映画『お散歩』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 松田彰
村田牧子
鍋山晋一

とある夏の日に、男の子が女の子の部屋を訪ね、散歩するという物語。会話にも内容がなく、歩いている間、とりとめもなく続く。ただ、それだけの作品である。淡々としているが、決してポエジーではなく、むしろリアルである。資料によると、シナリオは男女別で渡されており、お互い、相手のセリフを知らずに撮影に臨んだそうだ。このユニークなやり方から、男女の自然な会話シーンが、実現されたのだろう。各シーンの間に、インタビューのような形で、それぞれの言い分が挿入されるが、それもまたリアル。まるで、友人の恋の話を聞いているような、新鮮さがある。監督は、自主映画界で活躍してきた松田彰。
小春とナベの二人は、初めて会った時からお互いを呼び捨てしあう仲だった。飲み会で知り合い、そのまま一夜をともにした。なりゆきでそういう関係になったのだ。日曜日の朝は、毎週ナベは自転車で小春のアパートに行き、二人で散歩した。でも、それだけ。友達以上、恋人未満。散歩しながら見つけた、フラメンコ研究所、ねこ、井戸。まぶしすぎる夏の日差し。小春が自分のことを、どう思っているのかナベは知りたい。小春にとって、ナベは弟のようだけど、気になる存在。でも、お互い、どうしていいか、分からない。

★★★★★
最近観た映画20本ほどの中で、いちばん印象に残った佳作がこの邦画『お散歩』だっていうのも不思議だ。確実に最も低予算だし、登場人物は男女ふたりだけだし、上映時間も50分。もう趣味で作ったホームビデオ映画とも見紛うほど安上がりに見える映画だ。でもいいんだなあ、これが。といって、斜に構えたスノッブをきどっているわけじゃない。ホント、面白いんだから!
映画は、休日、男が誘いにきて女が準備して出掛けてご近所をお散歩しているだけ。フツーの男とフツーの女のフツーのお散歩デート。二人の交わす言葉も、普通の会話を盗み録りしたような自然体。ドキュメンタリー番組かと思うくらい。『茶の味』という映画で、浅野忠信が元カノの中嶋朋子と再会したときのぎごちないボソボソした喋りや間合いがメチャメチャ好きなボクとしては、この二人のフツーっぽさがけっこう楽しめる。芝居がかっちゃうときのあざとさに不安を抱きながら画面を見守ることになっちゃうわけだ。
散歩の途中に、男女ひとりずつにインタビューしたかのような場面が挟まれる。素人恋愛バラエティ番組で男女分けて別々に気持ちを聞くみたいな感覚の場面。その部分で、男と女、それぞれの気持ちのズレや相手への意識、そして二人の馴れ初めから現在進行の状況までがわかってくる。
そんな休憩シーンっぽい場面を挟みながら、お散歩は続いていく。はたして、この映画を撮影していく時点で綿密な脚本は存在したのだろうか?きちんとカット割りを構成した上で撮ったのだろうか?もし、そうしていたとしたらそれはそれでスゴすぎる。ボクはきっと出たとこ勝負の即興で演出していったんじゃないかと思っている。撮り進めていく中でアイディアを練ってさらに撮って、というやり方。ヌーヴェル・ヴァーグの時代に流行った手法。ただ前衛的な面白さを求めるわけではなくて、自然体の面白さを前面に出すという目的のために。ボクの推理が当たっているとしたら、みごとに成功していると言える。
さて、この映画、ドラマらしいドラマなんてないっちゃあないんだけど、「バカと言った」「言ってない」の応酬という、つまんない口喧嘩がある。阿呆らしい言い合いっこともとれるし、単なる売り言葉に買い言葉ともとれるし。そしてなによりこんな会話って男と女の間であるある。でも、男が幕を引いたことで二人の関係に微妙な変化が生じる。互いに気がついちゃいないんだろうけど。これまで女は男を見下した感じだったけど、包容力を見せられて動揺したはずだし。男は、女が自己防衛に必死になる姿をいじらしく感じただろうし。それがラスト、女の左右の選択へとつながるわけで。
何気ない、ごくフツーの男女のお散歩だけを切り取って、地味に一歩一歩近づく心の機微を描くなんて。
いや~清々しい!いいもんを見せてもらった。
そしてこの映画、最高の助演者がいる。
おいおい、くさいドラマになるんじゃないか?と思った瞬間に吠えた近所の犬!(笑)


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映画『テキサスの五人の仲間』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 フィールダー・クック
ヘンリー・フォンダ (Meredith)
ジョアン・ウッドワード (Mary)
ジェイソン・ロバーズ (Henry Drummond)
チャールス・ビックフォード (Benson Tropp)
バージェス・メレディス (Dr. Scully)
ケヴィン・マッカーシー (Otto Habershaw)
ロバート・ミドルトン (Dennis Wilcox)
ポール・フォード (Ballinger)
ネッド・グラス (Owney Price)
ジェラルド・ミチェノード (Jackie)
ジョン・クオウルン (Jess Buford)
James Kenny (Sam Phine)
ジェームズ・グリフィス (Mr. Stribling)

1896年のある日。この日は、西部きっての5人のギャンブラーがホテルに集まり、年に1度の恒例のポーカー・ゲームを開く日だった。集った面々は、金持の葬儀屋トロップ、裁判の途中で法廷をぬけでてきた弁護士のヘイバーショウ(ケヴィン・マッカーシー)、娘の結婚式を中断してかけつけたドラモンド、牛買いのビュフォード、それにウィルコックスである。ゲームもたけなわの頃、旅の途中のメレディス(ヘンリー・フォンダ)と妻のメリー(ジョアン・ウッドワード)、息子のジャッキーがホテルに立ち寄った。馬車の車輪をなおすためだ。小休止で部屋を出たヘイバーショウから、ポーカーの話を聞いたとたんにメレディスの目の色が変わった。実は、彼は大変なポーカー狂で、せめて見物だけでもさせてほしいと頼みこむしまつ。夫の性分を知りつくしているメリーは息子を看視役につけて、見物だけを許し、自分はカジ屋へ出かけた。最初のうちこそ、遠慮がちにゲームを見ていたメレディスだったが、勝負が熱してくるにつれ、ついにがまんならなくなり息子のとめるのもきかず、ゲームに加わってしまった。賭金は、一家が農場を買うために貯めた4000ドルのうちの1000ドル。またたくまに、すってしまい残りの3000ドルもつぎこんだがだめ。そこへ帰ってきたメリーは驚いた。4000ドルを失くしたばかりか、ゲームに居残るため、500ドルに四苦八苦している夫。その時メレディスは持病の心臓病の発作で倒れてしまった。医者のスカリーが呼ばれて彼を別室へ運びこんだ。虎の子の4000ドルを取り戻すため、メリーは身代わりでポーカー続行を宣言したものの、ゲームの方法などまるで知らない。

★★★★★
昨年12月から映画の感想日記みたいなのを書き綴っているけれど、原則として感想を書くのは初見の映画に限り、再見した映画の感想は控えてきた。自分が一年間で何本くらい映画を見ているのかっていう興味もあってのことだ。
しかし今回、この映画については敢えて書き残しておきたい。
この映画はすこぶる評価の高いコンゲーム映画だ。ボクは10年近く前にオークションでVHSテープをけっこうな額で落札し、自分でDVDに変換して宝物にしてきた。それが今回、ユニヴァーサル・シネマ・コレクションの一本として手軽にレンタルでき、すばらしい画質で鑑賞できるようになったのだ。いや実に嬉しい。
そのひとつはこれまで、ラスト前に語られる、結婚式直前の新郎を窓から逃がすエピソードがなんだか浮いている気がして違和感があったのだ。だが見直してみて実に上手いなあって思いなおした。守銭奴の連中が騙されて大金を巻き上げられて観客の溜飲を下げるラストってのはコンゲーム映画の常套手段だけど、この映画は騙された野郎どものが、女性蔑視を捨てたり、理想の女性像を見いだしたり、打算的な人生を悔いてせめて若い者にはと踏み出させたりするわけだ。このへんまできっちり描いているヒューマニズムが名作の名作たるゆえんだろう。
さらに、今回見直してみて、妻が銀行家から金を借りるためにトランプを見せるシーンできっちり「大きな手」が見えてしまうのに気がついた。VHSではいまひとつ判然としなかったが、DVDの高画質ゆえにはっきりと。その「手」がどれほどの大きな手なのかどうか?ポーカーゲームの勝者の手は見ないのが常識らしいので、敢えて知るのは野暮な話と捨ておくか?こんなこと書いちゃうと気になってしかたがないかな?(笑)
なんにしても幻の傑作をこんな形でもう一度観ることができて、幸せな気持ちで満たされた。
店の棚には、他にもユニヴァーサルの傑作がズラリ。お楽しみはまだまだ続きそうだ。


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映画『殺しの分け前 ポイント・ブランク』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 ジョン・ブアマン
リー・マービン (Walker)
アンジー・ディッキンソン (Chris)
キーナン・ウィン (Yost)
キャロル・オコナー (Brewster)
ロイド・ボックナー (Fredrick Carter)
マイケル・ストロング (Stegman)
ジョン・ヴァーノン (Mal Resse)
シャロン・エイカー (Lynne)
ジェームズ・シッキング (Hired Gun)
Sandra Warner (Waitress)
ロバータ・ヘインズ (Mrs. Carter)

ウォーカー(リー・マーヴィン)は、戦友マルに勧められて密売の金を強奪したが、金額が思ったより少なかったことから、マルは、ウォーカーを倒し、彼の妻リンを連れて逃げ去った。幸い弾は急所をはずれ、ウォーカーは、あやういところを命拾いした。1年後、彼はヨスト(キーナン・ウィン)と名のる男から声をかけられた。彼は、今ではマルが羽振りをきかしていることを語り、分け前を取り戻す手助けをするから、自分が組織を握るのに手を貸してくれと持ちかけ、マルとリンの住所を教えた。ウォーカーは早速、訪ねてみたが、マルはすでにいず、数日後、リンは夫への裏切りを後悔して自殺した。やがてウォーカーは、リンの妹クリス(アンジー・ディッキンソン)がマルの新しい情婦であり、ナイトクラブを経営していることをつきとめた。クリスを訪ねてウォーカーは、彼女の協力を得てマルを捕まえることができた。しかしマルは、すでに金を全部、彼の組織に収めてしまっていた。そのうえ彼はウォーカーの手をのがれようとしてビルの屋上から転落死。ウォーカーは改めて組織から金を取り戻す決心をした。組織は3人のボスのものだった。まずカーターは、手違いから自分の雇った殺し屋に射殺されてしまった。次のブルースター。彼はアルカトラズ島で金を渡す約束をし、2人は島に渡ったが、金包みを渡す寸前に射殺された。発砲したのはヨストだった。彼も組織のボスの1人だったのだ。彼は、かつてウォーカーに話を持ちかけた通りになったことを語り、今後は一緒に仕事をしよう、と言った。しかしウォーカーが応じないのを知ると、金包みを置いて去っていった。

★★★★☆
まだ10代の頃だったか、ボクの地方のテレビ局で週末の深夜映画でリー・マーヴィン主演のアクションを毎週やっていた。きっとテレビ局に好きな人がいたんだろうなあ。実は、おかげで以来リー・マーヴィンの男臭さにハマってしまった。先日、『キック・アス』がTSUTAYAにしかないので借りに行ったついでに物色していて発見!いや~こういうのをソフト化してくれるのって嬉しい!『ブラック・エース』だの、『 狼獣たちの熱い日』だのといった隠れた傑作もぜひお願いしたい。
さて、この映画、親友に女と報酬の金を奪われた男が、男と組織に復讐していくというストーリー。一匹狼の寡黙な主人公ウォーカーの冷徹ぶりをみごとにリー・マーヴィンが演じきっている。こういう非情なタフ野郎にぴったりの面構えだ。
バッタバッタと敵をねじ伏せていく超人的なアクションがやたら多い昨今の映画は、ナンデモアリで食傷ぎみだが、こういう頭脳で組織と渡りあっていくスリルっていうのがかえって新鮮。最初は渋すぎると感じるかもしれないが、いったんこういうチェスの駒を進めるように黒幕に迫っていく展開ってのは見応えがある。スパイ映画だと、ハリー・パーマーものに通じる頭脳戦の面白さ。今作は特に、組織の敵対をうまく操り翻弄しながら目的を果たしていくっていう点では、『ハリー・パーマー危機脱出(ベルリンの葬送)』に近いムードを持っているかな。
一匹狼のウォーカー、ウォーカーを利用して組織の実権を握ろうと企てたフェアファクス。分け前を受けとるように促されても姿を表さないウォーカーの周到さ&人間不信で締めくくるラストなんてハードボイルドそのもの。今時のアクション映画だったら、ここで能天気にホイホイ現れて金をせしめるだろう。この頃の映画ってホント、オトナなんだよなあ。


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映画『地球爆破作戦』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 ジョセフ・サージェント
エリック・ブリーデン (Forbin)
スーザン・クラーク (Cleo)
ゴードン・ピンセント (President)
ウィリアム・シャラート (Granber)
アレックス・ローディン (Kupin)

原水爆による危険な国際均衡を保っていた世界に、突然、恒久的平和が約束されることになった。ロッキー山脈地下深くアメリカ科学者の英知を集めたコンピューター・センターが完成、これさえあれば地球を滅ぼすような戦争はありえないと、アメリカ大統領(ゴードン・ピンセント)がTVで演説したのだ。この“コロサス・システム"は判断力は人間よりはるかに優れ、感情を持たず、恐怖も憎悪もなく、あらゆる電波をモニターし、人間のいかなる破壊工作も受けつけず、自給自足が可能なものであると生みの親で、コンピューターの操作を許されている数少ないひとりフォービン博士(エリック・ブリーデン)も保証した。しかし、祝賀パーティも終わらぬうちにコロサスの電光板が重大ニュースを知らせる。ソ連もそっくりのシステム“ガーディアン"を完成したというのだ。右往左往する人間たちにコロサスは、ソ連のシステムと交信したいから通信回路を作れと要求する。世界平和維持のため、2つのコンピューターは同じ周波数のもとにおかれるのだが、何を連絡しあっているのかはフォービンたちにも分からなくなってしまった。そして米ソの機密は解読することによって、互いに漏洩するようになり、困惑した両国首脳は相談して、交信回路を撤回することにした。しかし撤回と同時に、両コンピューター同士は人間たちに抗議し、対抗措置を取ったのだ。そして互いの国に向け、ミサイルの発射を決意した。回路の復元が命ぜられた。あわてた両国首脳は両国の科学者を1人ずつローマに派遣して、対策を協議させることにした。しかし、それもたちまちコンピューターに感づかれ、ソ連の科学者クプリン博士(アレックス・ローデン)は、コンピューターの指令によって殺される。フォービンが助かったのは、彼がコロサスにとって必要だと思われたためだったが、その代わり彼は、コロサスの命令通り行動するしかなくなってしまった。そこで彼は言葉巧みにコロサスを説得して、彼の助手で恋人のクレオ(スーザン・クラーク)との逢引きの時間だけはプライベートな行動として許してもらう。無論、コンピューターのカメラの前でであった。ベッドの中で耳と口を頼りに彼はクレオとコロサス破壊計画を伝えた。CIAの秘密情報局員グローバー(ウィリアム・シャラート)に命じ、コロサスに気づかれぬように、ミサイルの弾頭をニセモノと取り替え、武器を完全に奪おうとするが・・・。

★★★☆☆
ユニヴァーサル・シネマ・コレクションで発見した。『サブウェイ・パニック』の監督ジョセフ・サージェントによるSF映画ってんだから観ないわけにはいかない!で、早速鑑賞。ふむふむ、防衛用に開発された世界最高のコンピュータが意志をもって暴走していくっていうストーリー。1970年の映画らしい、なんともレトロなコンピュータシステムぶりが楽しい。こういう、いかにも昔のオープンリールやレジスターみたいなコンピュータを見ると、いかに『2001年宇宙の旅』の宇宙船内のデザインが秀逸だったかを再認識できる。それから、アメリカの防衛コンピュータ開発の情報がソ連に漏れてソ連でも追っかけで防衛コンピュータを開発、結局ふたつのコンピュータが互いの意志で連携するってあたりも、米ソ対立の「鉄のカーテン」時代ならでは。今の多極化した世界情勢では考えられない設定だ。
ストーリーは、ひたすらコンピューターが人間の裏をかいていく展開。特に自分の創造者である博士を、自分の下僕にしてしまうあたりの展開がシニカル。なんの救いもないストーリーが、コンピュータに依存した社会に警鐘を鳴らしている。今どきならなんらかの安易な解決によるハッピーエンドが準備されてしまうような映画だが、あくまで批判を突きつけて終わるあたりもアメリカンニューシネマのあの時代らしいと感じた。

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映画『キック・アス』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 マシュー・ボーン
アーロン・ジョンソン (Dave Lizewski / Kick-Ass)
ニコラス・ケイジ (Damon Macready / Big Daddy)
クロエ・グレース・モレッツ (Mindy Macready / Hit-Girl)
マーク・ストロング (Frank D'Amico)
クリストファー・ミンツ=プラッセ (Chris D'Amico / Red Mist)
マイケル・リスポリ (Big Joe)
ヤンシー・バトラー (Angie D'Amico)
ジェイソン・フレミング (Lobby Goon)
エリザベス・マクガヴァン (Mrs. Lizewski)
ギャラント・エム・ブラウン (Mr. Lizewski)
リンジー・フォンセカ (Katie)
ソフィ・ウー (Erika)
デクスター・フレッチャー (Cody)
クラーク・デューク (Marty)
エバン・ピーターズ (Todd)
ザンダー・バークレー (Detective Gigante)
オマリ・ハードウィック (Sergeant Marcus Williams)
クレイグ・ファーガソン (Himself)

ニューヨークに住むデイヴは、アメコミ好きでスーパーヒーローに憧れているさえない高校生。ネット通販で購入したコスチュームを着て、勝手にヒーローになりパトロールするが、特別な能力があるわけではなく、最初の戦いであっけなく入院。しかし2度目の戦いぶりがYouTubeにアップされると、ヒーロー“キック・アス”はたちまち人気者に。一方、マフィアのボスのダミコが、組織に起きた最近のトラブルを“キック・アス”の仕業と勘違い。実は別に父娘のヒーローである“ビッグ・ダディ”と“ヒット・ガール”がおり、ダミコへの復讐の機会を狙っていたのだ。

★★★★☆
この映画と『スカイライン』のDVDってTSUTAYAじゃないと置いてないんだよね。そういうのってどうよ?なんてブツクサ言いながらお店に行くと、ユニヴァーサルの掘り出し物映画をたくさん見つけてラッキー!TSUTAYAさん、ありがとう(笑)
さて、この映画は面白い。最近のコミックヒーロー映画がウジャウジャ溢れてナンデモアリのアクションに食傷ぎみだったんだけど、やけに評判がいいのでコレだけは見ておきたかったが、いや実に楽しい。なんといっても『アメリカンビューティー』のケヴィン・スペイシーのティーン版みたいなイタイ主人公がツボ。映画好きの男はみんな、アッという間にデイヴ(アーロン・ジョンソン)に感情移入してしまうだろう。そのイタイ主人公がヒーローにかぶれて奮戦するだけじゃあ、ただのコメディ映画なんだけど、ここにメチャメチャなヒーローもどきのビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ)&ヒット・ガール(クロエ・グレース・モレッツ)が登場し話に絡んできてからもう、ホンモノのアクション全開映画に突入していく。この父娘のキレっぷりがバカバカしくてまたいい。
でもこの映画で忘れちゃいけないのは、ヒット・ガールもまたコミックヒーローとはベツモノである点。多くのコミック・ヒーローがなんらかの圧倒的な超能力をもちいて悪党を懲らしめるのに対して、幼い彼女が使うのは現実の刃物であり銃器である。だから悪党どもは手足を切られるし銃弾に砕かれて絶命していく。現実世界にヒーロー(ヒロイン)が存在したとしても、それはコミックのようなクリーンなヒーローでは存在できないのだ。
このへんのさじ加減の絶妙さこそ、この映画の面白さ。コミックヒーロー全盛の時代だからこそ存在できる裏返しパロディとも言えるけれど、ボクには凡百のコミックヒーロー映画の中で最高に面白かった。


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映画『正しく生きよう』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 ラ・ヒチャン
脚本 チャン・ジン イ・ギュボク
出演者 チョン・ジェヨン ソン・ビョンホ
音楽 ハン・ジェグォン
撮影 キム・ジュニョン

サンポ市の警察署長イ・スンウ(ソン・ビョンホ)は、警察の訓練として銀行強盗逮捕の予行演習を計画し、その銀行強盗犯人役に交通課の巡査のチョン・ドマン(チョン・ジェヨン)が選ばれる。しかし、生真面目な性格の彼が、完璧に強盗役を演じてしまったために、訓練の範囲を超え大騒ぎになっていく。韓国で2007年10月18日に封切され、観客動員数200万人以上の大ヒットコメディ映画。日本では2008年に開催された韓流シネマ・フェスティバル2008ラブ&ヒューマンで上映された。

★★★☆☆
こんな映画があったんですね!邦画『遊びの時間は終わらない』(1991年)の韓国版リメイク『正しく生きよう』(2007年)。こりゃあ観ずにいられないってんで、早速レンタルして鑑賞した。ラストの展開まではほぼオリジナルどおり。特に銀行内での行員たちや警官たちと主人公のやりとりの美味しいところはそのまんまで、映画をもう一度観直しているくらいの感じ。リメイクしようとした人々がいかに日本版をリスペクトしているか、十分に伝わってくる。ただ、コメディ色を強くしようとしたためか、音楽がいかにもコメディですよと説明している調子なのが疎ましくて、そりゃ違うでしょ!って感じだった。
で、やはり問題はラスト。もしこれがオリジナルならこれでアリか、で済まされる気がする。評価ももう少し高いかな。でも、このラストはまったくオリジナルのラストをわかっていない。かく言うボクも、最初に『遊びの時間は終わらない』を観たとき、「エ?ここで終わっちゃうの?」ととまどいを感じたのが正直なところ。でも何回か観直してみて、やはりあのラストは秀逸だと思う。モックン扮する、視野狭窄気味な堅物警官が犯人役を演じきろうとするあまりに、性格ゆえに暴走していくさまが作品のキモなのだ。そして、逃走はとどまるところを知らず、ついにヘリコプターまで・・・。遊び自体が意志をもち、もう本人にも止められなくなっちゃう感覚のラスト。この感じは、なんらかの遊び(女とかギャンブルとか酒とかゲームとか・・・)に狂った者ならわかるはず。とめどない暴走は行き着くところが誰にもわからない、そんな『終わらない』感覚こそが相応しいラストだったわけで。
ところがボクの初見と同じで、この映画を作った人もやはり収まりのいいラストにしたら、と思ったのだろう。そしてさらに、もっと楽しいコメディになる!なんて思ったのだろう。『死人』に運転させて警察を攪乱するなんて反則だ。おまけに、事態を安易に好転させるバクダン(地方の小さな銀行に、んな小切手が転がってねえよ!)なんてもうオトギバナシみたいな世界。お気楽コメディとして見れば悪くないのかなあ。
『遊びの時間は終わらない』と『正しく生きよう』、ぜひ並べて鑑賞して、オリジナルの凄さを再認識しよう。何はともあれ、こういう隠れた名作に注目してリメイクに挑戦してくれたことに拍手!


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映画『キラー・エリート』

2012年10月20日 | 映画の感想



監督 ゲイリー・マッケンドリー
ジェイソン・ステイサム (Danny)
クライヴ・オーウェン (Spike)
ロバート・デ・ニーロ (Hunter)
ドミニク・パーセル (Davies)
エイデン・ヤング (Meier)
イボンヌ・ストラホフスキー (Anne)
ベン・メンデルソン (Martin)

殺しから足を洗い、愛する女性と生活を始めた元殺し屋ダニーの所に、ある日1通の手紙が届く。そこには、師匠でもあり良き相棒でもあったハンターが囚われている写真が入っていた。ハンターは、オマーン首長の息子達3人を殺した男たちへ復讐をするという高額のミッションに失敗し、捕虜となっていたのだった。ハンターを助ける条件としてその仕事を引き継ぎ、世界各国に散り散りになっていた特殊部隊チームを再結成するダニー。しかし、そのターゲットとなる男たちはみな、国家レベルの秘密結社“フェザー・メン”によって守られているSAS(英国特殊部隊)の兵士たちであった。

★★☆☆☆
組織と戦う男を描いたアクション映画『殺しの分け前 ポイント・ブランク』の次にこの映画を観た。ジョン・ブアマン監督によるハードボイルド映画の傑作と比較されては酷というものだ。だが敢えて引き合いに出したのは、組織と渡り合いながら、一人また一人とターゲットを狩っていくという展開が似ているからだ。ラストの展開も、仇敵をボッコボコにやっつけてオシマイ!っていう最近の能天気アクション映画とはひと味違っている。
だが、この『キラー・エリート』っていう映画、きっといい評価と悪い評価と二分する映画じゃないだろうか。複雑でリアリティのある脚本構成を本格犯罪ものらしくて面白いととる人もいるだろうし、ジョナサン・ステイサムの痛快B級娯楽アクションを期待した人は肩すかしを食らっちゃうだろうし。つまり、両方のいいところをひとつの映画に盛り込んだために、水と油が遊離しているみたいな居心地悪さなのだ。SAS特殊部隊と渡りあう、殺しのエキスパートという設定だからジョナサン・ステイサムを起用したのは一理あるけれど、もっと演技派俳優をもってきたほうがB級娯楽映画の色を出さなくてすんだだろう。逆に、ロバート・デ・ニーロやクライヴ・オーウェンは凄味のあるキャラを演じているのだが、B級映画世界の色に染まってしまった感じだ。映画の脚本づくりまでの段階と、キャスト選びや演出の段階で生じたギャップが結局埋められなかった残念な映画だ。いかにもB級アクション映画らしいDVDのカバーデザインや、クローズアップされて使われているステイサムが椅子を使ったアクションシーンが、この映画をB級アクションとして売りたい姿勢を示しているけれど。ん~やっぱどっちつかずの中途半端、残念な映画だよな、コレ。

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