招き入れられた施設はNASA管制室にそっくりだった。まさかわが国にこんな宇宙局施設が秘密裡に存在しようとは。
責任者らしき博士が足早に現れた。
「タカシ君だね?夜分ご足労いただき誠に失礼。早速だが、これを聞いてくれたまえ」
博士の合図で音声が流れる。
『お~い、タカシ~、父さん明日、地球に還っから~』
父の声だ。三年前の日曜、『ちょっくらスーパー銭湯行ってくっから』と言い残し、肩に手拭い、サンダル履きで出てったきり音信不通の父の声。
「父は今どこに?」
「宇宙だよ。宇宙のどこかしらか通信してきてるんだ。話してくれるね?父上と」
「ええ、まあ。しかし父はウケさえすれば平気で嘘をつくような人間です。信じちゃダメですよ」
「とにかく宇宙からの通信なのは確かなんだ。じゃ回線をつなぐよ」
『父さん、聞こえる?』
『・・・・・・おっ、その声はタカシじゃないか。元気そうだなあ』
『銭湯行くんじゃなかったのかよ。なんで宇宙にいんだよ』
『それそれ、サウナん中でたまたま話したイプシロン星人と意気投合しちゃってさあ、一緒に飲もうってなって』
『宇宙人と飲みに?』
『地球だけで飲んで帰るつもりが、ついついハシゴで宇宙の果てだよ。いや~楽しいの何の』
『何やってんだ』
『いやだからスマンスマン。土産買って還っから。宇宙の寿司折りは地球のとひと味違うぞお』
『要らねえよ、んなの。飲みすぎて体、壊してんじゃないの?』
『ちょっと手術したが前より元気だ』
『手術?どっか悪かったのかよ』
『いや、悪いってわけじゃなくて・・・スゲーんだぜ、イプシロン星人。で、身体のパーツをいろいろ移植してるうちに・・・』
モニタ画面に映像が浮かぶ。
まるでカミキリムシ怪人の着ぐるみを着たような父の姿・・・イプシロン星人そのものじゃないか。
『どうだ?カッケーだろ、タカシもどうだ?』
『何やってんだよ。信じらんないよ』
『いいぞおイプシロン星人。こうやって十万光年隔ててタイムリーに通信できるのも、明日地球に還れるのもイプシロンの科学力あってこそだ』
『無理だろ、んなの。光の速度を超えることは不可能・・・』
『アインシュタイン、なんぼのもんじゃいっ』
宇宙局施設内全員が戦慄した。酒飲み親爺に地球の物理学を根底から否定されようとは。
『でタカシ、明日イプシロン星人の友達百人連れて地球還っから。人類もイプシロン同盟の仲間になっちゃおうぜ』
そ、それって、もしかして新手の侵略?
タカシがため息をひとつ。
『いい加減にしろ父さん、全部嘘だろ』
『あ、バレてた?うっそピョ~ン!!ウケたか?タカシ~。ハイ、それではここで問題です。嘘つきのうそピョンはホントでしょうかウソでしょうか?シンキングタ~イム!』
『やっぱりな、このクソ親爺っ』タカシが通信を叩き切った。
通信の相手は本当に父さんだったのか?そして明日、地球はどうなっちゃうのか?
その答えは、明日。
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