家が近づいてきたら、もう孫たちのにぎやかな声が聞こえてきます。長女家族も帰ってきとるな。
う~ん香ばしいこの香り、わが家のお盆定番、BBQの真っ最中のようです。
庭に入ると芝生の上のコンロを囲んで家族全員大集合、みんな日に焼けて白い歯が眩しくこぼれ、ばあさんも元気そうじゃ。
どれどれ、ワシもひとつ。
「ジージ」
末の孫娘のミリが最初に気がつきました。ヒエエエ!長女の悲鳴に視線の先を見た家族一同、ワシの姿に蒼然。
腰を抜かしたばあさんは芝生に倒れたまま空に向かって南無阿弥陀仏。
そりゃまあそうでしょう。病気を患って数年前に死んだはずのじいさんがひょっこり戻ってきたのですから。
「お、お盆だから戻ってきたのか?」
「それともお墓参りの催促に?」
「じょ、成仏しなはれ~!」
まったくどいつもこいつも。
「縁起でもない。ワシゃ死んどらん。ワシが戻ってきたのは、あの世からじゃなく未来じゃ!」
「未来?父さんは確かに火葬場で…」
「実は火葬場の焼却炉が未来人の作ったタイムトンネルになっとってな。選ばれたワシは未来に招かれ蘇生されたうえ、未来の医療でホレこのとおり、以前にましてピンピンじゃ」
長女が訝しげに聞きます。
「そんなおバカなSF話、にわかに信じ難いわ。百歩譲ってなんで父さんが?」
「盆踊りじゃよ」
「お父さんオリジナルの、あのテキトーな踊りのこと?」
どこまでワシをバカにしとるんでしょう、あっちの世界ではバカウケなのに!
「ジージ、コレどーじょ」
末孫のミリがBBQの串を差し出します。ああ子供はなんて素直なんでしょう。
ところが串はワシの手をすり抜けて芝生にポトリ。
長男が真っ青な顔になりました。
「や、やっぱり幽…」
「バカな!タイムマシンは12次元宇宙の歪みを利用しとる。違う時空間に存在しておるから干渉しあわないのじゃ」
「全然わかんない」
長女が全然わかんなくても、孫たちはワシに突進してはすり抜けてもう遊び始めています。未来は子供たちのものです。
「ジージのボンオドリおしえて!」「ボクにもボクにも!」
せがむ孫たちに自慢の盆踊りを教えてやることにしました。
そのうちビールで酔った息子たちも踊り始め、ばあさんも踊り、イヤ楽しいのなんの。
「ええい、未来の盆踊りだろーが、あの世の盆踊りだろーが、踊ってやるわ!ア、ソレ!」
長女まで缶ビールと串を手にヤケクソで踊り出し、そりゃもう最高のお盆です。
孫のター坊が踊りながら尋ねます。
「おじいちゃん、今度はいつ帰ってくんの?」
「地球の磁場の関係でタイムマシンが稼働するのは毎年お盆になるのう」
「や、やっぱり幽…」
イヤもうどっちでもいい感じでノープロブレム盆踊り!
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はっきり言ってボクは面食い。
女子って顔がカワイイのがいちばん。エロビデオでも顔最優先、スタイルとかパーツとか二の次だし。
今人気の美少女アイドルグループだったらダントツでまゆゆ。
嗚呼カノジョがミカじゃなくてまゆゆだったらなあ。
と、そんなことばっかり考えてたら、
「あ先輩?オレ、タカシっす。LINEつながりでデキたんすよオレ、カノジョ。で、そのカノジョの友達って娘が先輩の写真見て気に入ったっつうんすよネ。その娘、えっとアイドルグループのまゆゆ似で・・・」
後輩のタカシがいきなりそんな連絡してきて。
「またまたあ。まゆゆクラスがそんじゅそこらにいるはず・・・」
タカシが待受の写真をボクの目の前に。
ゲゲッ。二人ともすっげ~美少女。てか、タカシが指さした娘、まゆゆまんまじゃん!
「会いません?この娘。・・・あ、スンマセン、先輩、カノジョいましたっけ?」
「イヤ、会う!会わせてください、タカシさんっ」
んなわけで週末、タカシんちにその娘が来ることに。
前日の晩、ボクはミカにお別れメールを打った。だが、いざ送信ってところで思いとどまった。
待て待て。例の写真、すっげ~盛ってあるかも。実物に会ってからでも遅かないゾと。
そして当日。タカシの部屋でケータイ片手にソワソワしながら待っていると、ほどなくやってきた。
「失礼しま~す」
ドアから顔を覗かせた顔、待受そのまんま。まゆゆ本人?めっちゃカワイイ!
思わず送信ボタンに指が・・・と、まゆゆが部屋の中に入っ・・・エエ~!!
素っ頓狂な声を上げてケータイ落としそうになった。
だって、まゆゆソックリの頭の下、数十本の細長い足が床まで伸びていたのだ。タコ型火星人みたいに。
タカシのカノジョもおんなじ。白くて長い紐状の足が絡み合いながら頭を支えている。
「タカシ・・・人間じゃないよネ」
「でも美少女でしょ?問題っすかソコ?」
するとその娘がまゆゆまんまのウルウル瞳でボクの目を覗き込んだ。
「驚かせちゃったらゴメンナサイ。でもアタシ、会ってもらえてすっごく嬉しいです。あの、よろしくお願いします!」
声もまゆゆのまんま。
でも、握手を求めて伸びてきたのは白い触手のうちの一本。
握手、する?つきあっちゃう?ああ、どうする?
タカシが耳元で囁いた。
「ちなみにカノジョたちの足、週イチで生えかわって。ソレ茹でたらめっちゃ美味いんすヨネ」
ボクの指が送信ボタンをプチッ。
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夏休み恒例、怪奇現象スペシャルの収録現場。
左右ゲスト席で、科学評論家の私と霊能力者K氏は開始早々睨み合っていた。
「はっきり申し上げよう。霊なんてものは存在しない。根拠などどこにもない。非科学的だよ、まったく」
私の挑発にのK氏の禿頭に血管が浮かんだ。
「じゃあアンタ、心霊写真や心霊動画、そのすべてがトリックだと言うのか?」
「トリックばかりじゃない。ハレーションや多重露出、撮影ミスによるものも多い。それをあんたらが心霊現象に祭り上げてるんだ」
「この罰当たりめっ」
火花を散らす私たちを司会者がとりなした。
「まあまあ、バトルはのちほど。さて今週はなんと、呪いの幽霊掛け軸を実際にスタジオでご覧いただきましょう!」
不気味な音楽とともに照明が落とされる。中央に青いスポット、スルスルと掛け軸がスタジオ中央に降りてきた。
「持ち主のTさんにお話をうかがっております。どうぞ」
司会者の紹介でVTRが流される。
顔にボカシ入りのTさんが音声変えてありますの声で、掛け軸を知人から譲り受けて以来身内に起こった不幸を並べ立てた。
バカバカしい。どこの家庭でも不幸ごとのひとつやふたつ起こって不思議はない。
VTRが終わり、司会者が掛け軸の前へ。
確かに不気味な絵であった。
絵の下隅に枯れススキ数本が風にたわむ様子が水墨で描かれているだけ。なんとももの寂しい。
だが、これのどこが幽霊掛け軸?
K氏が唇を震わせながら言う。
「よほどこの世に怨みが・・・こんな恐ろしい形相で睨む女は見たことがない」
またそんなことを!私はK氏を罵った。
「馬鹿馬鹿しい!ここに描かれているのはススキだけじゃないか!騙されてはいけませんよ、皆さん!」
スタジオ中の全員が私を見た。出演者も客も撮影スタッフたちも。
司会者が私を凝視して問う。
「ま、まさか見えないのですか?掛け軸に描かれた幽霊の絵が!」
司会者と同じ顔でスタジオ全員が私を凝視している。
「み、見えないが」
観客数名が悲鳴を上げた。アシスタントの女子アナが気を失って倒れる。
「え、まさかホントの霊現象?・・・」K氏までもが震えながら呟く。
なんてことだ。
見えないはずの私が見えないことで霊を認めてしまうなんて。
ススキ以外描かれていない水墨画に、私は恐ろしい形相の幽霊がじっと私を見つめているのを感じ始める。
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「先輩、知ってます?この道、出るらしいですよ」
助手席の小林が携帯を弄りながらボソリと言う。
空調メンテの会社に勤め、隣県にもまたがったエリアを任されて、今夜みたいに仕事帰りが夜中になることもしばしばだ。
ここは国道とはいえ幹線道路から外れた山道で、対向車とすれ違うことも滅多にない。出る、という噂は私も聞いたことがある。
首のない赤ん坊を抱いた狂女が車を追いかけたとか、トンネルを抜けた途端生首が目の前に落ちてきたとか。
だが今この状況でそんな会話はご免だ。
「ホントらしいっすよ。この道、出るっての」
小林が重ねて言う。私はため息ひとつ。
「なあ小林、その手の話ってタダの噂なんだ。誰に聞いても誰かから聞いた話なのさ。尾ひれがついてひとり歩きしているだけ」
車がトンネルへ吸い込まれ、車内もトンネル内の照明でオレンジ色に染まった。
「ほら、トンネルの照明でフロントガラスに汚れを拭き取った跡が浮かび上がったろ?子供たちがてのひらをペタペタ押しつけて手の脂分を付けてたら、てのひらが浮かびあがるんだ」
「フロントガラスに手がたくさん見えたっての、それが正体なんですね」
「うむ。子どもがフザケて顔なんか押し付けてたらフロントガラスに顔ってことになる。怖がっていたら何でも怪奇現象に見えちまうわけさ」
「なるほど。先輩みたいに割り切れたらいいなあ」
…?
話しながら、何かが変な気がしてきた。何だろう、この違和感。
「小林、なんか可怪しくないか?」
進行方向はトンネルが続くばかり。続く、ばかり…?!
ひたすら続いて、出口がない!
「小林、トンネルの出口がないぞ!どうなってるんだ?」
小林が携帯のGPSで位置を確認しようとする。
「おい、小林、さっきの撤回な」
その時、遥か先に小さく小さく黒い出口らしきものが…それは次第に大きくなって。
車が外に吐き出された。
長いトンネルをやっと抜け出た安堵感に満たされた。
落ち着くとすぐに背筋が寒くなった。
たびたび利用するこの道路、こんな長いトンネルなど断じて存在しない!
慌てて車を路端に寄せ、運転席を飛び出し後ろに目を凝らす。
暗い夜道だけ。今脱したはずのトンネルなど、どこにもない。
「トンネル、今のトンネルがない!」
助手席の小林を呼ぶが、助手席に人が座っていた形跡はなかった。
そうだ、同僚の小林は…
先月、交通事故で死んでしまったじゃないか。
仕事帰り、携帯を弄って運転を過って。確か、このあたりで…
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スマホの呼び出し音。お祖父ちゃんからだ。
「お、タカシか?スマン、スマン。スマホいじってたら、どこがどうなったやら・・・掛けちまった」
「え~爺ちゃん、また間違いかよ」
ボクは思わず苦笑する。
スマホってあるんだよね、操作してたらミスって電話掛けちゃうっての。
それが毎度毎度なのだ、お祖父ちゃんの場合。
「いやだからスマン、スマン。まあええ。タカシ、栄養のあるもん、ちゃんと食うとるか?」
「心配ないって。生活費かかんないように自炊してんだぜ、ここんとこ」
「えらいのうタカシは。で、盆には帰ってこれんのか?」
「無理かなあ。卒論の準備もあるし、バイトも入れてるし」
帰りたくても帰れないよ、お祖父ちゃん。
「大変じゃのう。暑いから無理するんじゃないぞ。宅配で野菜でも送ってやろうか?今年はスイカが豊作でのう」
そうか。去年の夏も暑くてスイカがよく育ったっけ。
「気持ちだけでいいよ」
「甘いぞ、今年のスイカは」
ひとしきり話して電話を切った。そして『おじいちゃんと電話』アプリも終了する。
ほどなくして、今度は父から電話が掛かってきた。
「何回か電話したんだぞ、えらく長電話じゃないか。彼女でもできたか?」
「そんなんじゃないよ。お祖父ちゃんと話してたんだ」
「・・・オマエ、暑さで変になったか?祖父ちゃんは死んじゃったろうが、昨年の秋」
「わかってるさ。アプリなんだよ。コレ使うとお祖父ちゃんと電話で話せるんだ」
「アプリ?スマホ?それでお祖父ちゃんの霊を呼び寄せるのか?」
ボクは思わず吹いた。
「説明してもわかんないだろうけどさ、Siriみたいな音声会話機能と、お祖父ちゃんの会話音声記録との融合なんだ」
「うむ、わからん」
「だろ?まあ、つまりは、あたかもその人と話しているかのように話せる、そんだけのものなんだけどさ」
「う~む、わからん」
「で、父さん、何か用事なの?」
「ああ、ソレソレ。オマエ、盆には帰ってこれんのか?」
またそれ。笑いながらもなんか切なくなった。
「帰ってこいってタカシ。祖父ちゃんの畑のスイカ、今年も甘いぞお。ちょっと母さんと変わるから・・・」
母さんまで電話に出たら、泣いちゃうじゃないか。
「イヤ、いいって。またかけるから」
「暑いから無理しちゃダメだぞ」
「わかってる、わかってるって。じゃあね」
ボクは電話を切った。
そして『親子で電話』アプリも閉じた。
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「宅配便で~す」
アパートのドアを開くと、宅配の男が立っていた。青いキャップに青の制服が目印の大手の宅配業者だ。
頼んでないぞ、何も。
「こちらサインお願いします」
言われるままに受け取り、リビングで中身を確認する。
出てきたのは、ロボットの手。人間とほぼ同じ大きさの機械仕掛けの右手である。なんだ、こりゃ?
「宅配便で~す」
翌日もまた荷物が届いた。今度は腕が入っていた。手と組み合わせるとピタリと合った。
パーツを組み立てていくとロボットができるって寸法か?でも頼んでないぞ、こういうの。
宅配業者の男に問いただすが、確かにボク宛に送られた物だと言う。
宅配は毎日届いた。足先、膝、胴体・・・。それぞれの部品はピタリと接合し、ロボットが組み立てられていく・・・
リビングの隅に立つロボットはついに頭を残すだけになった。
ところが翌日、宅配は来なかった。翌日も翌々日も。
一週間後痺れを切らして、宅配業者に連絡を入れた。
ほどなく例の男がうちに来た。
「ここまで完成してるんだ。先方に連絡して届けてもら・・・」
「ほら、これで完成」
宅配業者はいきなり自身の頭を両手で抱えて引きちぎると、ロボットの首に載せた。
すると首はピタリと据わりロボットと接合した。と同時に首なしの宅配業者が崩れるように倒れた。
鮮血がドクドク、フロアに広がっていく。
「おい、これ、何とかしてくれよ!」
ボクが叫ぶと、ロボットはボクの頭を引きちぎった。そして宅配業者の胴体に接合する。
「な、何てことしてくれるんだ!戻せ!元に戻してくれ!」
ロボットになった宅配業者の頭が爽やかに言う。
「すべてはあるべき場所に。さあ、次はあなたの番です」
ボクの番?
宅配業者の頭を載せたロボットがライトブルーのキャップを脱いでボクに深々と被せる。
ボクの頭を載せた宅配業者の体は勝手にリビングを出て、玄関を出て、宅配業者のトラックへと向かう。
「ボクは一体どうすればいいんだ?」
とまどうボクと裏腹に体は運転席にすらりと乗り込むとエンジンをかけた。
ボクは次第にわかりはじめる。
トラックの貨物室にはロボットの手や足や各部品が山積みにされている・・・
それを届けた先で組み立てられたロボットにボクの頭を・・・
そして宅配業者の体には新しい頭を・・・
すべてはあるべき場所に・・・
さあ、出発。
ボクはハンドルを操って、そう、あなたの家へと向かう。
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酒場で知り合った男はビルメンテナンスの会社に勤めているとかの、細身の穏やかな男だった。
ひとしきり話した後、彼が妙なことを尋ねた。
「幽霊って信じます?」
ボクは信じないと告げた。
「じゃ宇宙人は?」
ボクは首を振った。仮に存在したとして、わざわざ地球くんだりに訪れる理由がないと説明した。
男は笑みを浮かべたまま、ブランデーを啜った。
「見たんですか?幽霊を?それとも宇宙人?」
男はゆっくりと頷いた。
「両方・・・」
男は話し始めた。
三年前の夏、豪雨の中、仕事先に向かう途中で宇宙人を轢いてしまった。
銀色の宇宙服、頭でっかち、黒い大きな瞳、いかにも宇宙人ってヤツを。
面倒なことに巻き込まれるのは厭だったし、大雨の車外に出るのも億劫で、轢き逃げしてしまった。
数日の間、宇宙人の死体発見のニュースがないか気にかけたが、結局報道されることはなかった。
数週間経って忘れかけたころ、枕元に宇宙人の幽霊が立った。
「すまない。アレは事故だ。どうか成仏してくれ・・・って宇宙人も成仏するのか?」
何を言っても、相手はキョトンとしている。
「おい、言葉通じてるか?何か言ってみろ、おい」
なんか声を出したが、キュルキュルピイピイ、まったく通じない。
「オマエも幽霊なんだから、こんくらい覚えんとかないと。ハイ、言ってみろ、うっ」
「う・・・」
「そうそう、うまいぞ。次、らっ」
「ら・・・」
「う、ら、め、し、や、うらめしやー」
「う・・・ら・・・め・・・し・・・や・・・」
「いいぞ~、もっと怨みをこめてもう一回!」
ファーストコンタクトはかくおこなわれたのであった。
夜な夜な現れる宇宙人と意思の疎通ができるようになって、ヤツが500光年離れた惑星から訪れたこともわかった。
夏の終わり、宇宙人が別れを告げた。
そろそろ自分の星でジョーブツしたいらしい。
「せっかく地球まで来た途端、轢き殺しちまってホントにすまんかった。故郷の星で安らかに眠ってくれ」
宇宙人は両手をダラリ、幽霊ポーズで次第に薄くなって消えた。
男が話し終えると、ボクはオンザロックで乾杯した。
「面白かったです、でもネタでしょ、ソレって」
男はなんとも言えない苦笑を浮かべた。
それから千年の後。
とうに人類は滅んで広大や荒野が広がっていたが、そこに巨大円盤が現れた。
そして大音量でメッセージを流したのだった。
「う、ら、め、し、や・・・うらめしやー!」
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生まれつきニオイに敏感なせいで損ばかりしている。
嗅ぎ分けることさえできれば、ニオイの判定士になったり香水の調香師になったり、使いみちもあるのだが。
残念、ボクの場合、ただニオイに過敏なだけなのだ。
人ごと、場所ごとに特有のニオイが人一倍鼻を刺激し、耐えがたいほどにクサイと感じてしまう、ただそれだけ。
他の感覚と比べて嗅覚の救いは、ずっと同じニオイにさらされていると鈍感になっていく点だ。
クサイ相手と同席し避けられない場合、ボクはひたすら鼻が麻痺するのを待ち続けることになる。
ただI君は違った。彼のニオイが和らぐことはなかった。
中学2年生の夏休み明けに転校してきたI君は社交的で、すぐにクラスの皆に打ち解けたが、ボクだけは無理だった。
I君が近くに来ただけで、鼻は曲がり、目に沁みた。
一体全体、この刺激臭は何なんだ?
ニキビの脂のようで・・・軟膏や湿布のようで・・・アジアのどこかの香辛料か、漢方薬みたいでもあり。
とにかく酷いニオイなのだ。
ニオイのせいで人を遠ざけがちなボクにも、I君は愛想よく近づいてきた。
彼が遠ざかるまで、ボクは顔では笑いつつ、鼻腔に力を入れて空気を吸わないようにしてひたすら耐えた。
ある日、I君から彼の家に遊びに行く仲間にボクも誘われた。
好奇心に負けてボクはI君宅に入った。玄関に足を入れた瞬間、例の強烈なニオイが襲いかかった。
数倍、いや数十倍の濃厚さだった。コレってI君の体臭じゃなく彼の家特有のニオイだったのか?
小一時間の滞在だったがボクは耐えに耐えたことを、十五年経った今でも思い出す。
「久しぶりだなあ。エ?駅に行く途中?送ってやるよ、さ、乗れって」
十五年ぶりに再会したI君は相変わらず愛想よかった。
会社帰りに駅に向かって歩いていたら、ピカピカの外車が勢いよく歩道に寄って、運転席からI君が覗いた。
強引に誘われて断るのも変なので、助手席に腰を沈めた途端、十五年の時を隔てて、あの悪臭に襲われた。
まったく変わりないI君のニオイに目眩がした。
「ヘエ、お互い地元で就職してたんだな。知らなかったなあ、Y君、同窓会とか来ないんだもん」
I君が車の窓を閉め、ロックをかけた。車内の空気が澱み始める。ああ、乗るんじゃなかった・・・
運転しながらI君は話し続け、ボクは耐え続けた。
ふと気がつくと、交差点で車は駅とは反対方向に方向指示器を出している。ボクが指摘しようとすると、I君が言った。
「知ってたよ。中学ん時っから。キミが人一倍、鼻がきくってネ」
心臓が飛び出しそうになった。
「Y君、気づいてたんだろ?ボクが人間じゃないって」
ニオイが限界に達し、意識が朦朧としてくる。
ああ・・・ニオイに敏感なせいで損ばかり・・・嗅ぎ分けることができさえすれば・・・
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幽霊ロボお?(笑)
ロボットなんてそもそも機械のカタマリでしょ、バケて出るはずないじゃん、そう思うよね、みんな。
でもさ、粗末に扱われたカサがバケて『からかさオバケ』になるんなら、ロボットがバケて出ても不思議じゃない、ソレに気づいた時には遅かった。
去年、ひとり暮らしを始めたボクのために両親が買ってくれたのは、中古品のお手伝いさんロボ。
お年頃のボクがヘンな気を起こさないようにと、わざわざオバはん仕立てにしてあった。
小太り体型を地味な服に包んで、割烹着。
同級生でひとり暮らししている連中は、メイドコスチュームの美少女ロボなんかと同居してるってのに。
早く壊れちまえと思っていたら、今年になってホントにガタが来はじめた。
ある日の食事時、ふとロボットの顔を見ると、片目は上を向き、もう一方の目は下を向いている。
しかも口をポカンと開けて。アホを絵に描いたような感じ。
別にボクが壊れろと願ったからじゃない。安物だし中古だし。修理するくらいなら美少女ロボに買い換えだ。
もっとガタが来れば・・・そう思っていたら日増しに奇怪しくなっていった。
みそ汁の具がナマのままだったり、掃除機のゴミをリビングにぶちまけたり、洗濯機の中に自分が入ったり。
声も調節の不具合でやたらでかいし、音声変えてありますの耳障りな高音っぽくなって不愉快極まりない。
買い換えてもらおうと実家の母に電話した。
「いつもいつもダメってわけじゃないでしょ。ガマンしなさい。社会人になって買えばいいじゃない、好きなロボット」
どうやら金を出す気はないらしい。このオンボロお手伝いで、あと数年生活しろって?できっこないよ、んなの。
お手伝いロボはますます狂っていった。
ボクの大好物のアップルパイにシナモンを入れて台無しにしたり、掃除中にお気に入りのフィギュアを踏んづけたり。
嫌がらせか?壊れるならさっさと壊れろ。
側にいるだけでイライラしてくる。親が買ってくれないなら美少女ロボなんてなくていいから、いっそのこと・・・。
ある日曜日、ふと見るとお手伝いロボがコンセントの前で充電していた。
仕事もろくにできないくせに、充電だけは忘れない。いつまでボクを苛立たせる気だ?
ボクは背後から忍び寄り、手に持ったバットでお手伝いロボを殴った。何度も、何度も。
そして再生不可能なまでにバラバラにして、不燃物ゴミとして捨ててやった。
数日後の真夜中。目を覚ますと、枕元にお手伝いロボの幽霊が正座して、ボクを見下ろしていた。
正座しているくせに頭が天井につっかえるほどでかい。
その巨体に美少女メイドのコスチュームを身に着け、ピッチピチで張り裂けそうだ。
「ウラメシヤ!!」
身体に比例して耳障りな声もさらにでかい。これでは眠れない・・・。
何をするわけでない。幽霊は正座したまま「ウラメシヤ!!」を高らかに叫ぶ。それだけ。とにかく、眠れない。
ボクはそれから一生、夜な夜なロボットの幽霊に悩まされることになった。
除霊とかできなかったのかって?そりゃ無理でしょ、だって大怨霊だもん。チャン、チャン。
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「で・・・つまり君は、うちの大学に合格したのに、取り消してほしいと言うんだね?」
「そうです。ボクは偽者です。不合格にしてください。お願いします」
午後8時、某一流大学の面接室。長机を挟んでパイプ椅子に座ってボクと大学の職員。
職員がため息をついた。
「明日出直してもらうわけには?」
「ダメです。明日の朝、ボクは意のままに操縦されるロボットです」
「君、ソレって受験疲れじゃないのかね?」
メンヘラなんかじゃない。
どう言えばわかってもらえるだろう?ああ、あんな契約、宇宙人とすんじゃなかった。
高校2年、夏期講習の模試、真っ最中に頭の中で囁く声が聞こえた。
『苦労してるネ~。どう?答え、教えよっか?』
エ?誰?
『一種のテレパシーさ。君は今、遥か遠い星のホムンクルス星人と交信してるんだ』
そんな交信ができる宇宙人なら、難問も簡単に解けるかも。
『じゃ問題解いてみせてよ』
ボクの右手が勝手に鉛筆を握り直すや、スラスラと答えを書き始めたではないか。
と、手がピタリと止まった。
『お試し終了だ。全問答えを書くには契約してもらわないと』
『契約?』
『今後、君が学習するときには常に操縦させてもらいたい。それだけだ』
『授業の時も?受験の時でも?』
『もちろん』
こいつは願ったりかなったり、二つ返事で契約した。
その日から高校で成績トップに躍り出た。有名一流大学を受験、一発合格。
そしてようやくわかったのだ。
ボクは情報収集のために操られている!地球侵略の片棒を担がされている!
それでボクは、ホムンクルス星人が操縦を休む時間帯を狙って、合格取り消しを願い出たって訳。
「君、ポール・マッカートニーを知ってるかね?」
唐突に職員が尋ねた。
「ええ。ビートルズの」
「うむ、ポール死亡説ってのがあってね。66年に本物は交通事故で亡くなり、それ以降は替え玉だっていうんだ」
「単なる都市伝説では?」
「それが2015年になってリンゴ・スターが死亡説は真実だと証言したんだ」
「まさか」
「つまり、HEY JUDEも、LET IT BEも、偽者の作品なんだ。あんな名曲を世に残して偽者か本物かなんてこだわる必要あるかね?さ、帰りたまえ」
職員がパイプ椅子を立つ。話はオシマイらしい。
ボクの頭の中でLET IT BEが流れる。仕方がない、すべてを甘んじて受け入れよう。
あるがままに
なすがままに
ボクも
地球も
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いやはや世も末だな。
端末のニュースを読んで嘆息した。膝にのせた愛猫、プリンの背を撫ぜる。
昨今、今の時代が途方もない未来に感じられ、現在に現実感を失ってしまいがちだが、コレは酷い。
本物そっくり動物ロボ発売!その名も『ウンコしません』だと?
近年ロボットペットが増え続け、生身のペットを越えたのは聞いていたが。
しかもこの『ウンコしません』、発売早々飛ぶように売れて品薄状態、製造が間に合わないらしい。
誰が買うんだ、まったく。
ま確かに、ニュース動画ホログラムで確認したが、この『ウンコしません』、生身のペットとまったく見分けがつかない。
百年も前の時代、ロボットを人間に似せれば似せるほど不気味になる『不気味の谷』という現象が指摘されたものだ。
技術の進歩とは恐ろしいものである。『ウンコしません』は愛らしい動物そのもの、不気味の谷の彼岸に達しているのだ。
鳴き声、しぐさ、身体の重さ、毛並み、餌の食べっぷり、何ひとつ生身と変わらず、素人に判別は難しいらしい。
では、生身のペットとの違いは何か?
実際には中身がロボットで死なぬのはもちろんだが、ネーミングどおり、ウンコをしないので肛門がないのである。
摂取した食べ物は、腸に相当する人工消化器内で完全燃焼させ、すべて気化させてしまうらしい。
家の中で粗相して拭いたり洗ったりよ、さようなら。
散歩中にいそいそ排便の片づけをするカッコ悪さ、さようなら。
飼い主を煩わしいウンコの処理から解放する救世主、『ウンコしません』!・・・だとお?
ペットを慈しむ喜びを享受しながら、ウンコだけ無いことにする!なんと都合のよい話だろう。
「まったく酷い。プリン、お前は死ぬまでわしが面倒みてやるからな、ヤヤッ」
プリンを抱えあげ、よく見れば、肛門がない!
ま、まさか!
プリンを抱き書斎を出て居間へ。息子の嫁が観葉植物に水を与えていた。
「プリンの、プリンの肛門がないぞ!」
嫁が辛そうに話してくれた。
「お義父さん、黙っていてごめんなさい。先月、プリンは交通事故で。ヒロシが悲しむのを見たくなくてつい『ウンコしません』を購入してしまったの」
そうか。そんな事情が。確かに孫の悲しむ顔は見たくない。
あらためて懐のプリンを撫でる。プリンがロボット?いやはや信じられない。
「ハハハ、そのうちワシも『ウンコしません』に替えられてしまうかもしれんのう」
ワシがジョークを飛ばすと、嫁の握る水差しがピクリと震えた。
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昼間っから缶ビール片手に堤を歩いていたらカッパに会いました。
カッパのマボロシが見えるほど酔っちゃあオシマイだなあ、と目をこすってよくよく見てもやっぱりカッパです。
土手に腰掛けたカッパも目をこすりながら、こっちに目をこらしています。
片手にワンカップ、どうやらコイツも酔っぱらいのようです。
「カッパのヨッパライ?・・・略してカッパライ・・・」
「略すなっ」
カッパが怒り出しました。
「カッパのヨッパライがそんなに珍しいかあ」
いやあヨッパライじゃなくても十分珍しい。それにしても、カッパの声、なんか聞きなじみがあります。
ああ、そうそう、日本むかしばなしの常田富士男さんのほっこりした声です。すごんでも全然怖くありません。
ボクはカッパと肩を並べて座りました。
「で、お宅も花見の帰り?すんの?カッパも、花見」
「あたりまえじゃー。オマエらよりも楽しんどるわい」
へえ、するんだ、花見。
とカッパの頭のお皿の水に桜の花びらひとつ、浮かんでいるじゃありませんか。
こいつは風流、カッパの花見も楽しそうです。
「聞きたいか、カッパの花見」
「聞きたい、聞きたい」
カッパはワンカップをグビリ、幸せそうに微笑んで目を閉じました。
「まずシチュエーションが大切じゃ。川の両岸にソメイヨシノがわんさと咲きほこっとる場所をえらぶんじゃ。散りはじめがベストじゃな」
まあ、ニンゲンの花見も似たようなもんです。岸辺の桜の木の下にシートをひろげて酒のんで。
「オマエも目をツブれえ。それから酒をのむんじゃ」
やっぱりのむのね。ボクは缶ビールをグビリ、目を閉じました。
「酔ったところで、川底に上向きに寝て、あとは川の流れに身をまかせるんじゃ」
カッパの川流れ・・・
「川面のゆらぎにただよう、幾千の桜の花びら。花びらのすき間には青く澄んだ空。川のせせらぎ以外聞こえない静寂の中、じっと川底を流れていきながら、ゆらゆらゆらぐ水面をながめ続けるのさあ」
カッパの話を聞いているうちに、ボクの目の前にも、水面にびっしり浮かび流れる桜の花びらと青い空が鮮やかに目に浮かんできました。
すっかりお花見気分になって、缶ビールをグビグビ飲みほしました。
愉快、愉快。いい気分になって、ついついウトウト・・・目がさめると、もう夕方でした。
カッパの姿はありません。
夢、だったのでしょうか?
オヤ?
お尻のポケットに入れた財布がぐっしょり濡れているじゃありませんか。
確かめてみると、お札はそのまま、百円玉が数枚なくなっています。
ワンカップ、買いやがったな。カッパライめ。
ボクは思わずニヤリ、目を閉じるとカッパの花見をまた楽しむのでした。
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電話がけたたましく鳴った。不安げに高橋氏が警部を見上げる。
逆探知係に目配せをしてから、警部が高橋氏にうなずく。受話器の向こうから誘拐犯のくぐもった声。
「・・・警察には連絡してねえだろうな?」
「もちろんです。桃香は、桃香は無事なんですか?」
「今のところ、な。で、金は用意できたのか?」
「準備中です。なにせ大金なもので」
「そんだけの価値があんだろぉ?早くしろ」
「桃香の、桃香の声を聞かせてくださいっ」
「受け渡しの方法はあとで連絡する。いいか、つまんねえ細工すんじゃねえぞ」
そこでブツリと切れた。
「も、桃香~っ」
受話器を握りしめたまま、愁嘆に暮れる高橋氏。身を寄せる高橋氏の妻。
「ダメです。場所の特定ができません」逆探知係がため息をつく。
愛娘を誘拐された夫妻を、なす術もなく見つめる警部。
その時だ。警部のお腹がギュルルルと鳴った。もしや?これは?・・・
「おい!今の電話、すぐに再生できるか?」
逆探知係は慌てて装置を操作し、再生を始めた。
今し方の誘拐犯と高橋氏との通話音声がスピーカーを通して居間に流れる。
警部のお腹が再び鳴った。
「まちがいない!失敬しますぞ!」
「私も、私も同行させてください!」
居間を飛び出す警部。後を追う高橋氏。パトカーに乗り込むと、サイレンの音もけたたましく、一路向かった先は・・・
焼肉専門店『カウベル』。息せき切って店に入ると、カランコロン、ドアに取り付けられたカウベルが鳴った。
肉がジュージュー焼ける音、そして食欲をそそる香ばしい匂い。警部のお腹がギュルルル。
「警部、どうしてここに?」
「高橋さん、先程の通話に混じって微かに聞こえたのです。肉を焼く音、そしてカウベルの音が」
「ということは、犯人はこの店から電話を?」
「エ?・・・いや、以前この辺りに勤務してて思い出したので無性に食べたくなって・・・ま、食べましょうよ、高橋さん。スミマセーン、店員さ~ん・・・えっとタン塩、カルビとロース二人前ずつ」
「警部!・・・生の大ふたつ」
「いえ、高橋さん。自分、勤務中ですから中で」
そんな調子の両名、しこたま焼肉を堪能、あまりの美味さとビールの勢いで「店長を呼べ!」と怒鳴った。
と、『カウベル』店長が厨房よりダダダと駆け寄り泣き伏した。
「私が誘拐しました。申し訳ございません!!」
警部「エ?店長さんが犯人?」
高橋氏「桃香!桃香は?」
店長が呻くように泣いた。
「お二人があまりにも唐突に店に現れたので証拠を消そうと、厨房で桃香さんを・・・」
そして、今、二人が食べているお肉へと視線を移した。
高橋氏「桃香~!!」
警部「そっか。この展開だと、可愛いい娘の桃香さんって娘のように可愛がっていた仔牛だったんだ。でしょ?高橋さん」
落胆しきった高橋さんの表情からは何も読み取れない・・・
さぁ~てどっちに転がる?カランコロン。
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艦長が艦橋管制室に入ると、すでに提督は管制室の大型モニターに映し出された青い惑星をしげしげと眺めていた。
「お呼びですか、提督」
「艦長、次なる侵略目標はこの星、地球だ」
地球にはすでに数回の偵察が行われていること、侵略において地球人の抵抗が避けられないことは、艦長も聞き及んでいた。
「それで?策は?」
提督が笑う。モニターに地球のカレンダーが映し出された。
「侵略は、この日!つまり明日だ!」
指さす先は・・・4月1日。
「エイプリルフールだよ、艦長。地球ではこの日、嘘をついてもダメじゃない日なんだよ」
「嘘をついてもダメじゃない日?」
「そう。突拍子もない嘘をついて冗談、冗談って笑う日なんだ。この日に宇宙人が襲っても冗談だと思うはずだ」
奇策である。提督の思うようにいくだろうか?
「提督、では早速工作員を召集します」
「ウム。全員、この衣裳を身につけるように」
提督が着ぐるみ衣裳を提示した。宇宙人そのものの衣裳じゃないか。
「な、なんですか?コレは?」
「フフフ、宇宙人が宇宙人を装うってのがミソなのさ。地球人が思う宇宙人のほうがウソっぽいだろ?」
「なるほど。じゃ、このジッパーもよく見えるまんまで」
「お、艦長、だいぶわかってきたな、エイプリルフール」
『ワレワレハ、宇宙人ダ。地球人、降伏セヨ』
大都市上空でウソっぽい『音声変えてあります』の声が鳴り響き、侵略が開始された。
「ニューヨーク上空に巨大円盤出現!本物そっくり!」
「宇宙人がホワイトハウス訪問!大統領と会見!」
ネットにUFOや宇宙人の写真が次々と現れ、今年のエイプリルフール派手だなあ~つって世界中大喜び。
「地球人ドモ、ワレワレ宇宙人ヲ支配者様ト呼ブノダア。セーノォ」
「支配者さま~!(笑)」
・・・というわけで数時間後、地球侵略は無血のうちに完了したのだった。
「提督、やりましたね。侵略最短記録更新です」
「うむ。大成功だったな。おっと、4月1日も残り30分だ。では艦長、地球からずらかる準備にかかるのだ」
「エ・・・?せっかく侵略したのに帰っちゃうんですか?」
「エイプリルフールはオシマイっ。明日からマジメにやんなきゃな。さあて来年はどんな手で侵略するかな」
「そんな・・・そんなあ・・・そんな嘘みたいなの、ダメじゃないっすか~」
それを聞いた提督、したり顔でニヤリ。
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あの日、桜の季節、ボクの新しい生活がスタートしました。
会社勤めも、アパート暮らしも、何もかも初めてづくしのフレッシュマンです。
会社帰り、満開の桜の並木道を歩いていると、花見客でにぎわっています。
と、道で酔客数名が取り囲んで若い娘をからかっているじゃないですか。
「やめなさい。嫌がってるじゃないか」
大声で諫めると、酔客連中はスゴスゴ散っていきます。
「もう大丈夫。ハハハ、名乗るまでもありません。では失敬」
やってみたかったんだよね、こういうの。立ち去る背中に熱い視線を感じました。
さて、数日後の晩、トントン、トントン、アパートのドアを叩く音がします。
「どなた?」
「旅の娘です。すっかり道に迷ってしまって。どうぞひと晩泊めてくださいまし」
「ア、君は先日の」
「この町に来たのは今日が初めてですわ。名をサクラ、と申します」
確かに桜並木のあの娘・・・
とにかくひと晩泊めてやりました。すると次の日もまた次の日も・・・なんとなく流れで一緒に暮らし始めちゃいました。
「お台所を使わせてください。決して覗いてはいけません。約束ですよ」
ある日、サクラがそう言うので約束しました。
翌朝、げっそりやつれたサクラが台所からヨロヨロ。
サクラの手にしたお盆には、山盛りの桜餅。
この桜餅を売ってみると、評判が評判を呼んで、たちまち行列のできるお店に。
「ではもっと作りましょう。決して覗いてはいけませんよ」
毎日毎晩、サクラは台所に籠もるのでした。
鶴の機織りのごとく日に日にやつれていくかと思いきや、なぜかサクラの場合は日に日に肥っていきましたが。
ボクは約束を守りました。桜餅作りもつまみ食いも予想範囲でしたし。
そして十年、二十年、時は過ぎゆき六十歳。
とうとうボクは会社を勤めあげ、定年退職を迎えました。
最後の帰り道も桜並木は満開でした。と、並木道の真ん中にサクラが立っています。
「お疲れ様、アナタ。とうとうこの日がやってきました。どうしてアナタは覗いてくれなかったのですか」
エ?覗く?「そう約束したから」
「女心のわからない人。実は、実はわたし・・・」
「わかっていたよ。君は酔客にからまれていた娘だろう?そして酔客はボクに近づくための仕込み、つまりサクラだ」
「そうじゃなくって。鈍い人ねえ。確かに酔客もサクラだけど、実はわたしも・・・」
そう言いかけたサクラの身体がおびただしい数の桜の花びらになってほどけて崩れ始めて、
「なんてこった。サクラ、君もか・・・」
ボクの身体もまた、桜の花びらになってほどけて崩れて、
淡い桜色の花びらの山と山が混じり合い、そして降りしきる花びらと見分けがつかなくなっていくのでした。
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