地底怪獣ゼミラ

2012年10月25日 | ショートショート



「淳ちゃん、大変よ!」
星川航空の事務所に由利子が駆け込んだ。
「ハハハ、相変わらず慌てん坊だなあ、由利ちゃんは」
「ホントなんだから。一平君!テレビつけて」
由利子に急かされてテレビをつけると、どのチャンネルも特別報道番組ばかり。
現場に押し寄せたレポーターたちはヘルメットを被り、緊張の面持ちである。
『ではもう一度、謎の地底怪獣が代々木の森から出現したときの映像です!』
地底から這い出した怪獣は、どこからどう見てもセミの幼虫。その巨大なことといったら!
「ひゃあ、ホンモノの怪獣だあ」いつものように素っ頓狂な一平の声。
「地底怪獣ゼミラだわ」いつものように唐突に怪獣の名を口走る由利子。
『アッ、科学特捜隊のジェットビートルが駆けつけました!ゼミラの頭上を旋回します』
由利子が叫ぶ。「がんばって、科特隊。特に、フジ隊員!」
ロケット弾を一発発射!ゼミラの腹部に命中!
『ゼミラの腹部が傷つき、白っぽい体液が。ゼミラ、苦しんでます』
「ゼミラがかわいそう」涙ぐむ由利子。
苦しみ悶え這っていくゼミラに同情していたのは、彼ら三人だけではなかった。
『全国から届く苦情の声に、ムラマツキャップは撤収を決意、科特隊が帰還します!』
「怪獣ゼミラの体長は約9メートル。確かにセミとしては超巨大だ。だがダンプカー程度の大きさのセミに過ぎない。攻撃力もないし、そもそも凶暴ですらない」
いつのまにやら事務所に来ていた一ノ谷博士が呟く。
博士がさらに説明を加えた。
「一方、体長40~50メートルのウルトラマンがここで登場すれば、ゼミラは子猫ちゃんほどの大きさなのだよ」
「かわいい!ゼミラなんて呼んだらかわいそう」おいおい、命名したのはおまえだ。
「で、ゼミラはいったいどこへ?」
「万城目君、羽化するために高い木をめざしているのだよ。セミだからな」
一同、ピンと来た。
「東京スカイツリーだわ!」
同じ頃、全国のお茶の間でもピンと来ていた。
がんばれ、ゼミラ。スカイツリーで立派な親ゼミラになってね!!
もはや特別報道番組は、感動の動物番組の様相を呈しつつある。
ビルの谷間を這っていくゼミラ。追いかける報道ヘリ。かぶさる感動のBGM。
ところが!
ゼミラはスカイツリー方面を逸れていく・・・。
「ゼミラ、そっちじゃあない!」
「そっちは昭和だあ!」
「怪獣なら怪獣らしくしなさい!」
ゼミラの行く手には、東京タワーがそびえ立っている。



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