宇宙アカデミー賞

2011年11月29日 | ショートショート

気がつくと溝に横たわっていた。ズボンの中までグッチョリだ。何やってんだ?ボク。

「好きになった人がタカシ君だったらよかったのに。ごめんなさい。本当にごめんなさい」

助手席の美咲さんが啜りあげる。まさか、こんなリアクションが待っていようとは。

毎晩のように、電話を掛け合ったよね。いろんな話、したよね。

君はボクを励ましてくれたり、笑わせてくれたり。ずっと特別な関係だと信じていたのに。

帰途の気まずい沈黙。

何か気を利いたことを言いたかったけど、痛々しくて言葉が続かなかった。

車から降りるとき、美咲さんが言った。

「もう、電話をかけあうのはよそうね。つらくなるから」

ボクは「そうだね」と笑顔にならない笑顔で言った。

ボクの痛みを感じて、彼女の目からまた涙がこぼれた。

思わずボクも泣いてしまった。

その晩、酒に酔ってボクは美咲さんに電話をしてしまった。あきらめようにもあきらめきれずに。

「なおせることがあったらなおすから。やりなおしたい、全部」

彼女、すごく面食らったみたいだった。

「ごめんね。気をもたせちゃったアタシがいけなかったの。ホントにごめん」

思いやりいっぱいに。でも、本心はそうじゃないのがひしひし伝わってきた。

ああ、電話なんかしなけりゃよかった。バカ!バカ!情けなくって辛くっていくら飲んでも酔えなかった。

気がつくと、夜の街を歩いていた。

家でじっとしていられなくなって、がむしゃらに歩き続けた。

ああ、側溝がある。あれに落ちたら大変だぞ、なんて思っていたら、案の定、落ちた。・・・目の前が真っ暗になった。

 

浅い泥水の中に横たわったまま、空を見上げた。

溝の両縁に切り取られた細長い真っ暗な空から、冷たい雨が降っている。口の中は血の味がする。

美咲さんのいない人生なんて考えられない。

ああ、みじめだなぁ。水に浸かったまま、ボクは『黒の舟歌』を口ずさんでまた泣いた。

すると、空が明るい光に満たされた。

サーチライト?いや、それはあまりにも巨大で。・・・これってUFO?

光の中から、宇宙人たちが覗き込んだ。

全身銀色のやら、爬虫類みたいなのやら、体中に目があるのやら、すごい数、いったい何百人いるんだ?

「オメデトウゴザイマス!たかしサン!アナタガ今年度宇宙あかでみー賞ニ選バレマシタ!」

おびただしい宇宙人たちの拍手と称賛の声をシャワーのように浴びる。宇宙アカデミー賞?なんだ、ソレ?

「今日ノアナタノ失恋ハ、全宇宙デ絶賛サレマシタ。フラレップリモ、未練ガマシサモ、超一流!」

リアル?そうとも、演技じゃないから当然じゃないか!

「シカモ、水ニ浸カッテ『黒の舟歌』ナンテ超べたナ演出ヲモ、見事ニ演ジキルトハ!ヨッ、宇宙一!」

ええい、やけくそだ。万雷の拍手に、両手を振り上げて応えた。

そうとも、ボクは今、宇宙一悲しいんだ。

拍手はやがて激しい雨音に変わり、雨と涙がいっしょくたになってとめどなく流れ続けた。

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明日の元気

2011年11月27日 | ショートショート



ひととおりテレビのチャンネルを繰ってみたけど結局消して、リモコンを投げ出す。

つまんない、つまんない。

窓硝子が曇ってモヤモヤしてて、町並みがみ~んなくすんでいる。

花瓶の中で名前のわからない花がうつむいている。

予定は未定のまんま、カレンダーがいねむりをしている。

やっぱりカンチガイかもね。よくあるんだよな、カンチガイ。アタシの場合。

爪でも切ろうかと爪を見て、昨日切ったばかりなのを思い出す。

今日も昨日とおんなじ。昨日も一昨日とおんなじ。つまんないの繰り返し。

よそゆきの服でオメカシしたのは、どんくらい前だっけ。

やっぱ、オモイスゴシってやつかなぁ。ガッカリだな。ガッカリだよ、アタシって。

入浴剤のバブ、アレを口に放り込んだら、ちっとは刺激があるか?

またテレビをつける。

天気予報か。可愛い気象予報士がアイドル顔負けのキラキラ笑顔。

イイ男ゲットするために撒き餌している笑顔。心の中じゃアクビしてんだろうな。

『明日の元気は、今日と同じくあまりよくありません。

気持ちの谷が停滞し、ぐずついた気持ちが続くでしょう。

明日も心のお洗濯は避けたほうがいいようです。

いちだんと心が冷え込むと予想されますので、体調管理に十分ご注意ください』

ウ、挑発するのかよっ、チクショー!ハイハイ、そうですとも、そうですとも。

どーせアタシなんか・・・

携帯が鳴る。

タカシくん!

深呼吸ひとつすると、白黒の部屋が目覚めてカラーになった。

「あ、あのさぁ、明日、もし晴れたらさぁ」

間髪入れず、

「ウン、明日、晴れるよ」

アハハ、なんてお天気屋さんなんだ、アタシ。



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2011年11月26日 | ショートショート


やあ、今日はとってもためになる、ボクの話を聞いてね。

その日、ボクは海辺を散歩してたんです。すると、

キラリン!

しおだまりからまぶしい光が。近づいてみると透明なガラス壜です。

これってもしや・・・

ラベルを見ると、ほらやっぱり。

『この壜に願いごとをするとなんでも叶います。お一人様一回限り』

なるほど。

これがウワサの、願いがかなうアレだな。でもフツー三回だよな、ケチ。

じゃあ~まあ、さしあたり気になってるって言えば・・・

「この『壜』っていう字、なんて読むのか、教えてくれ」

「『びん』ですよ」

答えた途端、壜は跡形もなく消えてしまいました。

し、しまったあ!

ボクは人生最大の失敗に気がつきました。

そうです。

もっと大きな願いごとにしておけばよかったのです。

「この『壜』っていう字、なんて読むのか、教えてくれ」なんて言わずに、

「『読めそうで読めない難読漢字』の本を一冊くれ」と言っておけば。

そうすれば、『壜』だけじゃなく、

『馴鹿』だって『鴛鴦』だって、『蚯蚓』も『多悩川』も『露台』も『湯湯婆』も、

み~んな読めたのに。

皆さん、ボクの失敗を教訓に、大きな願いをかなえてください。じゃあね!



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背筋も凍る幽霊の話

2011年11月24日 | ショートショート


その晩、ボクはなかなか寝つくことができなかった。

ベッドに横たわったまま常夜灯を見つめ続ける。毛布を被っているのにゾクゾク寒気がしてたまらない。

時計が時を刻む音だけが単調に耳に響く。

妙な胸騒ぎが襲う。

こんなときに部屋の隅の暗がりを決して見てはいけない。じっとこちらを凝視する霊と目が合ってしまうから。

そんな想像がさらに寒気を誘い、掛け布団で頭を覆い、目を閉じる。

そのとき。

枕元のすぐそばに気配を感じた。エ?そんなはずは・・・。確かにボクのすぐそばに誰かいる。

枕元に座って、ボクをじっと見下ろしている誰かが。全身に悪寒が走る。ああ、助けて。

「・・・・・・」

え?なんだって?そいつが何かささやいている!血も凍るくらい寂しい声で。

「・・・・・・」

え?何て言っているんだ?全神経を耳に集中する。

「バスガイドの笛で、バスが移動・・・」

なに?

「太った人、毛布とっちゃイヤ~ン・・・」

はぁ?

「ジャムおじさん、ジャムを持参・・・」

ええ?

「2016年オリンピック、リオでじゃねぇやろ~・・・」

なんだ、こいつは?ボクは布団から顔を出した。

枕元に髪の青い女が座っていた。華奢な肢体に密着したプラグスーツを身につけて。

「今晩は。綾波霊です」

「な、何しに現れた?」

「ワタシは駄洒落を言わなくてはならない、ダジャ霊なのです。魑魅魍魎にキミ朦朧・・・」

「ボクは寝なきゃ困るんだ。消えてくれ」

「そうはイカのキンタマです。面白くないですか?最後尾でサイ交尾・・・」

「お、ついにシモネタか。幽霊って怖くて背筋凍っちゃうもんだろ?寒いネタで背筋凍らせてどうすんの?」

「そんなひどい。身体検査で新体験さ~・・・」

ボクは無言でダジャ霊に冷たい視線を送った。その視線に耐えきれず、

「ああ、もう新弟子埋葬、もとい、死んでしまいそう・・・」

「死んでるし!」

「笑ってやってくださいまし。笑って成仏させてくださいまし。臭いブリーフにファブリーフ・・・」

だんだん苦しくなってきてるぞ。

ボクもちょっと心配になってきた。こんな駄洒落の羅列、どうやってオチをつけるつもりなんだ?

ボクの心配を察したか、それとも、そろそろいつもの文量、潮時と感じたか。

ダジャ霊が指一本つかんで指一本立てる忍者のポーズ。

「あ、そろそろワタシ、ドロンしますぅ」

白煙とともにス~ッと消えてしまった。それは親爺ギャグでしょ(笑)



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廃墟

2011年11月22日 | ショートショート

ウハハハハハハ。

『第二次炙り豚戦争』で、ボクの住んでいた町はすっかり壊滅しました。

たぶんもう、地上で暮らすことはできないでしょう。

『水連鎖爆弾』で一気に生物が消滅しちゃいましたから。生存者なんてボク以外いないんじゃないかな。この町で。

え?なんでボクひとり助かったかって?

ハハハ。

たまたまなんですよ、たまたま。

ボク、家電量販店の配達業務やっててね。

たまたま、地下シェルターの中で映像システムを配線してる最中に、ことが起きちゃって。

早速アンテナを接続してテレビ見てたら、臨時ニュースやってたんですよ。

突然、ニュースを読み上げていたアナウンサーも水連鎖でカメラの前で粉砕、じきに全チャンネル、画面は真っ暗に。

地上にいた人、みんなダメだな、こりゃ。ハハ。

え?なんでそんな余裕かって?

いや、まあボクは地上の生活に未練なんかないんですよ。けっこう孤独でしたから。

それにここは富豪が趣味にまかせて作ったシェルターなんです。

空気も水も電気も確保されているし、食料だって巨大倉庫に貯蔵してあります。ボクだけ生き続けるには十分。

おまけに、どうやらこの富豪はボク同様、相当な映画好きだったみたいなんですよ。

シェルターの一室に天井までDVDが整理して並べられているんです。

古今東西の映画の名作がズラリ。何千、何万枚と。ウッヒョー!

こんだけの映画を見るのに何十年かかるでしょう。一日中、映画三昧。ああ、これこそボクの夢みた生活です。

自家発電で供給される電気コンセントもOK。

DVDプレイヤーも接続完了。

テレビの配線もOK。

職業柄、このへん、得意ですから。

そう言えば、昔、たくさんの本とともに生き残った男が、こんだけたくさん本があったら大丈夫と思っていたら、

メガネを落として割ってしまう、という話がありました。

ボクはそんなミスはしません。視力はよくてメガネかけてないし、配線もバッチシ。

さあ、お楽しみです。最初はやっぱり、キューブリック?いやここは未見の『市民ケーン』から?

スイッチオン!

『このDVDは本機では再生できません。メーカーにお問い合わせください』

・・・え?コレってリージョン違い?

・・・それとも、PAL方式だったり?

・・・なんか映像コピーに制約があったりの関係?

いや何だか再生できない理由、ボクにもさっぱりわかりません。こういう面倒くさいこと、誰がしたの?

VHSの頃は楽にダビングできたのに。画質悪くてもいいから再生しようよ。

再生不能の膨大なDVDが山と積まれた棚を見渡し、ボクはガックシ膝を折って倒れました。

ああ、もう。

ボクも完全に再生不能だぁ。


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幸せのためのいくつかのジンクス

2011年11月20日 | ショートショート


ラッキー!今日はタカシと初デート。

バイオリズムもバッチリ!

知ってる?人間はね、身体と感情と知性の周期に支配されているのよ。

バランスが崩れる要注意日に、ことを起こそうとするから失敗は起きるんだな。

おまけに、今朝は早く目が覚めちゃったんで、お散歩をしてたら目の前を猫がサッて通ったのよ、真っ白の猫、マジで。

さらに、『おめざしテレビ』の『おみくじカウントダウン』も第1位って、すごくない?

ああ、今日はなんだかいいことずくめになりそう。

念には念を入れて、トイレの中では『黄色いお花畑を舞う天使の絵』に、『ツキを呼び込むおまじないの言葉』を唱えたわ。

風水で幸福が訪れる場所に絵は飾ってあるし、天使の絵も通販で買ったホンモノの開運グッズだし。

おまじないの言葉、教えてあげたいけど教えたら御利益なくなっちゃうのよ、ゴメンネ~。

あたし、こんなに努力してんのに、タカシったら全然わかってないのよね。

「う~ん、明日さ、ディズニーシーにしよっか?」なんて言うのよ。

「あそこはちょっと」

「上野動物園は?ダメ?じゃ、井の頭公園でボートは?イヤ?映画見に行く?」

うーむ、どうして別れるジンクスの場所ばかりセレクトするかなぁ。

「えっとじゃあお台場は?」

観覧車のてっぺんでキスすると永遠に結ばれるっていうし、ま、いいか。

それにしてもタカシったら、もっとパワースポットあるでしょうに。

えっと、着替え、着替え。やっぱり下着はコレよね、ウフ。

このフリルブラウスは絶対着ないとなんないし。このブレスレッドも身に着けないと。

テレビ画面に、白いハトが映ってる。かわゆ~い!これもきっとラッキーのしるしに違いないわ。

え、なんかの実験?

『・・・ボタンをクチバシで突つくと餌が与えらる装置の中では、空腹になるとボタンを突つくようになります。これが『ハトの学習行動』です。さらにローレンツは、ハトが何もしていなくても、時々餌が与えられる装置でハトを観察しました。ハトは何もせずにじっと待ってさえすればいいのです。ところが、ハトたちは違った行動をとりました。餌が与えられるまで、あるハトはくるくると回り続け、あるハトは特定の場所を突つき、あるハトは羽をバタバタする行動を延々と繰り返したのです。これを『ハトの迷信行動』と名付けました」

あたしは失笑した。そんなんで幸せになれると思う?やっぱハトって単純だわ。



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そこに矛盾はないのか?

2011年11月19日 | ショートショート

『スマトラ島の熱帯雨林が減少!!』

モニターいっぱいにタイトルテロップが踊る。

『ゾウが!トラが!オランウータンが!今、絶滅の危機に!』

続いて、森林が焼け野原になった写真、倒れたゾウの母子の写真、そしてオランウータンの赤ちゃんの悲しげな表情。

悲痛な表情の女子アナがフリーライターのボクを紹介する。

テレビカメラに向かって一礼、フリップボードを掲げる。

25年前のスマトラ島の森林分布地図と現在の地図。くっきりした色分けで、森林減少の様子が一目瞭然である。

「スマトラ島は、日本の1.25倍、世界で6番めに大きい島です。その島が今、危機に瀕しています。ヤシ油や紙パルプを生産するために、大規模な森林伐採がおこなわれ続けているのです。このままでは近い将来、熱帯雨林は消滅します。そして、熱帯雨林に生息してきた稀少な動物たちも絶滅してしまうのです」

十年前から目撃されていない、神秘的な幻のチョウを紹介する。保護されたスマトラサイの赤ちゃんを紹介する。

女子アナの目が潤む。

視聴者から反響があるだろう。WWFの環境保護活動への募金も増えるにちがいない。

正しいことするのってなんて気持ちがいいんだろう!

 

郊外電車を降りて丘を上ると、宅地が見えてきた。ニュータウンに立ち並んだ一戸建てのひとつがマイホームだ。

このあたりはかつて鬱蒼と茂った森だったらしい。狐や狸も出没したし、ヘビ塚まであったそうだ。

玄関の二重ロックを開錠すると風の抜ける音。高気密住宅の気圧差によるものだ。

「あなた、御苦労様」

「パパ、おかえり」

家族が迎えに出てくる。子どもたちは皆、血色がいい。外は寒いが、屋内は蓄熱暖房器でぽかぽかだ。

早速、ユニットバスへ。水栓をひねるとシャワーからすぐにお湯が溢れ出す。汗を流しながら思う。オール電化にしてよかった。

この生活あってこそ、ボクは環境保護啓発活動に邁進できる。

 

その晩、上の息子にオヤスミを言いに行くと、ベッドで悲しそうな顔をしていた。

「どうしたんだい?言ってごらん」

「学校でね、イヤなことあったの。カズユキ君がね、いつも命令するの」

「命令?」

「さんざんジャングルジムで遊んでたくせに、ボクが遊ぼうとするとダメだって言うの」

「自分勝手な子だなあ。今度、父さんから言ってきかせてやろう」

息子がボクの首にしがみつく。

やれやれ、ボクが救わなくちゃならないのはスマトラ島だけじゃないらしいな。

 


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超完全密室殺人の犯人を暴け!

2011年11月17日 | ショートショート

 


昔々、或る所に、お爺さんとお婆さんが暮らしておりました。

お爺さんは山に柴刈に、お婆さんは川に洗濯に出かけました。

お婆さんが川で洗濯をしていると、川の上流から、大きな大きなタマゴがどんぶらこ、どんぶらこと流れてきたではありませんか。

「これはなんと立派なタマゴじゃ。うちに持って帰って、お爺さんと食べましょう」

お婆さんは大きなタマゴを川から引き揚げて、やっとのことで家まで運びました。

お爺さんが山から戻ってくると、おじいさんもタマゴを見てびっくりしました。

「じゃあ早速、タマゴを割ってみましょうかね」

「婆さん、待った。ワシはタマゴ焼きよりもゆで卵が好きじゃ」

さあ大変です。そんなことしたらタマゴの中のタマゴ太郎が、ゆでタマゴ太郎になっちまうじゃないの!

「お爺さん、こんなに大きなタマゴをゆでるお鍋は、うちにはありませんよ」

ああ、よかった。

ピータン作るのも、フィリピンのバロット作るのもやめてあげてね。

「お爺さん、やっぱりここは、普通に割っちゃいましょうね」

そうそう、そうしてあげて。お婆さんが空手チョップ。タマゴにヒビが走りました。そして、パリン。

すると、中から・・・

「おい!タマゴ太郎!」

「タマゴ太郎、しっかり!」

タマゴの中には、丸裸の元気な男の子が入っていたのです。ただし、その男の子は死んでいたんです。

そう。

事件は、完全に密閉されたタマゴの中で起きたのです。

つまり、これは『超完全密室殺人』なのだぁ!

男の子の死亡推定時間は、お婆さんが川から引き揚げる数時間前。死因は不明。

お爺さん「わしらのタマゴ太郎を殺した犯人を見破って、仇を討ってくだされ」

お婆さん「事件を解決してくれた方には、きびだんごをもれなく進呈します」

さあ、犯人は誰だ?

犯人だと思う人をクリックしてね。

 

←実は、お婆さん。お爺さんの愛を独占したくて。

←実は、お爺さん。お婆さんの愛を独占したくて。

←鬼ケ島の鬼。退治されたくないもん。

←犬・猿・雉。きびだんごはオレたちのものだ。

←タマゴ太郎の自殺自演。生まれたくなかったの。

←ドラえもん。どこでもドア~。

←プリンセス天功。脱出ならまかせて。

←この話を書いた人じゃないの、矢菱さん。

←タマゴ太郎は人間じゃないから殺人じゃない。

←人間だとしても孵化してないから殺人じゃない。

←どうでもいい。と思った人も、読んだ記念にとりあえずクリックだ!

 


だってウルトラマンだもの

2011年11月15日 | ショートショート

モミクチャになって地下鉄から吐き出され、ヨレヨレのスポーツ新聞のシワを伸ばしてると、

自分がウルトラマンだってことを忘れちまいそうです。

え、ウソつけって?

イエイエ、ホンモノなんですよ、ホンモノのウルトラマン。

身長40メートルもないじゃんって?

一応、人間の大きさに調節してるんです。40メートルあったら生活大変ですもん。

M78星雲、光の国から、宇宙囚人ベムラーを追いかけて来たんです。

ベムラーって犯罪者に見えない?法律なんかわかってない爬虫類っぽい?そこは置いといてくださいよ。

ま、こうしてはるばる日本にやってきたんですけど、ベムラーはもうとっくに逃げちゃってて。

おまけに着陸のときに事故っちゃって、ハヤタさん死んじゃうし。ボクのほうが犯罪者ですよ。

仕方なくハヤタさんのふりして生活してるんですけどね。

何が残念って、怪獣がいないんですよ、日本にも、どこにも。

そりゃそうですよね、ウルトラマンとちょうど釣り合う大きさの怪獣が毎週都合よく現れるはず、ありませんよね。

怪獣いないから科学特捜隊もなし。ムラマツキャップも、イデもアラシもフジアキコもみ~んな、なし。

巷では、石油ショックでトイレットペーパー買い占めとか、ロッキード事件でピーナッツがどうしたとか。

ボクの出番なんてありませんよ。地球に来て一度も変身してないんだよなぁ。

ベータカプセルなんてもう、防災非常袋に懐中電灯と一緒に突っ込んだまんまだし。

こうなったらもう、宇宙に挑戦状でもばらまいて、バルタン星人やらメフィラス星人、地球に呼びたいくらいですよ。

ハハハ、冗談、冗談。

おっと、『丸越デパート』。ここだ、ここだ。今日はここで営業です。そう、仕事してるんですよ、ボク。

デパート屋上の『ウルトラマンショー』で着ぐるみに入ってるんです。

アハハハ、ウルトラマンがウルトラマン着てるんですから、まあ、天職みたいなもんっすね。

時々、怪獣やらされることもあるけど、あれは複雑なんだよなぁ。

あ、おはようございまーす。

え?なに、その着ぐるみ。『ライダーショー』?それちょっと勘弁してよ(泣)



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『本当にあった!怖い話』詰合せセット

2011年11月13日 | ショートショート

「真夜中、学校の図書館に。出るんですよ、女の子の幽霊。本を抱えて館内をさまよってるんです」

「えー!自殺した学生の霊が本を返しに来てるとか?」

「ベレー帽なんかかぶってて、チェックのダッフルのメガネッ娘」

「もしかしてソレ、『本と似合った学校の幽霊の話』?」

「いらっしゃいませ」

「店員さん、『本当にあった!呪いのビデオ』みたいな感じのコワ~~イの、ない?」

「ア、じゃあコレなんかどうでしょう?」

・・・というわけで早速、家に帰って再生スタート。

『ほ~~ん~~と~~に~~あっ~~た~~』

ウーム、確かにの~~ろ~~い~~

「いらっしゃいませ。あ、昨日のお客さん、どうでした?のろいのビデオ」

「イヤこんなんじゃなくって。本物ないの?本物!

ア!こういうの!『本当にあった!見たらすぐ死にたくなっちゃうビデオ』!!えー、全部貸し出し中じゃん」

「ええ、ソレ借りた人、誰ひとり返しに来ないんですよ~」




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たいしたもんじゃないよ

2011年11月12日 | ショートショート


ポポルくんは絵を描くのが大好きです。

絵を見せて、とせがまれると必ずこう言います。

「いいけど。たいしたもんじゃないよ」

すると、きっとみんな、

「いやいや、わるかないよ、これ」とか「なかなかいんじゃない」なんて言ってくれますから。

「これ、ぼくの自信作なんだ」なんて決して言いません。

そんなこと言ったら、「この前のあれのほうがよかったよ」なんて言われますから。

「たいしたもんじゃないよ」

こう言うにかぎります。

 

惚れ惚れするほどの絵ができあがりました。何時間見つめても飽きません。

ポポルくんは、人気画家ボッツ先生のところにもっていきました。

「どれ、見せてごらん」

「はい。たいしたものじゃありませんけど」

絵を受けとったボッツ先生は、「ふ~む」と唸りました。

そして、絵筆に絵の具をチチョイとつけて、ポポルくんの絵に塗りました。

それでも飽き足らず、絵の端をハサミでジョキジョキ切ってしまいました。

「ほら、だいぶよくなった」

 

その絵で、ポポルくんは展覧会で初めて入選しました。なんだかエライ人の名前がついた賞です。

「若いのに、ボッツ先生みたいな絵が描けるなんて。次の作品も期待してますよ」

そう言われて、何枚も何枚も必死で描いて、やっと大満足の作品ができました。

「たいしたもんじゃないよ」

「・・・・・・」

誰も何も言ってくれませんでした。

 

それから何年も何十年も何百年も経ちました。

ポポルくんはもう、とうにこの世にはいません。

人類が死滅した地球に降り立った、反転ハルキゲニアそっくりのエイリアンがトゲトゲで這い回っています。

「オヤ?」

触手に一枚の絵をつかみました。

そうです。ポポルくんの描いた大満足の、あの一枚です。

「ホホウ、タイシタモンダ。ナカナカ、ウマイ」

ムシャムシャムシャ、ゴクン・・・・・・ゲプッ



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140字刑事

2011年11月10日 | ショートショート

巡査「御苦労様です」

探偵「今回の殺人事件の担当になった140字刑事だ。140字で事件をみごと解決。で、害者は?」

巡査「ハ、こちらです。害者は女性。自宅の居間で大の字で絶命していました。腹にステッキをのせて」

探偵「ハハ~ン。なるほど。大に棒か。犯人は『夫』だ!」

夫「バ、バレたか!」

巡査「御苦労様です」

探偵「今回の殺人事件の担当になった140字刑事だ。で、害者は?」

巡査「ハ、こちらです。害者は男性。自宅の居間で大の字で絶命していました。頭の横に黒い箱が斜めに落ちてました」

探偵「ハハ~ン。なるほど。犯人は『犬』だ!」

犬「キャ、キャ~ン!」

巡査「御苦労様です」

探偵「今回の殺人事件の担当になった140字刑事だ。で、害者は?」

巡査「ハ、こちらです」

探偵「う~む、こうしてこうすると、『道岡』と読めるな。イヤ、こうしてこうすると『首藤』とも・・・」

巡査「キャ~!バラバラ死体、勝手に並べ替えちゃダメじゃないっすか~!」


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かく還元せり

2011年11月08日 | ショートショート



きつい仕事を終えて部屋に戻ってきた友人が、隅にへたりこむと溜息をつきました。

「おいおい、どうしたね?ずいぶん疲れてるようじゃないか」

「おう。聞いてくれるかい?うちの御主人、ありゃカスだね」

「カスはひどいな。御主人様だぞ」

友人がもう一度大きな溜息をつきます。

「世間にゃ立派な御主人もいるってのによ。うちの御主人ときたら昼間っから歌って飲んでどんちゃん騒ぎ。女にも滅法だらしなくって」

「そりゃ珍しかないよ」

「自分じゃ何にもしないくせに俺たちにゃ面白がって命令しやがる。あくせく働く姿を見てあざわらうんだぜ」

握りこぶしで自分の膝を叩きます。

「クソ!御主人に反抗なんて到底無理だし。なんか溜飲を下げる方法ってないかね?」

「どうだ?御主人をギャフンと言わせる話を作ってやろうか?」

友人が興味を示しました。

「そんな話作って、御主人にバレたら大変なことに・・・」

「そこだよ。バレないように、御主人を人間じゃないモノに置き換えるのさ」

「モノに?悪口だとバレなきゃお咎めなしだな。で、ナニにするんだね?」

ふむ、ナニにしましょう?怠け者の御主人に、働き者の奴隷たち。

「そうだなぁ、キリギリスとアリってのはどうだ?」

友人が身を乗り出します。

「話してくれよ。その話」

 

評判を聞きつけて、奴隷たちが話をせがむようになりました。

「奴隷仲間でいけすかない野郎がいてね。才智を鼻にかけて、なんでもあっという間に片づけちゃうんだ。俺が地道にやってるのを蔑んでやがる。懲らしめてやってくれい」

ウサギとカメの話にしてあげました。

「うちの御主人、ああしろこうしろとうるさくってかなわないわ。隣のお屋敷の御主人は、お優しい方で温かく接してくださるってのに。厳しくされてもやる気なんか起きないっての」

北風と太陽の話を作りました。

「アイソーポスさん、ありがとう。おかげでスッキリしましたよ」

「いえいえ、こちらこそ。お話がたくさんできたので本にまとめるができました」

 

キーン!

二千数百年の時を経て、某地方都市、某会社の朝のミーティング、社長の訓話の途中。

マイクのハウリング音に、我に返りました。

「おっと、スマン、スマン。マイクの調子が。アー、アー、アー。・・・で、えっと、どこまで話したかな?ええっと、そうそう。『犬と肉』の話だったな」

退屈なたとえ話がまた続きます。あ~あ。動物なんぞの話を人間にたとえるなんて、なんか納得いかないなぁ。



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強力わかもっと

2011年11月06日 | ショートショート


「え?『強力わかもっと』?ニセモノじゃないの?コレ」

ドラッグストアのカウンタ前ワゴンに積まれた薬瓶を見て、思わずアタシは声を上げた。

その声を聞きつけて、白衣の男が寄ってくる。

「名前はよく似ていますが胃腸薬ではございません。『もっと若く見える』から『わかもっと』でございますよ」

「アラ♪すごいじゃない。ひと昔前の海苔のガラス瓶みたいな大瓶入りで、このお値段?」

「さようでございます。しかも強力!効き目は保証しますよ」

アタシも三十ウン歳。こないだまで社内でチヤホヤされていたのに、冷たい空気を感じるのよね、最近。

そんなわけで買っちゃったんです。強力わかもっと。

一日一錠って瓶に書いてあったけど、毎食後飲んでやったわさ。

数日間飲み続けて、毎日穴があくほど鏡を見るけど、ぜ~んぜ~ん効果なし。

 

一週間後、ドラッグストアのカウンタに薬瓶をつき返してやった。

「ちょっと~、効かないんですけど~『強力わかもっと』」

「そ、そんなはずは」

「肌の張りも目元や首筋のシワも、そのまんま。いくら鏡で見ても若くなってないし」

・・・怪訝そうだった白衣の男が笑顔に変わった。

「そりゃそうですよ、お客さん。ご本人は既にご自身の上限値でご覧になっておりますゆえ」

「は?どゆこと?」

「お薬は『使用上の注意』をよく読んで正しくお使いくだい。このお薬は『もっと若く見える薬』でございますよ。あなたが『もっと若く見てほしい』相手に飲んでいただかなくては」

「そんな。会社の皆に飲んでもらったら大変な量になっちゃうじゃないの!」

男がしたり顔で海苔のガラス瓶みたいな大瓶を示す。なるほど、それでデカイわけか。

 

さっそく翌日から会社でためしてみた。甲斐甲斐しく湯茶を淹れるふりして、『わかもっと』を溶かし込んで全社員に与えた。

「ア、先輩若くてキレ~、あこがれちゃいますう」と後輩女子。

「最近、魅力的だな~、今度、食事誘っていっすか?」と独身男子。

オホホホホ、すごいわ。強力わかもっと!!

 

浮かれていると部長に呼び出された。

「どうした?近頃仕事に身が入っとらんぞ。仕事ひとすじ、大ベテランと見込んでたんだが。報告書、様式もデータも初歩的なミスだらけじゃないか。どうだね?来週の新入社員研修、一緒に受けてみては」

う~む、部長への薬の投与、中止!



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人魚たち

2011年11月05日 | ショートショート

今は昔、延喜の御代に筑後の国に賤しき漁師ありけり。

沖に出でけるに、人魚の、身の上は娘にて身の下魚なるが網にかかりければ、開きて一夜干しにしけり。

国司に奉らんとすれども箱に納まらず、身を二つに切り分けて二つの箱に納めにけり。

国司、箱開くることあたはざりけり。

帰宅すると、妻がテレビを見ている。

NHKの動物ドキュメンタリー番組だ。

ポテトチップスの粉のついた指をしゃぶってから妻が言う。

「昔の人はジュゴンを人魚と見まちがえたんだって。信じらんないよね。ネェ?」

ボクは黙ってうなずき、ソファに横たわった人魚に微笑む。

クール宅急便を開けると人魚が出てきた。

「私は人魚、でも人間の貴男を愛してしまったの」

すり寄る彼女のすべすべの腰を撫でる。ホログラムみたいな虹色のウロコが艶かしい。

上半身も負けず劣らず、すこぶるつきのいい女だ。

唇が誘う。辛抱たまらずディープキス。

「ウップ、魚臭っ!」


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