「サンタさんだよね?本物のサンタクロース」
イブの深夜、うちの窓辺にオジイサンが立ってたんだ。
赤い服に赤い帽子、白いおヒゲ。ボクの質問にまぶしいくらいに笑ってうなずいた。
まちがいない。いたんだ。本当に。
ジェーンにひどいこと言っちゃった。
「サンタなんているわけねーじゃん。ボクんちだけ来ないサンタなんかクッソ食らえだ」
大粒の涙、こぼしてた。朝いちばん、あやまんなくっちゃ。
「これを、君に」
サンタがわたしてくれたのは大きな箱。緑の包み紙に赤いリボン。ずっしり重い。
「ワシのことは誰にも言ってはいけないよ。プレゼントのこともね。守れるかい?」
もちろん!
「この箱は、君が辛くて辛くて本当にどうしようもなくなったら開けるんだ。いいね?」
辛くてどうしようも?よくわかんなかったけど、うなずいた。
サンタが立ち去ったあと、ボクはこっそり屋根裏部屋の隅っこに箱を隠しておいた。
翌年、サンタクロースは来なかった。その翌年も、次の年も、ずっと。
そして、たくさんの月日が流れた。
もちろん、箱の中身が気になった。
辛さを紛らす、お菓子が詰まってるんじゃないか?
辛さを忘れる、玩具が入ってるのかも・・・。子供の頃はそんなふうに空想した。
自殺用のピストルなんじゃないの?何もかも粉々にする爆弾だったりして。
そんなふうに考えた時期もあった。
何度も何度も箱に手をかけたもんだ。その度に、
「今がいちばん辛い時か?もっと辛い時が来たらどうする?」
そう考えると、結局、開けるのをためらった。
そうやって何度も何度も苦難を乗り越えることができた。
今宵、七十数回目のイブ。
ワシは箱を開けようと決めた。
今が辛いというわけではない。もうこの箱が必要ではなくなったのだ。
生涯連れ添った、幼なじみのジェーンが先月安らかに天に召された。
子供がなかったのは残念だったが、そのぶん二人でたくさんの幸せな時間を過ごした。
もう何も思い残すことはない。
包み紙を開けた瞬間、箱から声がした。
「タイムマシンのご利用、ありがとうございます。貴方をお好きな時間と場所にご案内します。初期設定のままでよろしいでしょうか?」
箱の表面に、設定された時間の数値と場所の地図が浮かび上がる。
ワシはすべてを理解した。
そして、鏡に映る自分を見つめた。
あと買い足すものは、赤い服と赤い帽子だけだな。
鏡の中のワシが、まぶしいくらいに笑った。
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