリーでこういう展開はあるだろうか?新鮮&興味深い場面だった。そうそう、ヒロインが生い立ちを語る場面で突然、バレエが始まるのも違和感があったなあ。ずいぶん粗削りな部分があると感じた映画だった。しかし、いくつかのシーンが確実に脳裏に焼きついてしまう映画であるのも確かだ。

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映画『俺たちに明日はないッス』

2012年10月11日 | 映画の感想



監督 タナダユキ
柄本時生 (比留間)
遠藤雄弥 (峯)
草野イニ (安パイ)
安藤サクラ (ちづ)
水崎綾女 (秋恵)
三輪子 (友野)
ダンカン (ちづの父)
田口トモロヲ (吉田)
高校3年生の童貞3人組・比留間(柄本時生)、峯(遠藤雄弥)、安藤(草野イニ)は、虚しい気持ちを抱え無為な毎日を過ごしていた。友野(三輪子)とヤリたいと思っている比留間は、ある日、友野と担任教師の吉田(田口トモロヲ)がラブホテルから出てきたり、保健室でいちゃついていたりするところを見てしまう。苛立ちを爆発させた比留間は、吉田を殴る。授業をさぼっていた峯は、同級生のちづ(安藤サクラ)が生理による貧血で倒れているところを助ける。ちづは金魚屋を営む父(ダンカン)と二人暮らしで、生理のことも何も知らないし、セックスに関する知識は間違いだらけだった。セックスが見たいと峯にせがむちづと、ポルノ映画を見に行く峯。峯は結局、セックスしてみようと明るく言うちづに押し切られる形でヤッてしまう。経験のない同士のセックスは頼りなくてぎこちなかったものの、二人とも初々しいくらいにお互いを抱きしめていた。安藤は、子守りのバイト先である酒屋で偶然出会った巨乳の秋恵(水崎綾女)に告白される。自分が巨乳であることに小さい頃からコンプレックスを持っていた秋恵。安藤は秋恵のためにダイエットしようとするが、秋恵は、安心するからとそのままでいることを望む。ラブラブな二人だが、秋恵は比留間たちと同じように太っている安藤の胸を揉む。おかげで安藤の胸は赤く腫れ上がってしまう。比留間は友野に相手にされないでいたが、吉田との関係を引き合いに出し誘う。そして吉田との関係が親にもばれて自暴自棄になった友野は、比留間の脅しを受け入れる。海辺のホテルに行こうとするもお金がなく入れず、友野はピクニックにでも来たみたいに波打ち際で無邪気にはしゃぎ、比留間は萎えたままだった。今日絶対にやるんだと自らを鼓舞する比留間は……。

★★★★☆
青春映画ってやたら美化されて、恥ずかしくなってしまいがち。でもこんなふうに青春時代のオスどもを痛~く描いてもらえると逆に気持ちいい。体はどんどん大人になっていくのに、心は子どものまま。操縦する方法もなにもかもがぎごちなくて、もんもんと悶えていたあの頃なんて、こんなものだったよなあ。三者三様の男女どものデフォルメ具合も悪くない。何より、時代設定がかなり昔なのが意図的。携帯なんかも出てこないし、日活ポルノ時代っぽさを感じるような、今じゃありえない漁師小屋みたいなのが出てきたりで。つまりこれは今の大人が、過ぎ去りし青春の頃の、美化しちゃう前のリアルを赤裸々によみがえらせることをねらった映画ってことなんだろうな。そしてそれはみごとにボクにとってそうだったし、だからこそこの映画はツボだったんだよなあ。青春はこんくらい生臭くないと!
高校生を演じる6人の男女がいい。こういうのに露骨にアイドルっぽい若手が出てきたら嘘臭さが充満してしまって退いてしまうよなあ。みんな個性的なんだけど、特に、柄本時生と安藤サクラがいい。確か安藤サクラは『愛のむきだし』でお目にかかったよな。二人の出演作品を追っかけてみたくなった。

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ショートショート『バグダッド電池』

2012年10月11日 | ショートショート



瞠目したアヴィ・タイタの横顔が青白い光に浮かび上がった。
白い顎髭を伸ばした痩躯脆弱の老人だが、眼光だけは鋭い。
金属線の間に置いた指先がピリピリとするこの現象。
そして、間に繋いだ金属繊維が熱せられて光を放つこの現象を、なんと呼ぼうか?
そうだ。
『電気』と名付けようじゃないか。
だが、この現象、いかなる役に立つものなりや?皆目検討もつかなかった。
この現象を巷の人々に披露したとして、きっと手品の一種として一笑に伏されるであろう。
孤独な老錬金術師のアヴィ・タイタは、嘆息した。
数々の実験を重ねるうちに偶然見つけた『電気』を生ずる秘法が、わが生命とともに消え去るのは無念でならぬ。
せめて、この秘法を書き残そう。
いつの日か、この秘法の書を読み解き、『電気』を操る者が現れんことを願って。
アヴィ・タイタは、震える手でパピルスの巻紙に秘法を書き記した。
ミョウバンを空気に触れずに加熱することによって、硫酸を作り出す方法を。
硫酸を入れた器を二つ準備して、一方には銅を、もう一方には亜鉛を入れることを。
そして二つの金属を金属線で繋ぐと、『電気』の流れが生ずることを。
『電気』を生ずる秘法を書き終えたタイタは、鉄軸にパピルスを巻きつけ、虫に食われぬよう銅表紙で覆った。秘伝の巻物の完成である。
土器の壷の中に丁重に立てると、壷を収納した。
遠い未来に、『電気』の秘法が世の人々に認められることを願って。

それから、2000年以上経ってタイタの願いが叶った。
バグダッドの遺跡からタイタの壷が発掘されたのだ。
タイタの書き記したパピルスは塵と消え、壷と鉄軸、銅板だけしか残っていたのだが。
しかし、その形状があまりにも後世の電池と酷似していることから、『バクダッド電池』と名付けられた。



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