100年ロボ

2015年02月27日 | ショートショート

ひとりぽっちのおじいさんがいました。
せっせと働いて年をとって、さあ夫婦水入らずで旅行でもと思った矢先、おばあさんが亡くなってしまったのです。
せめておばあさんとの思い出の写真をプリントしようとおじいさんはお店に行きました。
「いらっしゃいませ、当店の写真は100年プリントです。100年経っても色褪せませんぞ」
100年プリント?自分はあと何年生きられるというのでしょう。
「もっと少ない年数のはないかのう」
「ございません。こちらが自信を持っておすすめできる唯一のプリントです」
仕方がないので、思い出の写真を100年プリントで注文しました。
おじいさんはひとり暮らしには広すぎる家を売って、新しい小さな家を買いに行きました。
「いらっしゃいませ、小さいながら快適な100年住宅です。100年経ってもびくともしません」
「もっと少ない年数の・・・」
「ございません」
仕方なく、100年住宅で暮らし始めました。
まもなく、足腰の弱くなったおじいさんは、身の回りの世話をしてもらうためにロボットを買いに行きました。
「いらっしゃいませ、こちらのロボット、なんと100年ロボです。100年経っても故障知らずの働き者です」
おじいさんは尋ねもしないで、100年ロボを買って一緒に家に帰りました。
100年ロボはホントに働き者のスグレモノでした。
朝起こしてくれるのも、三食の準備片付けも、掃除洗濯、お風呂の介助も全部やってくれました。
夜だって、おじいさんが眠くなるまで思い出話に100年ロボは耳を傾けました。
毎日、毎日。
毎晩、毎晩。
何年経ったでしょう。
とうとうおじいさんは100年ロボに看取られて亡くなりました。
おじいさんの遺言どおり、100年ロボは船の上からおじいさんの灰を海にまきました。
そして次の日。
100年の大半は残っています。
100年ロボは100年住宅で、姿の見えなくなったおじいさんを毎朝、起こします。
見えないおじいさんに、見えない食事のお世話をして、見えないお風呂のお世話をします。
そして、見えないおじいさんをベッドに横たえると、録音したおじいさんの昔話を流して聞き入るのでした。
毎日、毎日。
毎晩、毎晩。
何年も、何十年も。
そしてとうとう、おじいさんが100年ロボを買って、ちょうど100年が経ちました。
見えないおじいさんをベッドに横たえた100年ロボは、おじいさんに優しく話しかけました。
「おじいさん、とうとう100年経ちました。100年間、本当にありがとうございました」
そして、ベッドに寄り添い、胸のカバーを開いて電源スイッチをオフにすると、ロボットの目から光が消えました。

翌朝。
予備電力で右手が自動的に作動、100年ロボは電源スイッチをいつもと同じようにオンにしました。ロボットの目が光ります。
「おじいさん、おはようございます」
昨日までと同じように見えないおじいさんを起こして、お世話を始めました。
100年を過ぎた途端、100年プリントが色褪せないように。100年住宅が崩れないように。
ずっと。ず~っと。
  


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乳、替える

2015年02月07日 | ショートショート



恥ずかしいんですけどあたし、おムネが小さいんです。
人妻なのにまるで十代の女の子みたいに。申し訳程度に膨らんだ上にレーズンがチョコンて。
夫は「このほうが好きだよ、カワイイ感じで」って言ってくれるんです。
でもこないだ、夫の消し忘れたパソコンに、お気に入りのエッチ動画がずらり並んでたんです。巨乳もの動画ばっかり。
そうなんです。夫もやっぱりオッパイ星人だったんです。
そんな時に、突然テレビが切り替わって宇宙人が出てきたんです。
ジャラブ星人です。
人類よりもはるかに進んだ科学をもってるのに使いみちがおまぬけな感じの宇宙人なんです。
テレビ画面下のお申し込み電話番号にかけて、ジャラブ同盟に加入するかわりにオッパイをおっきくしてほしいってお願いしてみたんです。
ジャラブ星人ったら、
「プスプスプス。お安いご用です、奥さん。ただし、巨乳の女性の胸と奥さんの胸との交換手術になりますがね」
なんて言うんです。巨乳が要らない女性なんてこの世に・・・いるんです。親友のジュンコです。
うちに遊びに来るたびに、
「男の視線はココばっかり、そのくせ巨乳女はバカっぽいとか言ってさ、それに走ったら右へ左へポヨンポヨン、いいことないよ全っ然」
なんてグチばっかり。でもそれって本心かなあ。あたし、思い切って相談したんです。
ジュンコったら「いいよ!やったあ」なんて、あっさりOK、やったあ。
で早速、ジャラブ星人が手術してくれて。
すごいんです、ジャラブ星人って。30分後にはもう、あたしの貧乳がジュンコへ、ジュンコの巨乳があたしへ。
うわあ、ナニこのボリューム感。ああ、夜が楽しみだわあ。

「オヤ、どうしたんだ?なんだかおっきくなったんじゃないか?」
その日の晩、あたしのおムネをモミモミしながら夫が言うんです。
「女性週刊誌の豊胸体操ってやってみたのよ。少しは効果が出たのかしら」って、ごまかすあたし。
「スゴイじゃないか。いっただきま~す」って、むしゃぶりつく夫。
夫ったらいつもの何倍も激しくせめてきて、あたしったら思わずいつもより大胆になってあんなことやこんなことや。
嵐みたいな一回戦が終了。
二人とも汗びっしょり、息もあがっちゃって。
それなのに夫ったらあたしのおムネを赤ちゃんみたいにチュパチュパ。ええっもう二回戦?
そのときです。夫が顔をあげて言ったんです。
「ア!思い出した!この味、ジュンコちゃんのオッパイじゃないか!!」
  


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父、換える

2015年02月07日 | ショートショート

「タカシ君、正解です。答えかたも立派ですね。みんなもタカシ君のように答えましょう」
先生の賞讃の言葉、教室中で拍手。ボクは有頂天で教室の後ろをふりかえる。
ずらりと並んだ保護者の中で、ボクの父さんがいちばん背が高くて、誰よりもカッコよかった。
父さんがボクにニッコリ、白い歯がまぶしいくらいに光って周りが霞んだ。

学校から帰る時だってみんながボクに声をかけた。
「タカシ、いいよなあ。オレの父さんとダンチじゃ~ん」
「タカシく~ん、アタシもあんなお父さん欲し~っ」
最高の気分で家に帰った。
「タカシ、おかえり。どうだった?参観授業」
仕事着のままで夕食の仕度しながら母さんが尋ねた。
「ウン、やっぱ参観日はダンディー父さんに限るね」
居間でくつろいでいた父さんがカッコよく振り向いた。
「オイオイ、タカシ。まるで今週でお払い箱みたいな・・・」
母さんは黙ったままレンジの中を見つめている。
ボクも連絡帳を探すふりをした。
「返却・・・か。なあ、タカシ、今夜もやるか?ブラックジャック」
「うん、やるやる!今夜は負けないよ、ボク!」
母さんがニコッて笑った。ちょっとだけ寂しそうに。

ボクにはホントの父さんがいない。
まだ小さかった頃フイといなくなったとか。それで母さんは必要に応じてレンタル父さんを借りる。
参観授業ならできるだけ見栄えのいいダンディー父さん、見栄を張る必要などない週にはマイホーム父さん、といった具合。

日曜日に店に行くと、ダンディー父さんを返却した。
ボクが新作父さんのコーナーでフレッシュ父さんたちを見ていると母さんが言う。
「三カ月もすれば準新作父さんに、半年もすれば旧作父さんになって安くなるんだからね」
母さんのケチ。仕方なく、旧作コーナーをひとりで見て回った。
「タカシくん、タカシくんやないかっ。大きゅうなったなあ。わてや。お笑い父さんや」
旧作コーナーの隅っこからお笑い父さんの声。
最初は楽しいけど、のべつまくなし喋られてもお腹いっぱい。
「タカシくん、待ってえな。どこ行くねん」
足早に立ち去ると、母さんを探した。アレ?旧作コーナーのどこにも見当たらない・・・。
まさか。
まさか、母さん、アソコに?
奥に仕切られた18禁コーナーに近づくと、ヒソヒソ声が聞こえる。母さんだ!
まさか母さん、今度借りるのは、絶倫父さん?!
「ええ、学校で先生に褒められたって喜んでたわ」
「ほう、さすがだなあ。オレはタカシが元気なだけで嬉しいよ」
・・・エ?
ボクの父さんって、もしかして・・・
  


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父、孵る

2015年02月07日 | ショートショート

国会議事堂上空に忽然と超巨大円盤が現れ、永田町を覆い尽くした。
日本中のテレビ画面が一斉に切り替わり、宇宙人の上半身が映し出される。
「我々はジャラブ星人だ。我々の科学力は遥かに進んでいる。地球人も我々、ジャラブ同盟に入るのだあ」
その姿はウルトラマンのザラブ星人にそっくりだ。かなり胡散臭い。
議事堂に隣接する首相官邸では、首相もまた画面を見つめていた。
「無抵抗のまま、侵略者に服従などありえんっ。敵の科学力、恐るるに足らず・・・」
その言葉が聞こえたかのように、ザラブ星人が肛門そっくりの口から笑い声を上げた。
「プスプスプス、では我々のチカラを見てもらおう」
ジャラブ星人がなにやら抱えあげる。小型の孵卵器?中にはタマゴがひとつ。どう見ても普通のニワトリのタマゴだが・・・
「驚くなかれ、 コレは『お父さんタマゴ』なのだあ」
お父さんタマゴぉ?
「何故コレが『お父さんタマゴ』か?早回しのVTRを作ったのでそちらをご覧になるのだあ」
早回しVTRスタート、アッと言う間にタマゴが割れてヒヨコ登場、若鶏になり、何の変哲もない雄鳥となり・・・
「ただのニワトリじゃないか」
「ただのニワトリじゃないか、と思ったろう?プスプスプス、ココで我々の恐るべき医学によって雄鳥に性転換手術を施して雌鳥に変えるのだあ!繁殖能力のある、本物の雌鳥にだぞ」
手術前、手術後の映像。確かに雄鳥と雌鳥である。
「さてココで登場、タイムマシン!我々はタイムマシンで時間旅行も自由自在なのだあ。雌鳥を連れて雄鳥だった頃の時間に戻って二羽を交配、イヤ~ン」
雌鳥に乗った雄鳥がバサバサ、画面にはしっかりモザイクがかかっている。
「かくしてこの雌鳥が有精卵を産み落とす・・・そしたら、そのタマゴを孵卵器に入れて、さらに生まれる前の時間へ行って置いてきて完成。つまり、ココにあるのがそのタマゴというわけなのだよ!」
なるほど、お父さんのはずが自分になってしまうという無限ループのタマゴってわけか。ニワトリが先かタマゴが先か・・・
「どうだね?我々の医学も科学もスゴイだろ?プスプスプス」ジャラブ星人、大威張りだ。
怪訝そうな顔つきで首相が尋ねた。
「で、取っ掛かりは?その無限ループ、最初に一体どっから作り始める?」
ジャラブ星人がうろたえる。
「そ、それは・・・企業秘密だ。知りたかったらホレ、我々ジャラブ同盟に加入しなさい」
ジャラブ同盟か・・・首相はふと、こんなおマヌケな宇宙人となら同盟を結ぶのも悪くないかも、なんて思ったのだった。
ジャラブ同盟が異星人による侵略などではなく、宇宙人による衛星放送サービスに過ぎないことがわかるのはまだ先の話。
 


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父、カエル

2015年02月01日 | ショートショート

「たっだいまあ!」
「ひぃぃぃぃっ!」
帰宅を告げる父の声に続いて、母が楳図かずお漫画みたいな悲鳴を上げた。
長女初子、次女留子も玄関に駆けつけ、共に蒼白となった。
父がカエルになって家に帰る!!
しかも人間ほどの巨大ウシガエルである。元々カエル同然の体型ではあったものの、まさか本物になろうとは。
父「会社で昼飯のあと居眠りしちゃって・・・目が覚めたらこのザマだよ」
初子「なるほど食べてすぐ寝たからウシガエルに・・・イヤそれってウシでしょ」
留子「目が覚めたらヘ~ンシ~ン!グレゴール・ザムザじゃん」
父「ザムザぁ?ソイツはどうやって人間に戻ったんだあ?」
留子「イヤ怪我して虫のまんま死んじゃったみたいな・・・」
父「オイオイ、何とかしてくれよ、家族だろ~」
落ち着きを取り戻した風情の母が父に問う。
「とりあえずご飯にします?お風呂になさいます?」
父「えっと、じゃあ風呂・・・」
初子「嫌ァ!カエルの入ったあとのお風呂なんて」
留子「アタシも勘弁、生臭いし」
父「親不孝者っ」
母「お父さん、癇癪を起こすとホラ、背中のブツブツから油が沁み出てますよ」
父「・・・アッ」
母「どうなさったんです?」
父「お昼に居眠りしてたとき、夢を見たのを今思い出したんだ!魔法使いのおばあさんがオレに魔法をかけた夢!」
母「あなた、でかしたわ!人間に戻れるの?」
父「ああ、戻れる、戻れるとも。魔法使いのおばあさんの話だと、心から愛する者とディープキスを交わすと元の姿に戻れるらしい」
心から愛する者とのキス?
初子「お父さん、ごめんなさい。アタシ、実は好きな人できちゃって。ヴァージンキスは彼と・・・ゴメンナサイ!」
留子「お姉ちゃん、ズルイ!お父さんとディープキス、それって近親相姦でしょ、やっぱ母さんでしょ、この場合」
父「頼む~母さ~ん」
母「子供産んで以来あっちのほうはご無沙汰だし・・・今、心から愛しているのは韓流スターの・・・ゴメンナサイ!」
父「なんだオマエまで。この薄情者~っ」
初子「王子様とか韓流スター、ジャニーズならともかく、キスしてもお父さんに戻るだけ、そりゃ無理でしょ」
留子「ちなみにお父さん、お昼以降になんか食べた?」
父「そりゃ食うさ、動く物に反応してつい舌がシュッて。ハエでしょ、クモでしょ、ゲジゲジ、ゴキブリ、ナメクジ・・・」
母・初子・留子「私たち、カエルのままのお父さんが好き!!」
 


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