偽者たちのLET IT BE

2015年04月13日 | ショートショート

「で・・・つまり君は、うちの大学に合格したのに、取り消してほしいと言うんだね?」
「そうです。ボクは偽者です。不合格にしてください。お願いします」
午後8時、某一流大学の面接室。長机を挟んでパイプ椅子に座ってボクと大学の職員。
職員がため息をついた。
「明日出直してもらうわけには?」
「ダメです。明日の朝、ボクは意のままに操縦されるロボットです」
「君、ソレって受験疲れじゃないのかね?」
メンヘラなんかじゃない。
どう言えばわかってもらえるだろう?ああ、あんな契約、宇宙人とすんじゃなかった。
高校2年、夏期講習の模試、真っ最中に頭の中で囁く声が聞こえた。
『苦労してるネ~。どう?答え、教えよっか?』
エ?誰?
『一種のテレパシーさ。君は今、遥か遠い星のホムンクルス星人と交信してるんだ』
そんな交信ができる宇宙人なら、難問も簡単に解けるかも。
『じゃ問題解いてみせてよ』
ボクの右手が勝手に鉛筆を握り直すや、スラスラと答えを書き始めたではないか。
と、手がピタリと止まった。
『お試し終了だ。全問答えを書くには契約してもらわないと』
『契約?』
『今後、君が学習するときには常に操縦させてもらいたい。それだけだ』
『授業の時も?受験の時でも?』
『もちろん』
こいつは願ったりかなったり、二つ返事で契約した。
その日から高校で成績トップに躍り出た。有名一流大学を受験、一発合格。
そしてようやくわかったのだ。
ボクは情報収集のために操られている!地球侵略の片棒を担がされている!
それでボクは、ホムンクルス星人が操縦を休む時間帯を狙って、合格取り消しを願い出たって訳。
「君、ポール・マッカートニーを知ってるかね?」
唐突に職員が尋ねた。
「ええ。ビートルズの」
「うむ、ポール死亡説ってのがあってね。66年に本物は交通事故で亡くなり、それ以降は替え玉だっていうんだ」
「単なる都市伝説では?」
「それが2015年になってリンゴ・スターが死亡説は真実だと証言したんだ」
「まさか」
「つまり、HEY JUDEも、LET IT BEも、偽者の作品なんだ。あんな名曲を世に残して偽者か本物かなんてこだわる必要あるかね?さ、帰りたまえ」
職員がパイプ椅子を立つ。話はオシマイらしい。
ボクの頭の中でLET IT BEが流れる。仕方がない、すべてを甘んじて受け入れよう。
あるがままに
なすがままに
ボクも
地球も
    


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ウンコしません

2015年04月10日 | ショートショート

いやはや世も末だな。
端末のニュースを読んで嘆息した。膝にのせた愛猫、プリンの背を撫ぜる。
昨今、今の時代が途方もない未来に感じられ、現在に現実感を失ってしまいがちだが、コレは酷い。
本物そっくり動物ロボ発売!その名も『ウンコしません』だと?
近年ロボットペットが増え続け、生身のペットを越えたのは聞いていたが。
しかもこの『ウンコしません』、発売早々飛ぶように売れて品薄状態、製造が間に合わないらしい。
誰が買うんだ、まったく。
ま確かに、ニュース動画ホログラムで確認したが、この『ウンコしません』、生身のペットとまったく見分けがつかない。
百年も前の時代、ロボットを人間に似せれば似せるほど不気味になる『不気味の谷』という現象が指摘されたものだ。
技術の進歩とは恐ろしいものである。『ウンコしません』は愛らしい動物そのもの、不気味の谷の彼岸に達しているのだ。
鳴き声、しぐさ、身体の重さ、毛並み、餌の食べっぷり、何ひとつ生身と変わらず、素人に判別は難しいらしい。
では、生身のペットとの違いは何か?
実際には中身がロボットで死なぬのはもちろんだが、ネーミングどおり、ウンコをしないので肛門がないのである。
摂取した食べ物は、腸に相当する人工消化器内で完全燃焼させ、すべて気化させてしまうらしい。
家の中で粗相して拭いたり洗ったりよ、さようなら。
散歩中にいそいそ排便の片づけをするカッコ悪さ、さようなら。
飼い主を煩わしいウンコの処理から解放する救世主、『ウンコしません』!・・・だとお?
ペットを慈しむ喜びを享受しながら、ウンコだけ無いことにする!なんと都合のよい話だろう。
「まったく酷い。プリン、お前は死ぬまでわしが面倒みてやるからな、ヤヤッ」
プリンを抱えあげ、よく見れば、肛門がない!
ま、まさか!
プリンを抱き書斎を出て居間へ。息子の嫁が観葉植物に水を与えていた。
「プリンの、プリンの肛門がないぞ!」
嫁が辛そうに話してくれた。
「お義父さん、黙っていてごめんなさい。先月、プリンは交通事故で。ヒロシが悲しむのを見たくなくてつい『ウンコしません』を購入してしまったの」
そうか。そんな事情が。確かに孫の悲しむ顔は見たくない。
あらためて懐のプリンを撫でる。プリンがロボット?いやはや信じられない。
「ハハハ、そのうちワシも『ウンコしません』に替えられてしまうかもしれんのう」
ワシがジョークを飛ばすと、嫁の握る水差しがピクリと震えた。
    


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カッパの花見

2015年04月06日 | ショートショート


昼間っから缶ビール片手に堤を歩いていたらカッパに会いました。
カッパのマボロシが見えるほど酔っちゃあオシマイだなあ、と目をこすってよくよく見てもやっぱりカッパです。
土手に腰掛けたカッパも目をこすりながら、こっちに目をこらしています。
片手にワンカップ、どうやらコイツも酔っぱらいのようです。
「カッパのヨッパライ?・・・略してカッパライ・・・」
「略すなっ」
カッパが怒り出しました。
「カッパのヨッパライがそんなに珍しいかあ」
いやあヨッパライじゃなくても十分珍しい。それにしても、カッパの声、なんか聞きなじみがあります。
ああ、そうそう、日本むかしばなしの常田富士男さんのほっこりした声です。すごんでも全然怖くありません。
ボクはカッパと肩を並べて座りました。
「で、お宅も花見の帰り?すんの?カッパも、花見」
「あたりまえじゃー。オマエらよりも楽しんどるわい」
へえ、するんだ、花見。
とカッパの頭のお皿の水に桜の花びらひとつ、浮かんでいるじゃありませんか。
こいつは風流、カッパの花見も楽しそうです。
「聞きたいか、カッパの花見」
「聞きたい、聞きたい」
カッパはワンカップをグビリ、幸せそうに微笑んで目を閉じました。
「まずシチュエーションが大切じゃ。川の両岸にソメイヨシノがわんさと咲きほこっとる場所をえらぶんじゃ。散りはじめがベストじゃな」
まあ、ニンゲンの花見も似たようなもんです。岸辺の桜の木の下にシートをひろげて酒のんで。
「オマエも目をツブれえ。それから酒をのむんじゃ」
やっぱりのむのね。ボクは缶ビールをグビリ、目を閉じました。
「酔ったところで、川底に上向きに寝て、あとは川の流れに身をまかせるんじゃ」
カッパの川流れ・・・
「川面のゆらぎにただよう、幾千の桜の花びら。花びらのすき間には青く澄んだ空。川のせせらぎ以外聞こえない静寂の中、じっと川底を流れていきながら、ゆらゆらゆらぐ水面をながめ続けるのさあ」
カッパの話を聞いているうちに、ボクの目の前にも、水面にびっしり浮かび流れる桜の花びらと青い空が鮮やかに目に浮かんできました。
すっかりお花見気分になって、缶ビールをグビグビ飲みほしました。
愉快、愉快。いい気分になって、ついついウトウト・・・目がさめると、もう夕方でした。
カッパの姿はありません。
夢、だったのでしょうか?
オヤ?
お尻のポケットに入れた財布がぐっしょり濡れているじゃありませんか。
確かめてみると、お札はそのまま、百円玉が数枚なくなっています。
ワンカップ、買いやがったな。カッパライめ。
ボクは思わずニヤリ、目を閉じるとカッパの花見をまた楽しむのでした。
    


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カウベル二転三転

2015年04月03日 | ショートショート


電話がけたたましく鳴った。不安げに高橋氏が警部を見上げる。
逆探知係に目配せをしてから、警部が高橋氏にうなずく。受話器の向こうから誘拐犯のくぐもった声。
「・・・警察には連絡してねえだろうな?」
「もちろんです。桃香は、桃香は無事なんですか?」
「今のところ、な。で、金は用意できたのか?」
「準備中です。なにせ大金なもので」
「そんだけの価値があんだろぉ?早くしろ」
「桃香の、桃香の声を聞かせてくださいっ」
「受け渡しの方法はあとで連絡する。いいか、つまんねえ細工すんじゃねえぞ」
そこでブツリと切れた。
「も、桃香~っ」
受話器を握りしめたまま、愁嘆に暮れる高橋氏。身を寄せる高橋氏の妻。
「ダメです。場所の特定ができません」逆探知係がため息をつく。
愛娘を誘拐された夫妻を、なす術もなく見つめる警部。
その時だ。警部のお腹がギュルルルと鳴った。もしや?これは?・・・
「おい!今の電話、すぐに再生できるか?」
逆探知係は慌てて装置を操作し、再生を始めた。
今し方の誘拐犯と高橋氏との通話音声がスピーカーを通して居間に流れる。
警部のお腹が再び鳴った。
「まちがいない!失敬しますぞ!」
「私も、私も同行させてください!」
居間を飛び出す警部。後を追う高橋氏。パトカーに乗り込むと、サイレンの音もけたたましく、一路向かった先は・・・

焼肉専門店『カウベル』。息せき切って店に入ると、カランコロン、ドアに取り付けられたカウベルが鳴った。
肉がジュージュー焼ける音、そして食欲をそそる香ばしい匂い。警部のお腹がギュルルル。
「警部、どうしてここに?」
「高橋さん、先程の通話に混じって微かに聞こえたのです。肉を焼く音、そしてカウベルの音が」
「ということは、犯人はこの店から電話を?」
「エ?・・・いや、以前この辺りに勤務してて思い出したので無性に食べたくなって・・・ま、食べましょうよ、高橋さん。スミマセーン、店員さ~ん・・・えっとタン塩、カルビとロース二人前ずつ」
「警部!・・・生の大ふたつ」
「いえ、高橋さん。自分、勤務中ですから中で」
そんな調子の両名、しこたま焼肉を堪能、あまりの美味さとビールの勢いで「店長を呼べ!」と怒鳴った。
と、『カウベル』店長が厨房よりダダダと駆け寄り泣き伏した。

「私が誘拐しました。申し訳ございません!!」
警部「エ?店長さんが犯人?」
高橋氏「桃香!桃香は?」
店長が呻くように泣いた。
「お二人があまりにも唐突に店に現れたので証拠を消そうと、厨房で桃香さんを・・・」
そして、今、二人が食べているお肉へと視線を移した。
高橋氏「桃香~!!」
警部「そっか。この展開だと、可愛いい娘の桃香さんって娘のように可愛がっていた仔牛だったんだ。でしょ?高橋さん」
落胆しきった高橋さんの表情からは何も読み取れない・・・
さぁ~てどっちに転がる?カランコロン。
    


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4月1日、宇宙人襲来す

2015年04月01日 | ショートショート

艦長が艦橋管制室に入ると、すでに提督は管制室の大型モニターに映し出された青い惑星をしげしげと眺めていた。
「お呼びですか、提督」
「艦長、次なる侵略目標はこの星、地球だ」
地球にはすでに数回の偵察が行われていること、侵略において地球人の抵抗が避けられないことは、艦長も聞き及んでいた。
「それで?策は?」
提督が笑う。モニターに地球のカレンダーが映し出された。
「侵略は、この日!つまり明日だ!」
指さす先は・・・4月1日。
「エイプリルフールだよ、艦長。地球ではこの日、嘘をついてもダメじゃない日なんだよ」
「嘘をついてもダメじゃない日?」
「そう。突拍子もない嘘をついて冗談、冗談って笑う日なんだ。この日に宇宙人が襲っても冗談だと思うはずだ」
奇策である。提督の思うようにいくだろうか?
「提督、では早速工作員を召集します」
「ウム。全員、この衣裳を身につけるように」
提督が着ぐるみ衣裳を提示した。宇宙人そのものの衣裳じゃないか。
「な、なんですか?コレは?」
「フフフ、宇宙人が宇宙人を装うってのがミソなのさ。地球人が思う宇宙人のほうがウソっぽいだろ?」
「なるほど。じゃ、このジッパーもよく見えるまんまで」
「お、艦長、だいぶわかってきたな、エイプリルフール」

『ワレワレハ、宇宙人ダ。地球人、降伏セヨ』
大都市上空でウソっぽい『音声変えてあります』の声が鳴り響き、侵略が開始された。
「ニューヨーク上空に巨大円盤出現!本物そっくり!」
「宇宙人がホワイトハウス訪問!大統領と会見!」
ネットにUFOや宇宙人の写真が次々と現れ、今年のエイプリルフール派手だなあ~つって世界中大喜び。
「地球人ドモ、ワレワレ宇宙人ヲ支配者様ト呼ブノダア。セーノォ」
「支配者さま~!(笑)」
・・・というわけで数時間後、地球侵略は無血のうちに完了したのだった。

「提督、やりましたね。侵略最短記録更新です」
「うむ。大成功だったな。おっと、4月1日も残り30分だ。では艦長、地球からずらかる準備にかかるのだ」
「エ・・・?せっかく侵略したのに帰っちゃうんですか?」
「エイプリルフールはオシマイっ。明日からマジメにやんなきゃな。さあて来年はどんな手で侵略するかな」
「そんな・・・そんなあ・・・そんな嘘みたいなの、ダメじゃないっすか~」
それを聞いた提督、したり顔でニヤリ。
    


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