ショートショート『おイモの神さま』

2012年10月02日 | ショートショート



ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ。
おなかに響く音がします。たくさんの神さまが集っていることでしょう。
「いよいよですかな」と芋山さん。
「いい日和ですからな」と芋田さん。
芋山さんも芋田さんも、ほら、まるまると肥えています。
「いよいよって、なにが始まるの?」
ボクはパパとママに尋ねました。
「なにがって、決まってるじゃないか。イモほりだよ」
「なんにもこわがること、ないんだからね」
イモほり?
「みなさん。祝福の日がまいりました。聖オイモデブ教会にお集まりください」
司祭様の声です。一同、教会に馳せ参じました。
司祭様が慈愛に満ちた眼差しで一同を見渡しました。
「さあ、みなさん。この汚れた土の世界から解放され、聖なる神と一体となる時です。
みなさんはいかなる天上の姿を望みますか?」
「大学イモ!」
「スイートポテト!」
「芋焼酎!」
「お芋の天ぷら!」
「みなさんの美味しい姿を神さまはさぞお喜びになるでしょう。
思い返しましょう。母なるツルが神の手で地に植えられた日を」
「われらの創造主!」
「清らかなる水を注ぎ、滋養豊かな肥料を与え、養われた日々を」
「神々の愛!」
「今、祝福の門は開かれん。神はわれらを食し、われらは神の一部となれり」
「食いしん坊バンザイ!」
そのときです。
芋山さんの頭の先のツルがグイッと上に引っぱられました。
「みなさん、お先~」
芋山さんが高く高く天上に消えてゆきました。
すると、今度は芋田さんも。
「ヒャッホ~、上で待っとるよ~」
ボクはママにしがみつきました。
「ボク、こわい・・・」
「おかしな子。おイモがおイモの運命を受け入れなくてどうするの?」
イモなんかイヤだ。食べられるなんてイヤだ。
「神さま、どうかお願いです。
ボクを、神さまの子どもにしてください。
おイモになった夢を見ていたんだってことにしてください。
一生けんめいお祈りをしていると、オヤ?おなかに響く音がします。
ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ。
すると、子どもたちの歓声や小鳥のさえずりまで聞こえてくるではありませんか。
目を開けて見回すと広いおイモ畑、幼稚園のお友だちはイモほりの真っ最中です。
どうやらイモほりの最中にお昼寝してしまったようです。
ああ、よかった。ボク、人間なんだ。それにしても、こわい夢だったなぁ。
ボクは大喜びで駆けだしました。イモほりしているお友達の輪の中へと。
・・・ってことに」



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