妖精ハンター

2013年08月30日 | ショートショート

いや本当、本当。本当に見たんだって。
岡山の杉林で。本物の妖精を、この目で。
ボクは元々妖精が見えるタチでさ。生まれ故郷のウェールズの森でも妖精を幾度も見たことがあるんだ。
写真に撮ったことだって数回ある。でも、バッチリ写したつもりでもさ、いざ写真見たらトンボやアゲハにすり変わってて。ホ~ント不思議。妖精がいるって証拠、つかみたいなあ。
それに、生きたまま捕まえた妖精には、百万ポンドの懸賞金がかかってんだぜ。死んでたら半額、写真だけでも10分の1さ。
日本で妖精目撃!ってネット情報見て、一獲千金を狙って単身ニッポンに来たわけ。
で・・・あの日もいつものようにカメラと虫捕り網をたずさえて、目撃場所近くを探してたんだ。
お昼過ぎ、太い杉の幹に寄っ掛かって、しばし休んでた時・・・
ん?
木々のざわめきやら小鳥のさえずりに混じって、規則的な、聞きなれぬ音が。
これは・・・イビキだ。ナニモノかがグウスカ寝ている。
抜き足差し足、音のほうへ近づいて木の陰からそっと覗くと・・・
いたのさ!妖精が。木漏れ日の中、落ち葉を枕に熟睡中の、30センチほどの妖精が。
西洋のソレとはちょっと違ってたな。中年太りの親爺風。ダボシャツ、腹巻、ステテコ姿。イッツ・ジャパニーズなタイプ。背中に透きとおった翅が見え隠れしてなかったら、妖精だってわかんないような。
ボクは夢中でシャッターを切った。でも、妖精は眠りこけたままさ。
と、そのとき心の声が囁いたんだ。
「今なら捕まえることだって簡単じゃないか」
すると、妖精が百万ポンドの札束に見えた。ボクはソレにそっと虫捕り網をかぶせるだけ。
虫捕り網の柄をつかむ手の震えが止まらない。網を伸ばして、伸ばして・・・
えいままよ、と振り下ろした・・・獲った!
と思った瞬間、そいつは目にも止まらぬ速さで網をかいくぐり、前転姿勢でゴロリゴロリ、深い茂みへ。
百万ポンドがボクの手をかすめて消えたことに、しばし茫然。
でも写真、写真がある!
カメラを操作して画像を確認していく・・・エ?なんだコレ!?
どれもこれもヘビ、ヘビ、ヘビ。眠りこけたヘビの写真が何十枚・・・何百枚。
またしても・・・妖精を見たなんて誰も信じてくれないな・・・
落胆しきったボクは、写真データの全消去ボタンをプチッと。
どう?ボクの話。信じらんないだろうなあ、やっぱ。
ねえ、それにしてもニッポンのヘビってのは、ずんぐりしてて不格好だねぇ。
エ?どんなって?えっとお、絵に描いたらこんな感じ・・・。





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絶叫館

2013年08月25日 | ショートショート

雷の閃きに、断崖絶壁に建つ妖しげな洋館の影が浮かびあがった。
館の大広間中央、糸の切れた操り人形のように横たわるメイド姿の若い女性の骸。
それを取り囲むようにして、三人の容疑者。そして、名探偵桶津香具郎(おけつ・かぐろう)の姿があった。
「桶津くん、で?犯人はわかったのかね?」
館の主である、伯爵が問うた。
大佐「わかる筈があるまい。我々にろくに質問もしとらんじゃないか」
博士「まあいい、ひとつ、君の推理とやらを聞こう」
容疑者三人の顔を眺めわたすと、桶津は燭台を手にとって死体へと灯を近づけた。
「これをご覧なさい」
一同環視の中、桶津は白い首筋を露わにした。
「こ、これは・・・!」
メイドの頸部には鋭い牙の咬み痕がくっきりと。
「ということは・・・」
皆の視線が伯爵へと注がれる。
「ち、違う!わしは決してそういう伯爵じゃなくて」
桶津が不敵に笑った。
「伯爵、貴方のことは十分に調べさせていただきました。貴方は昨年アフリカ旅行中にゾンビウイルスに感染、細胞のひとつひとつまで侵されて、とうに死んでいる!ドラキュラじゃなくてゾンビなんだよ!」
「な、何を証拠に・・・」
「もうじき真夜中だ。人間の脳みそを啜りたくてたまらなくなるはずだ」
続いて桶津は大佐の顔へと灯を向けた。
「本物の大佐は数年前の演習中に爆死してますね。貴様の正体は、大佐そっくりに造られた軍事ロボットだ!」
慌てた大佐がキュルキュルと機械音を立てた。
作戦を阻む障害は爆破排除する・・・それが彼に組み込まれたプログラムである。たとえ人間であろうとも。
「どいつもこいつも・・・ここはバケモノ屋敷か?」
呟いた博士を桶津が睨んだ。
「そういう博士、貴方は半年前にUFOに連れ去られたはず。あんたの正体は、人類家畜化を企てる侵略者だ!」
驚きのあまり、博士の額を突き破って触角が現れた。
「ソウダア。俺ハ宇宙人ダア。アア、生キタ人間ヲ貪リ食イタイ!」
桶津が満足げに笑う。
「そう、皆さん全員、犯人ではない。というか、人間ですらないので罪に問われませ~ん」
真夜中を告げる柱時計の音が鳴り始めた。床に倒れたメイドの腕がピクリと動く。
「そして、この女性すら吸血鬼であって人間じゃないし、死んでもいない。ってことで、殺人事件でもなんでもなかったのです。これにて一件落着!」
時計が鳴り終わる・・・探偵の顔がみるみるこわばっていく・・・館に、身も世もない絶叫が鳴り響く。



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