ひとりぽっちのおじいさんがいました。
せっせと働いて年をとって、さあ夫婦水入らずで旅行でもと思った矢先、おばあさんが亡くなってしまったのです。
せめておばあさんとの思い出の写真をプリントしようとおじいさんはお店に行きました。
「いらっしゃいませ、当店の写真は100年プリントです。100年経っても色褪せませんぞ」
100年プリント?自分はあと何年生きられるというのでしょう。
「もっと少ない年数のはないかのう」
「ございません。こちらが自信を持っておすすめできる唯一のプリントです」
仕方がないので、思い出の写真を100年プリントで注文しました。
おじいさんはひとり暮らしには広すぎる家を売って、新しい小さな家を買いに行きました。
「いらっしゃいませ、小さいながら快適な100年住宅です。100年経ってもびくともしません」
「もっと少ない年数の・・・」
「ございません」
仕方なく、100年住宅で暮らし始めました。
まもなく、足腰の弱くなったおじいさんは、身の回りの世話をしてもらうためにロボットを買いに行きました。
「いらっしゃいませ、こちらのロボット、なんと100年ロボです。100年経っても故障知らずの働き者です」
おじいさんは尋ねもしないで、100年ロボを買って一緒に家に帰りました。
100年ロボはホントに働き者のスグレモノでした。
朝起こしてくれるのも、三食の準備片付けも、掃除洗濯、お風呂の介助も全部やってくれました。
夜だって、おじいさんが眠くなるまで思い出話に100年ロボは耳を傾けました。
毎日、毎日。
毎晩、毎晩。
何年経ったでしょう。
とうとうおじいさんは100年ロボに看取られて亡くなりました。
おじいさんの遺言どおり、100年ロボは船の上からおじいさんの灰を海にまきました。
そして次の日。
100年の大半は残っています。
100年ロボは100年住宅で、姿の見えなくなったおじいさんを毎朝、起こします。
見えないおじいさんに、見えない食事のお世話をして、見えないお風呂のお世話をします。
そして、見えないおじいさんをベッドに横たえると、録音したおじいさんの昔話を流して聞き入るのでした。
毎日、毎日。
毎晩、毎晩。
何年も、何十年も。
そしてとうとう、おじいさんが100年ロボを買って、ちょうど100年が経ちました。
見えないおじいさんをベッドに横たえた100年ロボは、おじいさんに優しく話しかけました。
「おじいさん、とうとう100年経ちました。100年間、本当にありがとうございました」
そして、ベッドに寄り添い、胸のカバーを開いて電源スイッチをオフにすると、ロボットの目から光が消えました。
翌朝。
予備電力で右手が自動的に作動、100年ロボは電源スイッチをいつもと同じようにオンにしました。ロボットの目が光ります。
「おじいさん、おはようございます」
昨日までと同じように見えないおじいさんを起こして、お世話を始めました。
100年を過ぎた途端、100年プリントが色褪せないように。100年住宅が崩れないように。
ずっと。ず~っと。
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