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キングスマン・ザ・シークレット・サービス

2015年05月17日 | 映画の感想



最近、すっかりお話作りから遠のいておりますです。覗いてくださった方、ゴメンチャイな。
このまま消えてしまいそうな気すらしてきて、いやそんならツナギに・・・というわけで、映画の一言二言感想を書きなぐることにしました。では、第1弾!キックアスの監督マシューボーンによる新作、キングスマン・ザ・シークレット・サービスで~す。

★★★★★
いやはやこの映画、スパイ映画フェチ野郎にはたまりましぇ~ん!なんつっても往年の007映画を筆頭とするスパイ映画ブームの頃のケレン味たっぷりなんだもん。上司役のマイケル・ケインって60年代スパイブームの頃に007スタッフ総動員のシリアス路線ハリー・パーマーを演じていた人だし。主人公指南役コリン・ファースの役名もハリー、しかも同じ黒縁眼鏡っ。この眼鏡スパイ、オースティン・パワーズもパクってましたよねえ。コリン・ファースの鼻にかかった気取った喋り、これまた往時のマイケル・ケインにそっくりだったりして笑っちゃいます。
そして音楽!最初と最後に出てくる酒場の格闘前のサスペンスフルな劇中曲が映画のテーマ曲なんですけども、よくこの手の映画でやっちゃう、なんちゃってジェームズ・ボンドのテーマじゃないんです。ロシアより愛をこめてのジプシーキャンプで女同士が格闘するシーンで流れるガールズトラブルっていうジョン・バリーによる劇中曲、アレの曲調&アレンジにそっくりなんですよ~。このへん、初期のボンド好きの心を鷲づかみです。
ヴィラン役サミュエルジャクソンもノリノリ、スパイ映画の常套手段を論じたりしちゃうし、その用心棒役の悪女の武器も相当に狂ってるし、スキャナーズ花火大会なんて悪ノリ過ぎて大笑いだし。
今年観た娯楽アクション映画の中で今んところいちばんの傑作です!!


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映画『アルゴ』

2012年12月26日 | 映画の感想

監督 ベン・アフレック
製作: グラント・ヘスロヴ、ベン・アフレック、ジョージ・クルーニー
ベン・アフレック トニー・メンデス
ブライアン・クランストン ジャック・オドネル
アラン・アーキン レスター・シーゲル
ジョン・グッドマン ジョン・チェンバース
ヴィクター・ガーバー ケン・テイラー
テイト・ドノヴァン ボブ・アンダース
クレア・デュヴァル コーラ・ライジェク
スクート・マクネイリー ジョー・スタッフォード
ケリー・ビシェ キャシー・スタッフォード
クリストファー・デナム マーク・ライジェク
カイル・チャンドラー ハミルトン・ジョーダン
クリス・メッシーナ マリノフ
タイタス・ウェリヴァー ジョン・ベイツ
シェイラ・ヴァンド サハル
マイケル・パークス ジャック・カービー
ロリー・コクレイン リー・シャッツ

79年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件で、実際にCIAが行った架空のSF映画の製作を口実に使った驚愕の救出作戦を緊張感溢れる筆致でスリリングに描き出した衝撃の実録ポリティカル・サスペンス。
 1979年11月。革命の嵐が吹き荒れたイランで、民衆がアメリカ大使館を占拠して、52人の職員を人質にとる事件が発生する。その際、裏口から6人の職員が秘かに脱出し、カナダ大使の私邸に逃げ込んでいた。しかしこのままではイラン側に見つかるのは時間の問題で、そうなれば公開処刑は免れない。にもかかわらず、彼らの救出は絶望的な状況だった。そこで国務省から協力を求められたCIAの人質奪還の専門家、トニー・メンデスは、ある計画を練り上げる。それは、架空の映画企画をでっち上げ、6人をロケハンに来たスタッフに偽装させて出国させるというあまりにも奇想天外なものだった。さっそくトニーは「猿の惑星」の特殊メイクでアカデミー賞に輝いたジョン・チェンバースの協力を取り付けると、SFファンタジー大作「アルゴ」の製作記者発表を盛大に行い、前代未聞の極秘救出作戦をスタートさせるのだったが…。

★★★★★
この映画の存在を知って以来、観たくてたまらなかったのだが、地元では上映されてなくてDVD発売まで待とうと思っていた。が、なんと県内で数日限定公開されているのを知って早速観に行ってきた。
う~む、面白い。いいなあ、こういう映画。ボクが観に行った劇場は、コンプレックスでなくて久しぶりの場末の単館映画館。ブザーが鳴って緞帳幕が開いて、画面が少し薄暗くて。例の『NO MORE 映画泥棒』のCMすら映像にチリチリ傷があって、もう数十年前の映画館にタイムスリップしたみたいだった。そんな映画館で鑑賞した本作もまた、70年代末のアメリカ大使館人質事件を扱った映画で、大使館に暴徒が押し寄せる場面からドキュメンタリーっぽく始まる。映画自体が古くさい画面に演出しているのか、映画館の映写が原因なのか、判断できないまま鑑賞を続けるという事態になった。これもまた映画館で観る楽しみかも。
さて、肝心の映画だがすこぶる面白かった。ドンパチなしで、しかも話運びも70年代映画風で、しかもこんなに緊迫感たっぷりのサスペンス映画ができちゃうなんて。存在を知って以来、映画のホームページに行ったり予告編を観たりするのを敢えて避けて、ストーリーを知らないまま観ることにこだわってきた甲斐があったというもの、最後までハラハラドキドキ楽しむことができた。そんなわけで、ストーリーに関わることは書きたくない。お話を知ってしまうと面白さが半減しそうなので・・・。
今年、ベン・アフレック監督の『ザ・タウン』という映画を観たが、そっちはそんなに評価していない。俳優兼監督として才能のある人だとは思った。犯罪の町に生まれたシガラミと、銀行強盗の若者グループの日常とが実にリアルに描かれている。「場」と「人」がこんなに生き生きとリアリティをもって伝わってくる犯罪映画ってのはちょっとなかった。それはイコール、俳優たちが十分にその役柄で個性を発揮できることにつながるわけで、今後もベン・アフレックの映画に出たい俳優は増え続けると思う。ただ、ボクが『ザ・タウン』を評価しないのは、そのリアリティと練りに練ったストーリー展開の面白さとが、うまく混ぜ合わされていないような居心地の悪さを感じたところ。「晴れた日は嫌い」という天気をめぐる伏線の面白さや、スケート場の氷をめぐる伏線の回収の仕方など。確かに面白いのだけど、できすぎっていうか。義理人情やら約束やら、そういうのが好きなんだと思う、ベン・アフレック自身が。そこをいつもストーリーの要にしちゃうんだろうな、これからも。
で、『アルゴ』。実際の事件だけに、彼の「場」と「人」にリアリティを与える才能が十分発揮されている。それはエンドタイトルの報道写真と映画シーンを並べて、こんなに細部までこだわって作りましたというアピールからもわかる。(そこまで見せてもらわなくてもいいとも思うけれど。子供部屋のフィギュアやらカーター大統領の演説やら、エンディングはちと過剰サービスかな)そして、できすぎたストーリー展開も、『これは実話だ』と映画冒頭に宣言しているので気にならない。そんなわけで、企画が監督の資質にぴったりとはまった傑作痛快実話映画の誕生!なるほど、アカデミー賞を獲ってもこれはおかしくない。ただ、この監督、資質とズレた映画を撮ったら、「監督、どうしちゃったの?」みたいなことになる危険性はある、そんな個性が魅力の監督だとボクは睨んでいる。


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映画『007スカイフォール』【ネタバレだらけ】

2012年12月03日 | 映画の感想



監督: サム・メンデス
ダニエル・クレイグ ジェームズ・ボンド
ハビエル・バルデム シルヴァ
レイフ・ファインズ ギャレス・マロリー
ナオミ・ハリス イヴ
ベレニス・マーロウ セヴリン
アルバート・フィニー キンケイド
ベン・ウィショー Q
ジュディ・デンチ M

ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの3作目にして007シリーズ誕生50周年記念作となる通算23作目のスパイ・アクション大作。MI6への恨みを抱く最強の敵を前に、絶体絶命の窮地に追い込まれるジェームズ・ボンドと秘密のベールに包まれた上司Mが辿る衝撃の運命を、迫力のアクションとともにスリリングに描く。共演はM役のジュディ・デンチ、敵役のハビエル・バルデムのほか、レイフ・ファインズ、アルバート・フィニー、ベン・ウィショー。監督はシリーズ史上初のアカデミー賞受賞監督の起用となった「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデス。
 英国の諜報機関MI6が世界中に送り込んでいるスパイのリストが盗まれる緊急事態が発生。“007”ことジェームズ・ボンドは、リストを取り戻すべくMの指示に従い、敵のエージェントを追い詰めていくが…。その作戦が失敗に終り、組織内でのMの立場も危うくなる。そんな中、今度はMI6本部が爆破される。辛くも難を逃れたMだったが、一連の犯行はMへの復讐に駆られた元MI6の凄腕エージェント、シルヴァによるものだった。そんな窮地に立たされたMの前に、手負いのボンドが姿を現わすが…。

★★★★☆

【ネタバレだらけです】
トンデモ異色作&問題作!
ボクは007のファンだ。これまでもそうだし、これからもそうだと思う。このスカイフォール、日本で公開される前から世界中で興行成績トップを記録し、シリーズ最高傑作という鳴り物入り。公開日に勇んで観に行った。
・・・う~む。な・・・何なんだ、これは!!??
かつて映画の007シリーズにこんな異色作&問題作は存在しなかった。とにかく、これは今までの007シリーズとは一線を画している。禁じ手といってもいいかもしれない。正直、007でこんなに頭が混乱してしまうなんて思いもしなかった!
007リブート!
今年2月に、M役のジュディ・デンチが失明の危機にあるというニュースを見て以来、次の007にこういった展開が盛り込まれることは、ある程度予想の範囲内であった。しかし、引退の花道をこんなにも大々的に一作品のドラマに作り上げてしまうとは・・・。007シリーズは、『カジノ・ロワイヤル』でダニエル・クレイグ登場とともに、ボンドは戦後生まれの現代に活躍するスパイという設定に再生された。いろんなヒーロー映画のビギンズが作られていた時代、007ビギンズが作られてもおかしくはなかった。そして今回、サム・メンデス監督はクリストファー・ノーラン監督のバットマンリブートを強く意識して007リブート『スカイフォール』を作った。それはそれでアリだ。
バットマンというキャラや敵役の悪党たちを漫画的にカリカチュアされる前の生々しい姿にリブートして見せたように、007シリーズの数々の名場面・珍場面をリブートして見せてくれる面白さはファンにとってワクワクものだ。『ゴールドフィンガー』のアストンマーチンの仕掛けとか、『死ぬのは奴らだ』のワニ渡りを意識したコモドオオトカゲの場面とか、殺し屋ジョーズの鉄の歯を意識したシルヴァの身体の秘密とか、『リビング・デイライツ』をこじんまりとした氷丸撃ち抜きとか。こうした仕掛けの数々は、50周年記念作品に相応しいファンサービスとして大いに楽しめる。
禁じ手、設定リブート!
しかし、ヤバいのは『007映画のお約束』そのものをリブートしてしまっているところ。
まず第一に、007が直面し続けたのは、敵役の誇大妄想的な陰謀だった。壮大な悪の計画を転覆させるのが常道だったのだ。『ロシアより愛をこめて』や『ユア・アイズ・オンリー』のような暗号解読機の争奪戦という地味な設定であってすら、東西のパワーバランスを崩すだけの威力があるものとして描かれていた。ところが、今回はまったくそんな世界を救う話などではない。シルヴァの直接の標的はM。具体的に仕出かす犯罪は、MI6の諜報部員情報が盗み出すというサイバー攻撃だし、ロンドンで逃走しMを狙うために地下鉄テロである。YouTubeに諜報部員情報を流出させるというくだりに象徴されるような、かつての007にはない、現在の世界で起こりうるリアリティのある犯罪だ。つまり犯罪の質そのものを生々しいものにリブートしてしまっているのだ。『ゴースト・プロトコロル』でイーサン・ハントが核ミサイル攻撃を防いだのを思い起こすと、かつてのシリアススパイと痛快娯楽スパイが今や真逆になってしまっているのが興味深い。
第二に、ジェームズ・ボンドの存在そのものも、リブートされて生々しくなった。これまでも負傷したり捕虜になったりしたことはあったが、酒に溺れて自暴自棄になったり、無精髭を伸ばし続けたり、手が震えて銃口が定まらなかったり、復帰テストに不合格になったりしてしまう生々しいジェームズ・ボンドはかつて映画で描かれたことはなかった。原作の、トレーシーを失った後を描いた数作に近いとも言えるのだが。しかし、何よりシリーズとしてまずいと思うのは老いをたびたび語らせた点。これを始めちゃうと、ダニエル・クレイグ引退とともに、再び年齢のリセットが必要になってしまう。
第三に、Qの立ち位置。Qが若造になったのは面白い。しかし、Qはドンパチ武器の開発チームの長じゃなかったっけ?何よりQが『かつての秘密兵器は時代後れになった』と宣言している点。これまた生々しくリブートしているわけだが、これをQ本人に言わしめてしまうと、今後、奇抜な新兵器の開発や供給は、Qの主義に反することになる。お助け秘密兵器で窮地を乗り越えるご都合主義は、個人的にはもう辟易なんだけれども、こんな制約の枷を今後のシリーズにかけてしまうのはいかがなものか。
そして、やはりMは消え去るように交替するべきだったとボクは思うのだ。かつてのバーナード・リーのMやデズモンド・ウェリンのQのようにさりげなく。老将は消え去るのみ的な美学があってほしかったと思うのだ。とは言うものの、ブロスナンのボンドやクレイグのボンドを支えてきたジュディ・デンチのMの存在の大きさを考えれば、プロデューサーからしたらこれだけの花道を準備したいところなのかもしれない。
だが、もっと問題なのは、新M、新Q、新マネイペニーとボンドとの馴れ初めを描いてしまったことだ。仕事よりも仲間、みたいななかよしチームの設定なんて原作にも従来のシリーズにもまったく存在しないのだ。Mはあくまで気難しく威厳に満ちた、ある意味ボンドの最大の敵である上司でないと困るのに。マネイペニーは政府の所有物だから一線を越えない秘書であり、ボンドに航空チケットを渡すときに死地に送り込むことを夢にも思わぬ有能な事務職員であるはずなのに。そして、前述のQは原作どおりの銃火器のアドバイザー、もしくは映画の秘密兵器の開発チーム長であるはずなのに。そしてMやQにとって、ジェームズ・ボンドはあくまで現場工作員のひとり、使い捨ての消耗品にすぎない存在でなくては。本来そういうドライでプロフェッショナルな職業関係であるからこそ、シリーズの中で思わず私情をまじえてしまう描写がチラリと垣間見えるのがファンにとってたまらなくいい気分なのだ。そこんところを端(はな)から「いわくいわれあり」の特別な人間関係ありの設定にしてしまったのは、やはりまずいんじゃないだろうか?MやQやマネイペニーだけじゃなく、CIAのフェリックス・ライター、補佐官のビル・タナー、そしてジェームズ・ボンド本人ですら、役者が作品ごとで変わっても気にしない、一回ごとの中身で楽しませるって部分だけは、お約束のシリーズであってほしいとボクは思っている。そういえば、ボンド役者の交替ですら、ジョージ・レイゼンビーに「奴の時にはこんなことなかったのに」と言わせたり、ロジャー・ムーア登場では「やることは一緒ね」なんて言われたりとジョークで済ませ、後には交替は暗黙となったことを考えると、やはり今回のMの交替は、らしからぬやり方だったよなあ。
最高の変化球
さて、今回の映画の設定部分ではいろいろわだかまりもあるけれど、ドラマ重視っていう姿勢自体は大歓迎。このくらいストーリーに起伏があるほうが好きだ。「完全なる崩壊や失墜からの再生や再構築」という一貫したテーマのあるボンド映画なんてスゴイじゃないか。ジェームズ・ボンドが生家で孤立無援の西部劇みたいな状況で戦うクライマックスなんて、想像だにしなかった。リブート云々抜きにこういう変化球は好きだ。実質、ボンドガールがいない、もしくはMがボンドガールであっても、それはそれで変化球として面白い。やはりロジャー・ムーアのボンドものくらい、『またやってる』感が強すぎるってのはさすがに脱力してしまう。今回映画がヒットしたので、こうした渋~い路線が続いていくこと自体は大歓迎。ボクは基本、まったりしたボンドよりヒリヒリしたボンドのほうが好きだ。
そして今回の映画で特によかったのは、こだわりのカメラワーク。開巻の眩い光の中の人影だけでダニエル・クレイグの体躯を見せる絵づくり!ビルから狙撃したパトリスと格闘するシーンをカットなしの影絵で描く美しさ!シルヴァ登場してボンドに近づきながらの饒舌長回しで強烈な個性をアピールする演出。惚れ惚れとするシーンがいくつもあった。マカオの照明の色合い、スコットランドの靄・・・こんなに空間の空気が伝わってくる007映画は初めてだ。ロジャー・ディーキンスのカメラがとにかくすばらしい。
そして、ハビエル・バルデムの存在感は圧倒的。とにかくMへの執着が異常、なんでも望みのモノを手に入れずにはいられないバイセクシャル、肉体的にも精神的にも内面が焼け爛れた男を演じて、これまでのシリーズの中でも特筆すべき悪役をつくりあげている。スゴイ!軍用ヘリコプターに乗り込んで、アニマルズの「ブーンブーンブーン」を大音量で流しながら乗り込んでくる馬鹿馬鹿しさなんて、リブートというより誇大妄想狂悪人のパロディとしても秀逸で笑ってしまった。
トーマス・ニューマンの音楽はちょっと007らしい大仰さがなくって今ひとつに感じた。映画の内容がドラマチックなだけに、デヴィッド・アーノルドが『カジノ・ロワイヤル』で聞かせたような、ジョン・バリーのロマンチシズムを意識したサウンド(ヴェスパーに思いを馳せるときの曲なんて、007以降のバリーが担当していたら書きそうな、重厚にたゆたううねりと旋律の二回繰り返し!)が聴きたかった。このへんもリブートしてしまおうという意図が?いやいや、一方で、アデルのテーマソング自体は、バリー節を意識したすばらしい歌。いや曲調自体は、『カジノ・ロワイヤル』の影響がきわめて強い。アーノルドのサレンダーと並んで、バリー以降の名曲だと思う。この映画の、Mのアパートメントの外観ロケが、ジョン・バリーがロンドン時代に暮らしていたアパートメントなんていうサプライズも嬉しい。
これからの007
さて、今作の大ヒットを受けて次回作がもう練られていると聞くし、サム・メンデスが脚本に関わっているらしいのだが、ボクとしては、やはり今のままでは外連味不足。脚本はポール・ハギス、監督はマーティン・キャンベル、音楽はデヴィッド・アーノルド、カメラはロジャー・ディーキンスでお願いしたい気もする。クリストファー・ノーラン監督の007も観たい気もする。かなり女王陛下の007っぽいのを作りそうだし。
いや~、しかしこんなにトンデモナイ007映画ができるとは思いもしなかった。それにしても、クォンタムのミスター・カラーたちは一体どうなってしまうんだろう?
とにかくこのスカイフォール、駄作か?傑作か?未だに判断がつかないでいる。必見の大異色作、大問題作であることだけはまちがいない。


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映画『裏切りのサーカス』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: トーマス・アルフレッドソン
原作: ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』
脚本: ブリジット・オコナー、ピーター・ストローハン
撮影: ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽: アルベルト・イグレシアス
ゲイリー・オールドマン ジョージ・スマイリー
コリン・ファース ビル・ヘイドン
トム・ハーディ リッキー・ター
トビー・ジョーンズ パーシー・アレリン
マーク・ストロング ジム・プリドー
ベネディクト・カンバーバッチ ピーター・ギラム
キアラン・ハインズ ロイ・ブランド
キャシー・バーク コニー・サックス
デヴィッド・デンシック トビー・エスタヘイス
スティーヴン・グレアム ジェリー・ウェスタービー
ジョン・ハート コントロール
サイモン・マクバーニー オリヴァー・レイコン
スヴェトラーナ・コドチェンコワ イリーナ
ジョン・ル・カレ

東西冷戦下の1980年代、英国諜報(ちょうほう)部「サーカス」を引退したスパイ、スマイリー(ゲイリー・オールドマン)に新たな指令が下る。それは20年にわたってサーカスの中枢に潜り込んでいる二重スパイを捜し出し、始末するというものだった。膨大な記録や関係者の証言を基に、容疑者を洗い出していくスマイリーがたどり着いた裏切者の正体とは……。

★★★★☆
久しぶりに同じ映画を立て続けに二回観てしまった。二時間あまりの映画の中にとにかく膨大な情報量が詰め込まれていて、しかもそのほとんどが映像に語らせていて、言葉は極力抑えられているからだ。もちろん登場人物も多いし、二重スパイ容疑の幹部たちだけでもティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマン、そしてスマイリー本人&コントロール・・・それぞれに疑いを抱けるだけの場面があるし。しかも、ぶっちゃけ全員がロシアにカス情報を漏らしているわけで、ことは複雑。その中からアメリカの重要機密を漏らしている者を特定するのが本筋のお話。スパイ小説を熟読するように、このスパイ映画もまた熟観することを求めているようだ。
ただ、リアリティ溢れる諜報戦の現実を雰囲気として感じるだけでも、十分に価値がある映画だ。言わば、ジェームズ・ボンドとは対極にあるような娯楽性のないリアルなスパイの世界。諜報部の幹部たちが互いをまったく信頼しあうことができず、疑心暗鬼で疲弊している。さしあたり現場で活動する実働部隊員リッキー・ターがジェームズ・ボンド的だけれど、そのリッキー・ターが本部へ情報を伝えた途端、現地工作員のセシンジャーやKGBのボリスが惨殺されてしまうなんていう、ロシアに筒抜け状態の怖さ。互いが互いを疑い続けるピーンと張りつめた心理的な緊迫感だけでも、楽しめる映画である。
真犯人をつきとめてからの顛末なんて、ボクの大好きなシャンソンの名曲『ラ・メール』の歌にのせて、映像だけで最後まで描いて映画を閉じてしまう潔さ。プリドーの放つ銃弾は、愛だけなのか?ハンガリーの一件の責任をとらせたのか?それすら曖昧で、プリドーの涙で、思いを語らせるなんて演出の仕方・・・。
『世界一有名なスパイ、ジェームズ・ボンド!』なんて、秘密活動をするスパイとして根本的に失敗(笑)なわけで、対極にあるリアルなスパイをここまできっちり描いた映画は他にないだろう。地味で渋い映画ではあるが、確実にスパイ映画の歴史に名を残す一本であることは間違いない。
唯一、納得いかないのは、陳腐な邦題かな。原題のままのほうがもっと売れただろうに。


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映画『飯と乙女』

2012年11月26日 | 映画の感想




監督: 栗村実
佐久間麻由 和田砂織
田中里枝 田端美枝
岡村多加江 小中咲枝
上村聡 九条和成
岸建太朗 小日向武史
菊池透 小中久男
増本庄一郎 石田久志

これが長編デビューの俊英、栗村実監督が、“食”にまつわる悩みを抱えた3組の男女が織りなす人間模様を切なくも繊細かつユーモラスに描いた群像ドラマ。渋谷のダイニングバー“Coo”で働く砂織は人に料理を作るのが生き甲斐。ところが、常連客の九条はなぜか何も口にしない。彼は、人が作ったものがどうしても食べられなかったのだ。一方、常連客の一人、美枝はまともに働かない彼氏のせいでストレスをためて過食症に。ある日、妊娠を知った美枝は彼氏に選択を迫るが…。美枝が勤める会社の社長、小中は、大食漢の妻に頭を痛めていた。経営難に苦しむ小中は、次第に追い詰められてしまい…。

★★★★☆
食べ物が美味しそうな映画や料理をめぐる映画などはたくさんあるけれど、「食べる」という行為の意味について、これだけこだわりぬいた映画は初めて観た。
この映画、6人の男女とその周辺の人々の『食』が描かれている。6人とは言ってもそれぞれ夫婦だったり同棲していたり恋愛に発展したりするわけなので実質3ペアなのだが。この6人の『食』の偏りやこだわり、『食』の病が語られつつ、それぞれの相関関係が明かされていく前半部は、人物をつかむために思わず最初からもう一度見直してしまった。作り込みすぎて唐突な場面が現れて流れが把握しにくいとも言えるが、見直すと多くの断片的なカットの意味がよくわかって楽しめる。
人が手を加えた食べ物が口にできない青年。(いきなりの烏賊のワタ、丸呑みシーンから始まる!意外と美味いらしいが・・・)
同棲生活のストレスから食っては吐かずにいられないOL。
その同棲相手で、「食べるために生きる」のを拒み夢を追い続ける男。
OLの上司で、経営難と妻の過食から、食を拒むようになっていく男。
そして、狂言回し役の居酒屋の料理大好き娘。
彼らの『食』へのこだわりや病がほんの一歩変化したり克服できたりしたときに、彼らの生き方も一歩すすんでいく様子が小気味よく描かれている。いや、生き方なんておこがましい。日常生活がほんのちょっと変わるって感じか。そのへんの地に足ついた自然体のドラマを作ることに、『食』から描くことでみごとに成功している。
敢えてナンクセつけるなら、初めと終りのブッダ云々は要らないと思った。それ、ドラマでちゃんと描かれているから。
それと、料理大好き娘をもっと前面に出して狂言回し役、観察者役にしてしまえば、全体に自然な流れが生まれそうな気がした。
小品ながら大切に抱いておきたい一品。美味しゅうございました。


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映画『ももへの手紙』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督 沖浦啓之
美山加恋 宮浦もも
優香 宮浦いく子
西田敏行 イワ
坂口芳貞 大おじ
谷育子 大おば
山寺宏一 カワ
チョー マメ
小川剛生 幸市
藤井晧太 陽太
橋本佳月 海美
「人狼 JIN-ROH」の沖浦啓之監督、Production I.Gのアニメーション制作で贈るハートフル・ファンタジー・アニメ。父を亡くし、母とともに瀬戸内の小さな島に越してきた少女が、そこで出会った心優しい妖怪たちとの奇妙な交流を通して成長していく姿をハートウォーミングに綴る。声の出演は美山加恋、優香、西田敏行。
 小学6年生の内気な女の子ももは、母に連れられ、瀬戸内の島に移り住む。彼女は、仲直りしないまま亡くなってしまった父が遺した“ももへ”とだけ記された書きかけの手紙のことが頭から離れず、父が何を伝えたかったのかを考えてばかりの日々。一方しっかり者の母は、いつも明るく元気に忙しい毎日を送っていた。そんなある日、彼女は不思議な妖怪3人組イワ、カワ、マメと出会う。食いしん坊でわがままな彼らに振り回されながらも、次第に打ち解けていくももだったが…。

★★★★☆
いや~これはもう今の良質アニメの王道中の王道だなあ。舞台となる場所を瀬戸内海の小島として徹底的に取材してリアルな日本の一地方をとことん描いている。島暮らしでもないけれど、漁村の風景も町並みも、家の調度品も、なんとも郷愁を駆られる描き込みが嬉しい。それぞれの主要な登場人物の性格や生活ぶりなどもきちんと設定して作り込んでいる。人の身のこなしもすごくリアルにこだわっている。それでいて、基本コメディ映画であって、くすぐりどころがたくさんあって。特に、妖怪三人衆のイワ、カワ、マメなんて漫才トリオにありがちなボケっぷりやコミカルな動きっぷりを見せてくれるし。妖怪たちの絵、特に脇役の妖怪のシンプルで適当、雑な感じが対照的で面白い。ドラマを牽引する部分のリアルな描写はとことんこだわって、笑わせる部分はギャグ漫画のノリで、というコントラストがユニークだ。ここまで意図的に現実と空想の描写を絵づくりで差別化したアニメってなかったような気がする。しかも妖怪がキモ~イ!三人組も不気味だし、脇役も粘菌みたいだったりできそこないモナーみたいだったりと全部気持ち悪い。しかも、この三人組、盗みを平気でするし反省しないし嘘つくし辛辣だし。こういうジブリっぽくないところが小気味よかったりする。
そしてなんといっても、この映画がすごいところは、映画の半分まで観たら、クライマックスやラストで起きそうな出来事が全部予想がついてしまうところ!これってよく言えば伏線の回収がきっちりできてドラマとして出来がよいってことだ。悪く言えば超予定調和世界とも言えるけれど。大人から子どもまで気軽に楽しんで笑ってほろりとさせられる世界。
まあボクとしては、せめて欄干の上から身を躍らせて空中に舞った瞬間で映画を終わってもらえたら、いうことなしのエンディングだったんだけど。


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映画『ミッドナイト・イン・パリ』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: ウディ・アレン
オーウェン・ウィルソン ギル
レイチェル・マクアダムス イネズ
マイケル・シーン ポール
マリオン・コティヤール アドリアナ
ニナ・アリアンダ キャロル
カート・フラー ジョン
トム・ヒドルストン F・スコット・フィッツジェラルド
アリソン・ピル ゼルダ・フィッツジェラルド
コリー・ストール アーネスト・ヘミングウェイ
キャシー・ベイツ ガートルード・スタイン
エイドリアン・ブロディ サルバドール・ダリ
カーラ・ブルーニ 美術館ガイド
ミミ・ケネディ ヘレン
レア・セドゥー ガブリエル

本国アメリカではウディ・アレン監督作としては最大ヒットとなったチャーミングなファンタジー・コメディ。作家志望のアメリカ人男性が、ひょんなことからヘミングウェイやフィッツジェラルド、ピカソといった伝説の作家や芸術家たちが集う憧れの1920年代パリに迷い込み、幻想的で魅惑的な時間を過ごすさまを、ノスタルジックかつロマンティックに綴る。主演は「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」のオーウェン・ウィルソン。共演にレイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、キャシー・ベイツ。また、フランス大統領夫人カーラ・ブルーニの出演も話題に。アカデミー賞では作品賞を含む4部門にノミネートされ、みごとオリジナル脚本賞を受賞。
 ハリウッドでの成功を手にした売れっ子脚本家のギル。しかし、脚本の仕事はお金にはなるが満足感は得られず、早く本格的な小説家に転身したいと処女小説の執筆に悪戦苦闘中。そんな彼は、婚約者イネズの父親の出張旅行に便乗して憧れの地パリを訪れ、胸躍らせる。ところが、スノッブで何かと鼻につくイネズの男友達ポールの出現に興をそがれ、ひとり真夜中のパリを彷徨うことに。するとそこに一台のクラシック・プジョーが現われ、誘われるままに乗り込むギル。そして辿り着いたのは、パーティで盛り上がる古めかしい社交クラブ。彼はそこでフィッツジェラルド夫妻やジャン・コクトー、ヘミングウェイといった今は亡き偉人たちを紹介され、自分が1920年代のパリに迷い込んでしまったことを知るのだった。やがてはピカソの愛人アドリアナと出逢い、惹かれ合っていくギルだが…。

★★★★☆
これは、『カイロの紫のバラ』を彷彿とさせるファンタジックなラブコメディー映画。どこからどう見てもウディ・アレンの映画。そして、小品ながら心の宝箱の中にそっと収めておきたい感じのステキな映画なのだ。
なんといっても、開巻から延々と映し出されるパリの街の風景のすばらしさ。敢えて合成着色っぽい、ひと昔前のカラー印刷みたいな風合いで統一した画面が実にみずみずしく潤っている。
まあお話はとりようによってはタイムトラベルものファンタジーなわけで、結婚直前の小説家志望の青年ギルがなぜか1920年代に迷い込んで、フィッツジェラルド、コール・ポーター、ジャン・コクトー、ヘミングウェイ、サルバドール・ダリ、ルイ・ブニュエル、TSエリオット・・・当時の文化の最先端の街パリに集った文化人たちの仲間に入ってしまう。またさらに1890年代に行って、ロートレック、ゴーギャンやドガらにも会ったりしてしまう。彼らの創作秘話なんかが飛び出したり、ギルが創作のヒントを与えてみたりってあたりが楽しい。この不思議な体験を通して、人生の黄金期を過去に求めても実際に過去に行ってしまえばその時代よりもさらに過去が黄金期に見えてしまう、結局、今この瞬間を生きるすばらしさに気がつかなければどこに逃避しても逃げるばかりになってしまうことを悟る。
とまあ、ストーリーは実に明解。しかし、この過去へのタイムトラベルを彼の現実からの逃避が生み出した空想だととらえるとまたさらに味わいが深まる。マリッジブルーの青年が自身の創り出した想像世界に身を浸し、やがて自分に正直な生き方に気づいて、ホントの幸せに一歩近づいていく過程が描かれた映画だと思うのだ。そう考えると映画のラストは実に的を射た終わり方だと思えてくる。
派手じゃないけど、小粋でわかりやすくて、ほっこりするステキな映画。おすすめ!
 

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映画『メン・イン・ブラック3(MIB3)』

2012年11月26日 | 映画の感想




監督 バリー・ソネンフェルド
脚本 デイヴィッド・コープ 、ジェフ・ネイサンソン、イータン・コーエン
製作総指揮 スティーヴン・スピルバーグ
音楽 ダニー・エルフマン
ウィル・スミス エージェント J
トミー・リー・ジョーンズ エージェント K
ジョシュ・ブローリン
エマ・トンプソン
ジェマイン・クレメント
マイケル・スタールバーグ
マイク・コルター
マイケル・チャーナス
アリス・イヴ
デヴィッド・ラッシュ
キーオニー・ヤング
ビル・ヘイダー

月面のルナマックス銀河系刑務所から、凶悪S犯のアニマル・ボリスが脱獄し、地球に逃亡した。超極秘機関“MIB”のエージェント“J”と“K”は、ボリスが関係する犯罪の捜査を始める。しかしある日、出勤した“J”は、相棒の“K”が40年前に死んでいると聞く。どうやら、ボリスは40年前に自分を逮捕した“K”を恨み、過去に遡って“K”を殺してしまったらしいのだ。“J”は40年前にタイムスリップし、若き日の“K”とボリスの阻止に乗り出す。

★★★☆☆
一作めはまあまあ面白かった。二作めは完全に柳の下のドジョウでつまんなかった。なんにしてもエイリアンいっぱい登場のコメディ・アクション映画で、少々子供っぽいなあというイメージしかなかったので、今回もDVDのレンタルまで観ずにいた。で、まあ今回観てみたわけだが、今回のこれはなかなかがんばっていたと思う。なにせトミー・リー・ジョーンズは60半ばのおじいちゃん。アクションは相当キツイものがある。そこを補うために、過去に戻る設定で、若いジョシュ・ブローリンがアクションをこなすというアイディアなのだが、ヘタするとその場しのぎになってしまうところ、ストーリーがうまく機能していい感じになった。エイリアンをとにかくいっぱい出しとけっみたいな感じだった前作に比べて、今回は冒頭部の中華料理屋の大乱闘で出しまくっておいて過去に戻ってからはストーリーのほうに集中させた展開もよかった。最後のオチもビックリ&ほろりとさせられるが、それまでもそれからもたくさんの仲間の生き死にを見てきただろうに、なんでその一件で無口になっちゃうのかは説得力不足だったなあ。
なんにしても、もうオリジナルメンバーで次回作を作るのはさらにキビシイだろう。次回はリブートして作るか?それだけの需要があるかどうか・・・?


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映画『僕達急行 A列車で行こう』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督 森田芳光
松山ケンイチ 小町圭
瑛太 小玉健太
貫地谷しほり 相馬あずさ
ピエール瀧 筑紫雅也
村川絵梨 日向みどり
星野知子 日向いなほ
伊東ゆかり 大空ふらの
菅原大吉 谷川信二
三上市朗 由布院文悟
松平千里 大空あやめ
副島ジュン アクティ
デイビット矢野 ユーカリ
笹野高史 小玉哲夫
伊武雅刀 早登野庄一
西岡徳馬 天城勇智
松坂慶子 北斗みのり

小町圭は大手企業のぞみ地所の営業マン。車窓から景色を眺めながら音楽を聴くのが至福の時。一方、小さな町工場コダマ鉄工所の跡取り・小玉健太も無類の鉄道好き。そんな二人が知り合って意気投合。引っ越し先を探していた小町はコダマ鉄工所の寮に転がり込む。ほどなく小町は九州支社に転勤になり、難攻不落の地元大手企業ソニックフーズや買収用地の地主との交渉を任される。そこへ東京から小玉が遊びに来る。

★★☆☆☆
のほほ~んと楽しい映画。なんか寅さんや釣りバカみたいな雰囲気で、世の中みんないい人だよなあってハートウォーミングな癒し系。
でも鉄っちゃんドラマを期待した人はガッカリしちゃったかも。少なくともボクは意外だったなあ。何せ、東京にしても福岡にしても、鉄道オタクが唸りそうな路線や車両がほとんど映像として出てこない。鉄道マニアの具体的なこだわりやカルト知識が、事態解決の手がかりになったりするような展開にもなっていないし。
まるでギャグ漫画みたいなありえない効果音をつけてみたりするセンスとか、登場人物みんな電車の名前っていうサザエさんっぽさとか、外国人労働者役のコミカルな演技とか、都合のよすぎるサラリーマン喜劇的展開とか、サッカーユニフォームの伊武雅刀のヘンテコな動きとか、伊東ゆかりが小指を噛んだりとか、唐突なスプーン曲げの小ネタとか、いろんな層の人からいろんな笑いを引き出そうとするサービス精神に溢れた姿勢は、この監督の映画愛ゆえかもしれない。つまり、この映画の鉄道マニアが鉄道を愛する姿勢は、そのまま監督が映画を愛する姿勢そのものなんじゃないかな。
そしてその姿勢こそがボクの違和感にもつながるのかなあ。サラリーマンの松山ケンイチが左遷されて喜ぶところは納得できるけど、早々に本社に戻るときの気持ちが描かれきれてないし。鉄道模型Nゲージ大好きなピエール瀧社長が、模型マニアでありながら自力で修理できないってのも変な話だし。第一、みんな女連れで電車に乗ったり乗ろうとしたりするけど、ホントのマニアは女の子の都合で振り回されずに自分の関心のある鉄道体験に没頭したいんじゃないかなあ。
ボクがこの映画を観て、違和感を感じる核心・・・それは、彼らの鉄道好きが、この映画の中では『目的』じゃなくて『手段』になってしまっているところ。ここんところはなんとも居心地悪く感じてしまった。
こんな小理屈こねずにのほほ~んと楽しみたい映画であるのだけは確かなのだけど・・・(笑)


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映画『幸せの行方・・・』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: アンドリュー・ジャレッキー
ライアン・ゴズリング
キルステン・ダンスト
フランク・ランジェラ
フィリップ・ベイカー・ホール
クリステン・ウィグ

実在の未解決事件をモチーフに、「ブルーバレンタイン」のライアン・ゴズリングと「スパイダーマン」シリーズのキルステン・ダンストの共演で贈るラブ・サスペンス。監督は、デビュー作のドキュメンタリー作品でアカデミー賞候補となり、本作が劇映画デビューとなる期待の新鋭、アンドリュー・ジャレッキー。
 ニューヨークで不動産業を営む富豪一家の御曹司、デイビッドは、父の反対を押し切り、平凡な家庭の女性ケイティと恋に落ちる。2人は結婚し、ニューヨークを離れて自然食品の店を営み、つましくも幸せな日々を送っていた。ところが、父親はそんな息子を強引にニューヨークへと連れ戻してしまう。父の仕事を手伝うことになったデイビッドは、次第に奇妙な行動が目立ち始めていくのだが…。

★☆☆☆☆
GEOで10円ネットレンタルとかやってて鑑賞。その翌日近所の店に行ったらまだ準新作扱いだったのにビックリ。確かに役者は、今をときめくライアン・ゴズリングとキルステン・ダンストの二人なんだが、ちっとも新しい映画っぽくない。絵づくりが古めかしいというか安っぽいというか、画質自体もそんなによくないような。まったく予備知識なしに観はじめたので彼らがまだ無名の頃の隠れた作品だとばかり思って観ていた。お話自体が70年代から90年代の設定だから、その時代の雰囲気を出せているといえばいいのだけれど。
どうやら実際にあった殺人事件&行方不明事件を映画化したものらしい。つまりアメリカで有名なスキャンダル事件のひとつなんだろう。よくアンビリーバブルとかのテレビ番組でやっている事件の再現VTRものみたいな、そんな雰囲気なのだ。日本だと、三浦和義をモデルにして映画化ってのに近い感じか?
で、いかがわしい界隈などの上納金で成り立っている黒幕的な富豪の息子と、医学生を夢みる女性との出会いからお話は始まる。一家のしがらみから解き放たれて、田舎で慎ましく生活したいと願う男。一方、男の生き方に賛同しつつも、やはり一家の財力をあてにしてしまう女。ひとりごとをブツブツ言い続けるなど、男は奇怪しな行動が次第次第に増えていき・・・。という前半はまあまあ面白いが、後半の肝心の事件あたりで、どんどん退屈になってきた。事件の真相は薮の中・・・って描き方のほうが面白かったんじゃないだろうか?現実の事件では罪に問われていない容疑者を、完全に犯人であることを前提にしたストーリーってのに、なにか釈然としないものを感じる。こんなカタチで日本で映画化されたら訴訟問題になるんじゃないかなあ。
ドキュメンタリーチックに事件の渦中の二人を追い続ける展開なので、キルステン・ダンスト&ライアン・ゴズリングの出番は多く、なかなかの熱演である。観るべきところはそこかもしれない。
それにしても、映画のフィクションならば「おいおい、金のためにそこまでするなんてありえないし」などとツッコミを入れたくなってしまうばかりに打算的な行動が散見される映画である。だがこれはノンフィクションなわけで、現実の人間って打算的なんだなあ、なんて痛感させられた。
 

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映画『私が、生きる肌』

2012年11月26日 | 映画の感想

監督 ペドロ・アルモドバル
原作: ティエリ・ジョンケ 
アントニオ・バンデラス ロベル・レガル
エレナ・アナヤ ベラ・クルス
マリサ・パレデス マリリア
ジャン・コルネット ビセンテ
ロベルト・アラモ セカ
ブランカ・スアレス ノルマ
スシ・サンチェス ビセンテの母親

「トーク・トゥ・ハー」「ボルベール <帰郷>」の鬼才ペドロ・アルモドバル監督が、ティエリ・ジョンケの原作を大胆にアレンジして描く愛と狂気の官能ミステリー。人工皮膚研究の権威で亡き妻そっくりの美女を自宅に監禁する男を巡る衝撃の秘密を、予測不能のストーリー展開と斬新かつ色彩美溢れるヴィジュアルでミステリアスに描き出していく。主演は初期アルモドバル作品の常連で、「アタメ」以来久々の復帰となるアントニオ・バンデラス。共演は「この愛のために撃て」のエレナ・アナヤ、「オール・アバウト・マイ・マザー」のマリサ・パレデス。
 トレドの大邸宅に暮らすロベル・レガルは、最先端のバイオ・テクノロジーを駆使した人工皮膚開発の権威としても知られている世界的な形成外科医。そんな彼の屋敷の一室には、初老のメイド、マリリアの監視の下、特殊なボディ・ストッキングをまとった美女ベラが幽閉されていた。彼女はロベルの妻ガルに瓜二つだった。しかし、実際のガルは12年前に交通事故で全身に火傷を負い、非業の死を遂げていた。以来、失意のロベルは愛する妻を救えたであろう“完璧な肌”を創り出すことに執念を燃やしていく。そして6年前、ある忌まわしき事件が、ついにロベルを狂気の行動へと駆り立ててしまうのだった。

★☆☆☆☆
これは観る人によっては、刺激的でユニークな作品にちがいない。でも、ボクにはまったく理解できない内容だった。
たぶん描きたいテーマは、人間の獣性とか、どうしようもない肉欲という本能なんだろう。そして直接的には、倫理観を欠いた医学の暴走への警鐘。でも、それらのテーマがあまりにも露骨で、押しつけがましく感じるのだ。
たとえば、主人公の形成外科医学の天才的な医学者らしきアントニオ・バンデラスが、画期的な人工皮膚を開発しているという話なんだが、限りなく人間に近い皮膚を作り上げたっていう話じゃない。虫刺されや火傷に滅法強いというスーパー皮膚を開発したって話になっている。なんかもう人間を跳び越えて人間以上をめざしちゃってる。しかも人間の遺伝子に豚の遺伝子を組み込んで開発したなんてことになっている。この話からしてもう人間の機能を人工物で代替すること自体に対しての悪意を感じる。万事この調子で、お話自体、アントニオ・バンデラスの行為すべてがまるで現代医学版フランケンシュタイン博士として描かれるという一貫性があるのだ。観る者に考える余地を与えない一方的な主張を窮屈に感じたのはボクだけだろうか?
そして、何よりもボクにとって不可解なのは、実験対象を愛してしまう感性。対人不適応で治療中だった愛娘を強姦した相手を実験材料にしてしまう異常性は理解できる。結果的に娘の命を奪ったヤツを憎悪の対象にするわけだから。がしかし、どう転んだら、その呪ってやりたいほどの相手を性の対象にできてしまうのか?そこの感性がまったくもって理解不能なのだ。そこもまた、主人公の博士が異常者だからと解すればいいのかもしれないが、それでも妻の代役を求めるなら、もっと別に調達するあてを探すんじゃないかなあ。
いくら医学が進歩したとしても、顔の整形手術や皮膚移植やホルモン注射などで、骨格や筋肉系、声帯まで激変させることは無理。よほど華奢で素質のある男性を選ばなくては不自然であることは、日々テレビでお目にかかるニューハーフを見れば一目瞭然。ここまで激変することはありえないし。
問題作なんだろう。問題作なんだろうけど、ボクには納得のいかないところだらけの映画だった。まあ、感性の問題なんだから、そういう映画もあってもいいよネ。


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映画『ザ・マーダー』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: リッチ・コーワン
レイ・リオッタ ジャック・ヴァードン
クリスチャン・スレイター ヴコヴィッチFBI捜査官
ヴィング・レイムス ラングレー部長
ジゼル・フラガ アナ・ヴァードン
サラ・アン・シュルツ ジェニー・テムズ
マイケル・ロドリック ジョン・リー
レイモンド・J・バリー
ミシェル・クルージ
シンディ・ドレンク
メローラ・ウォルターズ

女性の遺体が川に浮かんでいるのが発見され、現場に駆けつけた殺人課の刑事ジャック(レイ・リオッタ)は、被害者は彼のかつての恋人のひとりであり、彼女の遺体の陰部にはなぜか結婚指輪が埋め込まれていた。その後、同じような猟奇的殺人事件が相次いで起こるが、被害者たちは皆、かつてジャックと性的交渉のあった女性ばかり。かくして事件の最大の容疑者と目され、窮地に追い込まれたジャックは、自らの過去と直面せざるをえなくなる。

★★☆☆☆
「あなた、これまでの人生で何人の異性と性交渉をもちましたか?
「えっと百人くらいかなあ」
「その女たちが次々殺されているのです。被害を防ぐためです。全部思い出してこの紙に書きなさい」
「エ~!」
なんてことを尋問室で捜査官から強制されたら・・・。そんなトンデモナイ状況が我が身にふりかかった事態の恐ろしさを考えると、この映画のアイディアはなかなか秀逸だ。自分と相手しか知るはずのない性体験をなぜ犯人が知っているのか?なぜ体験した場所で相手の女性は殺されるのか?そのへんの興味で最後まで引っぱってくれる。実は、この映画、犯人の面を早々に晒してしまう。その異常な連続殺人を繰り返す動機こそが映画の牽引役なわけで、ラストに明かされる動機ってのも、狂っているけれど動機としてなるほど納得ができなくもない。
ただ、この映画、アイディアは秀逸だが、脚本演出、配役がちっとも面白くない。主役の追い詰めらつつ犯人を追う主役がレイ・リオッタなんだけど、面の皮がホントに厚そうで状況の緊迫感や苦悩をあんまり感じない。事件を追うFBI捜査官のクリスチャン・レイターはレイ・リオッタを苛めるだけで事件の解決に向けて最後まで絡んでこないし。まずもって犯人の動機からして考えるなら、ゆきずりの相手から順番に殺していく流れってのは現実的ではない。だって前の犯行が手がかりになって被害に遭いそうな女性が容易に特定されて犯行がどんどんやりにくくなるはずだから。まあそんな映画的盛り上げ演出のご都合主義はしばしば見られることかもしれないけれど。


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映画『ナチス・イン・センター・オブ・ジ・アース』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: ジョセフ・J・ローソン
ドミニク・スウェイン
ジョシュ・アレン
クリストファー・K・ジョンソン
ジェイク・ビューシイ

南極基地で観測作業を行っていたペイジたちは、氷の下からあのナチスの鉤十字のマークを発見! すると、どこからともなく現れたガスマスク姿の兵士たちに連れ去られてしまう。消えた彼女たちの行方を捜す隊員たちは巨大なクレパスを発見、降りていった先にあったのは巨大な地下空洞があり、そこでナチスの残党たちが生き延びていた!

☆☆☆☆☆
レンタル屋の隅っこにズラズラ並んでいる超B級映画、C級映画の類はゴミが多いのでできるだけご遠慮しているのだが、時に、『ビッグ・バグズ・パニック』みたいな面白映画に出会えることがある。なんか月の裏側からナチスが攻めてくる映画なんてのも作られてそれなりに話題になってるみたいだし、これも観てみたわけだが・・・。
いやはや、これはゴミだ。エロチック映画でアクション映画のパロディみたいなヤツがあるじゃないですか。芝居があざとくてつまんなくて。爆発シーンとか明らかに炎を合成で付け加えたようなチープな絵づくりで、まあ結局中途半端なエロしか見所がないヤツ。まさにああいう映画に近いチープな特撮映画なのだ。絵もチープならお話も超チープ。ツッコミどころは挙げたらキリがないというか、挙げる気にもならない。残虐な場面でせいぜいもたせようとしているのかもしれないけれど、体の表面に貼り付け塗たくってるのが見え見えだし、単に不快なだけだし。なんといっても、人の命の扱い方がナチス並みに無神経なのが気になった。昔々の特撮映画の無神経さや稚拙さにイヤ~な気持ちになることってあるじゃないですか。あれですよ、あれ。
バッドエンドじゃないのにこんなに後味の悪い映画ってのも珍しいほどのゴミです。いや~失敗、失敗。


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映画『仇討』

2012年11月24日 | 映画の感想


(どうです?このアメリカ版ジャケットの迫力。チビッコならションベンちびりそうな怖さ。
鬼気迫るとはまさにこのジャケット。これだけでも買いでしょう?)

監督: 今井正
製作: 大川博
脚本: 橋本忍
撮影: 中尾駿一郎
美術: 鈴木孝俊
音楽: 黛敏郎
中村錦之助
田村高廣
丹波哲郎
三田佳子
佐々木愛
小沢昭一
進藤英太郎

「切腹」の橋本忍のオリジナル脚本を、「武士道残酷物語」の今井正が監督した時代劇。中村錦之助が悩み、もがき、苦しむ下級武士を熱演。クライマックスに登場するリアルかつ迫力満点の殺陣も見もの。
 江戸時代。脇坂藩の武器倉庫点検で、槍の穂先の曇りを見つけた奥野孫太夫が、手入れ担当の江崎新八を罵倒。口論の末、孫太夫は新八に果たし状を叩きつけるが、逆に新八に斬られてしまう。乱心による私闘として処分された新八は感応寺に預けられるが、兄の仇討ちに乗り込んできた孫太夫の弟・主馬を斬り殺してしまった。脇坂藩は奥野家の仇討ちを認め、奥野家の末弟の辰之助に新八を斬らせることにする。死ぬ覚悟を決めた新八に、光悦は「逃げて人間として生きろ」と言うのだった。

★★★★★
見たくてたまらない映画だったが、国内でDVD化されておらず、海外DVDを米国Amazonで購入した。ちなみに15ドル、送料込みでも20ドル足らず、劇場で映画鑑賞程度の金額で購入可能!で、実際に観終わって、これは買って損なし、大満足の傑作だった。
以前観た『武士道残酷物語』がオムニバス形式の中村錦之助金太郎飴映画、個人を抹殺する理不尽な権力を糾弾する思いはわかるし、斬新な構成だったが詰め込みすぎて今ひとつの印象だった。この映画、監督も同じ今井正なら主演も同じ中村錦之助。多少の不安はあったが、対照的にシンプルかつ重厚な傑作だった。ボクが黒澤明の時代劇映画以外で傑作時代劇だと思うのは、『切腹』1962年(『一命』としてリメイク)、『上意討ち 拝領妻始末』1967年、そしてこの『仇討』1964年だ。監督は違えど、これらすべて脚本は橋本忍!!まったくもってすごい脚本家だ。
こんな傑出した映画がなぜ日本でソフト化されず、衛星放送で細々放送される程度なのか?理由は簡単、『キ○チ○ガ○イ』という言葉が何十回と繰り返されるからだ。ピー音に差し替えたらピーピー鳴りっぱなしになっちゃうくらい。でも、言葉や文化は時代によって移ろうもの、今の基準で不適切として名作自体を陰に追いやるのはあまりにも懐が狭い気がするのはボクだけか?
さてこの映画、クライマックスの仇討の場が竹矢来を組んで準備している場面から始まる。この仇討がおこなわれるまでの些細なことのはじまりからのっぴきならない状況へと至る経緯が回想形式で語られていく。
いやもう発端なんて、奏者番奥野孫太夫(神山繁)が太平の世を嘆いて槍の穂先がくもっているとなじったのを、一本気な性格の江崎新八(中村錦之助)が聞きとがめた程度のこと。どちらかが冷静に退き下がれば即忘れられてしまうような些事である。ところがこのあとは、侍の見栄と上のことなかれ主義による負の連鎖が続いていく。城主やら家老やら皆が皆、我が身を心配するばかり、責任を下へ転嫁していくサマの醜いことといったら。ラストの仇討場面なんてもう公が主催した公開集団リンチ殺人ショーと化している。権力者や家来たちが竹矢来の組みかたやら仇討の作法やらばかりに気を取られ、ことの本質から目を背けようとしているのも無様だが、ショーに集まる民衆もまた醜い。見世物興行よろしく、出店で儲けようとする商売人あり、場所代を取ろうとするチンピラあり、果ては噂に尾鰭をつけて新八を極悪人に仕立てて罵り、礫を放つ。これはつまり従来の『仇討ちもの』へのアンチテーゼ、忠臣蔵をはじめとする美化された仇討ち話を歓迎してきた一般大衆への批判である。そしてこの映画を観る観客にもまた、斬って斬って斬りまくる勧善懲悪チャンバラ映画の不毛を突きつけてくる。
だからこそ、クライマックスの仇討ち場面はスタイリッシュなチャンバラシーンなどではない。兄のように慕う若武者(石立鉄男)に討たれる覚悟を決めていた江崎新八が、卑怯な助太刀つまり形骸化した仇討ちの理不尽に怒りを爆発させ、がむしゃらに人切り包丁を振り回す。その感情の爆発と狂気の迫力といったら!華麗なチャンバラとはまったく無縁の、真剣をムチャクチャに振り回すリアリズム!これぞボクが観たかった時代劇映画だ。本物の日本刀を抜く怖さをリアルに感じる時代劇は、昨今の時代劇、特に『たそがれ清兵衛』に引き継がれていると思う。主馬(丹波哲郎)との闘いのシーン・・・これって『たそがれ清兵衛』の殺陣のクライマックスにオマージュとして使われているんじゃないかな?
最近『十三人の刺客』など、時代劇の名作のリメイクが続いたが、この映画もぜひリメイクしてほしいものだ。
実はボク、子どもの頃から中村錦之助の鬼のような形相が怖すぎで苦手だった。しかし、この映画で初めて中村錦之助の圧倒的な迫力に酔い痴れた。無言で強張らせた表情の演技や淡い瞳の輝き、ちょっと本木雅弘に似ていないか?
そりゃそうと、どうでもいいようなことだけど、寺での最後の夜の風呂のあとシーン、住職役進藤英太郎の後ろ頭に腫れ物ができて痛々しいなあと思ったら次の部屋でのシーンでは時代劇らしからぬ丸い絆創膏が。まあDVDが高画質ってことで(笑)
ああ、新八の兄(田村高廣)の抑制の効いた演技もよかった、許嫁りつ(三田佳子)の楚々とした色気もよかった・・・とにかく時代劇の大傑作。たったの15ドル!←また言ってる。


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映画『フライペーパー史上最低の銀行強盗』

2012年11月17日 | 映画の感想



監督 ロブ・ミンコフ
脚本 ジョン・ルーカス、スコット・ムーア
パトリック・デンプシー (Tripp Kennedy)
アシュレイ・ジャッド (Kaitlin)
ティム・ブレイク・ネルソン (Billy Ray 'Peanut Butter' McCloud)
プルット・テイラー・ヴィンス (Wyatt 'Jelly' Jenkins)
オクテイヴィア・スペンサー (Madge Wiggins)

慌ただしい閉店間際のとある銀行。窓口係のケイトリンは、大量の小銭を両替しに来た、ハンサムだけどちょっとおかしなトリップという男の応対をしていた。その時、一発の銃声が銀行内に響き渡る。現れたのは、完璧にハイテク武装した三人組の銀行強盗!だけかと思いきや、別方向から現れたのはTシャツ、短パン姿というコンビニ帰りのような出で立ちの銀行強盗コンビ!なんと全く別の二組の銀行強盗が、同時に襲撃してきたのだ!そしてすぐさま銀行のセキュリティシステムが作動し、人質となった職員や数人の客を含め全員が銀行内に閉じ込められてしまう。銀行強盗たちは、トリップの仲裁によってそれぞれ金庫とATMの金を盗み出すことになったが、トラブルの連続で思うように事が進まない。そして戸惑う人質たちの中にも、新たな犯罪者の影が……。互いを怪しみ疑心暗鬼になる中、ついに銃弾の犠牲者が出てしまう。

★★★★☆
同じ銀行、同じ時間に、ド素人みたいなクソ泥棒二人組とプロフェッショナルな強盗集団三人衆が鉢合わせというとんでもなく間抜けな犯罪コメディ映画。両グループは妥協し合って、ATMはクソ泥棒に金庫の中身は強盗集団にとシェアするし、人質をグループ分けするし、という展開だけで前半は楽しませてくれる。まあこんな斬新な設定のコメディなんて後半は面白くないのが常なんだけど、この映画はこのあとさらに仕掛けがあって後半も楽しませてくれる。実はこの設定のすべてがひとりの犯人によって仕組まれていたことが判明するのだ。しかも閉ざされた銀行の数名の中に紛れ込んでいるってんで最後までハラハラドキドキ。
そりゃもうツッコミどころ満載の展開。基本的に強盗犯たちや真犯人が計画どおりに行かなくなっている原因であるアヤツを始末しようとしないのがあまりにも不自然だ。少なくとも頭の足りないヤツをうまく使って殺させるように仕向けるはず・・・。まあ、そういうふうに状況をリアルに考えても仕方がない。基本、コメディなんだもの。
しかし、こんなにキレイに唸らせてくれる展開の犯罪コメディは久しぶり。脚本は、あの爆笑二日酔い映画『ハングオーバー』の連中らしい。さすがノッているなあ。
これは拾い物、面白かった!!
 

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