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クリスマスプレゼント

2014年12月02日 | ショートショート

「サンタさんだよね?本物のサンタクロース」
イブの深夜、うちの窓辺にオジイサンが立ってたんだ。
赤い服に赤い帽子、白いおヒゲ。ボクの質問にまぶしいくらいに笑ってうなずいた。
まちがいない。いたんだ。本当に。
ジェーンにひどいこと言っちゃった。
「サンタなんているわけねーじゃん。ボクんちだけ来ないサンタなんかクッソ食らえだ」
大粒の涙、こぼしてた。朝いちばん、あやまんなくっちゃ。
「これを、君に」
サンタがわたしてくれたのは大きな箱。緑の包み紙に赤いリボン。ずっしり重い。
「ワシのことは誰にも言ってはいけないよ。プレゼントのこともね。守れるかい?」
もちろん!
「この箱は、君が辛くて辛くて本当にどうしようもなくなったら開けるんだ。いいね?」
辛くてどうしようも?よくわかんなかったけど、うなずいた。
サンタが立ち去ったあと、ボクはこっそり屋根裏部屋の隅っこに箱を隠しておいた。

翌年、サンタクロースは来なかった。その翌年も、次の年も、ずっと。
そして、たくさんの月日が流れた。
もちろん、箱の中身が気になった。
辛さを紛らす、お菓子が詰まってるんじゃないか?
辛さを忘れる、玩具が入ってるのかも・・・。子供の頃はそんなふうに空想した。
自殺用のピストルなんじゃないの?何もかも粉々にする爆弾だったりして。
そんなふうに考えた時期もあった。
何度も何度も箱に手をかけたもんだ。その度に、
「今がいちばん辛い時か?もっと辛い時が来たらどうする?」
そう考えると、結局、開けるのをためらった。
そうやって何度も何度も苦難を乗り越えることができた。

今宵、七十数回目のイブ。
ワシは箱を開けようと決めた。
今が辛いというわけではない。もうこの箱が必要ではなくなったのだ。
生涯連れ添った、幼なじみのジェーンが先月安らかに天に召された。
子供がなかったのは残念だったが、そのぶん二人でたくさんの幸せな時間を過ごした。
もう何も思い残すことはない。
包み紙を開けた瞬間、箱から声がした。
「タイムマシンのご利用、ありがとうございます。貴方をお好きな時間と場所にご案内します。初期設定のままでよろしいでしょうか?」
箱の表面に、設定された時間の数値と場所の地図が浮かび上がる。
ワシはすべてを理解した。
そして、鏡に映る自分を見つめた。
あと買い足すものは、赤い服と赤い帽子だけだな。
鏡の中のワシが、まぶしいくらいに笑った。



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