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いわゆるショートショートの禁じ手

2013年12月07日 | ショートショート




なんてこった・・・ついに、ついにやっちまったのか!
先月末、隣国が防空識別圏を新たに設定した。
それは、自国を守るために設定した警戒範囲という、従来の防空識別圏を逸脱していた。
他国の民間機にまでフライトプランの提出を求め、応じない場合は敵対者と見なすという暴挙であった。
しかし、しかしまさか、わずか一カ月で、このような事態が起きようとは。
華やかな御馳走を前に家族に囲まれ、至福のひとときを過ごしていた一等海尉のもとに、一報が届いた。
緊急電話から聞える上司の言葉に冷や水を浴びせられた海尉は、恐る恐る尋ねた。
「で?軍用機ですか?ま、まさか・・・民間機?」
「詳しくはまだ。各基地で確認を急いでいるが、該当はない」
「つまり、民間機?隣国が民間機を撃墜した・・・その可能性が高いんですね?」
最悪だ。よりにもよって、こんな夜に。
「現場に急行した護衛艦の一隻が機体の一部を発見したらしい。すぐそちらに向かってくれ」
海尉が哨戒ヘリで護衛艦に急行する途上、隣国政府は声明を発表した。
『わが国の防空識別圏内を飛行計画の提出なく航行する小型機を発見しスクランブル、再三にわたる警告にも一切応答せず飛行を続けたため、国防上の脅威とみなし撃墜』・・・そう声高に述べていた。
民間の小型機か。何にしても世界を揺るがす大事件に違いない。
哨戒ヘリの黒い影が、海上の護衛艦ヘリポートへとゆっくり舞い降りる。
ヘリポートで出迎えた護衛艦艦長は顔なじみだったが、これほど沈痛な面持ちは初めてだった。
「海尉、残骸はすべて回収しました。どうぞこちらへ」
引揚機の下、甲板の一角がブルーシートで四方を覆われ、上部から皓々と光が漏れている。
艦長に促されるまま、その一角へと向かう。
海尉が身震いしたのは、年の瀬の海風ばかりではなかった。
バサリ。
海尉と艦長の到着を待って、警備していた隊員がシートをめくった。
何であろうとこの目で見て、上司に報告しなければならない。
覚悟を決めて足を踏み入れる。海尉の目が驚きに見開かれていく。
それは民間の航空機などではなかった。
大破した橇。
有蹄類数頭分の血染めの肉片。
巨躯の老爺の焼け焦げた亡骸・・・。
海尉の顔が艦長のそれと同じように色を失う。
朝の訪れとともに子供たちの悲痛な叫びが世界中を駆けめぐるだろう。
ああ、なんて夜だ。
海尉が思わず見上げた空に、いくら見渡せども星ひとつ見つけることはできなかった。



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