アルバム編集に手間取って、遅い昼食をとっていると街に轟音が鳴り響いた。
テーブルが倒れ、食器が割れる音。客たちの悲鳴。
一瞬、身の危険を感じてひるんだが、カメラを握りしめると店の外に走り出した。
近くのビルからもうもうと煙が上がっている。逃げてくる会社員たち。ボクは走った。
ボクは写真屋だ。
プロになりたいと夢を追い続けてきたが所詮夢。小さな写真スタジオの雇われの身にすぎない。
店舗の広告写真を撮ったり、卒業アルバムを編集したり。
そんなボクに今、願ってもないチャンスが訪れたのだ。
それにしてもカメラって不思議だ。
ツアー旅行に同行中、酔客が暴れることがある。修学旅行で学生が馬鹿騒ぎすることも。
こっちにとばっちりが来ることもあって、おいおい誰か何とかしろよ、なんて憤ってしまう。
ところが、カメラを覗いているときは違う。
おいもっと暴れなよ!もっとふざけなよ!いい絵もっとちょうだいよ!
そのイベントの興奮や感動を一発で蘇らせる一枚が欲しくて、そこに焦点を合わせる。
その感覚の変わりっぷりを我ながら不思議に思うのだ。
ビルに駆け込んだ途端、粉塵に包まれた。ハンカチで鼻から下を覆って歩を進めていく。
間違いない。爆弾テロだ。
視界の悪い中、逃げてきた会社員たちが肩にぶつかってくるのもものともせず、さらに奥へ。
書類や硝子が散乱したオフィスの中へ侵入する。
人が倒れている。
「助けて・・・くれ・・・」
「もうじき救急隊が来ますから」
そう言いつつアングルを決めてシャッターを押す。
ダメだ、こんなんじゃ。
今この瞬間を記録できるのは、このカメラだけなのだ。
この事件の非道を世間に知らしめる使命が、このカメラにはあるのだ。
奥から呻き声が聞こえる。
駆け寄ると、重役風情の男が血まみれで倒れている。お腹が裂けてグチャグチャだ。
よし、今度こそ!
カメラのフレームの中の、その男は、呻きつつも、気の抜けた温厚な布袋顔をしている。
もうじき死んでしまうというのに。そんなの全然リアルじゃない!
カメラを覗いたまま、男の腹に蹴りを入れた。
布袋様の顔が歪む。
それだよ、それ!最初っからそれが欲しかったんだよ!
無心に蹴りを入れてシャッターを押し続ける。呪文のように呟きながら。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。
こんなヒドイことをしているのはボクじゃないんです。ボクはそんな人間じゃありません。
カメラが勝手にやってることなんです。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
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