気がつくと溝に横たわっていた。ズボンの中までグッチョリだ。何やってんだ?ボク。
「好きになった人がタカシ君だったらよかったのに。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
助手席の美咲さんが啜りあげる。まさか、こんなリアクションが待っていようとは。
毎晩のように、電話を掛け合ったよね。いろんな話、したよね。
君はボクを励ましてくれたり、笑わせてくれたり。ずっと特別な関係だと信じていたのに。
帰途の気まずい沈黙。
何か気を利いたことを言いたかったけど、痛々しくて言葉が続かなかった。
車から降りるとき、美咲さんが言った。
「もう、電話をかけあうのはよそうね。つらくなるから」
ボクは「そうだね」と笑顔にならない笑顔で言った。
ボクの痛みを感じて、彼女の目からまた涙がこぼれた。
思わずボクも泣いてしまった。
その晩、酒に酔ってボクは美咲さんに電話をしてしまった。あきらめようにもあきらめきれずに。
「なおせることがあったらなおすから。やりなおしたい、全部」
彼女、すごく面食らったみたいだった。
「ごめんね。気をもたせちゃったアタシがいけなかったの。ホントにごめん」
思いやりいっぱいに。でも、本心はそうじゃないのがひしひし伝わってきた。
ああ、電話なんかしなけりゃよかった。バカ!バカ!情けなくって辛くっていくら飲んでも酔えなかった。
気がつくと、夜の街を歩いていた。
家でじっとしていられなくなって、がむしゃらに歩き続けた。
ああ、側溝がある。あれに落ちたら大変だぞ、なんて思っていたら、案の定、落ちた。・・・目の前が真っ暗になった。
浅い泥水の中に横たわったまま、空を見上げた。
溝の両縁に切り取られた細長い真っ暗な空から、冷たい雨が降っている。口の中は血の味がする。
美咲さんのいない人生なんて考えられない。
ああ、みじめだなぁ。水に浸かったまま、ボクは『黒の舟歌』を口ずさんでまた泣いた。
すると、空が明るい光に満たされた。
サーチライト?いや、それはあまりにも巨大で。・・・これってUFO?
光の中から、宇宙人たちが覗き込んだ。
全身銀色のやら、爬虫類みたいなのやら、体中に目があるのやら、すごい数、いったい何百人いるんだ?
「オメデトウゴザイマス!たかしサン!アナタガ今年度宇宙あかでみー賞ニ選バレマシタ!」
おびただしい宇宙人たちの拍手と称賛の声をシャワーのように浴びる。宇宙アカデミー賞?なんだ、ソレ?
「今日ノアナタノ失恋ハ、全宇宙デ絶賛サレマシタ。フラレップリモ、未練ガマシサモ、超一流!」
リアル?そうとも、演技じゃないから当然じゃないか!
「シカモ、水ニ浸カッテ『黒の舟歌』ナンテ超べたナ演出ヲモ、見事ニ演ジキルトハ!ヨッ、宇宙一!」
ええい、やけくそだ。万雷の拍手に、両手を振り上げて応えた。
そうとも、ボクは今、宇宙一悲しいんだ。
拍手はやがて激しい雨音に変わり、雨と涙がいっしょくたになってとめどなく流れ続けた。
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