父、還る

2015年01月31日 | ショートショート

招き入れられた施設はNASA管制室にそっくりだった。まさかわが国にこんな宇宙局施設が秘密裡に存在しようとは。
責任者らしき博士が足早に現れた。
「タカシ君だね?夜分ご足労いただき誠に失礼。早速だが、これを聞いてくれたまえ」
博士の合図で音声が流れる。
『お~い、タカシ~、父さん明日、地球に還っから~』
父の声だ。三年前の日曜、『ちょっくらスーパー銭湯行ってくっから』と言い残し、肩に手拭い、サンダル履きで出てったきり音信不通の父の声。
「父は今どこに?」
「宇宙だよ。宇宙のどこかしらか通信してきてるんだ。話してくれるね?父上と」
「ええ、まあ。しかし父はウケさえすれば平気で嘘をつくような人間です。信じちゃダメですよ」
「とにかく宇宙からの通信なのは確かなんだ。じゃ回線をつなぐよ」

『父さん、聞こえる?』
『・・・・・・おっ、その声はタカシじゃないか。元気そうだなあ』
『銭湯行くんじゃなかったのかよ。なんで宇宙にいんだよ』
『それそれ、サウナん中でたまたま話したイプシロン星人と意気投合しちゃってさあ、一緒に飲もうってなって』
『宇宙人と飲みに?』
『地球だけで飲んで帰るつもりが、ついついハシゴで宇宙の果てだよ。いや~楽しいの何の』
『何やってんだ』
『いやだからスマンスマン。土産買って還っから。宇宙の寿司折りは地球のとひと味違うぞお』
『要らねえよ、んなの。飲みすぎて体、壊してんじゃないの?』
『ちょっと手術したが前より元気だ』
『手術?どっか悪かったのかよ』
『いや、悪いってわけじゃなくて・・・スゲーんだぜ、イプシロン星人。で、身体のパーツをいろいろ移植してるうちに・・・』
モニタ画面に映像が浮かぶ。
まるでカミキリムシ怪人の着ぐるみを着たような父の姿・・・イプシロン星人そのものじゃないか。
『どうだ?カッケーだろ、タカシもどうだ?』
『何やってんだよ。信じらんないよ』
『いいぞおイプシロン星人。こうやって十万光年隔ててタイムリーに通信できるのも、明日地球に還れるのもイプシロンの科学力あってこそだ』
『無理だろ、んなの。光の速度を超えることは不可能・・・』
『アインシュタイン、なんぼのもんじゃいっ』
宇宙局施設内全員が戦慄した。酒飲み親爺に地球の物理学を根底から否定されようとは。
『でタカシ、明日イプシロン星人の友達百人連れて地球還っから。人類もイプシロン同盟の仲間になっちゃおうぜ』
そ、それって、もしかして新手の侵略?
タカシがため息をひとつ。
『いい加減にしろ父さん、全部嘘だろ』
『あ、バレてた?うっそピョ~ン!!ウケたか?タカシ~。ハイ、それではここで問題です。嘘つきのうそピョンはホントでしょうかウソでしょうか?シンキングタ~イム!』
『やっぱりな、このクソ親爺っ』タカシが通信を叩き切った。
通信の相手は本当に父さんだったのか?そして明日、地球はどうなっちゃうのか?
その答えは、明日。



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父、帰る

2015年01月30日 | ショートショート

ある日の夕餉どき、ガラガラと玄関戸を開けて父が帰ってきた。
「たっだいまあ!」
母(53)と賢太郎(25)、新二郎(22)が驚いたのは言うまでもない。
ふいと家を出て行ったのは二十年前。以来消息不明の父が戻ってきたのだから。
「今日も忙しくってな。お、今夜はカレーだな」
「あ・・・あなた!」
「美味そうだなあ、母さん、大盛りで頼む」
「父さん!」
賢太郎が立ち上がり父を睨みつけた。父よりもずっと背が高い。
「出ていくのも突然なら、帰ってくるのも突然。無責任過ぎやしないか」
父が賢太郎を不思議そうに見上げた。
「おまえ急に背が高くなったな。声変わりまでして。どこかおかしいんじゃないのか」
弟の新二郎も立ち上がる。やはり父より背が高い。
「おかしいのは父さんのほうだろ。二十年経てば大人にもなるさ」
「新二郎、おまえまで変わり果てて」
「すっトボけてないで謝ったらどうだい。女手ひとつで苦労した母さんや、進学をあきらめた兄さんに!」
ぽかんとして突っ立っている父に賢太郎がキレた。
「謝ってほしいものか。親爺はとうに死んだんだ。出て行ってくれ」
「賢太郎、父さんの話も聞いて・・・」
「母さん、聞く必要などないさ。言い訳を並べられても腹が立つだけさ。さあ出て行け!」
父の頬を涙が一筋伝った。母子は父が泣く姿など見たこともなかった。
「家族にこんな仕打ちを受けるとはな。ああ、出て行く。出て行ってやるとも」
玄関の戸をピシャリと閉め、父は姿を消した。
「追うんじゃないぞ!」
おろおろしている母と新二郎に釘を刺すと、賢太郎は黙々とカレーを口へ運んだ。

程なく玄関戸が開く音がした。まさか?と母が覗くと、見知らぬ初老の男が立っていた。
「先程伺った者はご主人でしょうか」
母がうなずくと男は語り始めた。
「私は彼の担当医です。路上生活していたご主人は数年前心ない若者たちに襲われて瀕死の重傷を負われたのです。身体の傷は癒えたのですが脳に障害が残りましてね、記憶障害ってご存知ですか?ご主人の場合、まず記憶喪失、そして短期記憶障害です。一日経つと昨日の記憶を失ってしまうんです」
新二郎、賢太郎も母の傍らで聞き入った。
「入院中のご主人が先日一日だけ記憶を取り戻されたのです。二十年前の幸せだった一日を。そして病院を抜け出してこちらへ・・・。素性がわかった以上、入院を続けるか、お引き取りになるかはご家族の判断です。十分にご相談ください」

翌日午前中、賢太郎は担当医に相談の結果を電話で告げた。否、相談の余地などない三人の合意を。

夕餉どき、ガラガラと玄関戸を開けて今日も父が帰ってくる。
父「たっだいまあ」
母「おかえんなさ~い、あなた~ん」
賢太郎「パパ、おかえんなちゃい」
新二郎「バブー」



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矢菱虎犇、ジェームズ・ボンドと語る

2015年01月25日 | ショートショート

矢菱「皆さん、こんにちは。今回の秘宝館は特別企画といたしましてジェームズ・ボンドさんをお招きいたしました。
というのも、日本では作者没後50年で著作権が切れましてパブリック・ドメインとなるんです。007シリーズの原作者イアン・フレミング氏が亡くなったのが1964年。つまり今年から日本の小説家がジェームズ・ボンドを自作作品中に登場させるのもOKだし、勝手に007シリーズの続編を書いてもかまわないわけです。
とは言うものの、映画はプロダクションが権利を持ってるんで映像はマズイんですけどね。それに宿敵スペクター&ブロフェルドも事情ありきでダメなはずです。
でもまあ、せっかくジェームズ・ボンドがパブリック・ドメインになったんなら、この秘宝館に御本人にご登場願おうってんで本日お呼びした次第です。あ、早速いらっしゃいました!」
ボンド「♪ダンダカダンダン、ダッダッダッ、ダンダカダンダン、ダッダッダッ♪」
矢菱「はいカット~。ボンドさん、それマズイっすよ」
ボンド「マズイ?俺のテーマ曲だぜ」
矢菱「いやいや。映画音楽の権利は別なんで。普通に出てきてもらって」
ボンド「普通?マイネームイズ、ボ~ンド、ジェイムズ・ボ~ンド」
矢菱「あ、その言い回しもかなりマズイ。普通に喋ってもらえます?」
ボンド「ややこしいなあ。はいコンニチワっと」
矢菱「秘宝館にようこそ。そしてパブリック・ドメイン化、おめでとうございます」
ボンド「そう言われても自分、とっくに死んでるし」
矢菱「は?お亡くなりになってる?」
ボンド「だって俺、第二次世界大戦の帰還兵なんだぜ。そんな奴、あんたの身近にいる?いても思いっきり爺さんだろ」
矢菱「そりゃそうですけど」
ボンド「1957年ロシアから愛をこめてた時点でも三十台後半、59年ゴールドフィンガーと闘ってた時点で体力的に限界だなあって引退すら考えてたし。年齢ははっきり書いてないけど、今90超えてるのは間違いないぜ、俺」
矢菱「いや~そう言われると急に爺さんに見えてきた」
ボンド「そもそも酒好き美食好きで病気持ち、早死に一直線って設定なんだぜ。それが小説のボンドだっつーの」
矢菱「いやあ、話せば話すほどジェームズ・ボンドもの、書きづらくなってきたなあ。では、このへんで」
ボンド「え?もう終わり?おいおい、終わりなら女抱かせろよ~」
矢菱「だからソレ、映画だっつーの!」



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受験生、最後の悪アガキ

2015年01月22日 | ショートショート



センター試験三日前っ。
っつうのに、焦るばっかり。ちっとも勉強が手につかない。
ああ、救いの神よ・・・
と、その瞬間。後ろの押し入れがガラガラっと開いて男が闖入した。
な、なんなんだコイツ?まさか神様?
いやいや、こんな風采のあがらない中年男、神様じゃねえだろ。
「なんだ素っ頓狂な顔して。いや~それにしても若い。い~なあ、若いっつうのは」
ソイツはボクをしげしげと見ながらニヤニヤしている。
黒ずくめの薄汚れた服、ボサボサ髪に無精髭。
「まさか・・・泥棒?」
「人聞き悪いなあ。ま、とにかく時間がねえんだ。とりあえずコレ。ホレ」
書類封筒をボクに手渡す。何だ、コレ。
・・・年度センター試験・・・模範解答・・・
エ?コレ・・・三日後に実施されるセンター試験の模範解答じゃないか!!
「本物かどうか?は、まあアレだな。これでしっかり勉強せい。じゃなっ」
男は押し入れに戻り、フスマを閉じた。
「な、なんだよ、アンタ」
慌ててフスマを開けると衣裳ケースなどギッチリ、通路なんてない。どうなってんだ?
残されたのは模範解答の封筒だけ。
あらためて中身を確認する。間違いない。で、コレってホンモノ?

そしてセンター試験前日。
地学の最終チェックを終了、鉛筆を置いた。受験科目すべての丸暗記を終えたのだ。
ムフフフ、志望校合格間違いなし。なんて幸せ者なんだ、ボクは。
ガラガラッ
押し入れが開いて、数名の男がわらわら登場。今度は誰だ?
銀色コスチュームの男どもがボクを取り囲む。
「未来警察だ。コイツを知ってるネ?」
板状端末に写真が映し出される。こないだの男!しかも添えられているのはボクの名前!
「コイツ・・・もしかしてボク?」
「そう。未来の君はタイムマシンを盗み、模範解答を手に入れ、試験前の君に渡したのだ。きわめて重大な不正だよ」
端末にタイムマシンを盗まれた研究所と博士の映像が映し出される。お茶の水時空研究所・・・野々村博士・・・
「そういうわけで模範解答の記憶は君の脳から消し去らねばならない」
ボクは取り押さえられ、腕に注射を打たれる。
「三日前からの記憶はすべて消える。薬の影響で半年前の記憶からアヤフヤになるけどご勘弁」
半年前の記憶?それって半年前からの受験勉強がパアってこと?
「お気の毒さま。ま、それこそが君の未来なんだよ。アディオ~ス」
未来警察が押し入れへと去っていく。
ひとり取り残されるボク。
な、なんだったんだよ、一体!
頭が朦朧とする・・・眠い・・・目が覚めたら全部記憶を失ってるんだろうな。
睡魔と闘いながらノートを開く。鉛筆を握り締める。
そして・・・最後の悪アガキ・・・
『お茶の水時空研究所・・・野々村博士・・・』



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はつもうで大作戦

2015年01月16日 | ショートショート

え~あけましておめでとうございます。
とうにお正月過ぎておりますが、今年もこんな調子でゆっくりのんびり参ります。

ある年の師走のことでございます。
その年の国営放送朝ドラのヒロインを務め、大ブレークした超天然娘がおりまして、
その娘、ラジオの深夜放送で思いつきでこんなことを喋ったんです。
「日本全国民が初詣で拉致問題を解決してくださいって神様にお願いしたら解決するんじゃないかしら・・・」
このトンデモ発言がアッという間にネットで拡散、大評判となったのであります。
例年のごとく日本中で約1億人が初詣に出掛け、てんでバラバラの願いごとをしてもかなったりするわけですから、
1億人みんなが願えば神様としてもかなえざるを得ない、とまあ、そんな理屈でございます。
手放しに賛同する者もおれば、何もやらないよりいいじゃないか程度の者も、ただ単に面白半分の者もおったりで、
そのうち両手を合わせて祈る合掌ポーズで氷水をかぶって参加の意志表明をするネット動画なんてえのがアップされる馬鹿騒ぎに発展しました。
大晦日の紅白歌合戦では、大所帯の美少女アイドルグループが歌の終りに全員一斉合掌ポーズ、大人気ゆるキャラさえも合掌ポーズ、大トリの大御所演歌歌手までもが合掌ポーズであります。
そんな騒ぎの中で年が明け、日本中の神社へ国民が我も我もとド~ッと押し寄せました。
流行に乗って猫も杓子も同じ願いごとを唱えたわけであります。
さてさて、その結果やいかに?

・・・正月が過ぎ、春を迎え、夏になっても、なんら例の国に変化はありません。
やはり神だのみじゃダメなのか?
1億人が願ってもダメならそもそも初詣なんて、してもムダなんじゃないの?
そんなあきらめムード漂いつつ、風も涼しくなってきた某日、ついに例の国が動きました!
わが国政府に非公式ながら、例の国の使者が接触してきたのであります。
「日本国民1億人の願いとお聞きになって将軍様も痛く心を動かされております。ところで初詣の推定人数は1億人、お賽銭の平均は450円ほどと聞いております。つきましてはその450億円分のお願いに応えるカタチで問題の解決に当たるということで・・・」
さすが例の国、問題解決はすべて金(キム)次第、もとい金(かね)次第、ということで。チャンチャン。

こんなブログなんぞにまさかサイバー攻撃はないだろうなあ。
こんな感じでめでたい矢菱、今年もよろしくお願いしま~す。



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