ショートショート『助けてあげる』

2012年10月01日 | ショートショート



ある晩、都市の真ん中に円盤が着陸した。人々が見守る中、ハッチが開いて宇宙人が降り立った。
銀色の宇宙服に身を包んだとんがり頭。まるでキスチョコだ。
「宇宙を遥か旅してきたことからおわかりのように、われわれの星はあなたがたのそれよりずっとずっと進歩しています」
う~む、確かにそうだ。確かにそうだが、キスチョコに言われたくない。
「われわれ先進星は、開発途上星の経済や社会を発展させ、福祉を向上させる使命があるのです。資金および技術の両面からみなさんを援助します。これ、宇宙の国際協力ってヤツです。よかったですね、皆さん」
う~む、確かにそれってわれわれが国家間でおこなっている国際協力と同じだ。同じだが、先進国だったはずの自分たちが上から目線をされると、イラッとくるもんだなあ。
こいつらに援助なんてしてもらった日には、南北問題みたいな深刻な問題が起きるに決まっている。
われわれには教訓がある。教訓は生かさなくてはならない。
「あの、わたしたちはわたしたちなりにやっていきますから。おひきとりください」
キスチョコが目を丸くして驚いた。
「信じられない!みなさんは本当の豊かさを理解していない」
本当の豊かさ?
「かわいそうな途上星民のみなさん。こちらをごらんください」
円盤から青い光が放射されて、夜空に映像を映し出した。まるで液晶プロジェクタだ。
映し出されたキスチョコ星人たちの生活の様子。
ああ、なんて羨ましいのだ!
空の映像を見つめる人々からため息がもれた。
キスチョコの豊かな生活ぶりを見せつけられると、今までなんとも思ってなかったわれわれの生活が、不幸に思えてくるから不思議だ。
ことわる理由なんかない。
「ぜひ、ぜひとも援助をお願いします!」
「途上星のみなさんに、やっとわれわれの善意を理解していただけたようですね。いいでしょう、では早速」
キスチョコ星人が、見たこともない美しい花を取り出した。
わあ、なんてよい香りなんだ。
「これは『繁栄の花』と言いまして・・・」



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